原案 曹長氏
執筆 吸血の人
~言ノ葉とリースの場合~
「フフフ……? あなた、かわいいわねぇ」
「ひえ!?」
背中を冷や汗と悪寒が走る。
言ノ葉は、今だかつて味わったことのない恐怖を感じた。
「あらぁ……何も怖がることはないのよ? 悪いようにはしないわぁ……」
そう言って妖艶に微笑むリース。正直、まったく信用できない。
「た、たすけっ」
「逃がしませんわぁ」
助けを呼ぼうとも、少しの声などかき消されてしまう。
そしてさらに、
「……!? か、からだが……」
まともに立っていられない。声もさらにか細く、頼りないものになる。
「うふふ、金縛りのちょっとした応用ですわ。全身を完全に拘束なんてできませんけど……
お人形を相手にするのも興ざめですもの、ちょうどいいですわぁ」
変態だ。変態がいる。
しかもその変態にこれから好きなようにいじり倒されるのである。
この状況で冷静に返り討ちにできるものがあろうか? いや居まい。反語。
「さてそれじゃ……ちょっとマッサージしてあげましょうか?」
言うがはやいか、背後に回るリース。
「ひゃあん!?」
「……あら? あらあらあら?」
後ろから襲いかかったはいいが、その意外な感触に驚くリース。
「……もう少し柔らかいと思っていた、いいえ、もう少し柔らかくないとおかしいですわ。
あなた、ちゃんと健康な生活してました?」
「……ひあ、うぅん……」
羞恥からか、顔を赤らめる言ノ葉。
その表情が、リースをより興奮させるとも知らずに。
否。知っていても、自身の表情などわからなかったろう。
「うふふ、わかりましたわ。これは私に”柔らかくしろ”との神様からのお達しなのですわ。
さ、参りますけど、よろしいですわね?」
「……い、や……」
「答えは聞きませんけどねぇ……」
「────っ!?」
力なく発せられた拒絶も、最初から意味はなかった。
むしろ彼女の嗜虐心をくすぐったのかもしれない。
「ひ、やぁ……んん!」
「うふふ、どうしたのかしらぁ? 私のマッサージがそんなに気持ち良いのかしら?」
ゆっくりと、しかし確かな力強さをもって、それでもやさしく。
まるで硬くなった粘土を、その形を保ったまま柔らかくしようとしているような。
「……や、め……!」
「あら? いいのかしら? このままであなたにいいことはないわよぉ?」
再びの拒否も、もっともらしい一言に一瞬引っ込みかける。
その一瞬があれば、リースは攻め込むことができるのに。
「……えい♪」
「っ、やああ!?」
狙い澄ましたように──事実、狙っての一撃だが──ひときわ強い刺激が言ノ葉を襲う。
「あらあら、こんなにかたぁい……どうお? 気持ち良いでしょう?」
「……や、いた……いたい、いや、やめ、やめてぇ!!」
その反応は、リースの予想とは違った。どう見ても痛がっている。
予想外の事態に困惑するリース。
「あ、あら? もしかして、こういうことしてもらったことないのかし」
「らああああ!!!!」
そして、ヒーローは遅れてやってきた。
悲鳴を聞いて見やれば、スリーパーの女の後ろ姿が見える。
そのスリーパーに密着された小さな姿を確認したと思ったときには、すでに駆けていた。
一瞬でクラウチングスタートの姿勢をとり、腕の突っ張りでわずかな溜めを作る。
凸ピンの要領だ。瞬間的な力は大きくなる。
そのスピードに爆風を乗せ、さらに加速を得る。
こちらはジェットエンジンだ。前に進むことで新たな酸素を得、火力を高く保つ。
この短距離で得られる最大の速度を、しかし腕を地に突きたて押しとどめる。
急激にスピードを落とすことで余る運動エネルギーを制御し、回す脚に込める。
「あ、あら? もしかして、こういうことしてもらったことないのかし」
「らああああ!!!!」
咆哮に気合いを込め、女の側頭部にフレアドライブの勢いすべてをこめた渾身の一撃を叩きこんだ。
「…………!?」
その一撃で、言ノ葉を開放することには成功した。
地についた腕を放し、回し蹴りの勢いを利用して体を反転、
背後から──ちょうど先ほどのリースと同じだ──抱きとめる。
「だいじょうぶか?」
「……はぁ……、アル、バ……?」
言ノ葉の火照った顔に昂る心を抑えつつ、高速移動を発動する。
言ノ葉を抱えて倒れたリースを飛び越え、適当なソファーまで駆け抜けて丁寧に放る。
そして、リースに向き直る。
「……人の趣味の邪魔をするとは、無粋な方ですわねぇ」
「あんなガキをいじくりまわすのが趣味とは、野に放すには危険すぎる奴だな」
一触即発。危険な雰囲気なそこに、アキラがやってきた。
急に、先ほどまで会話をしていたアルバートが飛び出していったので追ってきたのだ。
「おい、何やってるんだ?」
「あら、ただのマッサージですわ?」
「……いつものあれか? ほどほどにしとけよ」
しかし、リースが仲間にいつもマッサージをしているのを知っていたので、
それだけで素直に引き下がっていった。
アキラが離れたとたん、再び空気は緊迫する。
が、次の瞬間、アルバートが覚えた違和感が状況を一変させる。
「(……うごかない!?)」
「……う、うふふ……。うふふふふふ」
リースの妖しい笑みは、それが彼女の意図した出来事であることを示している。
「まさか、ここで完全な金縛りができるようになるとは思いませんでしたわ……。
その点では、貴方には感謝しませんとねぇ。お礼に貴方の眼前で続きをして差し上げますわ」
その後、リースはわざわざアルバートの体を言ノ葉のいるソファーに向け直して座らせる。
おびえる言ノ葉に向けて発せられた次の言葉は、
「心も体も蕩けそうなくらいにほぐして差し上げますわ♪」
だった。一体何をするのか。その疑問彼女自身が解決してくれた。
「サイコウェーブって便利なんですわよ? 精神にダイレクトに刺激を送れるから、
目標に自在に刺激をあたえられるんですの。ご安心あそばせ、これなら間違いなく気持ち良いですわ。
ほんとは直にするのが一番なんですけど……まずは慣らしませんとね。
そうすればきちんと直にできるでしょう?」
言ノ葉の顔はこわばって、とてもじっくり眺めていたいと思えるものではなかった。
ただ見ているしかできない、目をふさぐことすら許されないアルバート。
その歯がゆさに、舌を噛むことでもいい、何か動くきっかけを欲していた。
「うふふ……? まずはそうねぇ……お風呂にでも入る?」
意味不明の発言。言の葉もアルバートも一瞬、呆気に取られた。
「ああ、違うわぁ。要はお風呂に入ってるときと同じ刺激を味わってもらって、
擬似的にお風呂に入ってもらおうってこと。いいかしら?」
案外良心的である。別にそれなら断る理由もなく、受諾する言ノ葉。
それが彼女の謀とは知らずに。
「はい、ではリラックスして~~。どうですか~~、気持ちいいですか~~?」
「ひゃい~~……」
いい感じに蕩けてる言ノ葉。ゆるみきった顔がかわいい。
火照って赤くなった頬といい、アルバートの心を揺さぶるには十分な威力だった。
目をそらすこともできず、真正面から見据えることができないこの状況、
やはりアルバートにとっては歯がゆいものだった。
「……ん……」
「うふふ……」
その様子も途中からなんだかおかしくなってきた。
「……ふひゃあ……、あ、あの?」
「なにかしら?」
「なんか、変な感じがするんですけど……」
「でも、気持ち良いでしょう?」
「は、はい……ふぅ……」
「なら問題ありませんよ~~、うふふ?」
言ノ葉が時折、短く声をあげている。
その顔は、リラックスしているというより、軽い躁状態のように見えた。
『おい、何してる』
異変を感じたアルバートだが声も出せないので、念を飛ばしてみる。
これでも萌えもんとしては結構年を食っている。
エスパータイプとの肉声を介さない会話もある程度心得がある。
はたして、返事は返ってきた。
『あら? ……、みてわかりません?』
『っ、このアマァ!』
もし声がせるのであれば、アルバートは声を荒げていただろう。
感情がそのまま伝わるテレパシーでの会話だからこそ、その怒りはリースにもよくわかった。
『っ、なんですの?』
『言ノ葉みたいな子供に、何してやがる……!』
どこか飄々としたところが感じられるリースですら、その強さに僅か怯んだ。
『子供ってのはな……敏感なんだよ……っ、手前勝手な事情で、引っ掻き回していいもんじゃねぇ……!』
そのセリフは、あるいはリースを思いとどまらせることができたかもしれない。
ただひとつ、彼女が聞き流すことのできない単語がなければ。
『自分勝手……ですって? かわいいものを愛でて、何がいけないというの!?』
『手前勝手だろう! ただの手前の趣味だろうが! そりゃあ人様に迷惑をかけない限り自由さ。
だが、手前はどうだ。現に今、言ノ葉にちょっかい出してやがる!』
売り言葉に買い言葉。もはや言ノ葉はそっちのけで、2人は言い争いを繰り広げた。
『迷惑なんて掛けていないわ! 彼女も、気持ちよさそうじゃない!』
『それが手前勝手だっつってんだよ! アイツが同意したか? いや、そんなことは問題じゃない。
子供ってのはな、聞かれたとしても正しい答えなんか出せないんだよ!
だから正しい答えを出せるよう、しっかり導いてやるのが正しい愛で方なんだよ!』
『どこが間違っているっていうのよ!? こうしてきちんと教えているじゃない!
あなたのようにまだ早い、まだ早いと先送りにする方がよほど勝手よ!
子供は知りたがっているのよ!? 私達が教えてあげなくてどうするのよ!?』
『そこが間違ってるんだよ! 子供ってのは、教えてやらなくても自分で勝手に学んでくものなんだ!
大人があれこれ言っていいのは、子供が間違った方向に進もうとしたときだけだ!
それを手前は、むしろ悪い方向に導いてやがる!』
『どこがよ!? 直の刺激に耐えられないのだから、こうして慣れさせて、それから!』
『手前は中毒って言葉をしらねぇのか!?』
『馬鹿にしないで下さる!? そんなこと、絶対にあり得ませんわ!』
その後も会話は続くのだが、これ以上は誰が得するんだよこんなの、って感じなので割愛。
結果だけ言えば、アルバートとリース最終的にライバル関係を築き上げることとなる。
そして言ノ葉は、2人が言い争っている間に、離れたところから様子をうかがっていたアキラに介抱されていた。
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~あとがき~
暴走した結果がこれだよ!
これでも抑えぎみだけどっていうね!
なんか、ごめんなさい。
ここらで解説おば。
躁状態、というのは鬱状態の反対のことで、酔っ払いなんかがこんな状態です。
自制心とかそういうのがとんで、ふだんなら絶対しないようなことをしたりします。
そしてハイテンションになります。
しっかしあれだ、これじゃアル君完全にロリコンだよね。
とまぁそんなこんなで執筆担当の吸血の人でした!
━━━━━(ここから曹長のターン!)━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本来なら裏行きのシロモノを頑張って表に出せるようにしてくれた吸血の人に多謝(ぁ
うん、最初に私が垂れ流した妄想なんてうわなにをするやめry
ちなみにリースさん、こんな特技のお陰でマッサージサロンをジムの一角でやってたり(ぇ
時にはヨガ教室なんてのも開いてたり(何
……うん、今思いついたネタでs(マテヤ
結論。手を出す奴はロリコンだ!手を出さない奴は訓練されたロリコンだ!(マテ
うん、まぁ大体そんな感じの諸悪の根源、曹長でした。それでは!
最終更新:2009年08月20日 02:44