5スレ>>791


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うちのマスターは鈍い。
どこまでも鈍い。
果てしなく鈍い。
どうしようもなく鈍い。
絶望的に鈍い。
悲しくなる位に――鈍い。

だって、そうだろう。

手持ちの萌えもんが、誰も彼もみんなマスターが好きで好きでたまらないのに、一向にそのことに気付かない。
みんながみんな他人に悟られまいとしてるならまだしも、仲間全員が戦友で恋敵とわかった今、みんな自分に振り向いてもらおうとアピールに必死になっている。

意味もなくマスターに悩みはないかと聞いてみたり。
以前に増して生真面目になり、マスターの身の回りの世話を甲斐甲斐しく焼いてみたり。
毎日の食事を妙に手の込んだものにしてみたり。
事あるごとにマスターを外に連れ出そうとしてみたり。
あえて怠けものを装ってマスターにかまってもらおうとしたり。
ことさらに馬鹿な真似をしでかして気を引いてみたり。

……まぁ、それらの行動は「マスターの気を引いて自分の気持ちに気付かせる」という目的の点からすれば、すべて失敗しているのだが。
というか。
冗談抜きに鈍すぎるのだ、あのマスターは。
普通自分の手持ちが揃いも揃ってこんな真似をし始めたら何かおかしいくらいには思うはずだろう。
だのにうちのマスターは、それらを私達のいつものおねだりだとしか思わないで、喜々としてそれらに付き合っているのだ。
本当に、本当に――鈍い。

…………わかっている。

私も、たぶん他のみんなも、わかっている。
マスターは、鈍いんじゃない。
きっと、気付いている。
私達が、マスターに、浅からぬ想いを抱いていることに、気付いている。
でも、気付かないふりをしているだけ。
なぜか?
壊したくないから。

今の関係を。
これまでの日常を。
これからの平穏を。

わかる。
痛々しいほどに、わかる。
マスターが誰かを選んでしまえば、その時点で、私達はもう、以前のままではいられない。
選ばれた一人は、とてつもない幸せと共に、他のみんなに消せない負い目を抱き。
選ばれなかったみんなは、大きすぎる悲しみと共に、醜い嫉妬の炎を必死で消さなければならない。
マスターはそれがわかっている。
嫌になるほどわかっている。
だから、あえて自分が愚鈍な道化を演じることで、そうならないように必死で今を取りつくろっている。
そんな、歯痒くて、苛立たしくて、忌々しい気遣いでさえ――狂おしいほどに愛おしい。

だって、私は知っているから。

マスターの想いを。
マスターの過去を。
マスターの苦しみを。
マスターの悲しみを。
マスターの覚悟を。

これは、これだけは、譲れない。
この世界に生きる誰よりも、いいや、この世界に存在する何よりも、私はマスターを知っている。
だから。
だから――これ以上、マスターを悩ませない、苦しませない。

卑怯と言いたければ言え。
嘘吐きと罵りたければ罵れ。
裏切り者と呪いたければ呪え。

私は、マスターを手に入れる。
他の何を失っても、他の何を背負わされても。
絶対に、手に入れる。
例えそれで――永遠に、マスターの心を失うことになっても。
そう、決めたから。

「……マスター」

だから、私は。

「ん? どうした、ディア」

いつものように、好きな歴史の本を読んでいるマスターの手を、そっと握って。

「――温泉に、行こう」

「……は?」

呆然とするマスターを、テレポートで連れ去ったのだった。




<<捨てて得るもの>>




「……はい、確かに承りました!
 では、お部屋はあちらの廊下の突き当たり、松の間になります。
 お風呂はお部屋に備え付けてございますが、大浴場もご利用いただけます。
 そちらのお時間は午後4時から翌朝10時までとなっておりますのでご了承ください。
 えー、お食事の方はお部屋で召し上がっていただくということでよろしかったでしょうか?」

「ええ、かまいません」

いや、かまうかまう超かまう。
少なくとも俺は全然よろしくないぞ。

「かしこまりました!
 では、どうかごゆっくりとお過ごしくださいませ!」

「はい、ありがとうございます」

いや何をにこやかに会釈交わしてんだ。
とりあえず俺だけでも家に帰せ。

「ふふ、待たせたねマスター。 じゃあ行こうか」

行こうか、じゃねぇよ動けねぇんだよ。
厭味か?それは厭味なのか?
っておいこら本当に先々歩いていくんじゃない俺をここで晒し者にする気か。

「……どうしたんだい? 早く部屋に行こうよ、マスター」

よし厭味か厭味だな厭味なんだな?
そもそもお前がテレポートしてすぐに金縛りかけて旅館の中まで引きずり込んだんだろうが。

「もう、すねないでおくれよ……そりゃ突然連れ出したのは悪いと思ってるけどさ」

すねてねぇよ動けねぇんだよそれはもしかしてギャグのつもりなのか?
流石の俺でもそのギャグは理解できねぇぞオイ。

「……そんなに怒らなくてもいいじゃないか。 それとも、目も合わせたくないくらい怒ったのかい?」

おいこら何勝手に涙目になってんだふざけんな俺が悪人にしか見えないだろうが。
そもそも目を合わせたくても身体が完全にマヒしてんだよ金縛りってレベルじゃねぇぞ!

「…………あ、そういえば金縛りかけたんだっけ」

「今頃気づいたかあああああああああああああああああああああ!!!」

「お客さーん、お静かにお願いしまーす」

「「あ、はいすいません」」



***



「よいしょ、っと。 うん、広くていい部屋だ。
 ね、マスター?」

抱えてきた荷物を部屋の隅に置いて、ご満悦の表情で同意を求めてくるフーディン。
名を、ディアという。
俺の連れている萌えもんで、一番付き合いの長い奴だ。
そのディアの笑顔を殊更に無視して座布団を引っ張り出し、その上に腰を据える。
意識して表情を消し、無言で机を挟んだ差し向かいを指し示す。
それだけでディアはこちらの意図するところを察し、笑顔はそのまま、自分と同じように座布団を引っ張り出して正面に座った。
……このあたりの勘の良さはいつもどおりか。
特に錯乱しているというわけではなさそうだが。

「何かな、マスター?
 せっかくの温泉なんだ、楽しまないと損だよ」

あくまでも笑顔を崩さないまま、そんなことを言う。
その笑顔に、なぜか痛々しさを感じながらも、努めてそれを無視して、問いただす。

「――どういうつもりだ、ディア」

そう言った瞬間、ディアの表情が強張った。
細めていた目がせわしなく揺らぎ、俺の目を避けるように視線を彷徨わせる。
その様子の変わりように、一瞬詰問の意志が失せかけたが、心を奮い立たせて更に問い詰める。

「お前が何の考えもなしに妙な真似をしでかす奴だとは思わん。
 だが、その理由を言わずに誤魔化し切れると思うな。
 勝手な真似をしたなら、それなりに納得のできる理由を言え」

厳しい、とは思う。
ディアは、俺の手持ちの中で一番の古株だ。
付き合いも長ければ、二人きりだった時間も長い。
二人きりということは、俺という存在を独占できた、ということだ。
だが、今では俺の手持ちも増えた。
6人。
トレーナーが公式戦で登録できる上限きっかりの数だ。
たった一人の相棒から、六分の一の存在へというのは、相当な負担になっただろう。
その結果が今回の暴走であったとするなら、憐れみこそすれ、責めることはお門違いだと言える。
なぜなら、それは俺の身勝手がもたらした結果だから。
俺が手持ちを増やさなければ、そんな負担はかけなかったから。
だが、それは詮ないことだ。
今更言っても始まらない。
それに、たとえそれが理由であったとしても、それをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない事情が、今の俺にはあった。

「……理由、か」

――否。
俺には、ではなく。

「――みんなから抜け駆けして、マスターを自分のものにしたかった……じゃ、駄目かな?」

俺の手持ちに、だった。

「……らしくないな」

「そうかな? そうでもないよ」

今度は俺がディアの視線から目を逸らしつつ、心にもないことを言う。
ディアは、またさっきまでと同じような、それでいてどこか穏やかな笑顔で応答する。
……この様子なら、おそらく、既に腹は括っているのだろう。
自分の言っていることがどういうことか。
自分のやっていることがどういうことか。
そしてそれが――一体どういう結果をもたらすか。
賢いこいつは、それら全てを飲みこんだ上で、この行動に出たのだろう。

「……どうしてだ?」

だが、それでも。

「どうして、というのは?」

それでも俺は、納得がいかない。

「どうして、今、お前が、こんな真似をした?
 こんな真似をする必要があった?
 こんな真似をすればどうなるか、わからないわけでもないだろう」

そう、こんな真似をすれば、ただでは済まない。
俺が済まさないのではない。
俺の手持ちの、他の連中が済まさないだろう。
それは、確実に、言える。
なぜなら――

「――それがわかるってことは、マスターは気づいてたってことだよね。
 私達の気持ちに」

――嗚呼、畜生。

「……まぁ、な」

馬鹿ばっかりだ、うちの手持ちは。
なんだって、よりにもよって、俺なんぞを。

「だったら、マスターの質問は無意味だよ。
 私もみんなと同じように、ううん、それ以上にマスターが、好きだから。
 大好きだから。
 愛してるから。
 だから、絶対に他のみんなには譲りたくなかった――それだけだよ」

ディアはそう言うと、既に笑顔になっていた表情を更に綻ばせて、とろけるようなとしか言いようのない笑みを浮かべた。
その笑顔を見て、俺が最初に抱いた感情は、どうしようもなく捕えがたい、ぬめつくような恐怖だった。
思わず顔を手のひらで多い、うめくような声で、呟く。

「……なんでだ。なんで俺なんだ。
 俺よりもっといい男なんて、掃いて捨てるほどいるだろう」

それは、ディアに対しての言葉ではなかった。
この場にいない、他の手持ちの連中への言葉でもなかった。
そいつらから向けられた、好意や愛情という名の感情に対して俺という人間が感じた、嘘偽りない思いだった。

「なんで、っていわれてもね。
 使い古されてる上に安っぽいセリフだけど、好きになるのに理由なんていらないんだよ」

僅かに眉根を下げて、ディアは答える。
その答えも、俺の心をざわめかせるものでしかない。

「やめろ。迷惑だ。
 俺は誰かに好かれるような人間じゃねえ」

辛辣といえば、あまりに辛辣すぎるその言葉。
それを言わなければならないほど、俺の精神は不安定になっていた。

好意。
愛情。

そんなものはいらない。
必要ない。
欲しがらない。
そう言い聞かせて、生きてきた。
なのに、なぜだ。
なぜ今更、そんなものを与えようとする?
やめてくれ、余計なお世話だ。
頼むから俺に近づいてくれるな。
そんな言葉が思考を埋め尽くし、気が触れるかと思った、その瞬間。

「マスター」

不意に、頬にぬくもりが触れる。
顔をあげれば、そこには両掌で俺の頬をそっと包む、ディアの顔。
その顔は、まるで。

「……辛いよね。苦しいよね。怖いよね。
 私は知ってる、マスターが、ずっと一人だったこと。
 マスターが、一人に慣れすぎてしまったこと。
 知ってるよ、私が一番。
 だって私は――マスターと、一番長く、一緒にいたんだもの」

まるで、全く顔も思い出せない、けれどなぜか、記憶の奥底にこびりついた、母親のような表情で。
ディアはじっと、俺の顔を見つめていた。

「私もね、わかるんだ。
 マスターの、今の気持ちが。
 私も同じような気持ちを、感じた事があるから」

まっすぐに俺を捉える、ディアの視線。
恐ろしいほどに澄み切ったそれを振り払うこともできず、ただただじっと、ディアの言葉に耳を傾ける。

「それはね、マスターが私を拾ってくれて、すぐのころ。
 ずうっと一人ぼっちだった私は、ずっとずっと、怖かった。
 今自分が、こうしてマスターと一緒にいられるのは、実はただの夢なんじゃないかって。
 目が覚めたら、そこはあの暗い暗い倉庫の中で、私は一人ぼっちになってるんじゃないかって。
 だから私、一人で寝るのが怖かった。
 目が覚めるのが怖かった。
 でもね――」

そこで一度、言葉を切って。
ディアはもう一度、先程と同じ、とろけるような笑みを浮かべた。

「――怖くなるたびに、思い出したんだ。
 マスターが、私を、ううん、ぼくを拾ってくれた時のことを。
 マスターは、覚えてる?
 ぼくが、マスターに抱きしめてもらったときに言ったこと――」

記憶を手繰る。
その記憶は、存外深くないところで見つかった。
否。
無意識のうちに忘れないようにしていたのかもしれない。
そう、あのとき、お前は――

「――『ぼくは、あなたを好きになります。愛せるように、なってみせます。だからあなたも、ぼくのことを、愛してください』。
 そう、言ったよね。
 ぼく、マスターを好きになれたよ。
 愛せるようになったよ。
 だから、お願い」

そう言ってディアは、そっと身体を乗り出し――

「――マスターも、ぼくを、愛してください」

――その唇を、俺の唇に、重ね合わせた。


***


「ん……」

一瞬のまどろみを経て、意識が覚醒する。
さほど睡眠時間が取れたわけではなかろうに、習慣というのは恐ろしい。
とりあえず身体を起こそうとして、右腕に違和感を覚えた。

――ああ、そうだったな。

今更のように思い出し、腕の先を見る。
そこには、幸せそうに眠る嫁の――ディアの姿があった。

「……改めて言うと、こそばゆいな」

誰にともなく呟いた、その声で。

「ん、ううん……」

「……起きたか?」

「ん……おはよ、ますたー」

まだどこか寝ぼけた様子で、ディアが僅かに笑みを浮かべる。
おう、とそれに応えてから少し腕を振り、「悪い、外すぞ」と言って腕枕を取り上げる。
ディアは少しばかり不満そうな顔をしたものの、こちらが起き上がるのに少し遅れてゆるゆると身体を起こした。

「布団、畳むぞ。 飯が来た時に敷きっぱなしだと体裁が悪い」

言いながら、乱れた浴衣を整える。
けれどディアは、布団の上から動こうとはせず、じっと布団を見つめていた。

「おい、ディア」

少し眉を顰めながら名前を呼ぶと、ディアは視線をこちらに向け、やがて、にっこりと微笑んだ。

「――夢じゃ、ないんだね」

その言葉が、無性に照れ臭く。

「……あぁ」

結果、ディアから目を背けて、ぶっきらぼうに言い捨てる格好になってしまった。
背後からくすくすと笑う声が聞こえたが、無視した。

「ねぇマスター、ちょっといいかな?」

背中にかけられる呼びかけ。

「……なんだ」

背を向けたままに応じる。

「――末永く、よろしくお願いいたします……旦那様♪」

「~~~~~~~~っ!」

その言葉には流石に応じられず、緩みそうになる口元を必死で押さえる。
ころころと愉快そうに笑うディアを叱りつけようとして振り返り――そこで。

「……もう、離さないからね」

抱きしめられる。

「……余計な心配すんじゃねぇよ、阿呆」

抱きしめ返す。

これでいい。
いいと決めた。
迷いは、ない。

「……みんなに、なんて言おうか」

「そのままを言うさ」

ディアの吐息が胸を撫で、俺の呼吸がディアの髪を揺らす。
前途はなかなかに面倒だ。
だが、今は、今だけは。
この時間が永遠に続いてしまえばいいと、そう――

「ゆうべは おたのしみ でしたね ?」

「っどおあ!?」

「きゃあっ!?」

唐突に場違いな、しかし耳慣れた声がした。
慌てて互いに飛びずさり、声のした方向を振り返る。
そこには。

「見せつけてくれちゃってまぁ……心配して損したかしら」

呆れ顔で溜息をつくスリーパー、アン。

「いいなぁディア……わ、私も、って何言ってるんだろう私あわわわわ」

一人で勝手にパニくっているルージュラ、イズー。

「ふっふ~ん、そっかそっか。マスターはあんなふうに女を口説くんだぁ~、へぇ~」

ふてぶてしくにやつきながらこちらを観察するバリヤード、セレス。

「んー、のんびりしすぎたかなー。 ま、しょうがないやねー」

のんびりとした表情で、何やら一人合点しているヤドラン、シエル。

「す、すすす凄いもの見ちゃったっす! マスターとディアさんの熱愛シーンっす!」

真っ赤になった顔を両手で覆い、しかしその指の隙間からこちらを見つめて素っ頓狂な声を上げるソーナンス、ラピス。
早い話が、ディアが出し抜いた俺の手持ちが、いつの間にかそこに勢ぞろいしていた。

「お、お前ら、なんでここに……」

「なんでも何も、そこのお馬鹿さんの部屋を少し漁ったらこんなものが出てきましたよ?」

そう言ってひらひらとアンが示したのは、おそらくはこの旅館のパンフレット。
なるほど、それなら場所を特定する手間は一気に省ける。
後は適当な移動手段でここまで移動してくればいい。
テレポートを使えば早かったのかもしれないが、使える奴がいなかったのがこの時間到着の理由だろう。

「ま、色々と言いたいことはあるけれど、とりあえず、ね」

そう言って、アンが手にしていたパンフレットを放り投げる。

「そ、そうね。 とりあえず」

我に返ったらしいイズーが、何やら真剣な表情になる。

「そうだねぇ、とりあえず、ねぇ?」

相変わらずにやにやと笑いながら、セレスが僅かに姿勢を正す。

「とりあえず、とりあえず。 うん、とりあえずだねー」

やや意味のわからない内容を呟きながら、てくてくと二、三歩シエルがこちらに歩み寄る。

「そ、そうっす! とりあえずっす!」

興奮した勢いそのまま、ラピスが前のめりになりながらこちらを向く。

「と、とりあえず……なんだ?」

その様子に尋常ならざるものを感じ取り、じりじりと後ずさりながら、そう尋ねた。
次の瞬間。

「「「「「――マスターの、大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

「ちょ、お前らやめ……うわああああああああああ!?」

五人一斉に飛びかかられ、回避も間に合わずに組み伏せられる。
馬鹿だの腑抜けだの甲斐性なしだの、散々な罵倒をされながら、なんとか首だけを捻じ曲げてディアの方を見る。
突然の出来事に呆気にとられていたらしいディアは、俺の視線に気づいて、慌ててこちらに駆け寄ろうとした。
それを首だけで拒否し、心配するな、と笑いかける。
これは、俺が受けるべき罰だ。
こいつらの気持ちに気づいていながら、知らぬ振りを通そうとした俺への罰だ。
だから、こいつらの気が済むまで罰を受けよう。
それで少しでも、こいつらの気が晴れるなら、それでいい。
そんなことを考えながら、俺は、気がつけば、笑っていた。

「ハッ……!」

悪くない。
こんな日常も、悪くはない。
いいだろう。
受け入れてやろうじゃないか。
好意も、愛情も、飲み下してみせてやろうじゃないか。
その代わり。

「み、みんな、待って、待ってよ。
 悪いのは私だ、私なんだ、マスターは悪くないんだよ――」

おろおろとうろたえながら仲間を必死で説得しようとしている、俺の嫁。
俺が一番近くに置くのは、こいつだ。
それだけは、絶対に、違えない。
ツールボックス

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