「ええい、大人しくせぬか! いいかげんにあきらめるがよい!」
「だれか助けてください~~!」
「…………」
イーブイの少女・サラは無表情にジョウトの伝説──ルギアとホウオウの微笑ましい(?)日常を見ていた。
~るぎゃーとほーおー・これってコスプレ? サイドB~
「(……どうしよう。助けるべきかな)」
サラは迷っていた。
雰囲気的に、自分でもどうにかなりそうな感じではある。
しかし仮にも相手はホウオウ、虹の神と言われる萌えもんである。
自分の能力で炎は対処できても、それ以外には分が悪い上に地力が違う。
そう、小難しく考えている間に、妨害者がやってきた。
「サあーー……ラあーーーー!!!!」
「ひゃわっ?」
勢いよく背後から抱きつかれて、前につんのめってしまう。
すでに慣れたものだ、あわてることなく重心を引く。
その間にも回された手は口では言えないようなところへとのびていく。
「……ルリさん、セクハラ」
「単なる女の子同士のスキンシップじゃなーい、付き合い悪ーい」
「……ちょっと、やりすぎだとおもうよ」
慣れた様子でぺしぺしと魔手を払いのけながら、そんないつものやりとりを交わす。
ああ、もうホウオウさんを止められないなと、どこか冷静にサラは考えていた。
「……してホウオウさま? 胸やら腰やらを細長いもので縛って何してるわけ?」
とりあえず、ルリさんの不適切な台詞に訂正を入れることにするサラ。
「ルリさん、あれはメジャーっていって……」
「あらやだ、サラったら……潔癖症? それとも単に鈍いだけ?」
「……???」
「まあ後者よねー。それでこそ私のサラ!」
が、かるくあしらわれてしまう。
よくわからないが、あまり褒められている気がしない。
だから、とりあえず反発してみた。
「とりあえず、わたしはルリさんのじゃなくてヒスイさんとコガネのものだよ?」
「んまー! なんて大胆発言! こんなに想われてるなんて、あの2人がうらやましいわ―!」
が、やっぱりうまくいかない。
どうやってもこの人には勝てないのだろうとあきらめて、ホウオウに話しかける。
「……じっさいのところ、なんでメジャーなんか使ってるんですか?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた。そなたには身体計測される権利をやろう」
「いえ、いらないので代わりに質問の答えをください」
ホウオウがかるく溜息をつく。だから溜息もいらない、とは言わない。
「まぁ、要は服を買うにはサイズがわからんとどうしようもないということじゃ」
「……服?」
遅れて返ってきた答えは、サラには少々理解しがたかった。
彼女には、着飾るという概念がない。
十分着用に適した服があるというのに、なぜ新たなものを購入するのか、というのが彼女の考え方だ。
非常によい素材なだけに、周り……特にルリから、非常に惜しまれている。
そのルリが発言した。
「あ、ついでに私達のもお願いできます?」
私達、と聞いたサラが何を言うよりも早く、
「うむ、かまわんぞ? ちょうどこ奴のサイズも測り終えたところだしの!」
「わあい! やたー! あ、ところで何買ってくるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! 聞いて驚け、体操服じゃ! のっとぶるまぁ!」
「わーお! ホウオウさんわかってる! そこにしびれるあこがれるぅ!」
といった調子でとんとん拍子に話が進んでいく。
流されるまま、あっという間に上着を脱がされてしまった。
「……あの、ちょっとまってください」
毒を食らわば皿まで。尾を踏まば頭まで。
長いものには巻かれるタイプのサラは、提案する。
「うん? なんじゃ?」
「……見せた方が早いと思うので……ルリさん」
「ん、あいあい。受け取れ波乗り!」
読んで字のごとく七変化。
すべての姿をさらしてしまおうと。
「……なんと、進化退化を自らの意思で行えるのか、そなたは」
「はい、鍵は必要になりますけど」
今は水の力、すなわちシャワーズの姿になっている。
しばし目を瞬かせるホウオウであったが、すぐにあやしく光らせる。
「……なあるほどのう……これは隅から隅までしりつくしてやる必要がありそうじゃの……ふっふっふ」
「協力しますよ、ホウオウさん……私も、惚れた相手のことは隅から隅まで知りたいですしね……ふふふ」
常人ならば得体のしれない恐怖にかられて逃げ出すところだが、彼女は違った。
「……えと、よろしくお願いします」
もはや天然とでも言うべきか、持ち前の鈍さで見事に乗り切った。
「むっふっふ……買ってきたぞーい!」
「おおおおおおおお!!」
しばしの後。
ホウオウが買い物袋を提げて帰ってきた。
財布はマスターのものを拝借したのだから始末が悪い。
ちなみに袋を持つ手の反対はサラの手を握っている。
なぜか倒れていたマスターの介抱をしていたらしく、ちょうど起きたとこだったようなので財布を返すついでにさらってきたのだ。
「さーて……覚悟はよいかの?」
「……いいです、もう何言っても無駄なことは短い付き合いでわかってるんです。
せめて、せめて自分できますから手を出さないでください」
涙目ながらに訴えるのはルギア。
まったく、白銀の神の威厳などどこへやら。
「けど可愛いから許す☆」
とはルリさんのお言葉。
まったくその通りであるだけに首肯するしかできない。
それはそれとして、体操服である。
「さ、私達も着替えようか」
「……ん」
ご丁寧に紙袋(赤を基調としたチェック柄)の中にはさらに紙袋(茶色の無地)が入っており、
そこに名前が書いてあるという非常にわかりやすいものだった。
「さーてまずは、 脱 ぐ ! 」
「……なんでそんなに気合い入れてるの?」
「ってもう上を脱いでいらっしゃる!?」
奇妙に気合いを入れるルリさん。あなたはわかっている。
逆に男の目などないだろうと思いこんでいるのか、あっても問題ないと思っているのか。
躊躇うことなく脱いでおり、既に上半身はキャミソールのみ。
だがそれがいい。
そして紙袋に手を伸ばした、その一瞬のうちにルリさんは。
「……そぉい!」
「っきゃ!? な、なにするの……?」
サラの下半身のお召し物を取っ払っていた。
早い話がずり下げたのである。
そのうえ押し倒して引き抜いたのである。
なんという強行、なんという紳士向け行為。
「んー? お着替えといったら下着オンリーはデフォでしょ?」
「いみがわからないよ……」
馬乗りになったまま、自身も脱衣するルリさん。
丁寧に畳んでから放るあたり、几帳面というべきか中途半端というべきか。
この間、サラは体操服の上で胸元を隠していた。
握りこぶしを喉元近くに置く、非常に可愛らしいポーズで、である。
「……ふふふ……うっふっふ……誘っているの? それは誘っているつもりなのサラ?」
「ルリさん……とりあえず、どいて。着替えられないよ」
あやしい笑みも無視して要求するサラ。
天然というか、鈍感というか、ここまでくればもはや真正である。
「やあん……せっかくの裸の付き合いなんだから、もうすこし味あわせてよ……」
「……とりあえず下着つけてるから裸じゃないし、そういうのってあまりじろじろ見たり見られたりするものじゃないと思う」
言葉で抵抗を試みるサラだが、ルリさんにはまるで聞こえていない。
「ああ……柔らかい頬、暖かな頬、バラ色の頬……あなたの頬はどうしてこんなにも魅力的なの……?
それは私が頬ずりするため、よ……っん、はあ……ん……」
何言ってんだこの幼女状態。
サラさんもいい加減にあきらめて、先にハーフパンツに足を通す。
「……ん、っしょ……ほら、わたしはもうズボンはいたから……ルリさんも着替えよう?」
「んああ……! はぁ、はぁ……ん、もう終わりなのぉ? 私、こんなんじゃ満足できない……」
ほんとに何言ってんだこの幼女。
もはや説得をあきらめたのか、手にした体操服を問答無用とばかりにかぶせるサラ。
「わぷっ」
「……ほら、ルリさんももう着替えた。だからもうこれはおしまい」
そういって離れようとする。
だがしかし、ルリさんはそれを許さなかった。
「……サラ!?」
「ふぇ、はい?」
がし、っと足を抑えられて這うこともできなくなった。
そんなサラに、自身がかぶせられたそれをかぶせ返すルリさん。
「……これはサラのためにホウオウさんが買ってきたんだから、サラが着てあげないとだめでしょ」
「……うん、そうだね。ごめん、それとありがとう」
かるいお説教に、サラは柔らかな笑みで返す。
はにゃーん、といった笑顔で見つめ返すルリさんも、彼女がいそいそと袖に手を通すあたりになって、自分にあてがわれた体操服を着る。
なんというか、どちらも見事なまでに似合っていた。
すこし時をさかのぼって、忘れられたようにルギアとホウオウが消えた、そのあたり。
ドアの外には、ヒスイさんとコガネがいた。
「……さて」
「ちょっとまってヒスイさん、なんかナチュラルにのぞこうとしてませんか?」
かたや堂々とドアに近づき。
かたやびくびくとドアを窺う。
「ちがうな、これは覗きではない。なぜならそう言ったやましい気持ちで行うことではないからだ」
「は、はぁ……?」
あまりにも自信満々なヒスイさん。
いくら言い訳しても見つかったら即アウトなのだが。
「サラがルリにとって食われやしないか、見はるためだ」
「……食べられそうになったら、突入するんですか?」
「ああ」
「その瞬間に貴方の株は地に落ちるどころかさらに穴を掘りますよ」
ひどい言い様であり、誰がうまいことを言えと。
ここまで言われてようやくヒスイさんは覗きを躊躇したらしい。
しばらくドアを父の仇の様に睨みつけていたが、やがてそこらを歩き回り始めた。
どうやらこの辺が妥協点らしい。
「(……まぁ、人のことは言えないかな?)」
少年・コガネ。
今までずっと、右足が4ビートを刻んでいた。
「ばーん! っと可憐な美少女達、ルリさんとサラの登場だー! 野郎どもー、覗きなんてしてないだろうな!」
「し、してないよ!」
あわてて否定したコガネだが、そこから先は言葉が続かなかった。
かたやボディラインが丸見えに近いほどぱっつんぱっつんで。
かたやボディラインがどうしたといわんばかりにぶかぶかで。
──正直、目に毒だった。
「ほれほれ~、どうだいコガネクン? この絶妙な曲線を描く体、それをすべてさらけ出さんとするこの格好は!
ロリコンの君にはたまらないのではないかねぇ!」
「僕はロリコンじゃないって! いや確かにきれいだし魅力的だとは思うけどね!?」
そのうえ、誘惑するかのようににじり寄ってくる。
コガネとしてはたまったものではない。
事実、彼はロリコンではないのだ。
彼はまだ少年であり、少女に魅力を感じて当然である。
助けを求めて視線を泳がせれば、その先には当然残る2人が。
「……どうかな、ヒスイ」
「あ、ああ……わるい、すぐには言葉にできそうにない」
ヒスイはそういい、サラの頭を撫でる。
サラもまた、幼子のようにヒスイの上着の裾を握っている。
見上げる笑顔は、とても可愛くて。
「……その、なんだ。気の利いた言い方ができなくて悪いが……かわいいぞ」
「……ううん、うれしい。ありがとう……」
そこに自分が入り込む場所なんてないんじゃないかと思ってしまうほど、お似合いだった。
「……………………。つまんないの」
その一言を最後に、目の前の彼女も2人の方へ駆けだしていって。
僕もヒスイさんをからかってやろう、と。
自分でもよくわからない笑みを浮かべつつ、そのあとを追った。
その夜。
ふと違和感を感じたコガネは、眠りから覚めることとなり……そして驚愕することとなった。
好みのタイプの女の子にのしかかれていたのだ。誰だってそうなる。
さらに言うならその子は自分が惚れてる相手でもある。
「…………サラぁ!?」
「っとと、お口にチャック。みんなおきちゃうよ」
そんな彼女は、のんきにそんなことを言っている。
いったいいつの間に電気を受けたのか、サンダースに姿を変えている。
おまけに、例の体操服だ。
「な、なんでこんな時間に僕の部屋にいるのさ? しかも不法侵入!」
「だから、静かに」
あたふたと落ち着かないコガネ、平然として平静を求めるサラ。
ごまかしもかねて、コガネは再度質問する。
「……で、だからなんでここにいるの?」
この質問に、サラは若干躊躇を見せてから──
「……コガネにも、かわいいって言ってもらいたかったから……」
──そんな、可愛らしいにもほどがある台詞をのたまった。
そんなんだから、惚れてしまうというのに。
なんて、おかしな感想を抱きながら、コガネはこう返した。
「そっか。でも、言ってあげない」
「ふぇ……なんで?」
子犬のような、と言おうか。
涙目で見上げてくるその姿は、確かに可愛いのだけれど。
「……もう少し、見ていたいからかな」
そんな理由で断って。
ついでに、そっと肩を抱いてみたりもした。
別にこれくらいなら許されるよね、なんて思いながら。
最終更新:2010年03月10日 23:21