5スレ>>814


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 翌日。俺たちはもえもんタワーの調査を開始した。
 調査を始めたのは夜の10時。昼間のうちに集めた情報によれば、この時間帯から事件の発生率が上がるのだが……
「ゴースやゴーストばかりですね」
「そうだな。……お、カラカラだ。ファル、頼む」
「は~い」
 開始からおよそ1時間。集まるものといえば、図鑑のデータばかり。幽霊なんて影も形も見当たらない。
 もっとも、噂の幽霊に影や形があるのかは知らないが。
「やっぱりもう少し上まで行かないとだめかな。サヤはどう思う?」
「え? な、何?」
 俺たちの後ろで周囲を窺っていたサヤが驚いたような声を上げる。
「もう少し上に行ってみようかって」
「上に? ……えっと、今日はそろそろ撤収しない? 幽霊には出会わなかったけど、収穫はあったわけだし」
「……? どうかしたのか?」
 今日のサヤはどうもノリが悪い。いつもなら率先して先に行きたがるはずだが……
 その原因を考え、あることに思い至る。
「まさかお前……怖いのか?」
「なっ! そそそ、そんなわけないでしょう!」
 真っ赤になってうろたえるサヤ。
「そうだよな。事前にあんな話を聞かされちゃ、怖くなるのも無理はないよな」
 その様子がおもしろくて、つい追撃をかけてしまう。
 ちなみにあんな話というのは、昼にファルが地元の人から聞いてきた話だ。
 タワーに封じられているという悪霊についての噂話で、内容としてはありふれたものだったが、
「ファルの話し方、上手かったもんな? 臨場感たっぷりっていうか」
「だから、違うって言ってるでしょ!」
 普段は間延びしたしゃべり方のファルだが、このときばかりは一味違った。
 その絶妙な語りによって俺たちは物語の中に引き込まれ、
「んじゃ行くか。……そういえば次の階は5階か。
 ファルの話の舞台になった階だし、何か起きるかも知れないな?」
「ぐっ……。い、いいわよ、行ってやろうじゃないの」
 サヤに至ってはいまだにその中から抜け出し切れていないようだ。
 ファルの隠れた才能に関心しつつ、上の階を目指す。
「後で覚えときなさいよ……」
 サヤが何かつぶやいたようだが、小さすぎてよく聞き取れなかった。


 その3分後。
「……お前ら、もうちょっと離れてくれないか?」
 5階にたどりついた俺たちは、団子状態になっていた。
「すみません、マスター。でも……」
 まず右にミルト。俺の右腕を遠慮がちに抱え、俺に寄り添うようにして歩いている。
「ちょっと怖くなってきた~」
 頭上にファル。口調がいつもどおりなせいか、セリフに反して全然怖そうじゃない。
 というか絶対怖がってない。なんかニコニコしてるし。
「わ、私は怖くなんかないわよ?」
 後方にサヤ。こいつは俺と若干の距離があるが、
「ならばその手を離せ」
「う…………」
 右手で俺の上着の裾を握ることで俺の動きを束縛している。
「やれやれ……」
 怖いのはわからないでもない。しかしここまでくっつかれては何かあったときに身動きが取れなくて危険だ。
 ちなみにルーメはサヤの左手を握っている。
 べったりとくっついていないところを見るとサヤの恐怖をやわらげるための行為なのだろうが、
 サヤがおっかなびっくり動くせいでかなり動きづらそうだ。緊急時の対応には若干不安がある。
「ファルの話を思い出させたのは失敗だったかなぁ……。――お?」
 懐中電灯の明かりの中に何かが浮かぶ。
 墓石か何かかと思ったが、どうやら小さな社のようだ。
 建てられてから結構な時間が経過しているのだろう、歴史を感じさせる外観をしている。 
「これ、もしかして……」
「悪霊が封じられているっていう社かも~」
 ミルトの小さなつぶやきに、ファルの声が続く。
 確かにその可能性はある。見落としていたかもしれないが、今までの階にはこんな社はなかった。
 本当に悪霊が封じられているかはさておき、噂話の舞台としてはここで間違いないのだろう。
 もう少しよく見てみようと思い社の正面にまわり、覗き込む。すると、
「……ん?」
 社の正面に位置する扉に傷があった。最初はこの社の歴史故の傷だと思ったが、よく見てみるとまだ新しい。
 何か鋭いものが突き刺さったような傷が扉のかんぬき部分を壊している。
「うわ~、ひどいね~?」
 扉の様子を見たファルがつぶやく。
「ああ。いったい誰が……」
「これじゃ扉が閉まらないから、悪霊が出てきちゃうよ~」
 『悪霊』という単語が出たとたん、俺の上着がギュッと引っ張られ、同時にサヤの声が飛んでくる。
「ちょっと、ファル。そういうのやめ――」
 その、瞬間。
「――っ!!」
 突如湧き出した気配に全身が泡立つ。
 ――ハナレロ――
 本能が警告するままに、数歩下がる。
 下がったことで見えてくる社の上部。その上に、そいつはいた。
 一言でいうなら『影』だろうか。
 薄暗いタワー内においてなお存在がわかるほどの黒。
 はっきりしない輪郭が描く形は人間に近いが、下腹部から先は背景に溶け込んでいる。
 そして、人間の顔に当たる位置に存在する3つの白。
 1つは半円、2つは円。輪郭がいびつな3つの白は半円を下とする逆三角形を作るように並んでいる。
 その結果描き出されるのは、ひどく空虚な、しかしそれ故に見る者を恐怖させる、顔――
「これが……悪霊……?」
 つぶやいた言葉に応じるように、半円が横に――笑みの形に広がる。俺がその意味を理解する前に、
「マスター、危ないっ」
 俺の顔のすぐ左を悪霊――便宜上そう呼ぶことにする――の左腕が勢いよく通りすぎていった。
 耳元で唸りを上げる風に背筋が寒くなる。
 不安定な外見とはうらはらに、こいつにはかなりの物理攻撃力があるらしい。
 ミルトが腕を引っ張ってくれなければどうなっていたことか。
「ルーメっ!」
「はいっ!」
 体勢を崩した俺たちを援護するためだろう。
 悪霊の拳が引かれるのと同時に、俺の左右をはっぱカッターが通り過ぎる。
 弧を描いて飛ぶはっぱカッターは悪霊に左右から襲いかかるが、
「だめですご主人さま、まるで手ごたえがありません!」
 ルーメの報告に、サヤの舌打ちが重なる。
 物理攻撃はだめか? なら――
「ファル! ねんりきを叩き込めっ!」
「おっけ~」
 俺の頭から離れたファルが両手を突き出す。
 しかし動きとともに放たれたはずの不可視の力は、その場に何の変化ももたらさなかった。
「どうだ?」
「だめ~。少し手ごたえはあったけど、あっちは触られたくらいにしか感じてないと思う~」
 ファルの報告を聞きながら思考を巡らせる。
 草とエスパーの両方を無効化するタイプ構成など存在しない。
 鋼タイプならば半減はされるだろうが、命中しても素通りするなどということはありえない。
 もえもんじゃない? やっぱり悪霊が実在したってことか……?
「……サヤ、一旦退くぞ。走れるか?」
「あ、当たり前でしょ!」
 悪霊を睨みつけながら、後ろにいるサヤへと小声で呼びかける。
 攻撃が効かない以上、このままでは不利どころの騒ぎじゃない。退かなければ全滅する。
「よし、……今だっ!」
 再度振るわれた悪霊の拳を回避し、そのまま逃走する。
 このタイミングなら追撃は少なくともワンテンポ遅れる。
 そのワンテンポを利用すれば多少は安全に逃げられるはず――
「こんな時に!?」
 先頭を走っていたサヤが悲鳴に近い声を上げる。
 サヤの前、つまり俺達が逃げる方向からゲンガーが顔をのぞかせていた。
 まずい、このままじゃ挟まれる。
「突破しろ! 挟まれたら逃げようがない!」
「わかってるわよ!」
 ゲンガーの攻撃に注意しつつ、全速力で走る。身構えるゲンガー。
 距離はあっという間に狭まり、
「さっきからうるせーんだよっ!」
 ゲンガーの雄たけびと共に、拳が放たれる。

 ゴッ――

 巻き起こる風。
 次の瞬間、その風は俺たちの誰でもなく、俺たちの背後から迫っていた悪霊を打ちすえた。
 吹き飛ばされる悪霊。ゲンガーはその行方をしばらく眺めていたが、
「ちっ、浅かったか……?」
 やがて小さく舌打ちする。
 その視線の先では、悪霊がゆっくりと立ち上がっていた。
 ゲンガーの言葉通り、その挙動からダメージは感じられない。
「まだやるか? いいぜ、かかってこいよ」
 ゲンガーが楽しげに挑発するが、悪霊は応じない。それどころかゆっくりとその姿を薄れさせ始めた。
「てめぇ、逃げる気か!?」
 声を荒げるゲンガーだが、言葉に反して追撃をしようとはしない。
 そうしているうちに、悪霊の姿は完全に薄れて消えてしまった。
「……なんだあんたら、まだいたのか」
 振り返ったゲンガーが声をかけてくる。
「さっさと帰った方がいいぜ。さっきのやつがまた来るかもしれねーからな」
「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「礼なんていいって。んじゃな」
 言葉とともにゲンガーの姿が薄れ始める。
「あ、おい……」
 さっきの悪霊は何だったのか、とか何故おまえの攻撃は悪霊に当たったのか、とかいろいろと聞きたかったのだが、
 それを言葉にするより先に、ゲンガーの姿は消えてしまった。
「なんだったの、あいつ……?」
「さあな……。とりあえず戻ろうか。どうやら悪霊は実在するみたいだし」
 呆然とつぶやくサヤに答える。
 現状の俺たちでは噂の悪霊に対応できない以上、ここにいても仕方がない。
 図鑑のデータと多数の疑問を携えて、俺たちはタワーを後にした。



――――

あとがき

 こんにちは、白です。
 長らく空いてしまいましたが、幽霊(中編)をお送りします。
 本当は前後編の予定だったっていうのは秘密です。
 怖がる女の子たちを書きたいなーなどという欲望をあらわにしていたら文章が膨らみすぎてしまいました。
 そんなわけで今回は幽霊(?)との遭遇まで。
 手も足も出ない相手がいてもトウマは厄介事に首を突っ込んでいくのか。
 突然登場したゲンガーは何者なのか。
 次回、幽霊(後編)をお楽しみに!

 ……などとノリよく締めようと思いましたが、やっぱり最後にこの一言を。
 まだまだ拙いところが多々ありますので、ご意見・ご感想・ご指摘等お待ちしています。
 それではまた次回作でお会いできることを祈りつつ、今回はこのあたりで筆を置かせていただきます。

2009/12/10 白
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