5スレ>>902

【】
「ん……ふあぁ……」

がたん、がたんと不規則に揺れる電車内。

まだ、まどろみのなかにいるような
気だるい感覚のなかで
俺はふと電光板を見やる。

【】
「……危ねぇ、降りんの次の駅だ」

時間は十時半を回り、
電車に乗ってから三十分程たったらしい。

夜勤明けの状態で乗る電車というのは
何にも勝る睡眠薬だろう。
出来ることならもう少し寝たいが……

【シェイミ】
「あ~、つーちゃん起きた~♪」

わざわざ休みの日に
仕事場まで迎えに来てくれた俺の友人、
シェイミのことを放って迷惑をかけるのも
申し訳が立たない。

【】
「悪ぃ、寝ちまってたよ……」

【シェイミ】
「夜勤明けなんだから仕方ないよ~?
それに~、つーちゃんの寝顔は可愛いから~、
ミーは眼福~」

【】
「やめてくれ……
男に『可愛い』って褒め方は……」

間延びした口調に再び眠気を覚え、
微妙に変態じみた発言をするシェイミに
脱力感が追い討ちしてくる。

次は~○○ヶ崎~、○○ヶ崎~。

そうこう言っている内に降りる駅、
俺の住んでる町へと到着する。

【シェイミ】
「この後どうする~?
おうちに行って一眠りする~?」

【】
「いや、昨日の昼間にたっぷり寝たから
今日は夜まで起きてられるはずだ。
このままショッピングに行こうぜ」

【】
「それにな、今日は近年稀に見る
最大のイベントがあるだろ?」

そう、今日は七月七日。
さんさんと太陽が照りつける快晴。

【シェイミ】
「今年は見れそうだよね~、たなばたさま」




正午前の、段々と暑さが増してくる繁華街。

特に何をするわけでもなく、
ちょっと気になるものがあれば
立ち寄ってみるウィンドウショッピング。

【シェイミ】
「さ~さ~の~は~さ~らさら~♪」

【】
「おいおい、まだ気が早すぎるだろ?」

歳が八つも離れているシェイミは、
十六にもなるのにあどけなさが抜けず、
まるで妹と接しているような感じだ。

これが、
俺がシェイミに告白できない理由の一つだ。

大の大人が未成年の(萌えもんだが)少女に
劣情を抱く……

それは社会的な立場からしたら
決して許されることじゃない。

だが、せめてショッピングを楽しむぐらいは
許されると願いたい。

……そして、今日は久しぶりに、
本当に久しぶりに晴れた七夕の日だった。

ここ五年程は、六日と八日が晴れるのに
狙いをすましたように七日は雨になる。

【シェイミ】
「『今年は忙しいぞ~!』
ってジラちゃん張り切ってたな~」

【】
「あぁ、やさぐれジラーチが
半ばこの町の名物になりかけたからな。
今日は彼女にとって最高の日なんだろうな」

仮にもでんせつと謳われる萌えもんが
町に住んでいて、
しかも自棄で甘酒飲みまくって
往来の場で不貞寝するのはこの町ぐらいだ。

そのでんせつ繋がりでシェイミは
ジラーチと仲が良い。

俺、何の力もない一般ピープルなのに、
そんな存在と肩を並べていいんだろうか?

【シェイミ】
「つーちゃん、
余計なこと考えてるでしょ~?」

【】
「え? あ、あぁいや……
そんなことないって!」

ぷう、と顔を膨らませて注意するシェイミ。

誰にでもそうなんだが、
自分のことをでんせつ扱いされるのを
嫌うんだよなぁ。

【】
「ほ、ほら!
早めにどっか飯の食える処に行こうぜ?
混んで待たされるの嫌だろ?」

【シェイミ】
「……何かはぐらかされた気がするけど~、
お腹空いたからまぁいっか~」

俺は冷や汗混じりにシェイミを説得する。

……昔、急に他人行儀というか、
敬う言葉を使い出した彼女の友人に
激しく怒ってシードフレアを放出して
パニックになったことがあった。

この辺一帯は壊滅してしまえるから、
そういった力で言えば
間違いなくでんせつだな。




【】
「っはあぁ~旨かったなー」

【シェイミ】
「ね~、今まで行った事なかったけど~
色んなメニューがあって楽しかった~」

心地良い満腹感に酔い、
オレンジジュースをちゅーっと飲む
シェイミに癒される。

俺達が入ったカフェテリア
『進化の系譜』。

随分怪しい感じの店名だが、
ただ単に店長がブイズ系で
店員がその娘達だということ。

【リーフィア】
「はーい、
夏野菜のハーモニーサラダになります!」

【グレイシア】
「……では、ご注文を確認します……
ブルーハワイのフラッペがお二つ……
アイスティーがお二つですね……」

【イーブイ】
「はい! でんぴょーここにおいとくよ~」

【ブースター】
「イーブイ、敬語忘れてるぞ?
申し訳ありません、お客様」

【イーブイ】
「あぅ~……ごめんなさいおきゃくさま~」

元気ではきはきした声。
大人しく、それでいて澄んだ声。
元気いっぱいだが、幼さを感じる声。
それを窘める、映える敬語の声。

【シェイミ】
「店員さんも色々で面白いよね~♪」

【】
「あぁ、元が皆イーブイだったって考えると
ここまで性格に変化が現れるんだなって
ギャップを感じるな」

【シェイミ】
「つーちゃん、
可愛い店員さん見れて嬉しい?」

【】
「き、急に何言い出すんだよ!?」

急な質問に俺が狼狽していると、
可愛い店員という言葉にぴく、と
ブイズ達がこちらをちらっと見てくる。

【シェイミ】
「じゃあ~嬉しくないの~?」

【】
「い、いや……そんなことはないけど……」

あぁ……言えるものなら言ってしまいたい。

〝シェイミを見ている方が、
楽しくて嬉しい〟と……

【リーフィア】
(って顔してるね)

【グレイシア】
(……ごちそうさま……)

【イーブイ】
(あのおねーちゃんいいなー)

【ブースター】
(お客様ではあるが、もげてしまえ)

う……何か今、悪寒が走ったような……?

【】
「そ、そろそろ出ようか。
午後も色々見て回るんだろ?」

【シェイミ】
「あ~そうだね~」

【】
「よ、よし! 俺会計してくるから
入り口で待ってて……」

きゅっ……

【】
「え?」

【】
「一緒に行こうよ♪」

がしゃん!

【イーブイ】
「あー! おねーちゃんおぼんがー!?」

【ブースター】
「あっ!? い、いや、これは……!?
す、すまっ……いや申し訳……っ!?」

【リーフィア】
「早く戻って戻って!! 胸、濡れて透けてる!」

【ブースター】
「えっ……!? ひゃあぁっ!!」

【グレイシア】
(……ふぅ)

シェイミが俺の手をとって手を繋ぎだす。

その後ろで何やら大きな音が聞こえた気がしたが
顔が真っ赤になって振り向くどころじゃないほど
カチンコチンになっていた。




その後は繁華街を離れ、
公園付近にある湖の畔をゆったり歩き、
清涼感を楽しんだ。

気が付くと、辺りはオレンジ色に染まり、
心なしか吹き抜ける風が肌寒く感じる。

【シェイミ】
「つーちゃん、大丈夫~? 眠くない~?」

【】
「大丈夫だよ。
それよりシェイミこそ寒くないか?」

【シェイミ】
「つーちゃんと一緒だから大丈夫~♪」

……おいおい、そんなこと言われると、
歯止め利かなくなっちまうだろ?

いつからだろう、こんな関係に……
こんなに歯痒くて辛くなったのは……

二十歳くらいのとき、まだ学生だった頃は
こいつと遊んでいても何も思わなかったし、
寧ろ歳近い彼女をつくろうなんて
躍起になってたんだよな。

それが、今の仕事に就いて暫くしてからも
シェイミは離れることなく一緒にいた。

段々と子供から少女へ……女性へと
成長していく彼女を見ていつの間にか……

妹のようだと言ったが、
これはもう自分に言い聞かせているのだ。

今も、手すりに乗り出して湖越しに
空を見上げる姿はあどけなさの中に
確かに女性を感じた。

もう、シェイミしかいない。
彼女しか見えない。

でも、それは決して許されない。

そんな中で、二人で決めたこの七夕デート。

もし晴れて、
願いを叶えられるのだとしたら……

俺は、この苦おしい想いを、
忘れてしまえるよう、
……普通にシェイミと遊べるよう願う。

それが、苦しまなくてすむ道だから……




辺りはもう闇が訪れ、
空には星々が瞬き、
織姫と彦星が逢瀬を楽しむ絶好の天候だ。

締めくくりに星が良く見える
この海浜公園にきた訳だが……

そういえば、俺は家にある笹に
願い事を吊るそうとしていたが
それだと七夕デートといえるのだろうか。

シェイミは何か願い事はないのか……

【】
「つーちゃん、ミーのお願い、
聞いてくれるかな?」

いつもの間延びした口調じゃなく、
真剣で、何処か物悲しく響く
シェイミの声。

【】
「ん? あぁ、俺に出来ることなら……」

その言葉に、俺は出来るだけ優しく
話しかけることにした。

【シェイミ】
「……あと二年……ミーを待ってほしいの」

あと二年……?

【シェイミ】
「あと二年したら、ミーは……
私はもっと素敵なレディーになってるから、
だからっ……あと二年だけ……待って……」

【】
「…………」

……あぁ、そうだったのか。

辛かったのは俺だけじゃかった。
シェイミも俺と同じ……
いや、それ以上に苦しんでいたんだ。

それなのに……俺は自分のことばかりを……

【】
「……いつまでも、待ってる」

【シェイミ】
「ひっく……ほ、ホントに……?」

【】
「ずっと、一緒にいる……
この星空に誓うよ……どんなに曇っても、
俺はシェイミを待つ彦星になるって……」

小刻みに震えて涙する恋人を、
優しく、包むように抱く。

その後、彼女は何かが決壊したかのように
わんわんと泣き出した。

悲しい涙じゃない、暖かい涙だ。

俺は、この時、短冊に書く願いを
変えようと思った。

想いを忘れるのではなく、
訪れる未来への想いを大切にするために。

いつまでも
シェイミと一緒にいられますように

星が瞬いて、二人を優しく照らした。



                                 おわり
























あとがき

シリアス部分って難しいですね。
不器用な二人が行き着いた、幸せな願い……
皆さんには伝わったでしょうか?

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最終更新:2011年07月18日 12:15
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