5スレ>>885-1


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 アマネたちと別れた後、ボールの中で体を休めたアサギも連れてポケモンリーグへ続く道の前まで来ていた。
 どうやらアマネの言っていたことは本当のようで、バッジを持ってないと門前払いのようだ。

「まったく何が「本当に強いポケモントレーナーしか通れません」よ! あたしがいるんだから強いに決まってるじゃない!」

 リンに負けた時のしおらしさはどこへやら、体力が回復すると同時に調子も戻ったようだ。というかそれはトレーナーの強さじゃなくてポケモンの強さだろ。
 本当は体力回復のためポケモンセンターに預けるつもりだったんだが、本人が「連れていけ」というものだから、やむなく傷薬を使ったうえで連れてきたわけだ。けど心配する必要もなかったみたいだな。

「大丈夫ですよ。今度来るときはきっとバッジも全部集まってます!」

 そういうのは傍らに控えているマドカ。相変わらず気合十分といった感じだ。
 しかし・・・、

『マスターなら、きっとなれますよ』

 こいつが言ってくれたあの言葉。聞き覚えがあったような気がするんだが・・・。
 んー、誰だっか。昔のことを全然覚えてないっていうのも問題だな。
 ひどく懐かしい感じがしたような・・・。

「? どうかしましたか?」

 どうやら考えてる間じーっとマドカの顔を見ていたようだ。

「ん? いや、なんでもない」
「そうですか」

 オレの答えに、にへらーと笑うこいつを見てると考え込んでる自分がアホらしくなってくる。
 まぁ、昔は昔、今は今だな。

「ちょ、ちょっと! 二人とも何してんのよ! さっさと行くわよ!」

 少し先の方でアサギが急かす声が聞こえる。なんで怒ってんだ、あいつは?

「あぁ、わかったわかった。んじゃ行くか」
「はい!」


『第三話 トキワの森のはぐれピカチュウ』


 鬱蒼と茂る森の中、オレたちはトキワの森に来ていた。
 ランニングに短パン姿の虫取り少年が虫ポケモンを追いかけている。
 あいつらにとっちゃポケモンとるのも昆虫採集と変わらないんだろうな。虫ポケモンだし。
 他にも何人かのトレーナーがいるようで遠くからポケモンを追いかける声がする。
 かくいうオレたちもポケモンを捕まえては逃がししつつニビシティへ向かっているのだが・・・。

「勢いごんで森まで来たのはいいですけど・・・」
「これは完全に・・・」
「・・・迷ったな」

 マドカ・アサギ・オレの順で現在の状況を確認する。
 なんでこういう時だけ無駄に息が合うんだろうな。
 そんなに大きい森でもないし、簡単に迷うはずはないと思ってたんだが、まさかこれほどとは。
 外から見えていた以上に中は入り組んでいて、町の方向に向かっていてもいつの間にかまったく違う方向に向かってしまっている。

「アサギ、すまんが・・・」
「ちょっと、またぁ・・・?」

 アサギに空から方角を確認してもらうように頼もうとすると、呆れた声が返ってきた。
 このやり取りもすでに片手で足りないくらいになっている。
 アサギのおかげで方角だけは分かるのだが、なにぶんまっすぐその方向に進めるというわけでもない。
 途中に木があれば当然迂回しなければならないし、道もくねっている。
 そんなこんなでオレたちは一時間ほど森の中をさまよっているのだった。
 あんまりマサラの外に出なかったから気づきもしなかったが、まさかオレは・・・。

「あんた・・・ひょっとして方向音痴なんじゃない?」
「ぐっ・・・!」

 図星である。
 どうやらオレは方向音痴らしい。というかそれはお前らも同じじゃないか?

「んー、困りましたねぇ」

 まったくだ。なんでこう旅の初日から面倒なことばっかり起こるんだか。
 しかし、本当にどうする。戻るのも一つの手だが、戻るにしても余計に迷いそうな気がするし。

「あー、もう最悪。なんで私がこんな森の中で迷子にならなきゃならないのよ・・・」

 さすがに疲れているのかアサギの声にも今までのような覇気はない。
 一応センターに寄って回復したとはいえ、バトルの疲れも残ってただろうしな。
 二連戦をこなしたマドカの方はあまり疲れたようには見えないが。どんだけタフなんだ。

 くぅ~。

 と、そこに可愛らしい音が響いた。
 遠くから声が聞こえる以外には静かな森なのでその音がやけに響く。
 音の出所は・・・。あぁ、探すまでもなかった。

「あ、あああ、あたしじゃないわよ! 今の!」

 アサギが顔を真っ赤にしてまくし立てる。
 別に詮索する気はなかったんだが向こうから自爆してくれたようだ。
 そういや、もう昼時だったな。

「ん・・・そろそろ昼飯にするか」
「ちょ、ちょっと! 今のはあたしじゃないったら!」

 何の音だとか言った覚えはないんだが、どこまで墓穴を掘るんだお前は。

「私もお腹空いたし、お昼ご飯にしようよ、アサギちゃん」

 と、マドカが助け船を出してくれた。
 こいつはこういう時に気がきくな。アサギが仲間になった時もうまく場を収めたし。
 こいつが最初の手持ちで本当によかったな。

「ん・・・マドカがそういうなら」

 そしてなんでお前はマドカの言うことなら素直に聞くんだろうな・・・。
 ともかくオレたちは少し開けたところに腰をおろして、トキワで買っておいた昼食を摂ることにした。


「んー! おいしー!」

 そういってアサギはおにぎりを頬張っている。すげー食いっぷり。

「人間のご飯ってのもなかなかイケるものねー」

 最初ポケモンの飯ってどうするんだろうと思っていたんだが、どうやら人間の飯で問題ないらしい。
 というかやっぱり食の好みも千差万別みたいだな。おにぎりにかぶりついているアサギの横ではマドカがサンドイッチを食べている。
 かくいうオレは・・・。

「ん? サイカ、あんたのそれ何?」
「あ? 蕎麦だ、冷蕎麦」

 たかがコンビニ蕎麦と馬鹿にするなかれ。
 ほぐし水で麺をほぐし、つゆにつけて食べる。さすがに専門店には劣るんだろうが蕎麦の香りもよく、喉ごしもよい。日本人の心だな、うん。

「なんか・・・爺くさい・・・」
「・・・うるせーよ」

 いいだろーが、好きなんだから。
 そういや、アマネも爺くせーとか言ってたな。こいつらには一度蕎麦の良さを一から教育せねば・・・。
 そんなオレたちのやり取りを見てマドカもクスクス笑っている。

「そういえばマスター昔からお蕎麦好きでしたもんね」

 そうなんだよな、親父が根っからの蕎麦好きでガキの頃から食わされてたからな。
 最初はむしろ嫌いだったんだが、いつの間にやらオレも一週間に一度は蕎麦を食うほどの蕎麦好きになっていた。
 まぁ、小学校くらいの年齢で蕎麦を好きってのも確かに爺くさいといえばそうなのかもしれんが。
 ・・・って、ちょっと待てよ?

「なんでお前がそれ知ってんだよ、マドカ」

 「昔から」って言ったよな。なんでお前がオレの昔を知ってるんだ?

「え!? え、ええ、えぇっと、そ、それは・・・」

 オレの言葉にひどく狼狽えるマドカ。

「え、えっと・・・その・・・」

 無駄に詳しかったトレーナーの話。
 高いバトルセンス。
 どこか懐かしい言葉。
 そして今の「昔から」。
 まさか、こいつ・・・。

「ま・・・」

 しばらく逡巡した後、マドカが口を開く。
 ま?

「マスターのお母さんに聞いたんです・・・」

 ・・・は?
 頬を赤くして答えるマドカ。
 えーっと、なんだって?

「そ、その、これから旅をしていく中で料理をすることもあると思って、マスターのお母さんにマスターの好きなものを聞いておいたんです・・・」

 あー、そういや、出発の前の日おふくろといっしょに話してたっけか。
 娘ができたみたいだったらしく、すごい嬉しそうだったしなぁ。
 たぶんその時にでも話したんだろうな。

「そっか、ありがとな。けど、なんでそんなに慌てたんだよ」

 別に慌てるようなことでもないはずなんだが・・・。

「えっと、旅をするときに私が料理をすることもあるかと思って。だからマスターの好きなものを聞いてみたんです。その・・・それで、そのうち驚かせようと思ってたので・・・」

 ・・・あぁ、なるほどな。
 こいつはこいつなりにオレを喜ばせようとしてくれてたわけか。

「・・・あ」

 マドカの頭に手を乗せ撫でてやる。
 マドカは少し驚いたような顔をして、その後困ったような、照れたような顔をしていた。

「そのときは頼むな。楽しみにしてるから」
「っ! ・・・ハイ!」

 そう言ってやると元気のいい返事が返ってきた。
 こういう何事にも一生懸命なところはオレも見習うべきなんだろうな。
 しかし、蕎麦を作るってことは手打ちでもすんのか?

「・・・・・・・・・・・・」

 ふとアサギを見てみると憮然とした表情をしていた。
 あ? いきなりどうした?

「アサギ?」

 オレの呼びかけにハッとし、顔を真っ赤にするアサギ。

「わ、私だって料理くらい作れるわよ!」

 ・・・えーっと?
 あぁ、いや、それはいいんだが。マドカに対抗したのか?

「ん、まぁ、そのときは頼む」
「べ、別にあんたのために作るんじゃないからね!」

 ・・・どうしろと。
 そんなやり取りをしてるうちに全員あらかた食べ終わったようだ。
 十分休憩できたし、そろそろ行くか。

「よし、じゃあそろそろ・・・」

 ガサッ!

 言いかけたところで後ろの茂みから音がした。

「!」

 マドカとアサギが身構える。

 ガサガサッ!

 やや遠いところからだった音はだんだん近づいて、ってこっちに来てるのか。
 そして、

 バッ!

「えっ? わーっ! どいてどいてーっ!!」
「なっ!?」

 茂みから飛び出してきた黄色い物体は、

「きゃーっ!」
「ぐっ!!」

 オレの腹に思いっきり体当たりを喰らわせた。
 ・・・いってぇ。

「いたた・・・あぁっ! ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 突然のことにポカンとするマドカとアサギをよそに、そいつは倒れたオレの身体を揺する。
 バ、バカ、腹に喰らったせいで揺すったら・・・うっぷ。

 ガサ、ガサガサガサッ!

 茂みから再び音がした。まだ何かあるのかよ? しかもこの音は・・・複数か?
 その音にそいつはビクッとして茂みの方を見る。
 そして、

「ごめんなさいっ!」

 そう叫んで逆側へ走っていき、茂みの中に消えていった。
 あのしっぽは・・・ピカチュウか?
 直後、

「待てーっ!」

 さっきピカチュウが出てきた茂みから今度はたくさんの虫ポケモンが現われた。

「げっ!!」

 ちょっと待て、これはさすがにシャレにならん!!
 とっさに地面を転がって虫ポケモンの大群をかわす。
 そんなオレには目もくれず、そいつらはピカチュウが消えていった茂みの中へ走っていった。
 な、なんだったんだよ・・・今のは。

「マ、マスター大丈夫ですか!?」

 慌ててマドカとアサギが近づいてきた。
 とりあえず大丈夫だというように手をひらひら振ってみせる。

「まったくどんくさいわねぇ・・・」

 そう悪態をつくアサギだったが、その顔はどことなくホッとした感じだった。

「ごめんなさい、もっと早く私たちが動けたら・・・」
「いや、まぁ、しょうがないだろ、今のは」

 オレもまったく反応できなかったしな。情けねぇ。
 ゆっくりと立ち上がり、二人の頭をポンポンと軽く叩いてやる。
 しかし今のは・・・。

「マスター、今のってもしかして・・・」

 マドカもどうやら同じことを考えていたらしい。

「たぶん、追われてるん、だろうな。あの様子を見た感じだと」

 まぁ、待てって言ってたしな。

「ね、ねぇ、サイカ・・・」

 アサギが何か言いたげにそわそわしている。
 言わんとしていることはだいたい分かるが・・・優しいとこもあるんだな。

「あぁ、わかってる。行くぞ!」
「・・・うん!」
「はいっ!」

 何か事情があるのかもしれんが、何もあんな大群で小さい子を追いかける必要もないだろ。
 オレたちもまたピカチュウが消えていった茂みに向かって駆け出していった。


 しばらく走っていくと少し開けた場所に出た。
 そこではさっきのピカチュウが虫ポケモンに囲まれているところだった。

「もう逃げられないぞ!」

 リーダー格のスピアーが一歩前に出た。
 彼の怒声にピカチュウがビクッと身をすくませる。
 そして、スピアーがピカチュウに掴み掛ろうとした瞬間、

「ちょっと待ちなさーいっ!」

 その間にアサギが割って入ったのだった。あいつ、いつの間にあんなとこまで。

「なんだ、お前は?」

 邪魔をされたのが気に喰わなかったのか、苛立ちを隠そうともせずスピアーは問うてくる。

「まぁ、通りすがりのトレーナーってとこか」

 アサギに遅れて広場に出たオレが代わりに応えてやる。
 そんなオレをスピアーはきっと睨みつけてきた。

「なんのつもりか知らないが邪魔はしないでもらおうか」

 有無を言わさんとばかりの冷淡な声。静かな声だがその声は敵意に満ち溢れていた。
 が、残念ながらそういうのは慣れっこだからな。

「事情は知らんが、そんな小さい子をこんな大勢で追いかける必要もないだろ。何か理由があるんなら教えてくれないか」

 物怖じもせずにそう返したオレに、スピアーの顔が怒りで歪む。

「よそ者が何をいう! これはこの森に住む者の問題だ! お前らには関係・・・っ!?」

 言い終わる前に言葉が途切れた。

「関係ない、わけないでしょ・・・こんな小さい子をこんな大勢でどうしようってのよ!」

 どうやら怒りの頂点に達したらしいアサギが跳びかかっていたのだった。
 気持ちは分かるが、もう少し穏便に済ませようって気はないのか、お前は。

「くっ・・・いい度胸だ。お前ら、やれっ!」

 スピアーの号令と共に虫ポケモンがオレたちに襲い掛かってくる。
 ったく、仕方ねぇ!

「マドカ! 近寄らせるな!」
「はいっ!」

 マドカに「ひのこ」を放たせ、足止めをする。
 さすがにこの大群に一気に攻め込まれたらかなわんからな。

「アサギ! 頼むぞ!」
「まかせなっ・・・さいっ!」

 「ひのこ」で足止めをくらったやつらの間をアサギが縦横無尽に駆け回る。
 さすがは相性がいいだけあって、ものの数分で大勢はついていた。

「くそっ、覚えておけよ・・・引けっ!」

 忌々しげに吐き捨ててスピアーと虫ポケモンたちは引き上げていった。
 後に残されたのはピカチュウとオレたちだけ。

「大丈夫か?」

 この事態に対応しきれていないのかポカンとしているピカチュウに手を差し伸べてやる。
 しかし、

「いやっ!」

 その手はふり払われ、宙にさまよう格好になった。
 ・・・これは、怯えてる?
 ピカチュウは差しのべられた手を怯えたような表情で見ていた。

「あ・・・ご、ごめんなさい、ありがとうございました!」

 直後我に返ったのか、頭を下げ、そしてまた茂みの中へと入っていった。

「あ、オ、オイ!」

 すぐに声をかけるも、すでにピカチュウの姿は見えなくなっていた。

「・・・行っちゃいましたね」
「あんた、怖い顔でもしてたんじゃないの?」

 む、この顔はもともとだ。
 しっかし、本当になんだったんだろうな。ずいぶん怯えてたみたいだけど。
 そんなに怖い顔してんのか・・・オレ?

「行っちまったもんはしょうがないか。とりあえずオレたちも先へ行こう」

 あの後を追いかけたらさっきのスピアーたちと変わんないしな。

「そうですね。・・・ところでマスター」
「ん?」

 マドカが何か言いにくそうに視線をそらす。
 いや、気づいてはいる。気づいてはいるんだがいっそ言ってくれない方が。

「ここ、どこなんでしょう・・・」

 ・・・どこなんだろうな。
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