5スレ>>880

「はぁ……」
「ため息ばっかりついてると幸せが逃げちゃうよっ?」
「ん、あぁ。そうだな」

 だがそんな事を言われても出るもんは出る……とポニータに言っても仕方がない。
 まったく。どうしてこうも俺の旅路は面倒な事だらけになってしまうのだろうか。
 昨日は昨日で色々悩んでたら結局全然眠れなかったし……






 course of life -with you-
 第八話~不慮の事故は出会いの始まり?~






 …昨日の温泉事件から一晩経ち、イワン達と別れてトキワの森へ再び向かう俺達。
 イワン達はシロガネ山経由でジョウト地方へ帰るらしい。
 どうやって帰るのかは聞かなかったが……まぁ、心配ないだろう。

 それで今日は図鑑収集もしつつ、ひとまずニビシティへ向かう事にした。
 昨日大体トキワの森の構造は把握したから、今日は迷わず行ける……はず。
 それと無許可で外出した誰かさんの迎えにも行かなきゃならないし、あと……

「それでリュウ兄、コガネシティにはいつ連れてってくれるのっ?」

 …そう。問題はコレ。
 なぜだか知らないが、昨日ポニータとハクリューに押しかけられ、
 コガネシティに連れて行く約束をほぼ強制的にさせられてしまったのだ。
 しかもその時なぜか二人とも怒ってたし。
 俺は何も悪い事をした覚えはないのだが、二人に聞くと自分の胸に聞け、と。
 やっぱボールにロックを掛けたのが原因なんだろうけど……イマイチよく分からない。
 ただ俺はゆっくり休んで欲しくてやっただけなのに、二人には嘘呼ばわり。なんで?

「…っとと、コガネの件だったな。ちょっと待てよ? 今だな、今日の……」
「進路でしょ? それはニビシティまで行ってから考えよっ? それより……」
「分かった分かった。分かったから人の頭ん中を勝手に……」
「えー! 旅が一区切りしたらって、いつ!? 一日くらい休暇取って行こうよー!」
「だから……はぁ。もういい」

 …結局分かったのは、今日もため息が止まらない一日になるという事だけなのだった。


 …………。


「あ、おはようございますリュウマさん」
「あぁ、おはよう。昨日は色々すまなかったな」
「い、いえ! とんでもないです!」

 トキワの森入口付近に着くと、昨日同様クウがお出迎え。
 ここ二日くらいでかなりの頻度会ってる気がするが……気にしたら負けだと思う。

「それでアイツは……ん?」
「だーれ…「どう考えてもオニドリルです」
「即答とかヒドくない!?」
「全然ヒドくない」

 聞こうとしたそばから人の視界を奪いつつ登場した脱走犯オニドリル。
 昨夜帰る途中にボールの内側からロックを解除し、俺の許可なく勝手に脱走したのだ。
 俺もまさかあのタイミングで脱走するとは思ってもなかったが……

「あのな、お前通信機があれば勝手にどこ行ってもいいって勘違いしてないか?」
「べっつに~?」
「……」

 見たところ反省の色など全くないが、いつも通り開き直るのが早いだけ。
 それがこいつの長所であり、最大の短所でもある。
 しかし昨日オニドリルを怒らせたのは俺だし、これでチャラだという事なのだろう。
 仕方がないので、今回は大目に見てやる事にする。

「…ま、いっか。じゃあもう行くぞ」
「え? ちょ…ちょっと待った!」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「今日はクウとフスベシティへ遊びに……」
「却下。行くぞ……って、ちょっと待て。今なんて言った?」
「フスベシティへ遊びに行く!」
「そうかそうか。じゃあ葬式の準備をしとかないといけないな」
「何ソレ!? あたしはまだ死なないってば!」

 …この間もこいつには言ったが、シロガネ山を飛んで越えるのには大変な危険を伴う。
 腕の立つトレーナーがやって成功したという実例はあるが、コイツじゃ無理だろう。
 どうせ途中で突風に吹かれてヘバるに決まっている。

「…アンタ、あたしじゃどうせ途中でヘバるとでも思ってるんでしょ?」
「わぁっ! すごいねドリちゃん! だいせいか…もがもがっ!」
「ポニータ、今はクイズの時間じゃないよな? それと何度も言うが、人の……」
「心の中は覗いてないよっ? だってリュウ兄の顔に書いてあるんだもんっ」
「……」

 言われてみれば確かに心の中を読むなとは言ったが、最早反論する気も起きない。
 既にこのような会話も日常茶飯事になりつつあるし。
 いや、実際になってしまったらそれはそれで困るのだが。

「…んでオニドリル、なんでお前そんなに自信に満ち溢れた顔してんだ?」
「ふふふ……聞きたい? 聞きたいならあたしを遊びに……」
「よし。別に聞きたくないから帰ろうか」
「じょ、冗談だって! …実はクウがフスベまでの安全経路を知ってるんだ」
「へぇ。そいつは……」
「本当なの!?」
「「!?」」

 本当にそんな経路があるのかクウに真偽を問おうとしたところ、
 突然ボールから飛び出してきたハクリューが話に食いついてきた。
 確かハクリューの出身地はフスベにある竜の穴と聞いている。
 また、噂ではやたら強いドラゴン萌えもんがウジャウジャいる所だとも聞いている。
 特別な用事がなければあまり近寄りたくない場所なのだが……

「私、そこに少し用事があってどうしても寄っておきたいのですが、ダメでしょうか?」
「あー、えっと……うん。それなら仕方ないよな」
「え? それでは……」
「あぁ。一旦フスベまで行くとしようか」
「あ…ありがとうございます!」

 …嫌な予感は的中。どうやらフスベシティまで行かなくてはならないらしい。
 まぁ、用事があるんなら仕方ないよな。うん。仕方ない……

「やったぁ! じゃあクウ、早く行こ行こ!」
「あのなオニドリル、今回は……」
「分かってるって! 遊びは二の次でしょ? じゃ、早く乗って!」
「はぁ……まぁいいか。じゃあクウ、悪いけど安全第一でお願いするよ」
「分かりました! それでは行きましょう!」

 …かくして俺達は再び道草を食う事になるのだった。
 ホント、いつになったら普通の旅が出来るようになるのだろうか……






「うぐ……」
「あーあー。だらしないねぇリュウったら」
「だらしない以前にあのフライトで酔わない奴なんていな…うっぷ」

 …まったく、ヒドい目に遭わされた。
 まさかあの控え目そうなクウがあんなにブっ飛んだフライトをするとは……
 安全第一と言ったはずなのに、急上昇や急降下、更には旋回やスピンその他もろもろ。
 それに続いてオニドリルも真似をするもんだから、たまったものではない。
 パイロットでもない限りあのフライトは誰でも酔う。断言する。

「ごめんなさい! 自分では安全第一で行ったつもりだったんですけど……」
「そう簡単にヘバらないのがリュウだから大丈夫だって! ね、リュウ?」
「……」
「じゃ、あたし達は遊んでくるから、用事済ませたら呼び出してねー。それじゃ!」
「お、おい! ちょっと…ぐうぅ……」

 それだけ言い残し、オニドリル二人はさっさとその場を飛び去ってしまった。
 その直後、これがあいつらの策略だったと気付くが、時既に遅し。
 通信機で文句をつけようとも思ったが、もう面倒なので放っておく事にした。

「空の旅、楽しかったねっ! ジェットコースターに乗ってるみたいだったよ!」
「ポニータはボールの中にいたんだからまだマシだろ……。こっちは…うぷ」

 …さっきのフライトを思い出しただけで気持ち悪くなってきた。
 帰りは本当に安全第一で飛んでもらわないとな……

「大丈夫ですかリュウマさん?」
「大丈夫…と言いたいとこだが、今はあんまり大丈夫じゃなさそうだ……」
「センターで少し休まれてはいかがです? その間にこちらの用は済ませてきますので」
「あぁ。そうさせてもらうよ。すまないな、ハクリュー。気をつけて」
「御心遣い、感謝致します。それではまた後ほど」

 そう言って、ハクリューもさっさとその場を去ってしまった。
 心なしか急いでいたようにも見えたが……俺の気のせいだろう。

「…じゃ、俺達はセンターで休むとしようか」
「うん! その後はフスベシティ探索だねっ! もちろん、リュウ兄も来るでしょ?」
「……」

 それを聞き、なるべくセンターでゆっくり休もうと思った罪深い俺なのであった。


 …………。


「はぁ……」

 センターに入って適当に飲み物をもらい、空いた席を見つけて一服。
 近頃はゆっくり休息が取れるこの時間が至福のひと時である。
 だが、その至福のひと時も長くは続かないワケで……

「さ、リュウ兄! フスベシティ探索に行こっ!」
「いやいやポニータ、まだここに来て一分も経ってないんだからもう少し……」
「えー! じゃあ私とラプちゃんだけで行くっ! ね、ラプちゃん!」
「うん、そうだねー。行こう行こーう」
「あー、分かった分かった。俺も行くから。ただし、単独行動は厳禁な」
「「はーい!」」

 この二人だけで行かせれば、以前のマサラタウンのような目に遭うのは予想がつく。
 しかも今回はオニドリルが外出中のため、捕まえるのは更に困難を極めるだろう。
 よって俺に二人について行く以外の選択肢はない……はずだった。

「観光なら私にお任せ下さい!」
「ハクリュー!? もう用事は済んだのか?」
「はい。用事自体はそう時間のかかるものではなかったので」
「へぇ、そうだったのか」

 ここで思いもよらない助け船ことハクリューが帰還!
 これはもしかすると……もしかするかもしれない!

「リュウマさんはセンターでお休み下さい。二人の面倒は私が見ておきますので」
「あぁ、分かった。じゃあ今回もお言葉に甘えさせてもらうとするよ」
「はい! じゃあみんな、行こっか!」
「「はーい!」」

 …という事で、しばらくハクリューが二人の面倒を見てくれる事に。
 こんな機会滅多にない。ここは今後に備えてゆっくり休ませてもらうとしよう。






 ――目を覚ませ

 ……ん? なんだ? もう少し休ませてくれよ。

 ――早く目を覚ませと言っている。そしてここから早急に立ち去れ

 ……だからもう少し休ませてくれって。こっちは色々あって疲れてんだから。

 ――最後の警告だ。早くここから立ち去れ。さもなくばお前は大切なモノを失うだろう

 ……なんだよ、大切なモノって?

 ――それはお前のよく知る……

 ……お、おい! ちょっと待てよ! お前、まさか……






「おいっ! …って、あれ? ここは?」

 …どういう事なのだろう。俺は全く見覚えのない洞穴の中で横たわったいた。
 さっきまでの出来事を必死に思い出そうとするが、空回り。
 起きたらどこだか分からない場所に来ていた、という事は過去に何度かあるが、
 その前までの記憶がすっぽり抜けていた、というのは今までに経験した事がない。
 …という事は、だ。

「…むむむ……痛ッ!」

 試しに頬を抓ってみるも、空しく痛みが走るだけ。
 あぁ。残念な事に、これは夢ではないらしい。どうした事やら……

「……」
「!?」

 …なんて事を考えていた時、突如背後より何者かの気配を感じ、思わず身構える。
 するとそこにいたのは、これまでに全く見た事のない萌えもん。こいつは……

「…ブイゼル、だっけ。誰かがそう言ってた」
「あ、あぁ……」

 …ブイゼル。確かここから遠く寒いシンオウ地方に生息するはずの萌えもん。
 そんな萌えもんがなぜこんな場所にいるのか……という疑問は今どうでもいい。

「えーっと、ブイゼル…だよな? じ…実は俺、さっきまでの記憶がなくてさ、
 べ、別にお前さんの住処を奪おうだなんて全然考えてなくて、気付いたらここに……」
「…知ってる」
「えっ?」
「だって、僕が君を助けたんだし」
「助けた? 一体どういう事なんだ?」


 …………。


「俺が…空から墜ちてきた……?」
「うん」

 にわかには信じ難い。ていうか信じたくない。人間大砲でもあるまいし。
 だが、そんな事になるまで一体俺は何をしていたのだろう……

「…んー、まぁいいか。とにかく、ありがとな。助けてくれて」
「うぅん。気にしなくてもいい」

 俺に感謝されたブイゼルは俯き、頬を少し赤らめる。
 この子の姿も影響しているのかもしれないが、なんかすごく初々しい。
 ちなみに見た目はトレーナーデビューしたての子供とほぼ同等。
 落ち着いている割に見た目がかなり子供っぽいので、そのギャップが激しい。

「な、なに? あんまりジロジロこっちを見ないでよ」
「わ、悪い悪い。ついな……」

 そう指摘され、慌てて視線を元に戻す。
 いつの間にか自分でも気付かない内に相手を凝視していたようだ……

「…それで、これから君はどうするの?」
「あぁ、もう少ししたら行くとするよ。あんまり長居しても手持ち達に……!」

 そこまで言いかけて、手持ち達の事をすっかり忘れていたのに気付く。
 しかし腰に手をやるも、いつもあるはずのボールの感覚がない。

「…すまんブイゼル! やっぱり今すぐ行かなきゃならないみたいだ!」
「……? うん。別にいいけど……」
「それと……こいつは礼な。これだけで借りが返せるとは思ってないが……」
「えっ? こ、これは……オボンの実!?」

 旅に出る前、母に持たされたオボンの実。
 傷薬があるからいいとは言ったのだが、強制的に持たされた。
 まさかそれがこんな形で役に立ってくれるとは思ってもなかったが……

「こんなすごいのもらっていいの!? しかも二つ!」
「え? あ…あぁ、これで良ければあと三つあるけど……」
「ホント!? も、もらっても……いや、やっぱりいいや」
「ん? そうか?」

 そんなにオボンの実が珍しい木の実なのか……と思ったが、
 確かこの辺りではぼんぐりくらいしか取れないのを思い出した。
 カントー地方やジョウト地方じゃ木の実の普及率が低いのもこのためだ。
 俺の友人に牧場を経営しつつ木の実を栽培しているという奴はいるのだが、
 全国のショップで販売できるほど収穫量は多くないという事で、普及率はやはり低い。
 そういうワケで、恐らくこの辺じゃこういう類の木の実はレアなのだろう。

「それじゃ、俺はこの辺で! またいつか来るから!」
「あ! ちょっと待っ……」

 俺はブイゼルの呼び止めにも答えず、ダッシュで洞穴を抜け出した。
 洞穴を抜けると、眩い光が俺の視界を奪い……

『ドボーン!』
「ガボゴホッ!?」

 …まさにドボンとはこの事。
 目の前の池に全く気付きもせず、あっけなくダイブしてしまった。

「…ぶはっ! なんだってんだよ、まったく……」
「だから待ってって言ったのに……」

 俺の後に続き、洞穴から出てくるブイゼル。
 ついでにわざわざ池に入ってまでして俺を引き上げてくれた。

「いやー。悪いなぁ、ホント……」
「いいよ、別に」

 初対面でここまでされると、さすがに申し訳なさすぎる。
 同時に、少し罠があるような気がしないでもないが……うん。気のせいだろう。

「それでさ、君……」
「君……? あ、そういや自己紹介がまだだったな」
「…え? そういえばそうだね」

 毎回の如く自己紹介を忘れるのが俺の特技!
 いや、コレ特技って言うのかどうかは知らないけど。

「俺はリュウマ。今手持ちはいないけど、トレーナーだ。嘘じゃない。本当だ」
「うん。僕は……名前はないんだ。だから君達人間が呼んでる"ブイゼル"でいいよ」
「了解した! じゃあまた……」
「あ、待って!」
「ん?」

 今度こそ手持ちを探しに出発……しようとしたが、再びブイゼルに呼び止められる。
 正確にはさっき無視したからこれが一回目なんだけど。

「君……いや、リュウマさ、今手持ちがいないんでしょ?」
「あぁ、そうだが……」
「それならさ、僕も付いて行くよ。この辺は結構危ないし」
「本当か? サンキュー! そいつは助かる!」
「ま…まぁ、丁度僕も暇だったし、気にしないでよ」
「あぁ。よろしく頼む!」
「うん!」

 …こうして、一時的にブイゼルが仲間になった!




 …後編へ続く。










~あとがき~
こんにちは。ただのポエルです。ごめんなさい。
本当は後編も書いた後であとがきを書こうと思っていたのですが、急遽変更。
次はいつになってしまうか分からないですし、何より締まりが悪いですし。

…という事で(?)、今回はトキワ~フスベ~謎の洞穴、までです。
金銀をやっている方なら分かるかもしれませんが、リュウマがドボンした池は
フスベをしばらく下った、ぽつんとぼんぐりの木が生えている所にある池のことです。
洞穴は原作にはありませんが、ここにあったら丁度いいかな、ということで。

ちなみにこの周辺、実際にリメイク金銀でブイゼル出ます。
やる気とお暇とリメイク金銀をお持ちの方、木曜日にぜひこの場所でお試しあれ!

…と、ではこの辺で失礼します。お疲れ様でした!

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最終更新:2010年12月30日 16:01
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