私は、エルレイドは、患っている。
男性のキルリアにしか進化する事のできない種族へ女性である私がなってしまった、
突然変異と呼ぶべき進化をしてしまったが故に陥ってしまった、重い病。
ある知り合いの医者曰くそんなに長くは持たない。三年も持てば僥倖らしい。
確かに私は幼少の頃からエルレイドという種族に憧れていた。
サーナイトに比べればそれこそ逞しくて強くてかっこいいエルレイド。
エルレイドに進化出来るのなら、どのような犠牲も構わないと願った時もあった。
だがいざ進化をしてその願いへの代償を聞いた時、私は悲しみ落ち込んだ。
夢の為ならば死ねる。そんな考え方が出来るほど私は子供ではなかったからだ。
寿命を知った私は家族とも親友達とも離れて独り旅に出た。
世界中を旅をしていればこの病を治す方法が見つかるかもしれない。
家で閉じ篭っているより世界中を旅していたほうがずっと良いのかもしれない。
それらは全て建前。本当は、希望など一つ無い私の未来への、自暴自棄な気持ちから。
旅に出て数週間。まだ体が不調を訴える事はない。
それでもやはり寿命を告げる言葉を忘れられず、その日も私は憂鬱だった。
朝起きて顔を洗い食料を探す。その動作すらも面倒になり今日は一日中眠っていようか。
そう思った。思ったが何となく瞼を開いた。同年齢くらいの人間の少年が私を見下ろしていた。
少年が声を掛けてくるが、その時私はとにかく驚いて、久しぶりに大声を出した。
動転してとりあえず自衛の為にと少年に襲い掛かったが見事に返り討ち。
気づけば私は捕獲されていて、例の治療施設で傷を治しているところだった。
エルレイドは仲間にしたいと思っていたらしい。少年とその仲間達は私を歓迎してくれた。
女性でありながら何故エルレイドなのかと特に疑問も抱かず。ただ純粋に。
あまりにも嬉しそうだったのでその時に私は自分の病を打ち明ける事ができなかった。
その後も何度か病について話そうと思った。
けれど出来なかった。打ち合わせでもしているではないかと思うくらいに色々な事があったから。
その度に少年と自分と仲間達は総動員で事件の解決に向かっていて話す暇が無かったから。
幼い仲間が怪我を負ってしまい泣きじゃくるので必死で慰めた。
賢い仲間が悪戯をしようとしていたので阻止して口論の中で何度かつっこみを入れた。
優しい仲間と互いの苦労したことについての話を聞かせあったりもした。
陽気な少年が悪ふざけをしたので本気で怒った私は少年をぼこぼこにして土下座までさせた。
仲間が出来たからと言ってあの憂鬱は消えたわけではない。
むしろ仲間達に大事な事を黙っている自分への罪悪感すらも感じるようになった。
けれど毎日のように私は、笑ったり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだりと忙しくて、
捕まえられるよりも前よりも充実した日常の中に、私はいた。
憂鬱も罪悪も感じる時も日に日に少なくなっていて。それに気づいた時、涙が出た。
死にたくない。生きたい。もっと皆といたい。もっと皆と笑っていたい。
未練だ。あの憂鬱とした日々の中では湧き上ることがなかっただろう感情。
こんなに幸せなのに、悲しい。愛されたいと願ってしまった。それ故の悲哀。
私はどうするべきなのだろうか?このまま愛する者たちに黙っているのか?
今日、言おう。何が起きようとも。私は皆に私の全てを話そう。
話を聞いて皆は悲しむだろうか?………悲しむだろうな。皆、子供だから。
けれどちゃんと聞いて欲しいと願う。ちゃんと受け止めて欲しいと願う。
そして誓おう。終わりが来るその日まで私は、皆を、何があろうとも守り抜くと。
だから、その日まで、私を愛してくれ。想っていてくれ。それくらいはいいだろう?なぁ、○○○。
最終更新:2009年10月16日 14:52