―――私の主人は変な主人だ。
最初に思ったのはいつだったか。
その主人は獣道を草を分けて進んでいる。
私はその後に続き、歩んでいる。
「下へと行けばまだまともな道があったのでは?」
と前を行く主人へと問いかけてみる。
「……いや、この方がいいのさ」
何か含みを持たせて私に答え、
そのままこちらを向く事無く前に進み続ける主人。
私はため息ともつかない息を吐きつつ主人の後を追う。
私達はお月見山の洞窟を避け、お月見山を登っている。
タイプの関係上、お月見山の洞窟で出る萌えもん達は得意なはずなのだが……。
何を思ったのか主人は洞窟ではなく迂回してこの山道を登っている。
―――私はキングラー。萌えもんの1種である。
前を行く主人は図鑑を集めるでも無く、トレーナーの頂点を目指す訳でも無く、ただ単純に旅を続けている……。
何かの目的を持っているらしいが、私に話してくれた事は無い。
「……ここも違うみたいだな」
いつもの様にいつもの台詞を苦虫を噛み潰す様な顔で呟く。
主人の横から前を見てみるとお月見山の山頂であった。
木が無くなり、少し開けた場所になっていた。
「少し休憩しよう。お前も疲れただろう?」
「……はい」
こんな場所では野生の萌えもんも少ない。
私が戦闘をしたのは両手で済むぐらいであった。
技ポイントも少量しか減ってはいないが、主人の好意に甘える事にした。
主人は広場の真ん中にある大きな切り株へと座る。
バッグを置いてその中の携帯食料と私の食べる物を出してくれた。
バサっと音がしてバッグの中から1冊の本が落ちた。
ふと何気なしにその本を見る。
『伝説の鳥が眠る山に全ての病気を治すと云われる薬草がある。』
何故かその本の一節に興味を憶えた。
「薬草……?」
「っ!!」
主人は慌てた様にその本をバッグの中に隠した。
……私はふと気がついた。ある夜の主人が窓際で寂しそうに夜空を見上げていた時の事である。
――――必ず見つけて帰ってやるからな。待ってろな。
その主人は消えてしまいそうな程に寂しい背中をしていた。
余りの雰囲気にその時は声を掛けられなかった…。
「……どなたか、病気……なんですね?」
「…………そうだ。妹のヤツがね。不治の病……だとよ」
「伝説の鳥、覚えがあります。ここ周辺には2種、遠くの島に2種居るとか…」
「なんだと、それは本当か?!」
「萌えもん達の間の伝説……程度ですが」
「……判った。それだけでも十分だ」
それ以降、私と主人の間には会話は無かった。
つまり、主人は主人の妹の病気を治すのに最後の希望として1冊の本の1節に縋ったと言う訳である。
少し重苦しい空気の中、私と主人は食料を摂る。
「……そろろろ行くか」
ゴミをバッグの中に仕舞い、主人は立ち上がる。
私も追随して立ち上がった。
「……見つかるといいですね。薬草」
「見つかるさ。……いや、見つけるさ。絶対な」
しっかりとした眼差しで、この開けた山頂から見えるカントー地方を主人はまっすぐと見ていた。
私もそんな主人を見て、カントーの景色を見る。
序盤-Fin-
あと(あ)がき
とりあえず、ゲームではすんごく空気な娘を書いてみた。
何か違うなーとか思いながら書いた。しかも、短い。
最終更新:2007年12月21日 00:16