5スレ>>783


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 青い空、白い雲。断続的に響いてくる蝉の声。
 まだ午前中だというのに気温はすでにうなぎのぼりのようで、アスファルトからは陽炎がのぼっていた。
 ギラギラとした夏の日差しを浴びながら、目の前にある石――墓石を眺める。
 今日からお盆が始まる。
 死者の霊が家に帰ってくる期間というのが一般的な認識だろうが、俺にとってのお盆はそんなものじゃない。
 年に一度、この時期にだけ――俺は主(あるじ)と再会できるのだから。
 
―――

 俺と俺の主が出会ったのは今から7年前。
 人間の分類ではウパーと呼ばれる俺は主と出会い、あっさりと捕まった。
 主は当時10歳。「男勝り」という言葉がしっくりくるような女の子だった。
 俺たちはすぐに仲良くなり、たくさんの時間を共に過ごし、
 ――そして、死に別れた。

 俺たちが死に別れたのは5年前の夏。
 3日ほどひどい雨が続いた後、ちょうど今日のように晴れた日のことだった。
 俺と主は久しぶりの晴れが嬉しくて、早速遊びに出かけた。
 俺達の故郷はそこそこ田舎の方だったので、遊び場といえばもっぱら山や川、森だった。
 その日は暑かったため、遊び場は即座に川と決まった。
 意気揚々と川へと向かう俺たち。何度も遊んだ場所、何の問題もないはずだった。
 しかし、
「うわぁ……」
「こりゃぁ無理だな」
 いざたどりついてみると、川はかなり増水していた。
 昨日までの雨が影響しているんだろう。いつも水遊びをしたり泳いだりしていた場所は、とても遊べる場所ではなくなっていた。
 増水のことを考えていなかった俺たちはひどくがっかりしたが、増水した川の危険性がわからないほど子供でもなかった。遊ぶのをあきらめて帰ろうとした時、
「あっ……!」
 突然吹いた風に主のかぶっていた麦わら帽子が飛ばされた。
 主が反射的に手を伸ばす。誰でもするだろう、当たり前の行動。
 しかし、偶然が「当たり前」を「最悪」に作り替えた。

 1つ、俺たちが立っていたのが川の傍だったこと
 1つ、雨の影響で足元が滑りやすくなっていたこと
 1つ、帽子が飛ばされた方向が、川の方だったこと

「――っ!」
 一瞬の迷いもなく、俺の体は宙を舞っていた。川に吸い込まれていった主の姿を追って。
 肌が冷たさを感じると同時に視界が悪くなり、体が流されていく。
 大丈夫、水は得意だ。何とかなる。
 主は――あそこか!
 流れに翻弄される主のもとへと向かう。
 そこから先のことは、あまり覚えていない。
 主のもとへたどりつき、何とか岸にたどり着こうと必死に泳いで――
 気がつけば、俺は病院にいた。
 部屋には主の両親がいて、涙を流していた。

 そして俺は、助かったのは1人だったことと、主と離れ離れになったことを知った。

―――

「……なんだ、もう来てたのか」
 回想から戻ってくると、墓石を挟んだ向かい側に主が立っていた。
「そっちの1年間はどうだった? こっちは去年とあんまり変わらないが」
 語りかけても伝わらないことはわかっている。それが俺たちの間にある溝なのだから。
 俺の言葉に応じるように主が口を開く。
 俺の言葉は伝わっていない。これも、たまたまタイミングが合っただけだろう。
 だからそこから紡がれるのは俺の問いかけへの答えではなく、もっと別の言葉。
「今年も来たよ」
 主の声が響く。
「早いもんだよね。あんたがいなくなってから、もう5年も経つんだから……」
 主には認識できない存在と化した俺に、向けて。


 それから主はたくさんのことを話してくれた。
 普段の生活のこと、学校のこと、今やっていること。
 主は話しながら墓石をきれいにし、新しい花を生け、ろうそくを灯していく。
 そして、それらの作業が一通り終わった後、
「あたしさ、旅に出ようと思うんだ。
 今年のお盆が終わって、あんたを送ったら、すぐに」
 線香をあげながら、主はそう切り出した。
「トレーナーとして、人間として、あたしはまだまだ経験不足だと思う。
 だからいろんなところをまわってみて、いろんな経験をしてこようと思うの」
 俺は黙って主の言葉を聞く。
「だから、しばらくここには来れない。ううん、来ない。
 次にここに来るのはその旅が終わってからって決めてるんだ。
 どのくらいかかるかわからないけど、必ず帰ってくる。
 だから、成長したあたしの姿を楽しみにしていね」
 言い終わると同時、合わせていた両手を離して主が立ち上がる。
「それじゃ、またね」
 その顔は少しさみしそうで、でも決意に満ちていた。
 だからだろう。
「……がんばれよ、主」
 歩き出した主の背中にむけて、俺はそうつぶやいていた。

―――

『……がんばれよ、主』


「ん?」
 誰かに呼ばれたような気がした。
 振り返ってみるけれど、墓地には私のほかには誰もいない。
 まあ、そのおかげであいつに長々と報告ができたわけだけど。
「……?」
 小首をかしげながら、家へと向かって歩き出す。
 早く帰らないといけない。今日はやることがたくさんあるのだから。
 まずはあいつやご先祖様を迎える準備。それから旅の支度だ。
 あてのない旅ではあるけれど、不安や迷いは全くなかった。
 私の心はやる気で満ちているし、やれるという自信もある。
 そしてなによりも、あいつが私を応援してくれたような気がするから。



 数日後。少女は予定通り旅に出た。
 やる気に満ち満ちた少女は行く先々でもえもん関係のトラブルに巻き込まれるのだが、
 それはまた別の話である。



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■ あとがき
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 どうもこんにちは、白です。
 最近忙しくてなかなか筆を執れなかったので、リハビリがてら短編を書いてみました。
 今回はお盆を題材にして、死に別れたもえもんとその主の話を書いてみたのですが……
 ここまで読んでいただいた方にはお分かりの通り、
 もえもんがほとんど関係ない内容になってしまっています。
 他にも季節遅れという問題もありますが、その辺は多めに見ていただけるとありがたいです。
 そして今回の話ではもう一つ、ミスリードをさせる文章というものに挑戦してみました。
 拙い表現なので私の意図がばればれor伝わっていないかもしれませんが、
 死んだのは主のほうと思わせておいて実は…… という展開を狙ってみました。
 お楽しみいただけていれば幸いです。

 それでは今回はこのあたりで。次は本編を頑張ろうと思います。
2009/9/26 白
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