2スレ>>475


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「ミュウツー、サイコキネシス!」
ミュウツーの放つ強力な念動力が相手のカイリキーを一撃で粉砕する。
自分の仲間でありながらも、理不尽とも思える破壊力だ。
相手の空手王は、慌ててカイリキーに元気の塊を投与。
俺になけなしの金を支払い、カイリキーと共に砂浜に駆けていった。
「うぉぉぉぉぉっ! カイリキー!
 砂浜走りこみ、百本いくぞぉぉぉぉっ!」
「押忍!」
というやり取りを残して。
ほてりの道――特に灯火温泉付近の海岸線では、
沢山の空手王やバトルガールが己の萌えもんと共に修行に明け暮れている。
何度見ても苦笑してしまうこのお約束を見届けてミュウツーに振り返った。
「色んな人が居るだろ?」
「あ、ああ……」
返ってくる声はかなり弱々しい。
恐らく圧倒されているのだろう。
なんせ、ハナダの洞窟から出てきてまだ一ヶ月だ。まだまだ体験したことのない出来事は五万とある。
さまざまなタイプのいる萌えもんトレーナー。その多くが自分の萌えもんと心を通わしている。
その方法は人によりけりだ。
空手王やバトルガールのように共に研鑽に励むもの。
サイキッカーとそのパートナーのように超能力で心を通わすもの。
友達のように遊び信頼関係を築き上げる、短パン小僧や虫取り少年。
様々な人との出会いが、ミュウツーの中の人間というものを少しずつだが変えていった。
よーし、恒例のお楽しみだぁ! と仲間を引き連れて歩く俺をミュウツーが寂しそうに見つめていたのに、
俺は気付くことができなかった。

かぽーん
戦闘後のお楽しみがこの灯火温泉だ。
混浴ということもあり俺は遠慮したのだが、皆に引きずり込まれて以来この状況を甘受している。
「はふぅ……。いいお湯ですぅ」
「ああ、やはりここはいい」
「ふふ……本当ねぇ」
「ほてりの道まで来たんだから、入られずに帰れるかってんだ」
「カイリューさん、あんまり大きな声は……」
「…………」
今回、ピジョットはお留守番だ。
ミュウツーの見聞を広げるなら色々なタイプと触れ合ったほうが良いという判断だった。
ピジョットとミュウツーって似てるのかねぇ?
ミュウツーは完全にだんまりだ。
男の俺が居るから居心地が悪いのかとも思ったが、それにしては様子がおかしい。
ああ、
「そうか、初めてだもんなぁ。ミュウツー」
ポンと手を打つ俺になにやら恨めしそうな目を送ってくれるミュウツー。あれ?
「初めては優しくしてあげなきゃだめよ、ご主人様」
おい、キュウコン。混ぜっ返すなよ。
少々危険なキュウコンの発言を、目で諌めつつ俺はミュウツーに向き直った。
「なぁ、ミュウツー。もしかして、俺についてきたこと、後悔してるのか?
 なんだったら――」
と、ここでミュウツーを除く五人娘による頬つねり攻撃が俺に炸裂。痛い。
しかも目が笑ってないから怖い。だが、負けてなるか。
ムキになって俺もフシギバナの頬を引っ張る。うん、実に良い引っ張り具合――
――バシッ
――え?
強力な念動力で弾き飛ばされる俺。
幸いなことに、慌ててたように逆ベクトルの力が働いて、俺は無傷だった。
視線の先には呆然とした表情のミュウツー。
「ご主人様。彼女と話をさせてもらっても良いですか?」
フシギバナの声があまりにも冷静で、俺は無意識のうちに首を縦に振っていた。
そして、俺は灯火温泉から追い出されたのだった、まる。


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「ミュウツーさん」
フシギバナの声が落ち着いているのを感じ取り、ミュウツーはフシギバナを見た。
その顔は微笑みに彩られていた。
他の萌えもんも微笑ましそうにミュウツーを見ている。
その視線が妙にむず痒くてミュウツーは顔を背けた。
「らしくないことなど、分かりきっている」
ポツリ、とミュウツーは拗ねるように呟いた。
そんなミュウツーの反応にキュウコンがミュウツーを諭した。
「あなたはただ持て余しているだけ。さっきのも、貴女の反応を見越しての行動だしね」
見透かされているということに、ミュウツーはひどい羞恥を感じた。
何故羞恥を感じるのか。そして、自らのトレーナーに抱くこの感情は何なのか。
他者との関わりを極端なまでに断ってきた彼女には、
この感情は理解できない――知らない感情であった。
「ま、口で言っても分かることじゃねぇよなぁ」
頭をポリポリしながらカイリューは困ったように肩を竦める。
「まぁ、そのうち嫌でも自分で気付くだろう」
グレイシアの言葉を最後に萌えもんたちの会談は打ち切られた。
そして、翌日からミュウツーの苦悩の日々が始まるのだった。


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一日目・マスターとピカチュウ
灯火温泉での一件以来、なにやらマスターを見るのが気恥ずかしくなってしまい、
今もちょっと離れたところからマスターを観察している。
遠征が続いたこともあり、数日程はヤマブキシティのポケモンセンターを拠点として
周囲のトレーナーとの研鑽を続けるそうだ。
そんなちょっとした――以前の私には想像できない平穏な生活の中、
ふと気付けばマスターのことを考えていることに気づいた。
不快なわけではないのだが不可解だ。
思考の渦に呑み込まれて悶々としている私は、視線の先にマスターとピカチュウを捉えた。
小柄なこともあり、マスターに抱かれることが多いピカチュウ。
フシギバナやカイリューなどは羨ましがっていたな、と思いつつ観察を続行する。
ここしばらくの疲れが溜まっていたのだろうか。
萌えもんセンターのベンチで、帽子をアイマスクに眠るマスターは普段感じさせない
年相応の少年さが見て取れた。
そして、その胸の上には丸くなってマスターと共に寝息を立てるピカチュウ。
とくん、と心臓が脈打つのを感じた。
眠りながらもピカチュウの頭を撫でるマスターと、
くすぐったそうにそれを受け入れるピカチュウ。
その行為を見て、ハナダの洞窟奥地で頭に乗せられた手の温かさを思い出し、
私は顔を火照らせた。
気付けば、マスターに抱かれている自分を想像していた。
あまりの気恥ずかしさに、私は慌てて外へと逃げ去った。



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二日目・マスターとフシギバナ
先日の教訓を生かし、今日は野外を散策することにした。
南から吹く潮風に誘われて私は、クチバの方面へと足を向けた。
海に面していたとはいえ屋敷に篭りきりだったグレン島。
ただただ外界との接触を断ったハナダの洞窟。
生まれてからのほとんどをそのような環境で過ごした私にとって、
海の匂いは未だに憧れなのだ。
太陽も穏やかに日を照らし、実にいい陽気だ。
フシギバナあたりなら日向ぼっこでもしているのだろう、
と思考を回していると日向に人影を見つけた。
フシギバナとマスターだった。
あまりにも自然だった。違和感など微塵もない。
聞けば、マスターが初めて受け取ったのが彼女だという。
だからか、マスターとフシギバナの組み合わせは当然と思えるほどに違和感がなかった。
トレーナーとしての苦難の傍には常に彼女の存在があったのだろう。
一体何度、彼女と微笑を交わしたのだろうか。
一体何度、彼女と涙を流しあったのだろうか。
悔しいが、彼女以上の理解者になるのは難しいだろう。
悔しい? 悔しいのか? 私は……
突然吹いた突風に煽られ、雫が宙に舞った。
それが自分の涙だと認識するのに、私は数秒を要した。


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三日目・マスターとカイリュー
なんなんだ、このエンカウント率は。
思わずそう呟くほどに私の精神は磨耗していた。
一昨日といい昨日といい、呪われているのだろうかと思えるほどのエンカウント率だ。
別にマスター一人なら問題はないのに、と考えてしまうあたり自分が救えない。
そんな私に追い討ちをかけるかのようにカイリューとマスターに遭遇。
カイリューは非常に勝気なタイプでお転婆を通り越したような萌えもんで、
そのざっくりばらんな気質は非常に気安く話すことが出来る。
私もよく取り留めのないことを話しているが、その裏表のない性格には素直に好感が持てる。
むしろ、彼女のようなタイプは稀有だったのだ。私の周りでは。
そんな彼女はご主人様と談笑している。
フシギバナとはまた違った形で心を通わせているのが手に取るように分かる。
カイリューと話しながらも満面の笑みを浮かべるマスター。
なんだか、その笑顔が妙に苦しかった。
傍から見れば親友に見えるあの二人。
でも、カイリューの瞳に見えた色は友情よりも濃いものだった。
そのことに対して、私はまた心を曇らせた。
ここ数日で急に大きくなったマスターへの気持ち。
私は、まだこの正体を突き止めることが出来ないでいた。


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四日目・マスターとグレイシア
流石に疲れてきた。
マスターと仲間が二人で居ることに対して悩みすぎている自分が問題なのだが、
こうも連日だと、流石にうんざりしてくる。
そして、ふと視線を前に見れば……嗚呼、まただ。また、私の心がかき乱される。
マスターと共に居るのはグレイシアだ。
非常に実直な彼女は何かと頼りになる存在だった。
マスターと背中合わせに本を読むグレイシア。
散々、自分は感情を表現するのが苦手だと言っていたが、私からすれば決してそうではない。
グレイシアの目は活字を追っているのだろうが、気付けば虚空を眺めている。
ああ、私と同じなのだ。
あの目は――他の萌えもんと二人きりのマスターを見かけたときの私に似ている。正確には、ありもしないことを空想している私と。
このまま抱きしめてくれたら、と思っているのだろう。
視線が背後にちらちらと向いている。そろそろ私も限界かもしれない。
踵を返して来た道を戻ろうとしたとき、ふと誰かの囁きが聞こえたような気がした。
――強情だな


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五日目・マスターとキュウコン。そして……
うろつく気も湧かなかった。
折角の休暇であるのに、逆に疲れてしまった感が否めない。
窓から外の風景をチラリとみて――瞬間凍りついた。
キュウコンがマスターの背中に抱きついているではないか。
いや、落ち着け。勝負に勝った褒美だといっていつも抱きついていたではないか。
そう、いつもの光景なのだ。違うのは私の心情か……。
一旦落ち着きかけた私の心情を再び崩したのは、キュウコンがマスターの耳を口に含んだことだった。
そして、これ見よがしにこっちを見上げたのだ。
「――――!」
瞬間、サイコキネシスを発動しそうになるのを必至で堪えた。
余波で布団が吹き飛んでしまったが、今の私にそんな余裕はない。
巻き起こる嫉妬の渦。必至で自制しないとどうにかしてしまいそうだった。
嫉妬? 何故私は今の感情を嫉妬と判断したのだ?
自然だった。あまりにも自然に結論に帰結してしまって、疑問すらもてなかった。
嫉妬という感情の芽生えはきっかけ。
私の中に眠っていた感情の覚醒のきっかけ。
嗚呼、この感情はあまりにも温かい――


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六日目・マスターと私
「ミュウツー、サイコキネシス!」
念動力の一撃がオコリザルを戦闘不能にする。
「ッチ! 使えねぇ野郎だぜ!」
悪態を吐きながらオコリザルを回収する暴走族。
彼の言葉には怒りを覚えたが、堪えた。
人間が愚かな生き物であることは私が一番良く知っている。
そして、人間の中にも善い人間が居ることも知っている。
暴走族に侮蔑の視線を送ると、私はマスターの元へと戻った。
「お疲れ様、ミュウツー」
弾けるような笑み。やはり、自分に向けられているものを見るのが一番良い。
そして、思いついた。ああ、こうすれば――
「マスター。ここまで私は頑張ったのだ。
褒美の一つや二つ、あってもおかしくはないと思うのだが……。いかがかな?」
事実だ。セキチクシティへと向かう途中のサイクリングロード。
暴走族やらスキンヘッドの溜まり場となっているこの場所を、ほとんど私一人で切り抜けたのだ。
しかも、それらのほとんどがマスターに対して凄い剣幕で向かってくるのだ。何をしたのだろう。
「ん? 何か欲しいのか?
 そうだな。俺に無理なこと以外なら何でもするぞ」
ああ、マスター。そう言ってくれるのは嬉しいのですが、ちと警戒したほうがいいですぞ。
「では――」
私は少々ためを作り、
「――口付けを賜りたい」
言った。言ってやった。
マスターは心ここにあらずといった具合に放心している。
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!」
ちょっと待ったの五重奏がサイクリングロードに響き渡る。
見れば、皆がボールから出てきている。その瞳は驚愕に彩られている。
あのフシギバナやピカチュウまでもが興奮した面持ちだ。
「ど、どうしたんだミュウツー? 冗談を言うなんてお前らしくない」
「冗談などでは決してないのだが」
そうだよ冗談に決まってる、というマスターの希望を一撃で打ち砕く。
他の皆も固まってしまっているようだ。
「何でもすると言ってくださったではないか。
 ああ、マスターからするのが無理というなら、不本意ではあるが私の方からでも構わぬぞ。
 無論、その時は口にさせていただくが……」
よろしいかな? と問う私に、いいわけあるかぁ! とガオーッと吼えるキュウコンたち。
愛しい人と共に居る幸せをかみ締め、言葉を紡ぐ。
「マスター、愛しているぞ」
その後、サイクリングロードの一角が凍りついたのは言うまでもない。


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サイクリングロードの遥か上空。
桃色の萌えもんは、そこで行われる騒動を眺めた後、
――ありがとう
ただの一言を残して、消え去った。



――了――




---おまけ---
「どういうことよ!」
キュウコンがドンと机をたたく。
「そう興奮するな。みっともない」
グレイシアが茶を啜りながら一言。
「予想外すぎますぅ」
机にうだーっと身を投げ出すのはピカチュウ。
「とはいえ、けしかけたのはオレ達なんだけどな」
ぼやくカイリュー。
「大体、あの子控えめな性格なんじゃないの?」
キュウコンは頭を振っている。錯乱しているようだ。
「あの、控えめな性格は、クーデレでもあるらしいです」
フシギバナが表を取り出す。
「大体、その論理で行けば、お主は冷静なだけのキャラになってしまうぞ」
グレイシアは本を引っ張り出すついでに一言グサリ。
グッと言葉に詰まったキュウコン。
「メタな発言はそこまでにしておけ」
そこにフラリと現れるピジョット。
「そういやあなた、この結果がわかってたらしいわね」
本当にエスパーなんじゃない? といわんばかりのキュウコンの視線。
「さぁな。
 だが、お主たちはマスターと二人きりで随分お楽しみだったじゃないか」
出番なかったのだぞ、と恨めしそうに言うピジョット。
そのことをさされればぐうの音も出ない面々。
「まぁ、ミュウツーがその気なら私達にだって考えがあるわ」
気を取り直すように口を開くキュウコン。
その発言にコクリと頷く面々。
ピジョットは、これからの主の気苦労を思って、溜息をついた。


――終幕――


後書き
ギャグに落としきれず、かといってシリアスでもない微妙な空気。
すみません、仕様です。
とはいえ、これでミュウツーさんのお話は終了です。
私自身の未熟ゆえに読み辛かったかもしれませんが、
ここまでお付き合いしてくださったことに最上級の感謝を捧げます。
ありがとうございました。
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