5スレ>>903

 ルイザを仲間に加えたオレたち一行はニビシティに来ていた。
 『鈍』シティって割には緑も多いし、けっこうきれいなとこだよな、ここ。
 昨夜はポケモンセンターで一夜を明かしたわけだが、今日もいい天気だし、旅をするにはもってこいだな。
 とりあえず朝飯にするため、隣の部屋のドアをノックする。

「入るぞー」
「あ、マスター、おはようございます」
「おはよう、お兄ちゃん!」
「うぅ・・・眠い・・・」

 一声かけて、部屋に入ると手持ちたちは既に起きていた。
 一人寝ぼけてるのがいるけどな。

「ほら、アサギちゃん、しっかり起きて」
「アサギちゃん、ご飯だよー」
「むー、ごはんー・・・」

 マドカはともかく最年少のルイザにすらこの扱いである。
 しかし、さすがに性別の違うルイザを同じ部屋にするのは悩んだんだが、やっぱりポケモン同士同じ部屋にしたのは正解だったみたいだな。
 三人ともだいぶ打ち解けたみたいだ。まぁ、最初から心配する必要もなかった気がするが。

「おい、アサギ、いい加減に起きろ。飯行くぞ」
「うー、朝ご飯・・・食べるー」

 どんだけ寝ぼけてんだお前は。
 まったく普段はあれだけきつい性格してるくせに・・・。

「いただきまーす・・・」

 いただきます、って・・・オイ!

「・・・アーン」
「バッ、バカ、アサギ、起きろ! うわっ!」

 ドシャッ
 寝ぼけたアサギに押し倒される形で床に倒れこむ。

「えっ・・・うーん、何ぃ・・・?」

 その衝撃でアサギの目が覚める。
 そして目の前にあるのはオレの顔。

「えっ!? サ、サイカ!? なっななな、なっ・・・?」

 見る見るうちに顔が赤く染まっていく。
 そして・・・

「い、いやーーーーーっ!!」

 バチィッ!
 痛ってぇ!
 思いっきり平手打ちをかましてアサギは部屋を走って出ていった。
 ったくあのバカは・・・。

「マスター・・・?」

 不意にマドカから声がかけられる。
 お前も見てたなら見てたで助けろよ、と思いながらそっちを見ると。

「・・・・・・・・・・・・」

 そこには満面の笑みのマドカがいた。
 のだが、なぜかその笑顔にはものすごい迫力があって・・・。
 気のせいか頬が引きつってるように見えるんだが。

「マ、マドカ・・・?」
「それじゃ行こっか、ルイザちゃん」
「えっ? けど・・・」

 ルイザはこの場をどうしたものかオレとマドカの顔を交互にうかがう。

「行こっか・・・?」
「う、うん・・・」

 が、マドカの迫力に押し切られる形で首を縦に振るのだった。
 二人も部屋を出て行って後に残されるのは床に転がるオレ一人。

「いや、オレがなにしたってんだよ・・・」

 その言葉に答える者はなく、ただ空しく響くのみであった。


『第四話 信頼』


 朝飯を食べ終わったオレたちはひとまず街を散策することにした。
 普段、あまり外に出ない生活をしてたせいか、街を歩くだけでもけっこう新鮮な気分になる。
 しかし、朝飯の時の気まずさと言ったらなかったな・・・。
 マドカは相変わらず笑顔なのになぜか有無を言わさぬオーラが出てたし、いつの間にか食堂に来てたアサギは目が合ったかと思ったら顔を真っ赤にしてそっぽ向くし。
 ルイザが唯一オレを気にしてチラチラこっちを見てくれてたんだが、なんかその視線すらも辛く感じる始末で、ひたすら無言で黙々と飯を食ってた。
 なんか朝飯のメニューすら覚えてないな。何食ったっけか・・・?
 アサギはともかく、なんでマドカまで機嫌悪くなってるんだか。・・・機嫌悪いんだよな、あれ?
 ともかくこいつらの機嫌を直すためにも、なんかないかと街を散策してるわけなんだが、あんまりこれといってないしなぁ。
 そんなことを考えながら歩いていると、ひときわ大きい建物が見えてきた。
 あれは・・・博物館か?
 うーん、博物館でこいつらの機嫌が直るとも思えないんだが、他に行くとこもないしな。

「なぁ、あそこの博物館行ってみないか?」

 ひとまず提案だけはしてみる。

「えー、博物館なんてつまん・・・」
「行きます!」

 否定的な反応を示すアサギをさえぎって返答したのは、

「・・・マドカ?」
「えっ、あっ、すいません・・・つい」

 予想外にも機嫌が悪かったマドカだった。

「いや、別にかまわないんだが・・・んじゃ行くか」
「ハイ!」

 博物館とか好きなのか、こいつ?
 なんにせよ機嫌は直してくれたみたいだし、結果オーライってとこか。

「アサギもルイザもいいな?」
「んー、まぁいいけど・・・」
「うん、ボクも大丈夫だよ」

 アサギもしぶしぶとだか承諾し、オレたちは博物館の中に足を踏み入れた。


「ちょっと、ちょっとサイカ見てこれ! すっごーい!」
「ア、アサギちゃん、大声出しちゃダメだって」

 なんでお前がはしゃいでるんだよ。
 入ってすぐはつまらなそうにしていたアサギだが、化石の展示を見るやいなやはしゃぎだした。
 それをたしなめるルイザ。本当にどっちが年上か分からんな。
 そして、

「・・・マドカ、楽しんでるか?」
「あ、ハイ、楽しいですよ」

 オレの声に反応し、笑顔を見せてくれる。
 バタバタはしゃぐアサギに比べ、マドカは展示物を黙ってじっと眺めていた。
 その見た目があまり楽しんでるように見えなかったので聞いてみたんだが、杞憂だったらしい。
 まぁ、そりゃそうだな。博物館であんなはしゃぐ方がイレギュラーだし。

「それにしてもお前がこういうところ好きだったってのは意外だな」

 そう言って笑ってやると、マドカは不意に真剣な顔になって――

「・・・ここはずっと来たかった場所ですから」

 ずっと、か。
 昔の記憶があまりないオレが言うのもなんだが、オレもこいつのことはよく知らないんだよな。
 ルイザはトキワの森でずっと暮らしてたみたいだし、アサギも野生だったからおそらくそんな感じなんだろう。
 じゃあ、こいつは、マドカはどうなんだ?
 こいつはオーキド博士から渡されたポケモン。
 博士が子どもに渡すポケモンは人に慣れさせるため、捕獲後しばらくの間、博士が預かる形となる。
 だとしたらその前は?
 こいつはオーキド博士の元に来る前、いったいどこでどうやって暮らしていたんだろう。

「マスターと・・・いっしょに来れてよかったです」
 
 ザッ・・・

 ・・・なんだ?

 ザザザザザ・・・

 視界に、ノイズが走るような感覚。
 いや、視界というか、これは・・・意識?

『・・・だ、閉まって・・・』
『・・・方ない・・・また・・・度・・・よう』
『は・・・ねぇ・・・一緒・・・』
『・・・約束・・・』

「・・・ター? マスター!?」

 オレの名前を呼ぶ声にハッとする。

「マスター、大丈夫ですか?」

 どうやら数瞬の間呆けていたらしい。

「あ、あぁ、大丈夫だ」
「そうですか、よかった・・・」

 そう言ってホッと胸をなでおろすマドカ。
 今のは・・・なんだったんだ・・・?
 ノイズがかかったような風景に一瞬見えたのは・・・この、博物館?
 けどあれは、まだ、閉まってた?
 じゃあ、あれは・・・過去の風景?
 オレの・・・記憶?
 そして、あの声。
 少し幼い声と・・・よく知った声。

「マスター、もしかして気分が悪かったり・・・」

 ドクン!

 押し黙ってしまったオレに、マドカが心配そうな声をかける。
 そう、あの声は、この声に、マドカの声によく似ていた。

「いや、大丈夫、少し考え事をしてただけだから」

 あれがオレの記憶だったとして・・・オレの記憶の中に、マドカがいた?
 どういうことだ・・・?
 それともただ似てる声のヤツがオレの近くにいた?
 昨日、お袋にまで確認したばっかりだっていうのに、また疑問がよぎる。
 オーキド博士の元に来る前のこいつ。
 こいつは、マドカは、いったい・・・。

「すいません・・・マスターのことも気にせず、自分ばっかり楽しんで・・・」

 あ、まずい。
 オレの顔色を見て、本気でへこみ始めてるな。

「いや、本当に大丈夫だ。悪いな、心配かけて」

 うつむく頭を軽く撫でてやる。
 ・・・なんだかな。
 旅を初めてどうも考え込んでしまう癖がついたような気がする。
 まだ二日目だってのにいろいろ考え込んでも始まらないよな。
 焦ることはない。こいつのこともおいおい知っていければいい。

「お前が楽しんでくれたなら、オレにとっても何よりだよ」

 そう答えてやると俯いた顔をあげて、嬉しそうに微笑むのだった。

「サイカー、早く早くー! こっちにもっとすごいのあるわよー!」
「ア、アサギちゃーん・・・」

 ・・・・・・。
 空気をぶち壊す声に振り向くと、ルイザがアサギに引っ張り回され息も絶え絶えな状態だった。
 何やってんだ、お前ら・・・。


「あー、楽しかった!」

 そりゃあんだけはしゃげれば楽しかっただろうよ。

「ボ、ボクは当分博物館はいいや・・・」

 あぁ、なんだ・・・スマン。お疲れ。

「フフ・・・マスター、次はどこへ行きますか?」

 各々の反応を見ながら楽しそうに笑うマドカ。
 もう完全に機嫌は直ったみたいだな。

「あぁ、とりあえずこの街のジムに行ってみようと思う」

 ここニビシティにはポケモンジムが存在している。
 本当はトキワシティにもあるにはあったんだが、ジムリーダーが不在のため閉まっているようだった。
 ポケモンリーグに挑戦するためには各ジムのリーダーに勝ってジムバッジを集める必要がある。
 そのため、リーグを目指す者にとって各地のジムは避けて通れない道というわけだ。

「ついに初のジム戦か・・・腕が鳴るわね!」

 手をパンと鳴らし、気合を入れるアサギ。相変わらず好戦的だよな、お前は。
 ふとルイザを見てみると、

「・・・・・・・・・・・・」

 ん? あぁ、なるほど。
 不安そうな顔でうつむくルイザの頭を軽く撫でる。

「あ・・・・・・」
「安心しろよ、別にお前を戦わせようってわけじゃないんだから」

 たぶん、自分もバトルに出されるんじゃないかって思ったんだろうな。
 なにせジム戦といえば総力戦みたいなもんだ。
 もし負けそうになったら自分が出されるかもなんて思っても仕方がない。

「あ、うぅん、そうじゃなくって・・・みんなが頑張ってるのにボクだけ戦わないっていうのが・・・」
「そういうことか・・・けどその気持ちだけで嬉しいよ」
「そうだよ、無理しちゃダメだよ? ルイザちゃん」
「大丈夫よ! アタシとマドカの二人でぜーんぶ倒しちゃうんだから!」
「・・・うん」

 口々に励まされルイザの顔にも笑顔が戻る。
 こいつにもいろいろと葛藤があるんだろうな。
 いずれは自分の力を克服したいんだろうけど、電気を使うのがどうしてもためらわれる。
 いっしょに戦いたくても戦えない。そんなジレンマが。
 けど、きっとそれぞれにあったペースがあるはずだ。
 自分は自分のペースで歩いていけばいい。
 そして、いつかその力を克服できたら、いっしょに頑張ろうな、ルイザ。

「いいんだよ、だって仲間だもん」
「そうよ、何か悩んでるんだったらちゃんと言ってくれなきゃダメよ!」
「うん! みんな、ありがとう!」

 それにしても頼もしい奴らだよ、ホントに。
 たった一日でこうも仲間としてまとまってるんだからな。
 こいつらとならきっといけるよな、頂上まで・・・!


「いや、無理だろ、これは」

 ニビジムの前の看板を見て呟く。
 各ジムの前にはジムリーダーの名前と紹介の載った看板があるんだが、

『リーダー タケシ 強くて硬い石の男』

 この紹介はジムリーダーの手持ちポケモンを指していることがほとんどだ。
 強くて硬い石の男ってことは十中八九いわタイプポケモンの使い手。
 対してこっちはマドカがほのおタイプにアサギがひこうタイプ、相性は最悪だな。
 しかも同じトレーナーに復帰したばかりのアマネならともかく、ジムリーダーは歴戦のトレーナーだ。
 ちょっとやそっとの小細工で不利を覆せるような相手じゃない。

「うーん、確かにこれはちょっと厳しいかもしれないですね」

 だな、せめて有利なタイプの仲間がいるか、こちらのレベルがもう少し高けりゃいいんだが。

「えー、せっかくやる気になってたのにー」

 いやなぁ、さすがにこれは。
 それにこいつに関してはリンに負けた時の泣き顔も見てるし、あんな顔をさせるのはもうゴメンだからな。

「仕方ないな、ここのジムは後回しにして次の街へ向かうことにするか」

 仲間を増やすか、もう少し強くなってからまた挑戦しに来ればいい。
 そう思って、踵を返そうとした時だった。

「おまえ・・・! ポケモントレーナーだろ?」

 ジムの扉が開いて一人の男が飛び出してきた。

「あぁ、そうだが・・・」

 返答すると男はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
 ・・・なんだろう、すごく嫌な予感がする。

「タケシが相手を探してる・・・こっちにこい!」

 そういうや否やオレの手を掴んでジムの中へ引っ張り込む。

「ちょ、ちょっと待て! オレは・・・」
「マスター!」

 不意を突かれたこともあって踏みとどまる暇もなく、ジムの中央に放り出される。
 マドカたちも慌てて後を追ってきてくれたが・・・。

「ほう、お前が次の相手か」

 目の前に仁王立ちしてる男が静かに呟く。
 こいつが、ここのジムリーダー・タケシか。
 ・・・なるほど、確かに頑固そうなやつだ。

「いや、オレはむりやり連れ込まれただけで、別にアンタと戦う意志は」
「逃げるのか・・・?」

 くっ、一言で場の空気を支配しやがった。
 そう言われると、どうもな・・・。

「なに言ってんのよ! アタシたちが逃げるわけないでしょ!」

 そりゃお前はそう言うだろうな。

「別にかまわんさ、相手の力量を見てかなわないと思ったら尻尾を巻いて逃げ出すのもトレーナーの資質だ」

 それはその通りなんだが、言い方が、なんか・・・ムカつくな。
 いや、これは向こうの挑発か。
 あの様子だとこっちの手持ちが不利なのもわかってるみたいだな。
 安易に挑発に乗ったら向こうの思うツボか。

「まぁ、たとえ不利であったとしても、それを覆すのがトレーナーの仕事だがな。
 それもできないようではトレーなどとはとても呼べん」

 ・・・ジムリーダーになるためには挑発も上手くないとならんのか・・・?

「こんのっ・・・! 言わせておけば・・・! ちょっとサイカ、アンタもなんか言い返しなさいよ!」

 とりあえずお前は落ち着け。

「マスター・・・」

 そのとき、今まで静かだったマドカが不意に口を開く。
 そうだ、お前ならこの場をなんとか・・・。

「闘いましょう」

 ・・・は?
 予想外の言葉にマドカを見ると、その目は見たこともないような目で。
 強い意志を宿し、タケシを射抜くように見据えている。

「マ、マドカ・・・?」

 よほど予想外だったのか、アサギまで戸惑ったような声を出す。

「マスターはあなたなんかに負けたりしない!」

 タケシを指さして叫ぶ。
 それはトキワの森でも見せた、きっと、マドカの心からの叫び。

「ふっ、ずいぶんと威勢のいいことだが、お前のマスターは・・・」
「やるさ」

 タケシの言葉をさえぎって、そう返してやる。
 まったく、手持ちがここまで奮起してくれてるっていうのに、オレは何やってるんだかな。
 あいつの言うとおりだ。不利を覆すのがトレーナーの仕事。
 そしてオレの手持ちたちは、それだけオレのことを信頼してくれてる。
 それに応えてやらないなんざ、それこそトレーナーの名折れだな。

「そうか・・・ならばニビジムリーダー・タケシ全力で相手しよう!」

 タケシの顔が真剣そのものといった顔つきになる。
 さっきまで意地の悪い笑みを浮かべてたっていうのに、これがジムリーダーたる者の貫録か。

「相手にとって不足はなし、というか十分すぎるくらいか。
 けど、やるからには勝つぞ」
「任せてください!」
「当然っ!」

 こんなにも頼もしい奴らがいてくれるんだ。
 たとえこっちがどんなに不利であろうと、それをひっくり返してみせる。
 こいつらの信頼に応えるために!

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最終更新:2011年11月11日 00:25
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