5スレ>>842


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<前回のあらすじ>

●へタレ一行クチバに到着。
●ディグダゲットの為にベトベトンと泥レス。
●ディグダとダグトリオママの親子丼

以上。


「ちょ、大筋は大体そうだけど色々おかしいよコレ!?」(へタレ)

「いや、大筋すら危ういだろコレ…」(オニスズメ)




『  へタレトレーナー奮闘記

   イナヅマアメリケンジムですったもんだ編  』





「さて、遂にやってきましたクチバジム!」

「何が“遂に”よ、ダグトリオが仲間になってくれて1日しか
 経ってないじゃない!」

「まあまあピカチュウ、設定としてはそうだけど
 現実時間では約一年ぶりなんだから、そこはツッコんじゃだーめ」

「? げんじつじかん??」

「プリンには関係のないことよ、多分…」

「ていうかお前ら、生々しいことを語ってやるなよ。
 これ書いたヤツが木の陰で泣いてるぞ、多分」

「作者とか言うのもどうかと思うけどさ…
  あ、ダグトリオお母さん大丈夫?」

「は、はぁ…」


誰に語りかけているのか謎ではあるが、珍しく気合の入った大きな声で
へタレトレーナーが言葉を紡ぎ、それに合わせて萌えもんたちも
いつも通りのボケやツッコミを返す。そんないつもの光景。
(今回のみ参戦のダグトリオお母さんは付いて来れてないようですが)


「今回は相手が相手だし、私は萌えセンで留守番してるからな。頼んだぞ~」

「まっかせなさい! 単三電池どもが相手なんだから
 すぐに帰ってくるわよ!」

「…うぅ、本当に単三電池ならいいんだけど…」


色々と弱点のあるオニスズメは、今回の戦いの場・クチバジムは飛行タイプの
天敵である電気タイプが蔓延っているのでお留守番。ダグトリオお母さんと
一時的にパーティーメンバーをタッチ交代。

割とプライドの高い性格のためか、自分以外の電気タイプをことあるごとに
「単三電池」だの「漏電レンジ」だのと罵るピカチュウを、ちょっと心配そうに
見つめるへタレトレーナーだったが、萌えもんリーグを目指す以上戦いは避けられない。

半ば諦めたような面持ちで、メンバーたちと共にクチバジムへと歩を進めていくのだった。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



いつぞやの時のように、勢い良く扉を開けて体を挟まないようにと
ゆっくり扉を開けていくへタレトレーナー。僅かに開いた隙間から顔の半分だけ
覗かせて「た、たのもー」と言っているその姿は「かくれんぼじゃないんだから、
もっと普通に開けろよ」と 思わず突っ込みたくなるくらい情けない。

前回のハナダ戦では、ジムリーダー・カスミに物凄く嫌そうな顔をされて
出迎えられたこともあり、戦々恐々とジム内に入る。



「ヘイ、イラシャーイ挑戦者……っと、オォーウ!」

「うえ?」


中に居たのは、ガタイこそ恐ろしいくらいガッシリしているが、どことなく
人懐こそうな笑みを浮かべた外人の男性だった。
友好的な表情とカタコトの日本語のお陰で警戒心が解け、「この人は大丈夫かも」と思い
反射的に笑みを返す。

が、向こう側の素っ頓狂な歓声に動きが止まり



「ウェールカーーム、プリティガール!!」

「きゃあ゛ぁああああぁああああっっ!!?」



その隙を突かれ、米国方式の歓迎…つまり、熱烈な抱擁攻撃を受ける羽目に
なったのだった。



「ワーゥ、カスミガールが『気をつけろ』言ってた赤い帽子の挑戦者が
 こんなプリティガールだったとはネ! オニーサン大歓迎ヨーー!」

「あ、あば、あばばばばばばば…!」

「…あの、すみません…うちのマスター男の人苦手で…白目剥いてるんですけど…」

「カスミガール大げさネ、こーんなカワイイトレーナーが鬼なワケないヨー。
 それにどこが『ボーイ』ヨ? 立派に『レディ』じゃないデスかー」

「へー、ダンナの性別一発でわかった人、久々に見たよ
 …じゃなくって、だからあのー」

「オウ! 帽子ガールに負けないくらいキュートな萌えもんたちネ!
 ウェルカームプリティガー」

「だから人の話聞けっつってんでしょうが
 このロリペド野郎ーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

「ォアァーーーウチィッッ!!」

過大すぎる歓迎をなかなか止めないクチバジムリーダーに対し、
ピカチュウが怒声と金的蹴りをお見舞いしたことによって
その場の騒動はひとまず終わったのだった。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「オー、いつつつつ……敵ながらグレートなキックでしタ…
 見かけによらず、パワフルなピカチュウネ」

「ふふん、あったり前じゃない。そんじょそこらの単三電池どもと一緒にしないでよ!」

「ご、ごめんなさいごめんなさいジムリーダーさん…
 うちのピカチュウが…」

「オゥ、レディはちっちゃなことでクヨクヨしないネ!
 いつでもニコニコ、負けてもスマイル! コレ、トレーナーのお約束ヨ!」


大きな体を持つ人は心も大きいのか。ピカチュウから挨拶がてらの金的蹴りを喰らっても
クチバジムリーダー・マチスは「HAHAHA!」と豪快に笑い飛ばしている。


「それで、バトルの申し込みネ?
 OK、OK! 善は急げヨ、メンバー呼んでくるからチョット
 待っててDEATH!」


――― 10分後。


マチスの宣言どおりジムリーダー側のメンバーが揃い、フィールドや審判もろもろの
準備が整ったのでバトルスタートとなった。


「せっかくプリティガールが来てくれたのだから、今回はチョット特別ルールネ。
 自分の手持ち萌えもんから3人選んで、3vs3の乱戦でバトルヨ!」

「相手の萌えもん3人を、全員戦闘不能にさせたほうの勝利です。
 それではジムリーダーマチス対挑戦者、バトルスタート!」


審判の気合の入った合図とほぼ同時に、両陣営の萌えもんがフィールドに現れる。

へタレトレーナー側からはダグトリオ、ピカチュウ、ニドリーナが飛び出し、
マチス側からは赤い髪と白の服のコントラストが印象的なビリリダマ。
へタレのピカチュウより髪の毛が若干長く、おしとやかそうな雰囲気のピカチュウ。
そしてふたつくくりの金髪が愛らしくも、インド象さえ気絶せしめるという
高圧電流を放ち、威嚇しているライチュウの三人が飛び出した。


「「ピカチュウ! 電光石火!」」


奇しくもへタレとマチスの二人の口から、同じタイミングで同じ指令が発せられた。

マスターに従い、電気タイプ特有のスピードで髪の毛を真横になびかせて
ピカチュウ達が激突する。ジムリーダーの萌えもんという余裕からなのか、
マチスのピカチュウはそれほど力を込めていなかったようだった。最初から全力で
突撃していったへタレのピカチュウに、あっさりと吹き飛ばされてしまう。


「ニドリーナ、ピカチュウに毒突き!」

「ビリリダマ!」

「応っ!」


ほんの短な受け答えだったが主人の言いたいことは理解したらしく、ビリリダマは
床に倒れたピカチュウを庇うようにしてニドリーナとの間に割り入り、彼女の毒突きを
両腕をクロスさせて受け止める。

技を受け止められたニドリーナは咄嗟に飛び退こうとするが、腕をいつの間にか
ビリリダマに掴まれてしまった為、身動きが取れない。

離れたところからへタレの声が聞こえてきたが、ビリリダマは目の前の敵を打ち倒すことに
集中し、ニドリーナに対して電撃を放とうとした。

刹那、下から何かに思い切りぶつかられた衝撃と痛みがビリリダマの五感を占める。
その次に感じたのは、赤茶けた塊と泥臭い香り。
奇妙な浮遊感に体が支配されたかと思ったら重力は突然元に戻り、ビリリダマの背中を
しこたま地面にぶつからせた。

意識を失う数秒前に、ビリリダマは思い出した。
相手の陣営には、自分たち電気タイプの天敵が居たことを。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「――― ビリリダマ、戦闘不能!」


ジャッジが告げる審判に、赤い帽子の少女たちが小躍りして喜んでいる。
ビリリダマの体力を一撃で全て奪い去った相手、ダグトリオがマスターらしき少女の
喜びの声に対して、照れくさそうな反応を返しているのが見えた。

私のマスター、マチスのほうはと言えば余裕も綽々。いつもどおりの
イタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべて、相手の出方を伺っていた。


『どうせなら、バトルでも何でも楽しくやろう』


マチスの口癖を心の中で復唱して、仲間をやられた悔しさをどうにか打ち消す。

…そうよ、落ち着け私。こちらは電気タイプ。弱点となる地面タイプを
持ち込まれるのは予想していたじゃない。

それに、どうせあの技で地面タイプなんて一掃できるんだもの!

華麗に一発逆転。
勝者と敗者が入れ替わるその瞬間を夢想して、ぞくりとした恍惚感に体を震わせる。
どうやらマチスのほうも私と同じような考えらしく、彼も口の端を吊り上げて
こちらを見ていた。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「ピカチュウ、まだ行けるネ?」

「サー、イエッサー!」


マチスさんの声に応えるように、マチスさんのピカチュウがぶつかった時に
できた頬の傷を拭って立ち上がる。
最初見たときはロングヘアの大人しい子という印象が強かったけれど、
どうやら彼女も立派な戦士のようだった。

先程の勝負ではこっちのピカチュウにパワー負けしたけれど、それに挫けた様子は
微塵もなく、意志の光が両目に爛々と輝いている。

きっと彼女を支えているのは「負けたくない」という意地なんだろう。
それは私も同じこと。怖くて仕方ないけど、負けたくないという意地が
私をいつも突き動かしている。


「へタレ、指示を!」

「わかってる。ピカチュウ、叩きつける!
 ダグトリオさんは穴を掘って、ニドリーナは待機!」

「ピカチュウ、影分身ネ!」


気合の入った黄色い尻尾が、相手のピカチュウに脳天を叩きつけられる寸前。
敵対していた黄色い影が、音も無くすぅっと分裂する。
影は二人に増え、四人に増え、八人、十六人……あっという間に
こちらのメンバーはロングヘアのピカチュウに包囲されてしまった。


「今度はこっちの番よ!」

「YES! ピカチュウ、10万ボルトぉおおお!!」


質量保存の法則なんていう考えをぶっちぎった分身たちから、計16本の
電流の束がピカチュウとニドリーナに向けて放たれる!

以前だったら、きっとここで諦めていたけれど…今は違う。
だって、もう既に反撃の準備は出来ているんだから!


「ニドリーナ、いくよ!」

「オーケー……派手にいきなさいっっ!!」


電気の束がぶつかる直前に、膝を地面につけて待ち構えていたニドリーナの
背中を踏み台にして、ピカチュウが天に向かって大きくジャンプする。

標的をひとり失ってしまった計16本の10万ボルトは、残されたニドリーナに向かって
まっすぐに落ちていく。100%命中すると信じているからこそ浮かべられる笑みが、
長髪ピカチュウの顔に浮かんでいた。

その笑みを見て私は確信する、『今だ』と。



「ダグトリオ! マグニチュードぉ!!」



その指示を出した瞬間、世界が文字通りひっくり返った。



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揺れる、揺れる、揺れる。世界が揺れる。

ぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐら!! ぐらぐらぐらぐらぐらぐら!!

そんなつもりは無いのに足が地面から浮いて、バランスが崩れて
派手に転んでしまった。

何とかして立ち上がりたいのに、足場全体が上下に揺さぶられまくっているせいで、
どれだけ力んでも赤ちゃんのような四つん這いの体勢にしかなれない。

そんな私に追い討ちをかけるように、今度は天が牙を剥いてきた。
視界の全てを真っ白に染めて、聴覚の全てをつんざいて。

マスターの言いつけを守れず、影分身を保てなかった私への罰と言わんばかりに、
まぶしすぎる光……否、金色の稲妻が私の元へとまっすぐに落ちてきた。


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「――― ピ…ピカチュウ、戦闘不能!」

「いよっしゃああああああ!! ラストひとりぃ!!」


雄々しい叫びを上げるピカチュウに、思わず「女の子としてそれはどうなんだろう」と
苦笑してしまったけれど、彼女の言うとおり、残るはあとひとり…!


「…へぇ、やるじゃないの。1対2、か……面白くなってきたじゃない!」


それまでずっと不動の体勢を守り続けてたライチュウが、ずっと貯め続けていた感情を
爆発させたような速度でピカチュウに襲いかかってきた。

自分のスピードに自信を持っていたピカチュウだったから、きっと油断してしまったのだろう。
ライチュウの動きよりワンテンポ遅れて防御の姿勢に入る。

けれど、さすがピカチュウの進化系と言うべきなのだろうか。ピカチュウの小柄な体は、
それよりちょっとだけ大きいライチュウの体に、軽く吹き飛ばされてしまった。


「っがあぁっっ! がは…っぐ……!」

「あらま、案外軽いんだねぇ…ちゃんと食事取ってるの?」

「っ…はーっ……ご、ご愁傷様…!
 こちとら、アンタみたいに……肉つけてる余裕なんてないのよっ!!」


地面にしこたまぶつけ、痛みと衝撃で上手く動かせるはずのない体を
無理矢理起こして、ピカチュウがライチュウに殴りかかる。
いつも通りの口調が頼もしく感じられたけれど、それもすぐに終わった。

ライチュウの顔面にたどり着く直前に、ピカチュウの拳が彼女の左手に捕まえられる。
力んでいるようには全く見えなかったけれど、ライチュウに手首を掴まれた瞬間、
ピカチュウから今まで聞いたことのない叫び声があがった。


「ひぎぃっ!? ぎぃあぁあ゛あああ゛ああっっ!!」

「悪かったね肉がついていて。でも、肉は肉でも私のは筋肉だからねぇ…
 アンタみたいなチビなんか一捻りさ! こんな風に……、っ!?」


いたぶるように笑っていたライチュウが、オレンジがかった金髪のツインテールを
揺らしてその場を飛び退く。浅黄色の残像が、ライチュウのわき腹めがけて
走り抜けるのが見えた。直撃こそしなかったもの、浅黄色の奇襲のおかげで
うちの電撃娘は圧殺の危機から助かった。

やっと解放された手首を、無事だった方の手で庇うようにしてピカチュウがその場に崩れ落ちる。


「2対1じゃないわ………3対1よ、カミナリさま」

「なっ、アンタ…! ピカチュウの10万ボルトでやられたんじゃあ…」

「…あなた、存外目が悪いのね。糖尿病?」


さりげなく酷いことを言ってのけながら、浅黄色の正体であるニドリーナが地面に視線を向ける。
そこにはダグトリオお母さんが作った穴が、ぽっかりと口を開けていた。
なるほど、咄嗟にこの穴に潜ったおかげでさっきの10万ボルトから逃げられたのか。


「…いいこと教えてあげる。

 ……糖尿病で目が悪くなるのは、相当末期になってからよっ! お馬鹿さんっっ!!」


「あらそう。じゃああなた、きっと末期なのね」


明らかな怒りを込めた表情で殴りかかるライチュウを、ニドリーナは涼しげな顔で
受け流し、放り投げる。

先刻のお返しをすべく、ピカチュウがこっちの指示を待たずに攻撃をしかけようとする。
小柄な体から電流を迸らせ、ライチュウにぶつけるべく構えたその時だった。


「――― マチスぅっっ!!」


「OKライチュウ! 全てを飲み込んでしまえ!

 ――― “波乗り”だ!!」




普通、萌えもんは生まれ持った自分の「タイプ」に沿った技を覚えていくものである。
たとえば、地面タイプのダグトリオなら「穴をほる」や「地震」。
電気タイプのピカチュウなら「電気ショック」や「カミナリ」などといった具合だ。

だから、へタレトレーナーは自分の耳がおかしくなったのかと一瞬疑った。
電気タイプのライチュウが水タイプの技である「波乗り」を使うなんて、嘘だと思った。


しかしその期待は、目の前で起こる『奇跡』によって打ち砕かれた。


一瞬にして、ジムの床から湧き上がる紺碧の水。

水はまばたきする間に、あっという間に『津波』に成長し

津波は創造主に従い、すべてを飲み込んだ。



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



昔教えてもらったお話の中に、海をふたつに割って敵から逃げおおせたという偉人の
伝説があったのを、ふと思い出した。

その人物は、仲間を敵の手から守る為に、海をまっぷたつに割るなんていう奇跡を
起こしたのだそうだ。天に祈りが届き、生きる意志を持った命は救われたという、
何とも泣けるお話。

私にはまだ「海をまっぷたつに割る」なんて奇跡は起こせないけど、マチスとの
訓練のおかげで「波乗り」という技を身につけることに成功した。

これのおかげで、わたしたち電気タイプの天敵である地面タイプや、岩タイプを
一掃できるようになった。『タイプ』なんていう、小ざかしくて煩わしい法則のせいで
飲まざるを得なかった涙と屈辱を、今度はその『タイプ』を逆手に取ることで
やっと晴らすことが出来るようになった。

信じていた勝利を完全に打ち砕かれた時の、相手の絶望の表情といったら。

それこそ腹筋が壊れそうなほど愉快でたまらなくて。

今回の挑戦者どももきっと、笑える表情を見せてくれるんだろうと期待して、
散々私たちを馬鹿にしてくれた電気ネズミと毒ウサギのほうを見やった。


「……な……」


もう二度と起き上がれまいと思っていたから、目の前の光景がすぐには信じられなかった。


「う、っぐ……うぅ……」

「げふ、げほっ……にどりーな、生きてる……?」

「……何とかね」


(そんな馬鹿な。確かに“なみのり”が直撃したはずなのに……)


現に、ダグトリオは気絶して床に転がっている。落ち着いて考えれば、
立っているとはいえ向こうは満身創痍。明らかにこちらが優位なはず……なのに、
一旦立った鳥肌はなかなか治まってくれない。


「っぐ……し、しぶといね! あんたらを甘く見ていたようだわ……
 でも、これで終わりよ!! 」


落ち着け、落ち着けわたし。そうよ、向こうはあとちょっとでギブアップだ。
もう一発……そう、もう一発これさえ食らわせれば、やつらは完全に地べたに
這いつくばる!!


「喰らって沈んで……二度と立ち上がるなっ!

  くらえ! “なみのり”ぃいいいいいいいいっっ!!」


紺碧の水が、私の意志に応えて次々と湧き上がる。

あはは、そう、そうよ……これで……私の勝ち! チェックメイトだ!!



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



やばい、またあの水が出てきた。あんの漏電レンジめ、いったいどんな
トリックを使ったらあんな……いや、それは後で締め上げて聞き出せばいい。

問題はどうやったら勝てるか、だ。


「………」


何とかニドリーナも生き残ってくれたけど、お互い両脚はガックガク。
意地で立ち上がっただけにすぎない。技も、あと一発出すのが限界か……

ちらりと、背後のほうを肩越しに振り返る。
ああ、相変わらずあの馬鹿は泣きそうな顔をして……自分だって海水にやられてる
だろうに、私らの心配してる。


(だいじょうぶだって、何とかするから)


心の中で呟いた瞬間、ぼんやりしていた頭に渇が入るのが分かった。



「ニドリーナ。あたしのわがままに、付き合ってくれる余裕、ある?」

「……ええ、あるわ」

「そっか。じゃあ、お願いできる? ……最後の賭けよ」



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


大きく膨れ上がった波のてっぺんに乗って、電気ネズミたちを見下ろす。
あともう少し波を大きくしたら、勢いにのせて飲み込んでやる……
勝利の算段をくみ上げていたその時、奴らのほうに動きがあった。
ネズミとウサギが向かい合って……その小さく無力な両手を握り締め合っている。

「ははっ、最後は仲良く心中ってことかい?
 じゃあ、お望みどおりにしてやろうじゃないか!」

限界まで膨れ上がらせた波に、前方に崩れるようにと命令を出す。
ノイズのような音を立てて海水のかたまりが動き出した瞬間


「~~~~~~~~~っっ!!」


よく聞こえなかったけれど、ウサギがネズミの両手を引っつかんで……
ぐるぐるぐるぐるその場でコマみたいに回って……

そして、ぶん投げた。


ネズミの顔がどんどん、どんどん近づいてくる。

(……まさか、標的はあたしか!?)

それに気づいた次の瞬間には、ネズミの頭が私のみぞおちにめりこんでいて、
その衝撃で意識がどこかに吹っ飛んだ。



――― ごぼごぼと耳のそばで鳴る泡の音で、意識が現実に引き戻される。

口に広がるしょっぱさと、目に入る水の感触で、今の自分は海水の中に
放り込まれているのだと悟った。なみのりを発動させる直前に、あの
忌々しい電気ネズミに頭突きされて……それで、こうなったのだろう。

(あのチビネズミは……いた)

いきなり全身を水に飲み込まれたせいか、ネズミは下のほうで体を丸めてじっとしていた。
慣れない状況に陥ったから、どうしていいのか分からなくなっているのかもしれない。
まあ、下手に暴れるよりいい対応だとは思うけれど……

(動けないなら好都合、先に海水から上がってトドメを刺してやる!)

上を目指して動こうとした時だった。肌の上に、乾いた刺激が軽く走る。
はっとして下を見ると、チビネズミの体から小さな火花が放たれている姿が
目に映った。まさかと思い、届くはずも無いのに「やめろ!」と水の中で
叫んだ瞬間


「 ――――― っ!!!」


目の前が直視できないほど明るくなる。
全身のすみからすみまで大きな衝撃に包まれて、私の意識のブレーカーは
無理矢理落とされた。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「HAHAHA! まさかライチュウのなみのりを逆手に取って
 攻撃をしかけにくるとはNE! なかなか大胆なピカチュウヨ」

「は、はあ……」


海水の中で放電することでライチュウにダメージを与えるという作戦を
思いついてくれたピカチュウのおかげで、何とかへタレトレーナー側が
勝つことができた。あのなみのりはトレーナー側も巻き込んだため、
その場にいた全員がピカチュウの電撃のとばっちりを喰らったわけなのだが…

まあ、特になんでもないように見えるのは仕様ということで
気にしてはいけない。

本来なら今回最大の功労者であるピカチュウを、みんなで胴上げでも
しているべき状態なのだが……

「ちょっとアンタ、漏電レンジのくせに……んぐっ! み、水タイプの技
 使えるなんっ、てぇ! どんな、トリック使ったのよ!」

「ふんぬっ! だ、だれが漏電だっての……ぎっ! そ、そっちこそ
 海水ん中でっ、電気出すなんて……どういう神経っ、してんのよっ!」


その祝福すべきピカチュウが、先ほどからライチュウと毒を吐きあいながら
取っ組み合っているので祝おうにも祝えないのである。


「ふん! か、勝つっ、ためだったらぁ! 卑怯な手段でないかぎり
 やってみるのが、うちの方針なのよっ! うらあ!」

「おっとぉ! ……フン、まあいいわ。次はっ、こうはいかないんだからね!」

「望むところっ、だわ! イモ洗って待ってなさいよ!」


「それを言うなら首洗って待ってろ、でしょ」とちょっと離れた場所から
ツッコミを入れるスピアーの声ももはや聞こえないらしく、さっきまで
死闘を繰り広げていたはずの二人は元気に取っ組み合っている。

これは気が済むまで放っておくしかないな、と半ば諦めながらへタレトレーナーは
疲れや安堵、その他色々複雑に混じった感情をこめて溜め息を吐いた。

と、その時。


「ヒガァァァァァァァァァァァァァァン!」

「へ? ……ふぎゃああぁあっ!?」


後ろから自分の本名を呼ばれ、振り返ろうとして物凄い衝撃に襲われる。
腰のあたりを息ができないほど力強く抱きしめられ、幼女に抱えられた
巨大ぬいぐるみのごとく、がくがくと全身を振り回される。


「うおぉい、いくら探しても見あたらねえから心配したじゃねえかよぉ!
 こんな所で油売ってるなよ元気してたかぁ!?」


口から出る言葉は多少ぶっきらぼうだが、顔に浮かんでいる満面の笑みや
全身の動きからへタレトレーナーこと、ヒガンとの出会いに喜びを感じているらしい。

ただ、喜んでくれているのはいいのだが表現が一方的なものすぎて、
それを受け止めているヒガンが窒息の危機に陥りそうになった辺りで


「……って、うちの馬鹿に何やってんだ
 このロリペド野郎ーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

「ぎゃあああああああああああ!!?」


ピカチュウのとび蹴り制裁が、ヒガンを後ろから抱きしめる少年の
胴体に喰らわされたのだった。


そして彼が、ヒガンの幼馴染で「兄さん」と呼ばれている存在だということが
発覚したのは、これから10分ぐらい経ったあとの話である。
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