[星のお礼]
「せっかく楽しみにしてたのになぁ」
もえもんセンターの一室、雨が降る外を見ながらナゾノクサが、残念そうに言った。
「来年の楽しみにすればいいじゃないか」
寝る準備をしながら、トレーナーが言う。
「う~でもぉ」
雨を降らせる雲を恨めしそうに、ナゾノクサは見ている。
「さあ、寝るぞ」
ベッドに入ったトレーナーがぽんぽんと、隣を叩く。
いつもならば、嬉しそうにやってくるナゾノクサは、名残惜しそうに窓から離れない。
もう一度、トレーナーが呼ぶと、しぶしぶ窓から離れ、ベッドに入る。
「見たかったなぁ天の川」
「明日、晴れたら見れると思うけどな?」
「でも七夕は今日だけだもん!
それに、織姫と彦星も年に一回しか会えないのに、くもってたら会えないよ。可愛そうだよ」
ナゾノクサは、一生懸命腕をぶんぶんと振り、主張する。
それを見たトレーナは、小さく苦笑。
「(雲の上はいつも晴れだから、会えてるんじゃないかなって思うのは、俺も成長した証なのかな)」
小さい頃は、ナゾノクサと同じことを言ってた、と思い出す。
でも、どうにもできなくて、ふてくされて寝たことも。
「(こりゃ、明日機嫌とるの大変そうだ)」
できることの少なかったトレーナーと違うのは、ナゾノクサには、現状をどうにかできる力があること。
何かを思いついた様子のナゾノクサが、ベッドから飛び出る。
そして、そのまま雨の降る外へと出て行った。
それを追ってトレーナーも外へ。傘を持って出たトレーナーの目に飛び込んできたものは、月。
「え? 雨は?」
「ますたー、ほらほら! 天の川!」
少し雨に濡れたナゾノクサが、空を指差し、嬉しそうに笑う。
空には、星が散りばめられ、幾千幾万それ以上の星が集まった川、天の川が。
トレーナーは、ようやく気づく。雲にぽっかりと、穴が広く開いていることを。
「なんで、切り取ったみたいに、穴が開いてんだ?」
「にほんばれを使ったの~」
嬉しそうに空を見上げながら、ナゾノクサは答えた。
「あ! 間違えて覚えさせた奴か!」
今日の昼、草タイプの技の効果が、上がると思って、ナゾノクサに覚えさせたことを思い出した。
「こんな使い方もできたのかぁ」
上機嫌に笑うナゾノクサを見ながら、子供の発想力の柔軟さに感心するトレーナー。
「これで、織姫と彦星も会えたよね?」
「ああ、きっと会えたよ」
仲間にも、見せようとモンスターボールを取り出そうとした時、
「あっ流れ星!」
ナゾノクサが、空を指差し、トレーナーに教える。
見上げた空には、たしかにいくつかの流れ星。
それは偶然か、それとも、想い人と会わせてくれた織姫と彦星からのお礼か。
わかることは、ナゾノクサが喜んでいることだけ。
最終更新:2007年12月20日 23:49