リーグ挑戦直前の腕試しにトキワシティジムへと乗り込んだアキラ一行。
しかし、そこで待ち受けていたのはルール無用の謎の男と、鎧を纏う圧倒的な力を持つ萌えもんだった。
重傷を負い全滅する仲間達、さらに彼らの魔の手はアキラ自身にも襲い掛かる。
もうもはや打つ手無しかと思われたその時、美しき水の君が間に割って入ったのだった。
『紅の狂気と純真なる破壊者(後編)』
立ち上がって冷や汗を拭い、アキラは体の感覚を確かめながら状況を確認する。
スイクンと『μ2』はじりじりと睨み合いを続けている。
恐らくはお互いに隙を伺っているのだろう。
その間にアキラはフィールドに倒れ付す五人……デル・メリィ・ホウ・ゲン・サイホ。
彼らをボールへ戻し、既に先の戦闘で倒れていたリースを呼び出して元気の欠片を飲ませる。
「う、うう……わ、私は一体」
「起きたか、リース」
「マスター?……ひぃっ!」
アキラの後ろ、スイクンと対峙する『μ2』を見て体を竦ませるリース。
そんなリースの肩を掴み、しっかりと目を合わせてアキラは言った。
「いいかリース、今からお前にデル達のボールを預ける。そのままセンター行って、治療と報告を頼む」
「え、ええ……わかりましたわ。マスターは?」
「俺は……行くわけにもいかないだろ。スイクンを残しては」
そう言うと、アキラはリースに背を向ける。
丁度、アキラとスイクンの二人で扉を守るような形になった。
「早く行け!」
「り、了解ですわっ!」
「チッ、行かせるな『μ2』!」
ボールを抱え、開きっぱなしの扉からリースは外へと駆ける。
その背中に『μ2』の念が襲い掛かるも、それは分厚い水の壁に阻まれた。
「へぇ……この念を防ぎきるのか。中々手ごたえがありそうじゃないか」
「まーね。あたしだって伊達に伝説の名を背負ってる訳じゃ無いのよ?」
「おいおい、わざわざ自分から伝説ってバラすことも無いだろ」
「いいじゃない別にぃ」
「フッ、ハハハハッ!そうか、伝説の萌えもんか!」
面白い玩具でも見つけたかのように男は笑う。
「丁度いい、伝説がどの程度のものか……試させてもらおうか。やれ『μ2』!」
男の命令に従い『μ2』はスイクンに念を放つ。
しかしそれはまたしても水の壁によって阻まれる。
「その程度?だったら何度やっても無駄だよ」
「よし、これなら……いけるか?」
そうアキラが呟いた時、彼の頭にスイクンの声が直接響いてきた。
「(あー、主様ごめん。実は防ぐので精一杯)」
「うぇっ!?」
「(声に出さないで。返事は思うだけでいいから。正直なところ、あたしでもまともに貰うとマズイかも)」
「(……これでいいか?んで、どうするんだよ)」
「(うーん、何とか隙を突ければいいんだけど……布石に何かしようとするとそこ突かれそうってぇ!)」
念で会話する最中、それを隙と見た『μ2』の念がスイクンを襲う。
咄嗟に念話を打ち切り、スイクンは回避行動を取った。
「スイクン!」
「おいおい、ボーっとしてちゃ何もならんだろ」
「くっ……(考えろ……スイクンの特性を生かした上で攻撃を当てる方法を!)」
アキラの頭が回転を始める。
スイクンの特性は。
水の浄化。
水の操作。
そして高速移動。
「そうだ……これだ、スイクン!」
「……おっけー、お任せを!」
思いついた作戦を念じて教えると、スイクンは軽く笑って応じ……フッと姿を消した。
……否。目視できないほどのスピードで動き回っていた。
「なるほどね……が、念は速ければ避けられるというものでもあるまい!」
「その前に先制だ!やれ、スイクン!」
アキラが言った瞬間、スタジアムの全方位から水弾が撃ち出された。
高速で動くスイクンからの、水の波動の乱射。
それは双方の視界を覆いつくし、スタジアムの中央には着弾によるクレーターをも生み出していく。
そして、それが止まった時。
「まじかよ……」
「……」
「ふん、まあ悪くない作戦だったな」
幾つものクレーターに囲まれずぶ濡れになりつつも、これといったダメージを受けた様子もなく『μ2』は立っていた。
そして彼女は、停止して姿を現したスイクンへサイコキネシスを放つ。
スイクンはその様子を悔しげな表情で睨みつけ、念の直撃を受け……水が弾け飛んだ。
「水で分身だと?」
「今だ、スイクン!」
「まっかせなさーい!」
アキラの指示でクレーターに溜まった水の中から本物のスイクンが飛び出し、ガラ開きの背中にハイドロポンプを打ち込む。
『μ2』は防壁を張って防ぐ……が。
「……ぅぐ、あぁっ!」
パァン、ドォッ!!!
「防壁を破っただと……まさか」
「ふふーん♪やっぱ水そのものは防げても、その衝撃までは防げなかったみたいね!」
「おいおい、考えたのは俺だろ」
「実行したのはあたしだもーん」
男は手に持っている小型の機械を操作し『μ2』を見る。
「脳のステータスに異常……なるほどな、軽く脳震盪を起こしたか」
「そういうことだ……これでもうまともに戦えないだろ」
「あたしたちの勝ち、ね」
「さてと……どういうつもりか、説明してもらえるか?」
壁際に崩れ落ちている『μ2』を一瞥し、二人は男に向き直る。
が、男は不敵な笑みを崩さない。
その様子をアキラが怪訝に思っていると、男は手元の機械を操作しながら話し始めた。
「フッ……ハハッ。確かに、流石は伝説だ。だが……この隙にトドメを刺さなかったお前の負けだ」
「何、負け惜しみを言って……」
と、その時。
アキラの隣に立っていたスイクンが、壁まで吹き飛ばされていた。
「があっ!!!」
「なっ、スイクン!?」
「はっ、はぁっ……ぅう」
『何でも治し投与完了。スペシャルアップ及びスピーダー、限界まで投与完了』
「ふん、念のために装備させていた投薬装置だが……中々役に立つな」
「スイクン、大丈夫か?」
「ごめ……ぁたし、ゆだ……した……っあぐぅ!!!」
「くそっ、もうやめろ!勝負はついただろ!」
「何を言ってるんだお前。折角目の前に滅多にお目にかかれない『伝説』が居るんだ……どれほど耐えるか、調査させてもらおうか。やれ」
男の命令に従い『μ2』はスイクンにかける念の圧力を増していく。
「ぐ、あああああああああ……!!!!!!」
「くっ……この、止めろおっ!」
アキラは拳を振りかぶって男に向かって走り出す。
が、その拳は届く直前に空中で停止した。
無論『μ2』の念の捕まったのである。
「くそっ、この、離せよっ!」
「お前も中々しつこいな……ん?」
男は気付く。
すこし遠くから聞こえてくる、サイレンの音に。
「警察か……今やりあうのは早すぎる上に面倒だな」
「逃げるつもりか!?」
「俺が主役のステージにはまだ遠いんでな……お前たちはそこで寝てろ」
「何を……ぐはっ!!!」
スイクンの押しつけられていた壁に、アキラも勢い良く叩きつけられる。
「あ、主……様……」
「スイ、クン……無事、か?」
「あはは、なん、とか……でも、しばらく動けそうにない、や……」
体力の限界が来たのか、スイクンは眠るように意識を手放した。
アキラも全身の痛みで動くことが出来ず、その場に倒れ伏し。
「さて、目ぼしい資料やデータは既に回収……ジムの機能もほぼ停止させた。引き上げるぞ『μ2』」
「……(コク」
テレポートで何処かへと姿を消した二人を、ただ見逃すことしか出来なかった。
数日後。
アキラは、トキワシティ萌えもんセンターのロビーでただぼんやりと時間を過ごしていた。
腰につけているボールは一つ……最も怪我の軽かったリースだけ。
デルとメリィとホウは重傷のため入院。
ゲンは霊体のためすぐに体を修復したが、構成する量が不十分なため休養中。
そして、サイホは……意識不明となっていた。
『先生、サイホは……サイホはどうしちゃったんですか!?』
『わかりません……けれど、少し気になることがあります』
『気になる事?』
『ええ。サイホさんの体なんですが、ついこの前タマムシ大学に収容された萌えもん達と似たような異常が見られたんですよ』
『!?』
『憶測に過ぎませんが……サイホさんは何処かで彼らを変化させたのと同じ電波を浴び、規定値に達していなかったのが今回強力な念を浴びて進行してしまったのかもしれません』
『そんな……』
『もっとも、彼らも治療やリハビリで大分回復してきてはいます。が、個体によっては大きな障害が残っています……一応、覚悟はしておいてください』
「ふぅ……」
何度目かもわからないため息をつき、アキラは席を立ち病室へ向かった。
アキラが病室に入ると、車椅子に座ったデルがリンゴを剥いていた。
「あ、ご主人様。リンゴ剥いたんですけど、いかがですか?」
「ああ、一つ貰うよ」
かわいらしいウサギ状に切られたリンゴを受け取り、他のメンバーの様子を見る。
メリィはぼーっとテレビを見ている……両手に巻かれた包帯が痛々しい。
ホウはベッドで眠っている……が、時折うなされているようだった。
ゲンはホウの左手を握り、頭を撫でてやっている……心なしか、痩せたように見える。
そして……サイホは、ここには居ない。
「……俺の能力が足りないせい、か」
「ご主人様、今何か……?」
「ああ、なんでもない。独り言だ」
アキラは考えていた。
もし、皆に指示を出していたのが自分でなかったら。
そう、例えば……敬愛する兄であったなら。
こうも酷いことにはならなかったのではないか、と。
「やっぱり俺……才能、無いのかな」
窓際まで歩み、アキラは空を眺める。
どんよりと曇った空は、今のアキラの心情を写し出しているように見えた。
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・後書き
ども、毎度お馴染みの曹長です。
今回も引き続き、ゲストにストーム7氏からミュウツーとそのマスターをお借りしました。ありがとうございます。
まぁストーム7氏の作品を読んでいらっしゃる方々はある程度結末が見えていたかもしれませんが、スイクン負けちゃいました(ぇ
そりゃ不意打ち(=クリティカル)で特殊攻撃六段階上昇なんぞそうそう耐えられる奴はいない罠。
とりあえず今回から暫く戦闘不能者が多発。
……ってかメインメンバー6人中5人が戦線離脱って酷くね?
この穴を埋めるため、久々にあの人が参戦する……かも(ぇ
それでは次回予告。
ボロボロになった仲間を見て、無力感に打ちひしがれるアキラ。
そんな中、萌えもんリーグが開幕。
見知った顔も活躍する中、唐突に事件は起きる。
次回、萌えっこもんすたぁ Long long slope
『タビノオワリ(前編)』
それではまた、次回の後書きでお会いしましょう。
最終更新:2009年12月17日 19:51