スリーパーの催眠にかかったデルとメリィ。
二人は、最愛の人であるはずのアキラに容赦なく攻撃を繰り出す。
怯えるサイホを庇いながも、打つ手なしのところまで追いつめられるアキラ。
……救いの手は、突然の竜巻とともに現われたのだった。
『深林の追跡者(後編)』
デルとメリィの動向に気をつけつつ、ゲンはアキラに状況を聞く。
「とりあえず、何があったんだこりゃ」
「俺にもわからない……ちょっと二人が席を外して、戻ってきたら襲ってきたんだ」
「……(コクコク」
「……アキラ君」
「ん、どうした?」
「二人とも……催眠術にかかってる」
「うお……マジかよ」
「何だって!? 催眠術って、眠らせる技じゃ……?」
驚くアキラに、ホウはほんの少しだけ眉を歪ませて更に説明する。
「ボクやゲンの使う催眠術と原理は同じ……ただ、意識を混濁させた後に強力な暗示をかけるとこうなる」
「ま、フツーはんなことできねーけどよ……暗示かけて操るなんざ、よっぽど強えぇエスパーか特別な才能があるかだな」
「……ちなみに、ボクもやろうとすればできる」
「何だとぉっ!?」
「ボクの念力は、どちらかというと精神に働きかけるのが得意だから……」
「……ぜってーやんじゃねーぞ」
「ん……」
「ホウ、二人を元に戻すにはどうすればいい?」
「……基本的に催眠術と同じ。つまり、意識を覚醒させるか気絶させる」
「ってことは、眠気覚ましや何でも治しでいいのか」
「ん、そういう事……!」
「チッ、ゆっくりおしゃべりはさせてくれねーか!」
デルが放ってきた火炎を、ホウはリフレクターを展開して防ぐ。
ゲンはシャドーボールを投げつけるが、デルは軽く回避する。
「おいアキラ!」
「……すまん、今日は傷薬くらいしか持ってきてなかった。戦闘する予定じゃなかったし」
「んなアホなぁっ!?」
「……なら、木の実を探して。カゴの実かラムの実」
「そっか、この森なら……サイホ、行くぞ!」
「……!(コク」
二人は広場を離れ、木々の中へと走っていく。
その背に火炎が襲いかかるも、またしてもリフレクターに阻まれた。
「さーて……倒して気絶させちまっても良いわけだが」
「……そう簡単に行くとも思えない」
「まーな……行くぜ、ホウ!」
「ん……!」
「目標……変更……」
「あはははははははははっ♪」
ゲンのシャドーボールが。
ホウのエアスラッシュが。
デルの火炎放射が。
メリィの10万ボルトが。
広場の中央で激突した。
「これはオレンの実……これはチーゴの実……くっ、早く見つけないと」
「……(キョロキョロ」
背後から聞こえる戦闘音をBGMに、二人は木の実を探していた。
「これも違う……くそ、何でカゴの実だけこう見つからない……!」
「……(くいくい」
「ん、どうしたサイホ」
「……!」
サイホの指差した木。
そこには、お目当ての青い木の実が一つ生っていた。
「カゴの木……よし、でかしたサイホ!」
早速アキラは木から実を採る。
そうして元の広場に戻ろうとした時。
「……あらあら、行かせませんわよ」
「なっ……!?」
行く先を塞ぐように、スリーパーが姿を現した……鼻にちり紙を詰めて。
「……まさかとは思うが、デルとメリィに催眠かけたのは」
「うふふふ……勿論わたくしですわ」
「一体何が目的だ、こんなことをして!」
「目的? そうねぇ……」
少し考えるようなそぶりを見せるスリーパー。
「目的は……可愛らしい女の子に、とびっきり可愛い服を着せて……可愛がること、かしら」
「……(フルフル」
「うふふっ、あの二人は既にわたくしの玩具……最後はその子ですわ♪」
「……!(ビクッ」
「くっ……そうはいくか! 逃げるぞ、サイホ!」
「逃がしませんわよ……!」
「んなっ……!?」
逃げようとするアキラに、スリーパーは金縛りをかける。
走っている最中に突然体が動かなくなり、アキラは派手に転倒した。
その音に、サイホは思わず足を止めてしまう。
「……!」
「止、ま……るな、逃、げろ……木、の実、頼ん、だ、ぞ……!」
「……っ!(タタタッ」
「っ、まさか、木の実を持たせて!?」
「へっ……これ、で、カ、タが……つく……!」
「くぅ……待ちなさい!」
動けないアキラを放置し、スリーパーはサイホを追う……だが、遅かった。
十数秒遅れて、彼女が広場へ飛び込んだ時には。
「デルちゃん、ごめん!」
「っがあ……!」
正気に戻ったメリィが、デルに電撃を浴びせて気絶させた所であった。
そして。
「……ねぇ、そこのオバサン?」
「オ、オバ……!?」
突然のオバサン発言にムっと来たスリーパであったが、メリィを見て言葉が出なくなった。
メリィは、とても優しそうな柔らかな笑顔を浮かべている。
……が、彼女の体はほぼ全身で放電現象が起きていた。
額と尻尾の珠も、眩しいほどに光っている。
そして何より、目が笑っていなかった。
そしてメリィは、優しい声でスリーパーに声をかけた。
「私たちをお人形にするって……どういうことなのかな?」
「…………」
「言えないの? じゃぁ……私たちを操って、マスターを攻撃するって……何のつもりだったのかな?」
「…………(汗」
「……少し、頭冷やそうか」
「ひっ……」
最後だけ異様に冷たい声で言い放つと、メリィは右手を空にかざす。
スリーパーはその場から退散しようと、背を向けて走り出した。
「……逃がさないよ」
その背中に向けて、メリィは手を振りおろす。
ドォンッ……!
「がは…………!?」
遙か上空から落ちてきた雷にその身を焼かれ、スリーパーは体の所々から煙を吹いて気絶した。
「……ホウ、アレほんとにメリィか?」
「……メリィは怒らせると一番怖い」
「オレも気をつけよう……」
そんなこんなで、アキラ達一行は事件の元凶を断つことに成功したのであった。
攫われていた少女たちも、観念したスリーパーが白状した住処に全員無事で見つかった……多少、服装が派手可愛らしくなっていたが。
そして今、彼らは連絡船で別荘へと戻るところであった。
「……なぁ、アキラ」
「どうした?」
「いや……ソイツ、このまま連れてくのかよ?」
ゲンの視線の先には、アキラのボールホルダーに新しく増えているモンスターボール。
中には事件を起こしたスリーパー……リースが捕獲されている。
怪訝な表情で聞くゲンに、メリィも同意した。
「マスター、私もちょっとどうかなーって思うよ……」
「まぁ、確かに今回犯罪じみた……ってか犯罪行為をやってた訳だけどさ。
でも、話聞いてて根っからの悪い奴って訳でもなさそうだったし。
コイツ、幼い頃からロケット団で育ってきて、常識とかがズレてるだけみたいなんだ。
どうも最近悪事についていけずに脱走して、あの森に住み着いたらしいんだけど」
「つまり何だ、オレ達で矯正しようってワケか?」
「そこまでは言わないけど、野良でいて事件起こされるよりは俺たちと一緒にいたほうがいいんじゃないかと思ってさ。
それにほら、戦闘能力も高いみたいだし」
「……まぁ、マスターがそう言うならいっか。これからは仲間になるんだったら、仲良くしないといけないね」
メリィはそう言うと、リースの入っているボールを見て微笑んだ。
アキラは何故か、腰のボールが震えているような気がした。
「そういや、デルはどうしたんだよ。いつもなら外に出て話に参加してねーか?」
「いや、俺にも訳がわからん。メリィと二人で出ていく前まではいつもどおりだったんだけど」
今ボールから出ているのはメリィとゲンの二人だけであった。
ちなみにサイホは疲れきって、ホウは単純に楽だからという理由でボールの中である。
……デルは気絶から回復するなり、ボールの中に引きこもってしまっていた。
「もしかして、リースさんが何かしたのかな?」
「だからって、何故に俺を避けて引きこもるんだか……メリィみたいに怒るんならまだ解らないでもないけど」
首をひねる三人。
デルのトラウマになった事件を覚えている、若しくは知っている者は、この場には居ない。
当然、デルが何故こうなったのかを推測するのはほぼ不可能であった。
「まぁ、考えてもわからないものは仕方ないさ。今の俺たちには、待つことしかできない……無理に問い詰めても、傷つけるだけだ」
「だぁな……ま、いくらなんでもメシ時になりゃ腹減って出てくっだろ」
「そ、そういうものでもないと思うけど……じゃ、私が今夜はご飯作るね」
「おう、楽しみにしてるぞ」
と、そこで船は5の島に到着し、彼らは別荘へと戻った。
別荘へ戻ったアキラは、今はそっとしとくべきだと思い、デルのボールを彼女の部屋に置いて自室へと戻る。
……だが彼女はその夜、夕飯の席に顔を出すことはなかった。
その日の夜。
「……んぅ」
「……う゛ぁー……(げっそり」
ホウは、自室でゲン(搾り滓)を抱き枕にしてベッドでまどろんでいた。
ちなみに毎晩こうしていてはゲンの体がもたないので、三日に一度程度である……搾り滓になるのは。
と、そんな時。
(……て……誰……、……けて……)
「……?」
頭の中にノイズ混じりで聞こえてくる声に気づき、ホウはそれに意識を集中させる。
(……けて……誰か……助けて……)
「これ……」
ホウは念が飛んできた方角に顔を向ける。
その方向は丁度南。場所には最近噂になっていた、私有地に勝手に建てられていたというR印の大型倉庫。
ホウの頭の中で、いくつかの想像が繋がっていく。
「明日、リースに聞こ……」
そう呟くと、再びゲンに抱きついて眠りにつくのであった。
同じ頃、デルの部屋。
デルは、ベッドの上で膝を抱えて座っていた。
「そうでした……私には……」
虚ろな瞳のまま、彼女はぽつぽつと呟く。
「お兄ちゃんの……ご主人様の傍に居る資格なんて……無い……」
幼き日の彼女の思い出。
大切な人に執着するあまり、大切な人を失いそうになった記憶。
「また私は……同じ、過ちを……ご主人様を……やはり、私は……」
デルはベッドから降り、窓を開けて月を見上げる。
その瞳には、悲しい決意が浮かんでいた。
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・後書き
どもこんばんわ、今回はちょいとばかし早めにできました曹長です。
……なんでこうテストが近づいてくると筆が進むんだろうか(ぇ
ということで、今度こそは解決編こと後編をお送りいたしました。
……うん、解決どころかまたしても問題がry
ってかこの程度の長さで済むんだったらまとめた方が良かったかのぅ。
とまあそんなことは置いといて(ぇ、またしても新しい仲間が増えました。
今度は年上のオバs……お姉さんだよ!
・リース(スリーパー♀)
木の実の森に住み着いて悪さをしていたスリーパー。人間の年齢にして29歳相当。
森林浴に来ていたデル、メリィ、サイホを気に入って攫おうとするが失敗し、アキラに捕獲された。
幼い頃からロケット団に所属していたせいか、倫理観や常識が多少ズレている。
ただし根っからの悪人ではなく、預けられた先での幹部の悪逆非道に付き合いきれずに逃げてきたという一面も。
筋金入りのロリコン・ショタコンであり、かわいい子にかわいい服を作って着せるのが趣味。
・外見的特長
身長168cm バストサイズ:C 3サイズ:89・67・90
身長高め、ただしヘル姉とかと比べてスタイルは控えめ。
最近腰周りがふにふにしてきたのが気になるらしい。
金髪黒目で、服装はふわふわの襟巻きのついた黄色のワンピース。
さて、思いつめるあまりアキラを避けるデル。
そして、ホウの受信した謎のSOS。
一人では手の回らないアキラに、最強の助っ人が手を差し伸べる。
次回、萌えっこもんすたぁ Long long slope
『囚われし水の君(前編)(仮)』
それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。
最終更新:2009年06月25日 01:01