5スレ>>890

 何故、我らはこれほどまでに解り合えぬのだろうか。
 姿形はこれほどまでに人と近いというのに。
 何故、解り合えぬのか。

「ファイヤー、どうしたのじゃ?」

 目の前に陣取る氷の女王・フリーザーが不審そうな声をかける。

「む、すまぬ。惚けておったようだ」

 苦笑いをして、意識を切り替える。
 今は大事な場だというのに、余計な事を考えておってはいかんな。

「もう、頼むよ・・・ファイヤー。ぼくは早く帰ってゲームの続きしたいんだから」

 眠そうな目で不満を垂れるのは雷の化身・サンダー。
 相も変わらずこやつは徹夜で「げぇむ」をしておるのか・・・。

「しかし、ここは暑いのぅ。さすがの妾も溶けそうじゃ」
「そう言うでない。これが終われば常夏のリゾートとしゃれこもうぞ!」

 今、ここ、ともしび山の山頂で行われているのは、カントーで伝説の三鳥と呼ばれるフリーザー、サンダー、そして我、炎の不死鳥・ファイヤーによる会合である。

「妾としては極寒のリゾートの方が好みなのじゃが・・・」
「我が周辺の氷を溶かしてもよいのなら話は別だが?」
「・・・帰りたい」

 いくら人の間で伝説のポケモンと呼ばれようが、いくら数多あるポケモンの中で秀でた能力を持っていようが、有事でもなければこんなものである。

「そんなことより、早く話進めてよファイヤー。今回はきみが進行だろう?」
「うむ、冗談はさておき、今回の件だが・・・」

 しかし、我らもカントーの守護者ともいえる存在。それなりの役目は果たしている。
 今、こうして開いている会合も、ただの井戸端会議ではない。
 人とポケモンの調停者として、1年に数回、各々の棲家を場とし、なにか問題が起きていないか調査・解決することが目的なのだ。
 まぁ、会合の後、3人で揃ってリゾート気分を満喫することも多いのだが・・・。
 決してそれが目的というわけではない。断じてないのだ。

「どうやらグレン島でポケモンに対する研究が行われておるらしい」
「・・・またその手の問題? なんで人間ってぼくらを研究したがるかねぇ」
「大方兵器転用の可能性でも探っておるのじゃろう。下賤な人間の考えそうなことよ」

 フリーザーの言葉の通り、ここ数年ポケモンに対する研究が問題となる事例が多い。
 人間という種に比べ、我らポケモンは強靭な肉体と様々な能力を持っている。
 それゆえ、ポケモンを軍事目的や犯罪に利用しようとする人間が後を絶たない。
 むろん、「とれぇなぁ」と呼ばれるポケモンを正しきことに使う者がいることも知っているが、その逆も然りということだろう。
 ポケモンが悪事に使われるということ自体もさることながら、悲惨なのはそのポケモンたちの境遇だ。
 自ら進んで悪事に加担する者もいるにはいるが、ほとんどが無理矢理加担させられているのが現状だ。
 しかも利用価値がなくなるや否や「処分」されてしまう。
 種の違いはあれど、我々も生きるという点においては人間とさほど変わりはない。
 なぜ、種が違うだけでこれほどまでに我らは解り合えぬのだろうか・・・。

「んー、じゃあとりあえずその研究所を見に行こうか」
「そうじゃな、もし悪意のある研究であれば直ちに止めねばならぬ」

 これまでもそのような研究所を襲撃し、研究のため捕らわれていたポケモンを救いだしてきた。
 たとえ、それが焼け石に水のようなものであろうと我らにはその程度のことしかできない。
 ポケモンを守るため、いっそ我らが人を支配する側に回る、という考えもなかったわけではない。
 しかしそれは我らの本意ではない。我らは人間と共存する道を選んだのだ。

「よいな、ファイヤー」
「うむ、では行こうか」

 己が伝説の名を冠していながらその不甲斐なさに歯噛みしたこともある。
 それでも、いつかすべての人間と解り合える時が来るまで、幾許かのポケモンを救うことしか我らには出来ぬのだ。


 ともしび山を飛び立ち、我らはグレン島まで来ていた。

「ねぇ、ファイヤー、問題の研究所ってどれ?」
「うむ、あれだ」

 サンダーの問いかけに翼を向けて指し示す。

「ふむ、研究所というよりは屋敷といったところじゃのう」

 フリーザーの言う通り、報告のあった研究所はそれなりに大きくはあるものの、研究所というよりは屋敷に近かった。
 しかし、研究のカモフラージュのためという可能性もある、油断は出来ぬのう。

「フリーザー、迷彩は大丈夫か?」
「うむ、ぬかりはない」

 さすがに人目に付くのはまずいので、調査の際はフリーザーによる迷彩をしてもらっている。
 なんでも氷の粒を周囲に発生させることで、光を屈折させ見えなくしておるそうな。
 なんとも便利なものだのう。

「むー、窓が小さくて中が見づらいんだけど・・・」

 屋敷の窓は小さく中を確認するのはなかなかに骨の折れる仕事だった。
 さすがに屋敷内に潜り込むのは危険なため、致し方ないのだが。
 その後しばらく窓に張り付いて中の様子を探っていたのだが、研究所らしき部分はまったく見つからなかった。

「これほどの大きさとなれば地下があってもおかしくはあるまい。そうなると研究所は地下やもしれぬな」

 フリーザーの言うことも一理ある。だとすると、これ以上の調査は無理か。
 さすがに伝説呼ばれる三鳥が屋敷の中に入っては大騒ぎになるだろう。
 そうなっては調査どころの話ではない。

「ふむ、ならば一度戻って対策を立てねばな」

 そう言って、研究所を離れようとしたその時だった。


「お父様ー、早く早くー!」

 研究所の扉が開いて一人の少女が出てきた。
 あれは、ポケモンか・・・?

「ちょっと待ってよ。ほら、お父さん」

 続いて、少年に手を引かれた初老の男性が現われる。
 む? なんだ、一瞬何か引っかかったような・・・。

「ねぇ、お父様今日はどこに行くの?」

 ポケモンの少女は目をキラキラさせて、父と呼んだ男性の手を引く。
 ポケモンと人間でありながら、まるで本当の親子の様に。

「ふむ、そうだな。今日はナナシマの方に足を延ばしてみようか」
「やった♪ 私1の島の温泉に行ってみたい!」
「もう、そんなにはしゃいだら危ないよ」

 男性の言葉に少女はその場で嬉しそうにくるくると回って見せた。
 それを見て少年が少女を注意する。その姿もまるで兄妹のようであった。

「ははは、よし、それじゃ行こうか」
「うん!」

 男性はそんな二人の様子を見て楽しそうに笑い、手をつないで港の方へ向かっていった。


「ふぅ、行っちゃったね」
「うむ、しかしあのポケモンは見たことのない種だったようじゃが・・・」

 確かにあのポケモンの少女は今までに見たことのないポケモンだった。
 ただあの笑顔を見ていたら、何かひどく懐かしいような気もしたのだが・・・。

「おそらくは研究で生み出された新種のポケモンといったところであろう」

 やはりここは報告にあった通り研究所で、ポケモンの研究が行われていたことは確かだったようだ。
 しかし・・・。

「どうするのじゃ? まだ調査を続けるのか?」
「いや、その必要はなかろう」

 さっきの男性が見せたあの慈愛に満ちた微笑み、そしてポケモンを娘同然に扱うあの態度。
 研究が行われているのは事実なようだが、きっとそれはポケモンに害をなす研究ではあるまい。
 あの少女も信頼し切った表情で男性を父と呼んでいた。
 もしも悪意のある研究をされていたらああはいくまい。

「まったく骨折り損とはこのことじゃな」

 フリーザー曰く、氷の粒による迷彩は割と労力を使うらしく、我らに比べ彼女の疲れは相当なものだろう。
 だが、その顔は普段の怜悧で美しい表情とは違い、安心したように微笑んでいた。

「ふふ、よかったね、ファイヤー」
「うむ、そうだのう」

 我が人間とポケモンの関係で悩んでいたことを知って、こやつなりに気を使ってくれたのだろう。
 少しばかり「げぇむ」のことで小言を言うのも控えてやらねばな。

「それにしても、なんか懐かしかったな」

 サンダーがそう呟く。
 懐かしい? 同じことを考えた我は、その言葉にサンダーの方に向き直る。
 すると、フリーザーも驚いたような表情でサンダーを見ていた。

「ちょ、ちょっと、どうしたのさ二人とも。いや、ただあの女の子を見てたらなんとなく懐かしいなって思っただけで・・・」
「お前もか、サンダー・・・」
「では、フリーザー、お主も?」

 どういうことだ?
 我ら三鳥が同じく懐かしいと思える存在などそういないはずなのだが・・・。
 ただでさえ長い時を生きている我らだ。その我らが懐かしむポケモンとは・・・。

「なんだったのじゃろうな・・・あのポケモンは」
「まぁ、さほど気にすることもなかろう。もしかすると己の幼き頃を思い出したのではあるまいな?」
「ファイヤー、それ何千年前の話しだい・・・」

 たわけ、桁が一つ多いわ!
 確かに疑問は残るが、気にするほどのことでもない。
 あの少女に何らかの研究が行われているのだとしても、あれだけ幸せそうな顔をしているのだ。
 我らが介入して今の生活を壊してしまう必要もあるまい。
 いつかすべての人間とポケモンがあの子たちの様な関係を築ければ・・・。

「それでは調査も終わったことだし、リゾート満喫と行こうぞ!」
「うむ! かき氷もしっかりとつけるのじゃぞ!」
「・・・帰ってゲームしたい」

 調査が終わればこれである。
 決してこれが主目的ではないぞ。断じて違う。


 それからしばらく南国気分を満喫して解散となった。
 サンダーなどはずっと「帰りたい、帰りたい」と言っておったが、普段引きこもってばかりいるのだからたまには太陽の光に当たらねば健康にも悪かろうに。

「あ、お帰りなさい、ファイヤー様」
「うむ、ただいま」

 ともしび山につくとギャロップが出迎えてくれた。
 こやつには我の身の周りの世話をしてもらっている。
 昔、人に追われていたところを助けたら、我の棲家に押しかけて奉公を願い出たというところだ。
 件の研究所もこやつからの報告によるものであった。

「どう、でしたか?」

 恐る恐るといった感じで聞くギャロップ。

「詳しく調査したわけではないが、問題はなかろう」
「そうですか、よかった・・・」

 そう言って、ホッと息をつく。
 むぅ、こやつにまで気を使わせるほど悩みが表に出ておったか。少し気をつけねば。
 それにしても今日は面白いものが見れた。
 願わくばあの「親子」の幸せが末永く続かんことを・・・。


 その夜、何かに激しく揺り動かされるような感覚に目を覚ました。
 何だ? この胸騒ぎは?
 おびただしい量の汗をかき、嫌な予感が止まらない。
 その瞬間、ギャロップが寝床に飛び込んできた。
 息を切らせて駆け込んだその表情は顔面蒼白といったようだった。

「ファ、ファイヤー様! 大変です!」

 ギャロップが叫ぶや否や我は飛び出していた。
 我の直感が告げている。
 あの研究所へ向かえと。


 燃えていた。
 昼間、調査に来たばかりの研究所が赤々と炎をあげて燃えていた。

「そん、な・・・」

 目を疑う光景に、姿を隠すことも忘れ地上に降り立った。
 研究所はその多くの部分が燃えて崩れ落ち、建物の形をなんとか留めているような状態だ。
 火の粉が己の身に降りかかるのもいとわず、研究所に走り寄る。
 あの「親子」はどこに・・・!?
 そのとき、

「いたか!?」

 建物が崩れる音と共に怒声が響く。
 声の方を向くと黒ずくめの服を着た男が数人集まっていた。

「いや、いねぇ!」
「くそっ、あのガキどもどこへ逃げやがった!」

 ガキども・・・。あのポケモンのことか・・・。
 そうか、こやつらが・・・。

「そう遠くへは逃げてないはずだ! 草の根分けてでも探し出せ!」

 こやつらが、あの親子の幸せを・・・。

「お、おい! あれ・・・まさか!?」

 男の一人が我の姿に気づく。
 その言葉に他の男たちも我に気づき、一様に驚いた表情になる。

「で、伝説のポケモン、ファイヤーだと!? 本当にいたのか!」
「はっ、ちょうどいい! こいつも捕まえりゃ昇進間違いなしだぜ!」

 男の中の一人が我に向かって駆け出してくる。
 下賤な・・・あまりに下賤な人間よ・・・。

「・・・燃え尽きよ」

 我の言葉と共に炎の渦が辺りを包む。

「なっ、なんだと!? か、囲まれた!」
「馬鹿な!? これだけの炎を一瞬で?」
「お、お前ら! なんとかしろっ!」

 辛うじて炎から逃れた男たちが我に向かって己が手持ちを放とうとする。
 が、

 ズギャァァァァン!!!

「がっ!」
「ぎゃああっ!!」

 ボールを放る前に、エネルギーをまとった我の突進に為すすべもなく吹き飛んでいく。

「ぐっ、くそっ・・・」

 何故だ・・・。

「たかがポケモンのくせに調子に乗りやがってっ!」

 何故なのだ・・・。

「いけ! 自爆だ!」

 何故我らは・・・。

 ズドン!

「やったか!? ・・・なっ!?」

 これほどまでに強く望みながら・・・。

「ばっ、馬鹿な!? そんな馬鹿な!?」

 解り合えぬのか・・・。


 数分後、辺りには「人だったもの」が無数に転がっていた。
 研究所を燃やし尽くした炎は既にその火勢を失い、ほとんど消えかかっていた。
 我は、泣いていた。いや、涙は流れなかった。
 己が感情に呼応して燃えさかる我が身に、涙は流れるそばから蒸発していった。
 人間を憎むこともできず、ただただ己の不甲斐なさを呪うかのように、我が身を包む炎は収まることを知らなかった。


「・・・ヤー様、ファイヤー様!」

 ん・・・。
 近くで聞こえるやかましい声に重い目蓋を開ける。

「ようやく起きましたね。ご飯が冷めちゃいますよ!」

 寝ている我を覗き込むような形で、ギャロップの顔がすぐそこにあった。
 夢・・・か。

「それにしてもファイヤー様がお寝坊なんて珍しいですね。歳をとると朝が早くなるっていうのに(ボソッ)」
「うむ、いい度胸だ。そこに直れ」
「あ、あははっ、それじゃ早く来てくださいよー!」

 満面の笑みで凄みを聞かせると笑って逃げていった。
 まったく・・・。
 ・・・懐かしい夢だったな。
 あれからもう10数年ほどの歳月が経った。
 あの直後、辺りを探してみたが結局あの親子は見つからなかった。
 無事に逃げおおせたのか、それとも・・・。
 あの親子を救えなかったことは我の心に深い爪痕を残した。
 今までにもポケモンを救えなかったことなど何度もあった。
 伝説の三鳥と呼ばれていても、所詮その程度のものだ。
 では、なぜあの親子のことだけ、こうも強く思わずにいられぬのか。
 あの親子は、きっと我の理想だったのだ。
 種の違いを超え、互いを親子と認識できていたあの親子は。
 その使命を授かった時より常に思い描いていた人間とポケモンの理想の在り方。
 強く強く思い、願いながら、決して叶わなかった理想がそこにはあった。
 だからこそ、それを救えなかったことが深く深く胸に残る。

 我は今も人間とポケモンがいつか解り合うことを願ってやまぬ。
 虐げるでも、虐げられるでもなく、あの親子のように解り合えることを。
 だから我は一人でも多くのポケモンを守ろう。
 あの日、あの親子を救えなかった分も。
 いつか、この理想が現実となるその日まで。



駄文
 あ・・・ありのまま(ry
『おれは投稿をしたと思ったらいつのまにかリレーアンカを踏んでいた』
 というわけで約2カ月空きましたが、リレーSS:ファイヤーを書かせていただきました。
 なんかたまにはこんなファイヤーさんもありなんじゃね?的な感じで独自解釈が多くなっています。
 え? ポケモンの少女が誰かって? さぁねぇ・・・。

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最終更新:2011年05月03日 13:23
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