修行のために旅をやめ、トキワジムに腰を落ち着けたアキラ。
この日彼は、諸手続のための書類の山と格闘していた。
『常磐の日々(+α)』
「……っと、やっとひと段落ついたか」
「よう、お疲れさん」
「おう、さんきゅ」
ぐっと背伸びをするアキラに、クリムがコーヒーの入ったマグカップを差し出す。
アキラはそれを受け取ると、半分ほど一気に飲み干した。
「あー、生き返る……」
「大げさだな、安物のインスタントだぜ?」
「そういう気分なんだよ」
そういうもんか、と言いつつクリムも自分のカップを傾ける。
数秒の沈黙の後、先に口を開いたのはアキラのほうだった。
「そういや、みんな今何してんだ?」
「メリィはフシギバナと昼飯の仕度。ノッサとサイホは、ライチュウやキュウコンとスタジアムの方に行ったな。
ゲンはフーディンにつっかかってたが……シャワーズとホウも居たし平気だろ。
デルはフライゴンがどっか連れてった。ユキメとプテラも外だな。リースとバタフリーはわからん。見てないわ」
「そか。ま、皆仲良くやってるみたいで何よりだ」
「だな」
と、話が終わるとほぼ同時に、ユキメとプテラが部屋へと入ってきた。
「御主人、今戻った」「只今、戻りましたわ」
「おう、お帰り。二人で出かけてたのか」
「いえ、丁度帰り道で会いまして」
「うむ。警察署の方から歩いてくるユキメを見かけたので、我が声をかけたのだ」
「そうなのか。って、なんで警察署なんかに?」
「そういや言ってなかったな。ユキメさんはシオン警察の所属なんだ」
「そういうことですわ。それと、今日は異動の命令がありましたの」
「異動?」
「ええ、リーダーにはもう連絡が行っていると聞いておりますわ」
「マジか……何だろう」
そう言われ、考え込むクリム。
数秒の思考の後、半分自信なさ気に口を開いた。
「えーと……もしかして各ジムに警察所属の萌えもんを一人ずつ派遣するっていうアレか?」
「はい、ご名答ですわ」
「しかし、何故またそのような。戦力としてはジムトレーナーの手持ちのほうが当てになろうに」
「今回のロケット団とトキワジムの癒着……正確には違いますが、その事に関しての対応の一環です。
日常的に監査をすることで、事前に防ぐというのが目的のようですわ。
私がトキワジム担当として異動になったのは、仮とはいえトキワジム所属トレーナーの手持ちだからと聞いております」
「いいのか、そんないい加減で……万一俺がクリムと組んで何かやったとしたらどうしようもないだろ」
「まあ、一般人向けに安全アピールするためのパフォーマンスみたいなもんらしいし、いいんじゃないか?」
クリムは苦笑しながらそう話を締め、時間を確認しつつ言った。
「ところで、まだちょっと昼まで時間あるし折角だ、軽く一勝負といかないか?」
「バトルか?俺はいいけど……ユキメさんは?」
「私も構いませんわ」
「よし、んじゃスタジアムに行くとするか」
時間は少し遡り、トキワジムの屋外スタジアム。
トレーニング用に設定されたフィールドの真ん中で、ノッサとライチュウは格闘戦を繰り広げていた。
「せっ、はっ、とぅ!」
「うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃーっ!」
高速で動き回り、連打や突進等を仕掛けていくライチュウ。
それを軽快なフットワークでかわし、スキを見ては反撃するノッサ。
一見すると互角に見える戦い。
しかしよく見ると、余裕綽々のライチュウに対してノッサは必死の表情で対応していた。
「っく、速い……!」
「まだまだぁっ、そーれ!」
「って、まだ加速するんですかぁっ!?」
「足元がお留守っ!」
「うわああっ!」
限界状態で応戦していたノッサはその手数をついに捌き切れなくなり、足払いを受けて派手に転倒した。
「い、いててて……流石に強いですね」
「ノッサこそ、戦った経験少ないにしてはやるじゃん」
「そ、そうですか?」
「うん、それにマトモに打ち合いしたらノッサのが強いんじゃない?」
「それはまあ……僕も一応格闘萌えもんで、それに男ですし」
「あははっ、可愛いからすっかり忘れてたけど、そうだったね」
「ひどいなぁ……気にしてるのに」
軽く膨れてみせるノッサに、ライチュウは笑いながら謝罪する。
「ごめんごめん、あたしより年下の男の子って初めてだからつい」
「つい、じゃないですよ……もう、いいですけど」
やれやれ、とでも言いたげにため息をつき立ち上がるノッサ。
その手を掴み、ライチュウはスタジアムに併設されているシャワールームの方へとノッサを引っ張っていく。
「え、ちょ、ライチュウさん、なぜ引っ張るんです?」
「汗かいたし、一緒にシャワー浴びよっ。頭も洗ったげる!」
「え、えええええええええ!? い、いいですよ! 自分ひとりでやれます!」
「いーからいーから、おねーちゃんにまかせなさーい♪」
キュウコンとサイホは、そんな二人の様子をスタジアムのベンチに座ってお茶しながら眺めていた。
「とめなくて、いいんですか?」
「……(…コク」
「わかり、ました」
そのまま沈黙がその場を支配する。
元々口数が多いほうではないキュウコンと、そもそも現在喋ることができないサイホ。
しかしお互いに何か近しいものを感じているのか、その場の空気は柔らかく、二人の距離も自然と近かった。
ぽかぽかと暖かい陽気の下、二人はゆっくりとお茶とお茶請けのクッキーを味わう。
ふとキュウコンがクッキーを齧っているサイホの尻尾を見ると、左右にゆらゆらと揺れていた。
「……クッキー、おいしいですか?」
「……(コクコク」
「よかった……シャワーズおねえちゃんと、ふたりでつくったんです」
「……(コクリ」
「こんど、サイホもいっしょに……どうですか?」
「!(コクコクコク」
「はい、いっしょに…がんばりましょう」
そして再び静かになるスタジアム。
……時折シャワールームの方からライチュウやノッサの声が聞こえてくる事を除けば、風が木の葉を揺らす音しか聞こえない。
そんな中、キュウコンは再び口を開いた。
「……サイホのますたーは、やさしいひとですか?」
「……(コクリ」
「そう、ですか。でも、わたしのますたーも、やさしい、です」
「……」
「ますたーは、いつもこわいかおしてますけど、やさしいです。
サイホにも、きっとやさしいです……こわがらないで、ほしいです」
「……!」
「だめ……ですか?」
少し悲しそうに問うキュウコン。
その様子に、サイホは彼女のクリムへの絶対の信頼を感じ取り。
「大丈夫」の意味を込めて、首を横に振った。
「……(ふるふる」
「……よかった、です」
その返事にキュウコンは、ほっとした様子でサイホに微笑むのだった。
……余談だがこの後数日の間、ノッサはライチュウと顔を合わせるたびに赤面することになるのだが、それはまた別のお話。
それと同じ頃。
バタフリーは自室へ向かってジム内の廊下を歩いていた。
疲れでも溜まっているのか、若干足元がふらついているように見える。
反対側から歩いてきたリースはその様子が気になり、彼女に声をかけた。
「貴女、どうしましたの? 随分とフラフラのように見えますけど」
「はぁ、あなたは……アキラさんのところのスリーパーですか」
「リース、とお呼びなさいな。それより、そんな体調で出歩いては危ないですわよ?」
「ええ、でも用事はもう終わりましたから……今から部屋で休む所です」
「あら、そうでしたの。では、お休みなさいな」
「はい、そうさせてもらいますね」
そう言ってリースとすれ違うバタフリー。
しかし数歩歩いた所で、リースに手を掴まれた。
「はぁ……やっぱり見てられないですわね。部屋まで送りますわ」
「いえ、大丈夫です。お構いなく……」
「そんなことを言って、途中で倒れられても寝覚めが悪いですわ。遠慮で言っているのでしたら、私のためと思って送られなさい」
「そういう……ことでしたら。お願いします」
「お任せなさいな」
そしてリースはバタフリーに肩を貸し、彼女の部屋のベッドまで送り届けた。
「ふぅ、ありがとうございます」
「気にしないでいいですわ。私が勝手にやっていることですもの……それよりも」
「え……ひゃあ!?」
声を上げるバタフリーを無視し、リースはうつ伏せの彼女の腰や肩、翅の付け根に手を這わせる。
「な、何をしているんですか!?」
「やっぱり貴女、随分と筋肉が凝っていますわね。そんな状態では、どれだけ寝ても疲れは取れないのではなくて?」
「確かに、その通りですけれど……わかります?」
「私、こう見えても昔看護師の経験がありましてよ。もっとも、事情があって資格こそ持ってはいませんけど」
「なるほど、通りで肩を借りたときに歩くのが楽なわけですね……ええ、ここ数日研究が捗っていまして、長いこと机に向かいっぱなしで」
「長時間同じ姿勢では体に良くありませんわ。時々休憩をとって、体を解したほうが疲れも溜まりづらくてよ」
そう言いながら、リースは這わせたを若干浮かせて、しかし同じ軌道で動かし続ける。
「折角ですし……私とっておきのサイコ・マッサージをして差し上げますわ♪」
「サイコ・マッサージ……?」
「ええ、微弱な念波を凝った筋肉に直接あててマッサージしますの。物理的に届かない所まで、丹念に解しますわよ……」
「は、はぁ……んっ、んぅ!?」
ピクッ、と体を震わせるバタフリー。
その反応に気を良くしたリースの手の動きは、徐々に速くなっていく。
「いい感じに効いているみたいですわね……けれど、まだまだ序の口ですわよ?」
「ふぅ、うん……っ!っあ、くぅ、そこぉ……!」
「あら、ここが良いんですの?」
「ひゃう!はぁ、も、すこし、おくぅ……」
「奥……この辺かしら」
「あうっ!そ、そこっ、いぃッ!」
顔を紅潮させ、シーツがしわになるほど掴みながらバタフリーは声を上げる。
リースは緩急をつけながら、彼女の背中の上で手を動かし続ける。
それはまるで、楽器を奏でる奏者のようにも見えた。
……数十分後、身体の隅々までやりすぎて、息も絶え絶えのバタフリーから銀色の風による反撃を受けたのは言うまでも無い。
所変わって、キッチンではメリィとフシギバナが仲良く昼食の支度をしていた。
「フシギバナちゃん、お醤油どこにある?」
「あ、切らしちゃった? そこの戸棚の上だから……よっと」
メリィでは明らかに届かない高さの戸棚から、フシギバナは蔓を使って器用に醤油を取り出した。
「はいっ。まだ足りなくなりそうなのってある?」
「うーん、今のところは大丈夫そうかな」
そんなやりとりをしながら、二人はてきぱきと大量の料理を作っていく。
その手を止めることなく、フシギバナはメリィに問いかけた。
「そういえば、メリィはアキラとの付き合いは長いんだっけ?」
「うん、そうだよ。マスターがトレーナーになる前からいっしょだったんだ」
「へー。じゃ、やっぱ最初の手持ちだったんだ」
「うん。でも最初ってだけならデルちゃんやホウちゃんもそうだけどね」
「そーなのかー」
感心したように聞き入るフシギバナに、今度はメリィの方が問い返した。
「ところで、フシギバナちゃんはどうだったの?」
「ボクもご主人さまの最初の手持ちだよ。ご主人さまがトレーナーになったときに初めて会ったから、メリィ達ほど長い付き合いじゃないけどね」
「でも、最初なのはいっしょだね」
「だねー」
他愛のない話をしながらも、調理は滞ることなく進み、そして。
「「じょーずにできましたー!」」
そう言いながらハイタッチする二人。
「さてと、それじゃみんな呼んで、早く食べよっ」
「おっけー、フーディンに頼んで呼んでもらってくる!」
「あ、私も行くー!」
一方その頃、リビングではゲンとフーディンの間で火花が散っていた。
そのそばでシャワーズはおろおろしながら、ホウはいつもどおりの様子で二人を見守っていた。
事の起こりはこうだ。
間食後に昼寝場所を探していたゲンは、丁度良さそうなソファを見つけて昼寝を始めた。
しかしそこはフーディンお気に入りの読書席であったため、後から来た彼女に(念力で)叩き起こされたのである。
その事に対してゲンからは暴言が飛び出し、フーディンもそれにカチンと来たため、一触即発の状況が出来上がってしまったのだった。
「テメェ……ひとの眠りを邪魔しといてその態度は何だ、オイ」
「邪魔も何も、そもそも人様の家で平然と昼寝などするものではないだろう。常識的に考えて」
「るっせぇ! 今のオレはトキワジム所属だろうが! 確かに自分の家じゃねぇがそこまで言われる筋合いもねぇ!」
「そうかい、でもこのジムの一員だと言うのであればそこが私の席だということくらい知っておいたらどうだい?」
「知るかんなもん! 名前でも書かれてなけりゃわからんっつの!」
「自分の家の家具に名前を書く……? 君は本当にバカだな」
「うっがああああああああああああああああ!!! テメェ表に出やがれえええええええええええええええええええええええ!!!」
「ひゃあぅ!?」「……ふぅ」
とうとうゲンが切れ、咆えた。
突然の大声にシャワーズは軽く悲鳴を上げ、ホウは表情一つ動かさないものの小さくため息をつく。
そして咆えられた当の本人はいたって涼しそうに、鼻で笑いながらそれに応えた。
「ふ、いいだろう。私と出合った不幸を呪うがいい」
「ケッ、おめーはオレを怒らせた。後で吠え面かくんじゃねーぞ!」
二人は言葉の応酬を交わすと、外へと出ていった。
「ど、どうしよう……止めないと」
「大丈夫……結果は見えてる」
「え?」
「見ればわかる……多分」
「は、はい!」
そして、ホウとシャワーズもその後を追った。
……数分後。
そこには掠り傷一つ無いフーディンが、ボロ雑巾と化したゲンを踏みつけていた。
「他愛も無い、しばらくそこで頭を冷やしているといいよ」
「ぎぎぎ……」
へんじはない ただのゆうれいのようだ
「フ、フーディン! 流石にそれはやりすぎじゃ……」
「平気……ゲンならこの位、いつものこと」
「そ、そうなんですか?」
「ん」
驚くシャワーズに、頷いて肯定するホウ。
「ところで、さっき結果は見えてるって言ってましたけど、これは予想通りだったんですか?」
「ん。ゲンは短気で単純だから、怒らせると戦術や罠にかかりやすい」
「なるほど、納得です」
「……でも、そこがいい」
「え?」
最後にぼそりと惚気ると、ホウはシャワーズを放置してフーディンに話しかけた。
「……おつかれ」
「ああ、君か。見苦しい所を見せてしまったね」
「別に、この位なら構わない」
「そうかい? まあ実の所、頭も冷えてくると少々大人気ないと思えてきたんだが」
「先に喧嘩を売ったのは、ゲンだから……」
「ふむ、そう言ってもらえると多少は気が楽だよ」
「……ん」
「ところで……少々気になる所があるんだが、いいかい?」
「……?」
「君たちと暮らすようになって感じたんだが、以前ヤマブキで共闘したときと比べて随分と君と彼の距離が近いように見えてね……どういう関係なんだい?」
「ん……相思相愛」
「ほう、妬けるね。しかし、あんなののどこがいいんだい? ガサツで乱暴で短気なだけに見えるんだが」
そう問うフーディンに、ホウは少しだけ表情を崩して答えた。
「ん、その通り……でも、そんな所も好き。子供っぽい所も、好き。意地っ張りな所も、好き。
何より……死んでもボクのところに、戻ってきてくれた。ボクを未練に、転生してくれた……」
「ふむ……意外と一途というか何と言うか。ありがとう、後でもっと詳しい話を聞いてもいいかな?」
「ん……構わない」
「お礼といっては何だが、今度うちのマスターの惚気話を聞かせてあげよう。シャワーズ、その時にはよろしく」
「え? わ、私が話すんですか!?」
「……楽しみ」
そんな感じに女性陣がわいわい盛り上がっている横で。
(ホウのヤツ……恥ずかしい話しやがって……)
すっかり起き上がるタイミングを逃したゲンは、フシギバナがフーディンを呼びに来るまで顔を真っ赤にしたまま気絶しているフリを続けるのであった。
それより少し前、トキワ郊外のとある小洒落た喫茶店。
デルはフライゴンに連れられて、ちょっと奥まった所の席で向かい合ってお茶を飲んでいた。
「どや、美味しいやろ?」
「ほんと……香りと風味のバランスが絶妙で、何と言うかこう……安心できますね」
「せやろー? この店な、サービスとか充実しとる割りに中々の穴場なんよ。実はまだシャワーズ達にも教えてへんのやけど、デルちゃんは特別やで」
「そ、そうなんですか?……ちょっと、うれしいです」
「おおきに。そう言ってもらえると、連れてきた甲斐があったっちゅうもんやわ」
リラックスした表情でお茶を味わうデルを、柔らかい笑顔で見つめるフライゴン。
傍から見ると、二人はちょっと年の離れた仲の良い姉妹にも見えた。
「ところで、その様子やとデルちゃんのご主人様……アキラやっけ? 彼との仲は元通りになったんやね」
「はい。あの時は本当にありがとうございました」
「ええってええって。うちも何だかんだで役得だった訳やし……んふふ」
「も、もぅ……思い出さないでください、恥ずかしいです」
「……あーんもう、真っ赤になって縮こまるとか可愛すぎやろー! 抱きしめたいわぁ、デルちゃん!」
顔を赤くして上目遣いで睨んでくるデルに、フライゴンは胸を抱いて悶絶した。
「それにしても、やっぱり羨ましいです……その胸」
「デルちゃんかて若いんやし、まだまだこれからやで。うちも昔からよう牛乳飲んでたし」
「……私も牛乳はよく飲んでるんですけど」
「せやったら、後はアキラの愛情次第やな~……あ、何ならうちがやってもええで? 後で皆に『うちが育てた(キリッ』って自慢したる♪」
「あはは……か、考えておきますね」
フライゴンが両手をわきわきさせながら聞くと、デルは明確に答えずに苦笑する。
「なんやもー、デルちゃんのいけずぅ……お?」
「どうかしましたか?」
「フーディンからの呼び出しや。昼の用意できたから早う帰って来いやって」
「あ、それじゃ戻らないといけませんね」
「せやなぁ。あ、会計はうちに任しとき。会員カードがあるんよ」
「わかりました。では、表で待ってますね」
そして表で待つこと数十秒。
カランカラン、とドアベルの音を鳴らしながら、デルに向かって手を振った。
「デルちゃん、お待たせー!」
「いいえ、それほどでもないですよ」
「あはは、せやねー。ほな、帰ろか」
「はい」
そしてデルはフライゴンから差し出された手を自然に握り返し、仲良く並んで帰宅したのだった。
舞台は再び、トキワジムの屋外スタジアム。
そこではノッサ、サイホ、ライチュウ、キュウコンが見守る中、ユキメとプテラが戦っていた。
持ち前のスピードとパワーを生かし、一直線に突っ込むプテラ。
ユキメはその様子を一瞥すると、瞳を閉じて呪文らしき言葉を紡ぎだした。
「我が父祖たるキッサキの山の精霊よ……かの地の雪を、風を、ここに顕現せよ!」
彼女の言葉に応じるかのように、スタジアムにはゆっくりと雪が降り始め、次第に風も強くなっていく。
しかし本格的に吹雪くにはまだ及ばず、先にプテラの突進がユキメに直撃……しなかった。
「手ごたえが無いだと……クッ!?」
「しまった、彼女はゴーストタイプなのか!」
「御主人、どうする?」
「氷タイプには違いないはず……なら、岩雪崩だ!」
「応!」
強くなってきた雪と風に視界を遮られつつも、チラリと見えたユキメのシルエットにプテラは岩雪崩を放つ。
その岩により、見えた影はぐしゃりと押しつぶされ……次の瞬間、凍える風がプテラを襲った。
「くぅ、冷たい……!」
「プテラ、大丈夫か!?スピードが落ちてきているぞ!」
「うぅっ、まだだ、まだ終わらぬぞ!」
プテラはガチガチと歯を鳴らしながらも、気丈に振舞ってみせる。
しかしスタジアム中を吹き荒れる吹雪により、彼女の気力と体力は徐々に削られていく。
そしてままならぬ視界の中、有効打を打てないまま彼女は雪の中に倒れ伏した。
「負けた、か……お疲れ、プテラ」
「すまない、御主人……」
「いや、一手分先に行かれて完封されたのは俺のミスだ。とりあえず、シャワーで体を暖めて来い」
「そうさせてもらおう」
クリムはプテラを送り出すと、アキラ達の方へと向かった。
「あ、クリム様。お疲れ様ですわ」
「ああ、お疲れさん……まさか、完封されるとは思いもしなかったぜ」
「いや、流石にあそこまでうまくいったのは偶々だよ。最初の突進が岩雪崩だったら、かく乱前に倒されてたかもしれない」
「そうだな。ってか、ユキメがゴーストタイプだって知ってたら別の技指示してたぞ」
「その辺は要勉強、だな。お前、四天王戦でもカンナさんのイノムー相手にライチュウで電気技狙ってたし」
「……いいんだよ、これから勉強すっから」
「ま、その時は俺も付き合うぜ」
「当たり前だ、逃がすもんか……っと?」
「どうした?」
「いや、フーディンから連絡。そろそろ飯らしい」
「そっか、いいタイミングだな」
「今日の当番はフシギバナとメリィだそうだし、期待できそうだ」
「お、そりゃ楽しみだ」
話を弾ませながらお子様組のほうへ向かう二人。
その少し後を、ゆっくりとついてくるユキメ。
仮初の吹雪が去った後は、暖かな日差しが差し込んでいた。
・おまけ
ナナシマ諸島、一の島北部。
そこに聳え立つ灯火山の山頂に、一軒の小屋……伝説の炎萌えもん、ファイヤーの家がある。
今日も今日とて日課である灯火山の見回りを終えたファイヤーは、若干上機嫌で家へと向かっていた。
今朝方クリムから『うちのジムのサブリーダーを紹介するから今夜遊びに来ないか?』との連絡があったからである。
内心歓喜で舞い上がりつつも表には出さずに快諾し、そのまま浮かれた気分で見回りへと出発したのだった。
……無論、浮かれつつも見回りはしっかりとやったようである。
そうして笑顔のまま家の前まで到着し……その顔から、笑顔が消え去った。
家のドアが、半開きになっている。
出かけたときに閉め忘れた、などということはまずありえない。
そもそも、カギを閉めてから出かけたはずである。
「まさか、泥棒……?」
そういぶかしみながら、そーっと中を伺い……固まった。
青いドレスに身を包んだ女性が、ソファの上に寝転がり、携帯テレビを見ながらファイヤー取って置きの酒とつまみを貪っていた。
更にその周辺の床には、隠してあったはずの別の酒のビンやら食料品のゴミやらが散乱している。
その現況であろう女性……スイクンは入り口で驚愕に固まっているファイヤーに気づくと、悪びれた様子もなく手を振った。
「……」
「あら、ファイヤーじゃない。おかえり~」
「……」
「それにしてもコレ、おいしいお酒ねー。もっとないの?」
「……い」
「い?」
「い、い、か、げ、ん、に、なさーいっ!!!」
ファイヤーの叫びと共に、スイクンを超高温の炎が襲う。
が、そこは彼女も伝説。瞬時に離脱し、燃えたのはソファと周辺のゴミだけであった。
「わっとと……何するのよ。いきなり危ないじゃない」
「それはこっちのセリフです!人の家で何やってるんですか貴女は!」
「酒盛り」
「平然と答えてのけるんじゃありません!」
「別にいいじゃない。あなたとあたしの仲なんだしさー」
「そんな仲になった覚えなどありませんしなるつもりもありません!」
「もー、そんなに怒ってばっかだと白髪が増えるぞ♪」
「増えるも何も白髪なんてありませんわ!」
「まぁホラ、酒でも飲んで落ち着きなさいって。美味しいわよ、このお酒」
「だからそれは元々私のお酒だとわかってて言ってるんですか!」
……この後しばらく似たような問答が続くが、ついにファイヤーがブチ切れてその場で伝説戦が勃発したことは言うまでもない。
その影響で、灯火山の山林の一部が焦土と化したり、やたら間欠泉が吹いたりしたそうな。
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・後書き
どうもこんばんわ、曹長です。
……いやー、気付けばもう前回の投稿から半年近くも経過してる罠。
その間スレには全く顔出してませんが私は元気です。多分。(ぇ
えー、今回はこれから(作品内時間で)一年間お世話になるトキワジムの人々とのお話でした。
キャラによって普通の日常だったり、若干ラブコメ臭かったり、微エロだったり、百合っぽかったり、イイハナシダナーだったり。
色々な方向性に話が伸びましたが如何だったでしょうか。
毎度のことですがキャラ貸し出し・クロスオーバー等、ストーム7氏には感謝です。ありがとうございます。
蛇足かもしれませんが、若干それぞれの解説と補足でも。
・マスターズ&古風娘達
今回一番出番のあった四人。一番最初に構想を練り始めた組み合わせでもあったりします。
何故こいつらかって、ユキメは今までで殆ど出番無かったし、プテラはキャラ掴みづらかったから最初に組まないと話組めないし(ヲイ
結局バトルさせてお茶を濁すことになったのは反省点、かな。
・チビっ子カルテット
事実上、活発コンビ(ノッサ&ライチュウ)と無口コンビ(サイホ&キュウコン)に分かれた話になりました。
恐らくは今後もこの四人は纏めて書く機会が多いかも。あとこの男女比からノッサの属性にイジられ役とラッキースケベが追加されました(ぇ
サイホ、実はクリムを怖がっていたの巻。元々男性恐怖症のサイホからしてみれば目つきの悪いらしいクリムはそりゃ怖いよね。
・MADとHENTAI
今回はどっちも暴走成分は抑え目です。
暴走成分は抑え目です。大事なことなので二回(ry
リースの看護技術は、R団に居た頃に覚えたものです。
伊達に年は食ってません(爆
・天真爛漫コンビ
恐らくは今回の話の中で一番「普通」な内容に収まった二人。
並べてみると結構共通点っていうか似た所多いですね。若干フシギバナの方がテンション↑っぽい。
・初代の因縁+外野(マテ
ゲンとフーディンの喧嘩については何パターンも思い浮かぶほどネタが上がってくる不思議。
そしてその全てにおいてゲンが一方的に負けるという結果も(ぁ
それとPTの立ち居地上似た立場になるホウとフーディンの関係も妄想が膨らみます。
……え、シャワーズ? そりゃ嫁キャラなんだから本家に任せr(ハイドロポンプ
・お姉さんが見てる(ぇ
ナナシマ編でも一絡みあったこの二人。
フライゴンが積極的なお陰でどんどん話が伸びるのが書いてて楽しいコンビだったり。
一番の問題はやっぱりジョウト弁。何分筆者は生粋の関東人なもので……添削してくださった方々にはホントに感謝です。
・伝説達
いやぁ、伝説同士で交流あっても不思議じゃないよねってことで(ぇ
とりあえず全力でキャラ崩壊させてみた。反省はしない(をい
それでは、また次回の後書きでお会いしましょう。
最終更新:2010年10月19日 23:55