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明かりを灯して
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「おっかえりー!」
と、嬉々とした元気な声で出迎えてくれたのはヒトモシだ。
いつもの白髪、いつもの笑顔なのだが、その身体はいつもの可愛らしい服装とは違っていた。
彼女はシーツ一枚で身を包んで、更にやたらと長い赤リボンでぐるぐるとその周りを巻いている。
シーツは肩までしっかり巻けておらず、少しはだけているのだが、彼女はそのことに気付いていない。
その肩が肌色で、それぞれ白く細い紐が掛かっているだけなところを見るに、シーツの中は下着姿のようである。
クリスマス。
そう、今日はクリスマス。だから気持ちはわかるのだけど……。
どうしてこうなった。僕はそんな疑念に溢れていた。
「えと、ヒトモシ……?」
「今日はクリスマスだよっ!」
「そ、そうだけど」
どういうこと? と口をポカンと開けた表情で問うて見ると、
えっへへー、と彼女は極上の笑顔ではにかみ、
「わたしをプレゼントっ!」
なんて衝撃的な言葉を放ってのけた。
あまりの衝撃に思考は止まり、あまりの可愛さに理性が飛びかける。
下着にシーツ、なんてシチュエーションも相俟ってよからぬ方へと流れ始める思考をなんとか修正して、
なんとか冷静を保って微笑みで応える。
「あ、ありがとう。嬉しいなッ」
……若干引き攣ってたかも。
そんな僕の態度に彼女は少し首を傾げながらも、すぐに切り替えて笑顔になる。
「それでそれで、ケーキはー?」
「お、おう。ちゃんと買ってきたぞ」
特にサプライズを計画していたわけではなく、楽しみにしてろよーとも言ってあるので隠す必要もない。
ちょっと奮発して買ってきたホールケーキをテーブルの上に置いて、箱から取り出す。
……二人じゃ食べきれないだろうな。
なんて考えながら包丁を取りに行こうと席を立ったのだが、
くんっ、とヒトモシに裾を引かれて止められた。
「ん、どした?」
「ねー、ちょっと待っててー」
子供のようなはしゃぎようでそう言って、とことことテーブルの向こう側へと回る。
ケーキを挟んで僕の反対側で対面。身を乗り出してケーキに顔を近づけて、
「はいっ、どーぞ!」
と、その頭にポッと小さな火を灯す。
ヒトモシならではの蝋燭の火、なのだが、
クリスマスに蝋燭……?
「えーと……?」
「さ、一息で一息で!」
なにやら彼女は勘違いをしているようだ。
目を閉じてキャーっとはしゃいでる彼女には申し訳ないと思いつつ、間違いを指摘することにする。
「それは……誕生日にやるもんじゃない?」
「えッ!?」
この世の終わりが訪れたかのような、衝撃の顔。
わなわながくがくと彼女の身体は震え、顔はみるみる真っ青になっていく。
毎度毎度大袈裟だとは思うが、このコロコロ大きく変わる表情に飽きない僕であった。
「で、でもだって! 前の時はマスター、蝋燭立ててくれたはずなのにッ」
「うん、ヒトモシの誕生日だったからね」
「そんな……っ」
しかし拒絶する理由もない。せっかくの好意に甘えようかと考えたところで、
あ、と僕は一つ閃いた。
「そうだ、ちょっとそのままでいて」
「?」
すぐに表情を怪訝のそれへと移す彼女をそのまま待たせて、僕は近くの引き出しを開ける。
少し汚く整理の行き届いていない引き出しをゴソゴソと漁って、それを取り出した。
明かりを消して、それを彼女の方へと向けて、
「ほらっ、笑顔笑顔!」
「えっ、あっ。いえー!」
鳴った音はピピッ、という電子音。
僕が取り出してきたのはデジタルカメラだ。
「なになに?」
「クリスマスはね、蝋燭を吹き消すことはしないけど、
蝋燭で飾り付けをすることはあるんだよ」
ほら、クリスマスキャンドル。
そう言いながら撮ったばかりの写真を見せて、褒めてあげる。
「ね、綺麗でしょ?」
その小さな画面の中には、
火を灯した彼女の笑顔と、光で輝くクリスマスケーキ。
わっ、という声を漏らした彼女の目は、その写真と同じくらいに輝かせていた。
どうやら喜んでくれたようである。
「それじゃ、プレゼントターイム!」
さらに喜びの追い討ちをかけるように、なんだなんだと呆けている彼女の目の前に一つの袋を差し出す。
手のひらに乗るくらいの白い紙袋に、小さな赤いリボンをあしらった簡素なものだったが、
中身の方には自信があった。
「えっ、えっ?」
「ほら、開けてみて」
ガサゴソ、と探る彼女が袋から取り出したもの。
それは子供用のオモチャの指輪。なのだが、
装飾には、小さな小さな闇の石をあしらっている。
いつか彼女が大きくなって、ランプラーに進化して、
もっと成長した頃に役に立つ、奇跡の石。
「……なんか汚い」
「はは、そんなこと言わないでよ」
今はまだ彼女には価値のわからないものだろうけど。
今はまだ彼女には伝わらない気持ちだろうけど。
――君が美しいシャンデラになるまで、僕はずっと傍にいる――
――そして君に、ずっとずっと傍にいて欲しい――
そんな想いを込めた、プレゼントだ。
「ね、ヒトモシ」
「んー?」
なんだかんだ言いながら、彼女ははめてあげた指輪を嬉しそうに眺めている。
それを見て、思わず僕も顔が綻ぶのだった。
「メリークリスマス」
「メリぃクリスマスっ!」
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僕が話しかければ、彼女は嬉しそうに応えてくれる。
僕が笑いかければ、彼女は最高の笑顔で応えてくれる。
僕の心は、彼女の灯した明かりで照らされている。
零ですーっ。
今年のクリスマスSS第一弾! 新作黒白さんからヒトモシさん。
ご周知の通り(なのか?)、霊好きな私はシャンデラさんにずっきゅんきたわけで、
こうなるのも時間の問題だったのだ……。
では、こんな拙作を読んでくださった方々に感謝をしつつ、このあたりでー。
最終更新:2010年12月27日 18:50