5スレ>>721-1


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「サファリパークへようこそ! ……ってなんだ、また君か」
「どうも、お世話になってます」
 もはや顔なじみになった係員に軽く頭を下げる。
 係員は苦笑しながら、
「いや、毎日来てくれるのはこっちとしてもありがたいよ。
 はいこれ、ボールとエサ。……図鑑作りは進んでるかい?」
「どうも。……このあたり限定なら8割ってところですね」
 係員が驚いたように口笛を鳴らす。
「へぇ、ここだけでも結構な数がいるのにもうそこまで進んだのかい」
「この間皆さんに協力してもらいましたから。今も時間制限は外してもらってますし」
「それはまあ、この間のお礼ってことで」
 しゃべりながらサファリに出る準備を進める。
 もらった道具を使いやすい場所にしまい、ゲートの前に立つと、
「それじゃ、グッドラック!」
 係員はいつもと変わらぬ調子で送り出してくれた。

―――

 サファリパークに入った俺は、まっすぐに第2エリアを目指した。
 途中の草むらで出くわした萌えもんは可能なら捕獲し、逃げそうなら放っておく。
 このあたりの萌えもんのデータはもう十分に集めている。
 データが取れるならよし、取れなくても別に困りはしない。
「さて、このあたりか」
 第2エリアの草むらに踏み込む。そのとたん、
「あ、きたきた。お兄ちゃーん!」
 茂みの中から小さな龍が飛び出してきた。
「よう。元気だったか?」
「もちろん!」
 飛びついてきたミニリュウを受け止め、頭をぐりぐりとなでる。
 ミニリュウはくすぐったそうに笑うと、
「お兄ちゃんに頼まれたとおり、今日はお母さんに来てもらったよ!」
 どこか誇らしげにそう報告してきた。
 その言葉と同時に、日が何かに遮られる。
「貴方がトウマさんですね。先日は娘がお世話になりました」
 そして降ってくる声。頭上を見上げるとしなやかな体と二つの羽が見える。
 逆光で細部まではよくわからないが、それがカイリューであることは間違いない。
 カイリューは俺を観察するように上空を旋回すると、ゆっくりと目の前に着陸した。
 ただ立っているだけなのに感じる力強さ、そして隠しようもない神秘的な雰囲気。
 これが最高クラスの龍か――
「さて、早速ですがお話とはなんでしょうか?」
「あ、はい」
 カイリューに促されて我に返る。いけない、呑まれている場合じゃなかった。
 今日はこのためにここまで来たのだから――
 唾を一度飲み込み、口を開く。
「話というのは、私の連れのことなんですが――」
 俺は話した。
 ミルトが陥る状態のこと、過去にこの場所で似たようなことがあったこととその結末、
 先日の戦いではミニリュウが持っていた木の実が効果があったこと、
 そして何か解決策を知らないか―――
 カイリューは俺の話を黙って聞いたあと、ゆっくりと口を開いた。
「……なるほど。お話はわかりました。
 そのミルトさんという方は、ご自分の状態をご存じなのですか?」
「いえ、知りませんし、今日も連れてきていません」
 腰のボールを見せる。そこにあるボールは2つ――ファルとレーティのボールだ。
 ミルトは少し調子が悪そうにしていたのを理由に、留守番と食事当番に任命してきた。
「そうですか。では今からする話を伝えるかどうかの判断は貴方にお任せします。
 まずミルトさんの状態ですが……おそらく『げきりん』だと思います」
「でも、あいつはまだ『げきりん』を習得していないはずなんですが……」
「非常に珍しい例ですが、『げきりん』を覚えていなくても『げきりん』の状態になることがあります」
「……どういうことですか?」
 萌えもんについては謎が多い。それは萌えもんたちが使う技についても同様で、
 タイプや効果などによる分類はできていてもその原理などについては不明な点が多々ある。
 首をかしげる俺を見て、カイリューは少し困った顔をした。
「なんと説明すればいいか……。
 まず、『げきりん』という技がどういうものかからお話ししましょう。
 生物の体にはある種のリミッターがあるのはご存知ですか?」
「はい。体が耐えられる限界以上の力が出ないように、というやつですよね」
「そうです。この『げきりん』という技は、簡単に言えばそのリミッターを解除する技です。
 そして、『げきりん』を用いずにリミッターが外れた状態が――」
「『暴走』……ってことですか?」
 カイリューがゆっくりと頷く。
 意図的にリミッターを外すなどにわかには信じられないが、
 『暴走』したときのミルトが発揮する規格外の力を考えればありえない話ではない。
 生物としての限界を超えているのならば、あれだけの力を出せるのにも納得がいく。
「『暴走』の解決策はないのでしょうか?」
「残念ながら私もミルトさんの状態を治す術は知りません。
 でも、対抗策なら無いわけではありませんよ」
 カイリューが何かを取り出す。
 うずらの卵くらいの大きさの、緑色の木の実――ミルトを救ってくれたあの木の実だ。
「これは『ラムの実』というものです」
「『ラムの実』……」
「この実にはあらゆる体の不調を取り除く薬効があるとされています。
 毒、麻痺はもちろん、混乱とて例外ではありません」
「それは……すごいですね」
「ええ。私達にとって必要不可欠な木の実です」
 それはそうだろう。今までの話から察するに『げきりん』は敵を退ける究極の手段だ。
 敵を追い払った後、混乱から立ち直れないようでは話にならないだろう。
 最悪、守るべきものを自らの力で壊してしまうことも考えられる。
 それを防ぐための『ラムの実』。これがあれば―――
「ただ、この実にも欠点があります」
 俺の思考をさえぎるように、カイリューの声が響く。
「ラムの木はあまり実をつけないため、数が少ないのです」
 その声は、明らかに実を譲ることに対して難色を示していた。
 その判断は当然だ。自分達にとって必要不可欠、且つ貴重な実。
 俺などに渡すことに対するメリットとデメリット、どちらが大きいかなど考えるまでも無い。
 いや、デメリットしかないだろう。
 そのことを考えた上で、理解した上で、
「……勝手なお願いであることは承知していますが、その実を譲ってはいただけないでしょうか」
 俺は、深く頭を下げた。永遠に思える一瞬の後、
「顔を上げてください」
 言葉に従って顔をあげる。カイリューは俺を値踏みするように眺めながら、
「貴方は、この実が私達にとってどれだけ重要か、そして貴重かがわかっていますか?」
「はい」
「この実を貴方に渡すことで、私達が受けるデメリットは?」
「……わかっています」
「それらを理解した上で、貴方はこの実を求めるのですね? ……ミルトさんを、助けるために」
「はい」
 ミルトを助けたい。その意志をありったけ込めて頷く。
 カイリューは柔らかく微笑むと、
「合格です。……持っていきなさい」
 小さな袋を投げてきた。
「え?」
「ごめんなさい、ちょっと試させてもらいました。貴方の覚悟のほどを」
 苦笑と、からかい混じりの言葉。
 その言葉を合図に、場に張り詰めていた緊張感が一気に砕けていく。
「え? あの、えっと?」
「なかなかたいしたものだと思いますよ。
 他人の迷惑をわかった上で迷惑をかけようとしてくるなんて。」
「だから言ったでしょ? 試す必要なんてないって!」
「ご主人さま、やったね~」
「とりあえず、おめでとう御座います」
 まだちょっと混乱している俺をよそに、今まで黙っていたミニリュウ、ファル、レーティが
 次々と言葉をかけてくる。
 その言葉を聞いて、俺にもようやく事態が飲み込めた。
 ミルトを救うための手がかりを手に入れたのだ。
「……ありがとう、ございます」
 先ほどと同じように――否、先ほどよりも深く、俺はカイリューに頭を下げた。

―――

 翌日。まだ日が昇るかどうかといった早朝。
 セキチクシティの萌えもんセンター前で、俺はレーティと話していた。
「準備はいいか?」
「はい。例の実もきちんと持っています」
 そう言って肩から提げた袋を示すレーティ。
 飛ぶ時に邪魔にならないよう工夫がなされた袋には、あの木の実が入っている。
 あらゆる不調を取り除くというラムの実。
 その成分を解析できればミルトの『暴走』に対する特効薬が作れるというのが
 俺とオーキド博士の結論だった。
 カイリューが俺にくれた実は3つ。そのうちの1つをオーキド博士のところへ送り、
 薬のめどが立つまで俺が残り2つの実でなんとかする。
 我ながらアバウトな対処だが、他に手が無い以上仕方ない。
「それじゃあ、頼む。博士や父さん、母さんによろしく」
「わかりました。トウマのご両親に会うのは初めてなので、楽しみです」
「悪い人間じゃないから、きっと気に入ると思う。……気をつけてな」
 レーティの頭をくしゃりと撫でる。
 レーティはどこか誇らしげに笑うと、
「私の能力なら十分にできる任務ですよ。それでは、行ってきます」
 まだ薄暗い空を、西に向かって飛び立っていった。

「なんだ、もう出発しちゃったの?」
 背後からの声に振り向くと、サヤとルーメがセンターから出てくるところだった。
「お前らか、早いな」
「誰かさんほどじゃないけどね。ルーメは朝日を浴びるのが好きなのよ」
 サヤが指差す方を見ると、ルーメが今か今かといった表情で東の空を見ていた。
 普段がしっかりしているので、こういう表情を見るのは珍しい。
「……ん?」
 朝日を待ちわびるルーメの向こうで、何かが動いた。
 目を凝らしてみると、なにやら黒い集団がいる。
「……おい、サヤ」
「なによ?」
 体操をしていたサヤを呼ぶ。こいつはこいつで早朝トレーニングの予定だったのだろう。
 相棒ともども朝から元気なやつだ。
 手招きで近くに来させ、黒服の集団がいる草むらをそっと指差す。
「あれを見ろ。……あんまりまじまじと見るなよ」
「なによ、注文が多いわね……ってあいつらロケッ――もがっ」
「シッ、声がでかい!」
 咄嗟にサヤの口を押さえる。
 向こうはまだこっちに気付いていない。
 これから俺達がどうするにせよ、わざわざこちらの存在を教えてやる必要は無いだろう。
 とりあえず俺の意図は伝わったようなので、手を離してやる。
「連中、またなにか企んでるのかもしれない」
「たぶんそうでしょうね」
 なんでもない会話を装って話をする。
 サヤの目つきが鋭すぎるので近くではぜんぜんそんな風には見えないが、
 遠目にはなんとかなるだろう。
「さ、行くわよ」
 言葉と共に歩き出すサヤ。その肩を慌てて掴む。
「待て待て、何処へ行く気だ」
「決まってるじゃない。悪党どもを叩き潰しにいくのよ。
 あんただってそのつもりだったんでしょ?」
「そりゃそうだが」
「なら行きましょ」
「だから待てって」
 再び肩を掴む。サヤがめんどくさそうに顔をしかめた。
「なんで止めるのよ」
「だってこのまま行かせたらお前あいつらに喧嘩売るだろ?」
「あったりまえじゃない。その方が手っ取り早いし」
 なぜか誇らしげに言うサヤに、思わずため息が出る。
 こいつの直情径行っぷりもたいしたもんだ。
「俺はあいつらの目的が知りたい」
「なんでよ」
「ただ叩くだけじゃまた次があるかもしれないだろ?
 でも相手の目的がわかればそれへの対処ができる。次を防ぐことができるんだよ」
 サヤの体をこっちに向け、落ち着かせる意味も込めてゆっくりと説明する。
「それに……」
「それに?」
「ミルトもファルもまだ部屋だ。
 ミルトは起きてるかもしれんが……ファルは確実に寝てる」
「…………」
「…………」
 なんともいえない沈黙が降りる。
 数瞬の後、サヤは大きくため息をつくと、
「わかったわ。とりあえずすぐに手を出すのはやめる。
 私が連中を尾行するから、あんたはすぐにミルトとファルを連れてきなさい」
「わかった。無茶すんなよ」
「しないわよ。誰かさんのせいでテンション下がっちゃったしね」
「そいつは結構」
 どちらからともなく行動に移る。
 サヤはルーメのところへ、俺はセンターのほうへ。
「ルーメ、行くわよ」
「はい、ご主人様!」
 後ろから聞こえてくる元気のよいやり取りを聞きながら、
 俺はパーティー1のねぼすけをどうやって起こそうか思案していた。
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