…気付けば季節は既に冬。
世間では冬至だのクリスマスだの年明けだので、少し忙しくなる季節。
外では雪が休みなく降り積もり、一面銀世界となっている。
今僕がいるこの部屋の室温も、暖房を止めればすぐに一桁を切るだろう。
…で、今日は12月26日。クリスマスから一晩経ち、年明けまで残り五日。
そんな忙しくなりつつある時期に限って。
「ゲホッ、ゴホゴホ……」
どうしてこうも僕は風邪を引いてしまうのだろう……
“風邪とクリスマスと後の祭り”
「…ックシュン! ふぅ……」
…寒い。暖房はついていて部屋は温かいのだけれど、寒い。悪寒がする。
体調は昨日よりも良好。でもあまり良いとは言えない。
昨日は昨日でクリスマスだったから、手持ちの皆には迷惑かけちゃっただろうし。
きっと皆、怒ってるんだろうなぁ……
「…マスター、入りますよ?」
「えっ!? あ、うん……」
コンコンと小さくノックする音がし、控え目に扉が開かれる。
僕はその音に過剰に反応してしまい、咄嗟に布団に潜り込んでしまう。
「調子はどうですか、マスター?」
「う、うん。まぁまぁかな……」
優しくしてくれる僕の手持ちで一番好きな子にすら怖くて顔を向けられない。
その優しさが、今の僕にはとてつもなく怖くて。
「…マスター? マスター? 本当に大丈夫ですか? りんご剥いてきますよ?」
「あ、ううん! 大丈夫! 大丈夫だから、本当に……」
恐怖のあまり、発した言葉が徐々に尻すぼみになっていく。
我ながら情けないと思ったが、この恐怖は今の自分じゃどうする事もできない。
…すると彼女はこの僕の様子をただ事ではないと悟ったのか、更に迫ってきた。
「ちょっとマスター、本当に大丈夫なんですか? まさか、死んじゃったり……」
「だ、大丈夫だよ。死んだりなんてしない。だから……ごめん。少し一人にさせて?」
「マスター……分かりました。何かあれば呼んで下さいね? すぐに行きますから」
「うん。ありがとう」
非常に残念そうな声をあげ、ゆっくり、惜しむように立ち退く彼女。
これで良かったんだ。これで良かったんだ。
自分の良心に鞭打って、何度も何度も言い聞かせる。
でないと、これ以上彼女から優しくされた僕は恐怖の余り死んでしまうだろう。
男として最低な行いをしてしまった気がするが、こうするしかなかった。
…だが、その選択がまるで間違いだったと言わんばかりな事態が起きた。
「……ッ!」
突然彼女の呻きが聞こえたと思ったら、続いてその場に何かが倒れる音。
まさか……と思う前に、僕の体は勝手に動いていた。
「大丈夫!? って、うわっ!」
頭で考える前に行動していたため、彼女を支えるまでその格好に全く気付かなかった。
なんと彼女は、俗に言う"ミニスカサンタ"の格好をしていたのだ!
「…や、やっと……見てくれましたね……」
「えっ!? ちょ、ちょっと! そんなっ!」
慌てふためきその場から離脱しようとするも、彼女に腕を捕まれ逃げられない。
仕方がないので焦る自分に鞭打って落ち着かせ、彼女に向き直る。
「あ、あのさぁ! なんて格好してるのさ! 風邪でも引いたら……!」
そう言いかけて、後悔する。
改めて見た彼女の顔は赤く、目には隈ができ、とても辛そうな表情をしていたからだ。
きっと僕がクリスマスパーティーに参加しなかったから、それをずっと気にして……
「…ごめん。本当にごめん。僕、ずっと君が怒ってたんだと勘違いしてた……」
「マスター……」
「気付いてあげられなくてごめんね。こんな弱いマスターで…ごめんね……」
…悔し涙が止まらない。
初めから彼女を見ていればすぐに気付けたのに、それすらしなかった自分が悔しい。
こんな大事な時期に風邪を引いてしまい、皆に迷惑をかけてしまった自分が悔しい。
何よりも、彼女にこんな辛い思いをさせてしまった自分が悔しくてたまらない。
「…マスター、謝らないで…泣かないでください……」
「…え?」
そう言って、彼女は指で僕の頬に流れ落ちる涙を拭った。
そして、その涙を彼女自慢の炎で蒸発させてみせる。
「マスターのそんな辛い顔なんて…見たくありません。らしくないですよ……?」
…彼女は、満面の笑みで僕に笑いかけた。
「ねぇ、マスター?」
「な、なんだい?」
「さっきの格好、どうでした?」
「えっ?」
隣にいる彼女が僕の腕にしがみつき、問い掛ける。
本当に、どうしてこうなってしまったんだろう。
僕のベッドに風邪を引いてしまった彼女を寝かせて部屋を出ようとしたところ、
病人同士一緒に寝てようという事で、逃げる間もなく引きずり込まれてしまったのだ。
僕もこうなってしまうなんて全くの想定外で……
「ねぇ、マスター!」
「あ…あぁ、うん! 可愛かった! とっても可愛かったよ!」
「んぅ……本当ですか?」
「うん。本当に」
「えへっ……ありがとうございます」
初めから赤かった顔を更に紅く染め、上目遣いでこちらを見る彼女。
そんな仕草がたまらなく可愛いらしい。
「昨日はもう過ぎてしまいましたが……私は寝てないので、まだクリスマスです」
「…え? どういう事?」
「つまり……私が寝るまでがクリスマス、って事ですよ!」
「あぁ、そういう事……って、大丈夫なの!?」
「大丈夫です! 初めからこうするつもりでしたから」
なるほど、どうりで彼女の目には隈があったワケか、と今更ながら理解。
同時にそんなのアリなのか、という疑問も出てきたが、なかった事にしておいた。
「こうなったらもう後の祭りです。今日はとことん付き合ってもらいますよ、マスター」
「う、うん……」
こうして、一日遅れのクリスマスが幕を開けたのだった。
…が、その後僕を心配していた他の手持ち達にボコボコにされるのは、また別のお話。
~あとがき~
こんにちは。メリークリスマした!
…悪ふざけが過ぎましたね。ごめんなさい……
今回は初挑戦のクリスマスSSを。とは言えども、一日過ぎちゃってますけど……
で、本SSでは主人公、ヒロイン共にあえて名前を伏せてあります。
ヒロインの方は大体分かると思いますが、そこはご想像にお任せしますっ!
…では少し短いですが今日はこれにて失礼します。
いつもこんなSSを見て下さって有り難うございます!
それでは、お疲れ様でした!
最終更新:2010年12月27日 18:53