「テッカニン! 右TB、JB、RT、RTB、S!」
相棒に指示を飛ばす。
多勢に無勢だ、トレーナーたる自分が頭となり、手足である萌えもんを的確に動かさねばならない。
正直、自分はこんなことは好きではないが仕方がない。
「っは、っつぁ……!」
テッカニンも、自分で考えて動き回るよりこちらの指示に従う方がよほど切れのある動きをする。
そして、最後の1体を叩き落とした。
「ふぅ……片付きましたね、主」
「うん、御苦労さまテッカニン」
話しがそれるが、緊張が解けたテッカニンの顔はかなり可愛かったりする。
それがまた自分好みであり、気を取られてしまうのも仕方ないだろう……と、思う。
しかしそれはそれで情けないことだ。なにせ。
「……! 主、後ろ!」
「え、はえ?」
おかげで背後の気配に全く気付けないのだから。いや笑い事ではないのだが。
「……がぶりっ!」
「うぐあっ!?」
恥ずかしながら、ちょっとの気の緩みから生じる隙をつかれることは過去にも幾度かあったのだ。
だというのにこうも簡単に攻撃されるとは情けないというか。
「主!? っく、離れろ毒蛇!」
そのつど、こうしてテッカニンに助けてもらっているというのがいやになる。
「みぎゃん!?」
「ふん、様を見ろ! ……主! 無事ですか!?」
「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ」
実際、噛みつかれた首が痛いくらいで大したことはないのだが、その心配そうな顔を見ると非常にいやな気分になる。
どうして自分はテッカニンにこんな顔ばかりさせているのかと。
「……見たところ、たしかに大事はないようですが、念のため」
けれど、そんな顔すら可愛いと思ってしまう自分も否定できなかった。
ましてや、その顔が近づいてくれば……って、あれ?
「ちょちょちょちょっとたんま! なにするつもり!?」
「毒を吸い出すんです! あの蛇の毒が回ったらどうなることか……!」
質問してみたが、一応筋の通った答えが返ってきた。
しかしこの状況はいかん、必死な顔したテッカニンの顔はめったに拝めるものではないが、これはこれでかなりクルものがある。
とはいったもののテッカニンの主張は正しいのでゆっくり鑑賞するわけにもいかず、素直に首を差し出すことにした。
「じゃ、じゃあ悪いけど、お願い」
「お任せください……ん、ちゅ……」
ぞくり、と。
なんとも言えない刺激が全身を駆け巡る。
ほんの一瞬、まるで全ての感覚が消失したかと思った。
「ん……む、あ……」
一言で表すには、どんな言葉を使えばいいか。
簡単だ。“快感”、それで事足りる。
「ふ……うん、ぐぅ……」
彼女が漏らすくぐもった声も、こちらの心を揺さぶり。
おそらく、彼女の手だろう。強く絞られた、と思った次の瞬間。
「────────っ!」
そこで、自分の記憶は途切れてしまうのではないかと思うような、強烈な快感に襲われた。
「…………ん……っく、はぁ……終わりました、主」
「……あ、うん……って、何飲んじゃってるのさ……」
この感想はあながち過言でもなく、意識が朦朧としていた。
しかしながらトレーナーとして、親しき仲の者として、毒を吸い出して置きながらのみこんだ彼女を心配する。
「ご心配なく。直接血液中に混入するわけではありませんし、私は貴方よりはよほど丈夫ですから」
「……そう? なら、いいんだけどね……」
結局、貧血……なのだろうか、今ひとつ調子は出ない状態ではあったものの、無事にセンターまで帰りついた。
「主、結果は……?」
「うん、問題ないよ。というかさ、君が吸ったんだよね?」
センター内、2人がとった部屋にての会話。
毒が残っていないか、血を失いすぎていないか、あんまりテッカニンが心配するものだから精密検査を受けた主。
しかし、毒が残らないように血を吸ったのはテッカニンであるのだ。
彼女が適量を吸いだしたのならば、こんな心配はしなくていいはずなのである。
「う…………そ、それは……そうなのですが……こう言うのはその、気分といいますか……」
案の定、その点をつかれると急に萎れるテッカニン。
「……まぁ、仕方ないといえば仕方ないし。ひとつだけ聞いてくれれば、この話はそれでおしまい」
そこにつけこみ、テッカニンに軽い脅しをかける主。
「……その、ひとつとは……?」
怯みつつも、軽々しく引き下がりはしない彼女に、彼はこう言った。
「────僕がいいっていうまで、なにひとつ抵抗しないこと」
「え……っひゃ!?」
直後、テッカニンを抱き寄せると、その首に顔を埋める。
かかる吐息のこそばゆさにか、身を震わせるテッカニン。
しかし、言われたとおりに抵抗はしない。
そんな彼女に笑みつつ、主は。
「……いただきます」
己の犬歯を、突きたてた。
「──────っ!?」
彼女の体が跳ねる。
それを抑えつけつつ、できた傷跡から──血を、吸う。
「──っあ……ある、じ……!?」
困惑した声に、堪らない愉悦を感じながら主は言う。
「さっき、あった人にさ。こう言われたんだよ……“血を吸われて失ったのなら、同じように吸って補給すればいい”って」
そしてわざわざ流れた血をなめとってから、再びかぶりつく。
「っあ、それは、そうかも……っん! 知れま、せんがぁ!」
強く吸うたびに、嬌声が上がる。
その様子がたまらなくおかしくて、いとおしくて、口元が歪んでしまう。
「はぁ……っは、ん……あ、るじぃ……」
切な気なその声は耳に心地よく、いつまでも聞いていいたくなる。
舌に広がる味はたとえようもなく美味であり、病みつきになりそうだ。
「くあぁ……は……っ」
テッカニンの方もしっかりと抱きついてきていて、それがまた主の心をくすぐる。
「……っ、や、あるじ……も、だめ……!」
何がダメなのか、すでに経験している主はわかっているつもりだ。
それでもなお、彼は一層強く血を吸いあげる。
「──────っ…………!!」
テッカニンの体が、一際大きく跳ねた。
それを合図に、主も吸血をやめる。
「……ごめんね、ちょっとやりすぎちゃったかな」
「……わかって、いるなら……加減して、くれても、いいではありませんか……」
腕の中でぐったりとした彼女は、とても魅力的で。
「ごめんごめん……でも、かわいかったよ」
だから、そういって、優しく抱き締めた。
「……愛してる」
最後に、そう呟いて。
「……私も、です……」
最終更新:2009年12月17日 19:50