「さてと、これでメンツは揃ったわね。言っとくけど、手加減なんてしないから」
「それはこっちのセリフです。そちらこそ、降参するのなら今のうちですよ?」
「あら、言うじゃない。そう言うからには覚悟出来てるんでしょうね?」
「無論です」
会話を終え、フレムとライズ、両者対峙しての睨み合い。
目には見えないが、二人の間にはかなりのオーラが渦巻いている。
少し離れているこの場所にまでそのオーラがピリピリと伝わってくる程だ。
そんなヤバい雰囲気の中、ポニータとハクリュー、オニドリルの方はというと……
「ポニ、そこをどいて。その二人を消さないと……」
「待ってよドリちゃん! もう一度考え直してみてよ! ねっ?」
「ムダよポニータ! こうなったらもう何言っても聞かないって!」
…さっきからポニータがオニドリルに説得を試みているようだ。
しかし、当のオニドリルはその説得を全く聞く様子を見せない。
「…どかないって言うんなら……力ずくでもどかすから!」
「うわっ!」
そう言うと同時に、オニドリルは先程も放った羽根の刃を再び乱射する。
その羽根は対峙しているフレムとライズの所にも飛び、戦闘開始の合図となった。
「これでも食らいなさいっ!」
「食らいません!」
戦闘開始直後、両者共に火炎放射を放つが相打ちになる。
威力は同等か……と思ったが、どうやらフレムの方が一枚上手らしい。
徐々にライズが押されていくのが分かる。
「あら? あんまり手応えないわねぇ? さっきの威勢はどこに行ったのかしら?」
「……」
フレムの挑発にも乗る事はなく、ひたすら火炎放射に集中するライズ。
しかし、その表情に焦りの色は見られない。
何か考えでもあるのだろうか?
…って、こんな悠長に観戦している場合じゃなかったな。
「イワン! そっちは状況に応じてライズに指示を! 俺は向こうのサポートに行く!」
「う…うん! 分かりました!」
取りあえずイワンに向こうの事を任せ、俺は自分の手持ち達の方へ。
ざっと状況を確認するが、先程とあまり変わっていない。
ポニータとハクリューがオニドリルの攻撃をかわしつつ、未だに説得を試みている。
「ねぇドリちゃん! お願いだからもう止めてよっ!」
「うるさいうるさいうるさーい! あんただってあたしの小さいって思ってるくせに!」
「な、何の話!? リュウ兄、ドリちゃんに一体何言ったのっ!?」
「…さぁ? 俺もよく分からないんだ」
「とぼけんなコンチキショー!」
「「うわっ!」」
またしても絶叫し、例の凶器を飛ばしてくるオニドリル。
扱いに慣れてきたのか、初めて使ってきた時より命中精度が上がっている。
これはもう長く持ちそうにないな……
「もう限界です! リュウマさん、攻撃指示を!」
「あぁ、分かってる!」
「ダメだよ! 私ドリちゃんに攻撃なんて出来ないっ!」
状況の悪化に気付いて攻撃を促すハクリューをポニータが止めようとする。
これではいつまでたっても終わらないワケだ。
でもいい加減終わらせないとこっちの身が持たない。
という事で、少し俺からポニータに説得を試みてみよう。
「大丈夫だポニータ。あれはオニドリルじゃない。今はただの狂気の塊なんだ」
「えぇっ!? …あ、なるほど! じゃあ攻撃しても大丈夫だねっ!」
「何に納得したの!?」
…流石は天然。正直これで納得するとは俺も思っていなかったワケでして。
何に納得したのかは知らないが……まぁ、結果オーライだろう。
そしてこれでこちらの戦闘態勢も整い、いざバトル……と思った時だった。
「うぅっ!」
「ラ、ライズっ!」
イワンの悲鳴と同時に、競り合いに押し負けて吹っ飛ぶライズの姿が目に映った。
やはりバトルだとライズはフレムに敵わないのかもしれない。
フレムの方が戦闘経験が豊富だとイワンに聞いているし。
…とすれば、やる事は一つ!
「ハクリュー、行ってくれるか?」
「承りました!」
既にそう言われるのが分かっていたのか、ハクリューはすぐさまイワンの前に移動。
それを見て多少驚いた様子を見せるフレムだったが、再び余裕の笑みを浮かべた。
「あらン? 誰かと思えば、リュウマさんとこのハクリューじゃない。なんか用?」
「用がなければあなたの前には立ってませんよ」
「そうね。で、何の用かしら? あたし今、すっごく虫の居所が悪いんだけど」
「そうですね。でもそれは自業自得だと思いますよ?」
「…あんたもライズ同様、なかなか言ってくれるじゃない。
もちろん、あたしの前に立ってる以上、覚悟は出来てんでしょうね?」
「承知の上です」
「だったら話が早いわ。そこをどいてもらおうじゃないの!」
「お断りします!」
交渉決裂直後、フレムとハクリューがそれぞれ火炎放射、竜の波動を放つ。
二人から放たれたそれは相打ちになり、物凄い火花を散らす。
「ふーん。あんた、なかなかやるみたいね」
「あなたもやりますね。久々に良い戦いが出来そうです」
「それならその良い戦いっての……見せてみなさいよっ!」
「言われずとも……見せて差し上げますよっ!」
互いに皮肉を叩きつつ、徐々に攻撃の威力を上げていく。
その度に競り合う火炎放射と竜の波動から激しく火花が散る。
こんな手に汗を握るバトルを見るのは何年振りだろうか。
思わず見入ってしまいそうになる……が。
「よそ見してんじゃなーい!」
「おっと! 危ない危ない……」
どうやらオニドリルさんがそれを許してくれそうにない。
ていうかよそ見してたら羽根の餌食にされちまうし。
少し心配だが……まぁ向こうはハクリューが何とかしてくれるだろう。
という事で、そろそろこちらも始める事にする。
「じゃあポニータ、頼む!」
「うんっ! 任せて!」
「まずは炎の渦で相手を拘束!」
「ハイっ!」
掛け声と共にポニータが炎の渦を展開。オニドリルを灼熱の渦の中に閉じ込める。
このまま落ち着くまで閉じ込めておくっていうもアリだが、アイツの事だ。
無理してでもあの中から脱出してくるだろう。
とか言ってる間にも……
「たああぁぁ!」
…思い切り羽ばたいて炎の渦を消し飛ばそうと試みている。
しかし羽ばたく度に熱気がかき回され、炎の勢いが増していくばかり。
これでは自分の体力が持っていかれるだけ。何を考えているのやら。
「あーもー! 面倒っ!」
…しばらくしてようやくその事に気付いたのか、上空へ飛翔して炎の渦から脱出。
しかし、どうやらここまで来るのに相当体力を消耗してしまったらしい。
まさかここまで消耗するとは思ってなかったが、こちらとしてはその方が好都合。
「よし! ポニータ、一気にケリをつけるぞ! トドメの……」
電光石火、と言おうとした時だった。
「アロハー。皆さーん、いつも私、ケンカは良くないって言ってますよねー?」
「へ?」
背後から聞こえてくるラプラスの声。
そしてこんな山中では聞こえるはずのない波の音。
これはまさか……
「言いつけを守らない人達にはお仕置をしなくちゃいけませんねー」
「みんな、逃げ……」
「逃がしませんよー?」
気付いた頃には時既に遅し。
こちらにいた連中は皆逃げる間もなくラプラスの起こした大波に飲み込まれた。
そして俺もその波に成す術もなく飲み込まれ……
「リュ……リュウ…さん……」
「…ゲホゲホッ! …ん……んぅ?」
「リュウマさーん、起きないと雪ダルマにしちゃいますよー?」
「うわっ、分かった! 起きる起きる! 起きるからそれだけは止めてくれ!」
「えー……」
雪ダルマにされるのを全力で拒否すると、とても残念そうな顔をするラプラス。
そんな顔されたってムリなもんはムリ。ていうか死ぬから。
…それはともかく、確かさっき俺はラプラスの波乗りに巻き込まれて……
「…あ、そうだ! 他のみんなは?」
「あそこにいますよー。みんな気絶しちゃってますけどねー」
ラプラスの指差す温泉の脇を見ると、皆少し雑に並んで寝かされているのが見えた。
どうやら大波を起こしたラプラス以外全員あの大波に巻き込まれたらしい。
その中には揉め事に全く関係のなかったクウやバーンの姿も見えたが……
「さすがに今回はやりすぎましたー。本当に申し訳ないですー……」
「……」
普段から不器用で、よく失敗してはその事をあまり気にしないラプラスだが、
今回はどうも本人が気にするほど失敗したらしく、珍しくかなりヘコんでいた。
まぁ確かにこれはヒドい有様だし、ここまでやれば誰だって普通気に病むだろう。
「…怒って……ますか?」
「…いや、別に怒ってないぜ? むしろ助かったよ」
「えっ?」
「ラプラスがああでもしなければ多分あの場は治まらなかっただろ。
それに今回の騒ぎは俺のせいでもあるしな。だから悪いのはラプラスじゃない」
「えー、でも……」
「どっちみち俺もラプラスも今回失敗してるんだ。お互い様だろ?」
「…そっか。そうですよねー」
「分かれば良し」
そう言ってポンポンと軽く手をラプラスの頭に乗せてやる。
するとラプラスは少し恥ずかしそうな顔をしたが、すぐに和んだ表情に変わった。
「…この感覚、懐かしいですねー。昔はよくこうされてましたっけー」
「はは、そうだな。何か失敗する度にいつもこうしてあげてたっけか」
「はい。泣きじゃくる私をこうやって慰めてくれてたんですよねー」
「あぁ。けど、今はもう滅多にやらなくなったよな」
「そうですねー。でも私は好きですよー?」
「そうか?」
「はいー。私はいくら失敗しても許してくれるリュウマさんが……好きです」
「えっ? あ…あぁ。でも、だからってわざとドジ踏むなよな?」
「…分かってますってばー」
一瞬ラプラスの発言に言葉が詰まったが、単なる俺の思い違いだろう。
ラプラスに限ってそんな事はないだろうし。うん。多分。
…って、何を下らん事を考えているんだ俺は……
「…そんじゃ、そろそろ帰ろうか。もうかなり遅いし」
「そうですねー」
少し名残惜しいが、もう時刻は夜9時をとうに過ぎている。
夜は危険な萌えもんの出現率が高いため、早く帰るに越した事はない。
さっさと準備して今日は早めに休むとしよう。
…………。
「よし、帰ろうか」
「はーい」
手持ちの皆は取りあえずラプラス以外ボールに収めた。
後で何か言われそうだが、その時はその時でなんとかしよう。
その後イワンとクウを起こし、これで帰る準備は整った。
「すまないな、クウ。今度はこっちが巻き込んじまって」
「私からも申し訳ないですー」
「いえ、あの状況では仕方ありませんよ。あ、私なら大丈夫です。心配いりません」
「そうか。それなら良いんだが……」
そうは言いつつもクウの体にはあちこちかすり傷が見られる。
まぁ、あの波乗りを食らえばそうもなるだろう。
ていうかむしろあの波乗りを食らって無傷だったというヤツを見てみたい。
「ふぅ…疲れたぁ……」
「ごめんなさいイワンさんー。私のせいで……」
「あ、いや、別にラプラスさんのせいじゃないよ!」
「そう言ってるように聞こえるよ、イワン」
「うぅ……ごめんなさい」
こんな時でもイワンの発言に容赦なくダメ出しを入れるライズ。
しかしそのライズの顔にも疲れの色が出ているようだった。
ホント、今日は早目に休みたいところだな。
「…到着です」
程なくしてトキワの森入口付近に到着。
長かったこの一日も、ようやく終わりを告げようとしている。
正直こんなに疲れるとは思ってもなかったが。
「…じゃあ今日はありがとな、クウ」
「はい。また近くを通り掛かったらいつでも遊びに来て下さいね。イワンさん達も」
「え…あ、うん。ありがとう。また来るよ」
「では、私はこれにて失礼します」
「あぁ。またな」
「はい。それでは!」
そう言ってクウは俺達に一礼し、そそくさと森の奥へ去って行った。
「…行っちゃいましたねー」
「あぁ。…んじゃ、俺達もトキワに帰るとしようか」
「はいー」
…まぁ、たまには温泉も悪くないが、こんな騒動になるんだったら勘弁願いたい。
そんな事を思いつつ、トキワシティへと踵を返す俺なのであった。
一方こちらはリュウマの手持ちのボール内。
ボール越しにポニータとハクリューが話をしている。
「うーん、ダメ。外からロックが掛けられてて出られないみたい。ハクちゃんの方は?」
「ごめんなさい。私はボールの構造に詳しくないからよく分からないの」
「そっかぁ……。こんな時に機械に詳しいドリちゃんはいないし……」
「ラプラスも見当たらないわね。どこに行ったのかしら?」
「二人とも大丈夫かなぁ? せめて外の様子が見られればいいんだけど……」
「取りあえずリュウマさんがここから出してくれるのを待ちましょ?
私が思うに、きっと向こうにも何か複雑な事情があって出してくれないのよ」
「…うん、そうだねっ! ここから出れたらちゃんと閉じ込めてた理由聞かないと!」
「ええ。もちろんそのつもり。…でも、もしそれが下らない理由だったらどうする?」
「えっ? うーん、そうだね……丸一日コガネシティで遊ばせてもらうとか?」
「いいね、それ。もちろん、お買い物とかも付き合ってもらうのよね?」
「もちろんっ! ハクちゃんは?」
「そうね……私も同じくコガネシティでカフェに連れて行ってもらいたいな」
「カフェいいねっ! それでケーキとかいっぱい食べさせてもらうんだよねっ?」
「えっ? あ、うん。そうそう」
「…あれ? もしかしてハクちゃん、カフェ知ら――」
『カチッ……おーい、もう出てきていいぞー』
「あ、ポ…ポニータ、ロック解除されたみたいよ?」
「そうみたいだねっ!」
「じゃあ出よっか?」
「うんっ!」
「「せぇーのっ!」」
~あとがき~
こんにちは。後書きを書くのはかなり久々な気がするポエルです。ごめんなさい。
今回はかなり長くなってしまいましたが、シロガネ山のどこかに湧く温泉でのお話です。
描写にはなかったので一応言っておきますが、全員タオルはちゃんと着用しています。
流石に分かってるとは思いますが、私の表現力不足で誤解を招かないためにも一応。
そして短編からこちらの本編に初登場したイワン君一行。
今回彼らはフレムに強引に連れて来られるという設定で来てもらいました。
とは言えどもこの場所は人知れず所にあるため、普通に来ると迷ってしまうという設定。
そんな場所になぜフレムが来れたのかと言うと……なんででしょうね?(笑)
…しかしバーン、一言も喋らずに終わってしまうという見事な空気っぷり……
でも裏でラプラス、クウの二人と遊んでいたから本人は満足だと思います。ハイ。
…それではこれ以上長くなっても仕方ないので、これにて失礼します。
いつもこのような作品を見ていただき、有難うございます。
では、お疲れ様でした。
最終更新:2010年08月29日 20:40