「私に出来ることは……」
あの少年が傷ついた萌えもん達を救うというのなら。
「私も……」
同じようにしていればきっと彼に会うことが出来る。
彼ならば、後ろ向きな私を。
きっと前向きに考えられるようにしてくれるはずだから。
言おう。
私を連れてって、と。
「……」
私は巣に戻って支度を始めた。
ありったけの木の実を持って。
どこに行こうかは考える必要もないだろう。
今日は晴天。
助けが必要な萌えもんたちは沢山いるだろうから。
「ふぅ……」
自分の中でひと段落つけると、日は既に天を仰ぎ、徐々に下り始めていた。
たったの数時間でどれだけの萌えもんの手当てをしただろう。
冬を越す為に蓄えてきた木の実があっという間に減って行った。
「……ふふ」
自分が何をやっているか、結果だけを見ていると可笑しくなって笑ってしまう。
きのみは一度。トレーナーは何度もやってくる。
一向に終わりを見せないこの作業。
私は気付いていた。
終わりが見えないのは終わりがないからだということに。
挫けそうになった。
止めたくもなった。
でも、その度に少年のことを思い出してがんばって来た。
「……」
あの少年は今もきっと萌えもん達を背負っているに違いない。
もしかすると、私が手当てした萌えもん達を背負っているのかもしれない。
そう思うと、不思議とやる気が湧き上がってくる。
「……休憩はここまで」
パンと両手を叩いて頭を切り替える。
「次は……」
今までとは違う場所へ。
少しだけ人通りの多いところへ。
危険で大変な場所だけど、その分多くの萌えもん達が助けを求めているに違いない。
多くの萌えもん達がいるならば、あの少年に会う確率も上がるだろう。
「……よし、大丈夫」
トレーナー達が居なくなるのを見計らって、その場に伏していた萌えもんを拾い上げる。
そして、他のトレーナーがやってくる前に物陰へと運んで手当てをする。
これでは少年に会うのは難しいかもしれない。
こうしている限り、少年を私が見つける形以外には私は少年に会うことが出来ないのだ。
それに気付いた今でも私はこの場所で萌えもん達の手当てをする。
少年に会うために……この目的は確かに心の中で一際輝いて見えた。
だけど、苦しんでいる萌えもん達を無視して少年に会うことは決して出来ない。
だからどちらも疎かには出来ない。
両方成し遂げる。
相当の根性が達成には必要だった。
「それに……」
いつも後手に回っているような気がして悔しかった。
「でも……」
分かっている。先手に回るということがどういうことか。
「だけど……」
悔しい。分かってるからこそ一層悔しさを覚える。
歯をぎゅっと噛みしめながら助けを必要とする子達を拾い上げて――
<……>
車の近づく音がした。
「……はやくいかないと」
自分と同じだけの大きさがある萌えもんを抱えて物陰に……。
<…………>
車の音が近づいてくる。
大丈夫。間に合った。
だが、一つの、悲鳴のような声が私の耳に届いた。
「コラッタ――!!」
つい昨日聞いたばかりの声だった。
物陰から顔を出して様子を窺うと……
跳ねるゴムボールを追いかけて、コラッタが車の前に飛び出していた。
……危ない。
危ないとは思う。
……私たちを傷つける萌えもんなんて。
おそらくこんな思いが心の中に潜んでいた。
「――あっ」
だが、体は動いてしまっていた。
心は塗りつぶされていた。
彼が必死で萌えもん達を背負っていた姿が蘇る。
あの少年は見ず知らずのやせいの萌えもんを助けてくれた。
私にとって、彼に会うということは単に互いに姿を見せるだけではダメなのだ。
彼に、付いて来てもいいといわれた時、自分に負い目を感じないように。
私も彼と同じように行動しなければ。
私も、やせいの萌えもん達だけでなく、トレーナーの萌えもんだって助けなければ。
そうでなければ、きっとずっと、真の意味であの少年に会うことは出来ないのだから。
「……間に合え!!」
ボールを追って飛び出してきたコラッタを突き飛ばす。
……早く。
私も避けないと。
だが、飛び出す前のほんの一瞬の躊躇いが仇となった。
間に合わない。
<キキーッ!!>
<ダン!!>
痛い、そう思っている余裕なく私の意識は闇の中へと引き込まれた。
ただただ、あの少年のことばかりが心の中を埋め尽くしていた。
「……」
コトの顛末を聞いた僕は酷くショックを受けていた。
トレーナーの萌えもんに散々痛めつけられてきたはずのこの子は。
憎んだって当然の相手を救うために自分の身を捧げた。
「……ぅあ」
それに比べて自分はどうだ。
確かにやっていることはこの子と変わらない。
きっと傍から見た人は全てがそう言ってくれるだろう。
だけど、その実は全く違っていた。
この子はただひたすらに萌えもんを助けようとしていたに違いない。
そうでもなければどうして憎むべき相手を助けられようか。
そして僕は。
僕は怖かっただけだ。助けないことが後になって自分の災いになる。
それが恐ろしかった。それだけだ。
相手を救う気持ちから萌えもん達を助けていたのではない。
『止むを得ないから』彼らを助けていただけに過ぎない。
だから、根本的に違う。
誰かの為に誰かを助けるのと。
自分の為に誰かを助けること。
「……ぅあ……あぁぁ」
そう結論がついたとき、涙が止まらなくなっていた。
今すぐにでもこの場から立ち去りたかった。
そうしなければ心が潰されてしまう。
まっすぐ前を向いた彼女の姿が、後ろばかり気にしていた僕の心を圧迫する。
「ど、どうしたの……?」
お姉さんが心配してくれている。
でも、今はそれが苦しい。
逃げたい。逃げたい。逃げたい。
この罪悪感から一刻も早く逃れたい。
「……」
だけど体は動かない。
ここで逃げれば一生この負い目は僕をついて回る。
あの呪いのように。
だから体は動かない。
……せめて。
彼女に付いていてあげなければ。
目が覚めたら労ってあげられるように。
それが僕にあたえられたたった一つの選択。
「……この子、看ててもいいですか?」
「えぇ、構わないけど……」
遅くなる前に帰りなさいよ、といってお姉さんは部屋から出て行った。
「……ニドラン」
名前を呼んでみた。
ふと、目を覚ますような期待を籠めて。
だが、その気配は無い。
お姉さんの言葉を思い出す。
『傷は手当したけど……体力が持つかどうか』
この小さな体にどれだけの力があるかは分からない。
だけど僕はこの子が目覚めるのを信じて待つしかなかったのだ。
「……ん」
目が覚めた。
隣にはニーナ。心地よさそうに眠っている。
……またあの夢。
ニーナと二人で旅を始めてから頻繁に見るようになった。
「……」
きっと今も、僕はニーナの隣には立てていない。
ずっと、二歩も三歩も後ろを歩き、追いかけているだけだ。
「……」
もう一度ニーナを見た。
本当に気持ちよさそうだ。
……起こすわけにはいかない。
僕はもう一度瞼を閉じた。
「……ん」
目が覚める。
隣にはマスター。苦しそうな表情で眠っていた。
……久しぶりに。
マスターと二人で旅を始めてから見なくなった夢。
「……」
きっと昔から、私はマスターの隣には立てていなった。
ずっと、先を行くマスターを、必死に追いかけているだけだ。
「……」
もう一度マスターを見る。
苦しそうな寝顔だった。
……苦しまないで。
私はマスターの手を今一度握り、瞼を閉じた。
後書きは書かない主義ですが、例外的に。
これを読んで気分を害された方は他の作者の甘い作品で癒されてください。
七、八才のつもりで書いていた少年がすごく大人びていることに気付いて慌ててます。
過去に色々あったから、というレベルでは言い訳にならないレベルに。
なので……そこらへんはちょっぴり無視していただけると幸いです。
最終更新:2007年12月20日 23:51