私の名前はフーディン。とある変態のマスターとその仲間達と共に旅を続けている萌えもん。
唐突だが私は今から、一世一代の告白をする。・・・変な意味ではないぞ。
常々思い悩んでいたことだが、今日の一件で心は決まった。
「マスターの本から去ろう」。
第4話 フーディン編 「I want to be with you」
別に、今の環境が嫌なわけじゃない
仲間はみんないい娘達ばかり
ラプラスのいつもみんなを見守る暖かい眼が好きだ
ゲンガーの甲斐甲斐しい私たちへの気配りの心が好きだ
サンダースの元気な声や明るい笑顔が好きだ
まだまだあるが挙げればきりがない
そしてウチのマスターは少しばかり変態だが、これだけは言える
あの人はみんなのことを誰よりも理解し、愛してくれている
だからこその決断
私はみんなことを愛してくれているマスターの荷物にはなりたくない
私のせいで仲間たちを苦しい目に遭わせたくない
きっと寂しくなるけどそのうち慣れるだろう
だから大丈夫
呼び出しておいたマスターも待っているだろう
さぁ、いかなくちゃ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「マスター」
「おぉ、フーディン。遅かったな。いつもは時間に正確なのに。」
「少し考え事をしていまして・・・申し訳ありません。」
「いや、かまわないさ。風呂上がりの体を冷ますにはちょうど良い具合の時間だったし。で、話ってなんだい?」
「・・・そのことなんですが・・・」
言葉に詰まる。あれほど自分に言い聞かせたのに。いざ言うとなると未練がましいものだ。
「どうしたんだ??話があるんじゃなかったのか?」
「えぇ、まぁ、あるにはあるんですが・・・その・・・」
「?」
マスタ-は熱でもあるんじゃないのかと聞いて心配そうな目で私を見つめてくる。
そんな顔をしないで欲しい。別れを切り出そうとしているのに、余計に言えなくなってしまう。
「風呂上がりですぐだから少し風をひいたんじゃないか??冷やすといけないからこれでも着てろ。」
そういってマスターは自分の上着を私に着せようとする。それでは自分も寒いだろうに。
「いえ、マスター・・・そこまでしていただく必要は。」
「だーめ。お前が風引いたらみんな心配するだろ?それにお前が倒れたら誰がウチのエスパータイプを担当するんだよ。」
そういって強引に私に上着を着せる。
普段ならその優しい気配りに顔の一つも赤らめるのだろう。
しかしその言葉は逆に、見失いかけていた本来の目的を私に思い出させると同時に、私の中の弱まりつつあった決心を再度固めさせるものだった。
そしてついに、私は、少々照れた顔をしているマスターに対して、この思いを打ち明けることにした。
「・・・マスター」
「ん?」
「今日ハナダの洞窟で捕まえたミュウツーですが、どうなさるつもりですか?」
「ん?あぁ、あいつな。確かに強いけど、エスパータイプならお前がもういるだろ?
だからパソコンにずっと預けられるよりかは野生で暮らした方が良いと思うんだ。図鑑も埋まったことだし、明日洞窟に返してやるよ。」
思った通りの返答だった。この人は優しいから、きっとそういって誤魔化すと思っていた。
だから私も考えていた通りの切り返しをする。
「その必要はありません」
「私がこのパーティーから外れます」
言った。
ついに言ってしまった。
ここまでは全て私が予想したシナリオ通り。
そして次のマスターのリアクションも私の予想通りだった。
「・・・・・・・・・・・は?」
マスターはここ数ヶ月内でもベスト3に入るほどの間抜け面だった。
まぁ、当然の反応だろう。今までそんな素振りすら見せたことなかった私がいきなり「出て行く」なんて言い出したんだから。
マスターは驚きを隠せない様子で私に質問する。
「い、いきなりなんてこと言うんだフーディン!?メンバーとケンカでもしたのか!?」
「いえ、そんなことはありません。ただ私は、自分の中でこれが最良だと思ったまでです。」
「最良の判断って何だよ!?お前が急にいなくなってみんなが喜ぶとでも思っているのか!?」
「・・・・・・・・・それは・・・」
「・・・それとも、俺のこと。嫌いになっちまったのか・・・??」
「いえ!?決してそういうわけでは!!」
「いいんだ、気を遣わなくて。そうだよな。今日のミュウツーとの戦闘でもお前を出してやるべきだったのに、わざわざゲンガーに闘わせて一発でやられちまったし、
その後も闘わせたのはラプラスだったからお前が不満に思うのも無理ないよな。お前を出してればもっと楽に終わったのに・・・ゴメン。」
「・・・」
・・・私は黙っていた、が、マスターの謝罪に感銘を受けたわけではない。むしろ逆の感情だ。
そう。私の心は今、怒りの感情でいっぱいだった。
そして言ってやった。私の気持ちを何も分かっていないバカなマスターに。
「・・・ふざけるな」
「??」
「私を出すべきだった?私が出れば楽に終わった?・・・私を舐めないでほしい。」
「ふ、フーディン?」
「私には分かっている!!私とミュウツーでは個体としての差がありすぎる!!私がミュウツーに数値で勝っている所なんて一つもない!!
だからマスターはより私より強いミュウツーを捕まえにいったのでしょう!?そして私の代わりにするつもり何でしょう!?」
「お前・・・・・・」
「私だってバカじゃない。私より強い種族や個体はそれこそゴマンといることは知っている。でも私はそれでも良かった!!マスターが私を必要としてくれてるから!!
[ウチのエースはお前しかいない]っていってくれたから!!だから自分が誰かに負けているという劣等感にも負けずにやってこれた!!」
「・・・・・・」
「でもマスターはミュウツーを捕まえに行こうと言った。私はその前日にエスパー同士の戦闘で敗れました。だからもう私は入らないと考えたのでしょう?」
「・・・う」
「私は一晩中泣きました!!まだ一緒にいたい!!離れたくない!!でももうあなたの役に立つことができない・・・みんなと同じ道を歩めない・・・。
そして考えました・・・もう私はここにいることはできない・・・だから去ろうと決めたのです・・・」
「・・・違う」
「せめてマスターに最後のご恩返しとしてハナダの洞窟では活躍するつもりでした・・・
そしてあわよくばそれを見たマスターがもう一度私を必要としてくれるかもしれない・・・そんな願いを抱いて・・・」
「・・・違うんだ」
「でもマスターは私を一度も使ってはくれなかった・・・そうですよね・・・用なしに経験値を稼がせることはありませんもんね・・・」
「・・・違うんだ、フーディン」
「何が違うんですか!?私の言ったことが正解なんでしょう!!私みたいな役立たずはさっさと切り捨t(パァン!!)・・・」
気がつくと私はマスターに頬を叩かれていた。
「そんなに私が憎いのですか!?そんなに言い当てられたことに腹が立ちますか!?私が間違っていました!!あなたのようなマスt・・・」
またしても言葉を遮られた。だけど叩かれた訳じゃない。
今度はマスターに思いっきり強く、抱きしめられていた
「違うんだよ・・・フーディン・・・そうじゃないんだ・・・・俺の話を聞いてくれ・・・」
「・・・クッ!。いまさら何を聞けと言うのですか!!」
「ごめんな・・・そこまで思い詰めてるとも知らずに・・・俺は・・・俺は・・う・・・・うぅ・・・」
「マスター??」
「俺の・・・俺のせいだ・・・ミュウツーなんて捕まえに行こうと言わなきゃ・・・お前をもっと使ってやってれば・・・・うぅ・・・うあぁぁぁぁぁぁ。」
驚いた。
私を叩いたかと思えば、今度は声を上げて泣き出してしまった・・・これでは何も言えない。
しかもこんなマスターをおいてどこかに行くのも気が引ける・・・抱きつかれてるから動くこともできない
・・・・・・・・・しかたない・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・落ち着きましたか??」
「あぁ・・・すまない。いきなり泣いたりして。」
マスターが泣き出したことで私の頭も少しは冷えたのだろう。冷静に話しかけることができた。が、心の中には未だに先ほどの感情が残っている。
「私の方こそ取り乱してしまい・・・」
「しょうがないよ。おれがそう思われても仕方ない行動しかとらなかったんだから」
「・・・では、何か言い分があるのですか??」
訝しげに聞いてみた
「そのことなんだがな」
「?」
「お前は勘違いしてる。さっき言ったとおり俺はミュウツーを洞窟に返すつもりだ。お前を仲間から外すなんて事は絶対にしない。これは断言できる。
それにお前を洞窟戦で一度も出さなかったのはお前が言ったように、お前が先日の戦闘で重傷を負ったからであってこれもお前の思ってたような理由からじゃあないんだ。」
「・・・それがウソ泣きをして時間を稼いで必死に考えた言い訳ですか??」
「だから違うって言ってるだろ。確かにお前の言い分は筋が通ってるけどさ・・・」
「だったら私の言った通りではないですか!!私の話には筋が通っていますし、実際にそちらの方が合理的です!!
でもマスターの言い分には裏付けもないし合理的でもない!!どちらが信用に値するかは言うまでもないでしょう!?」
「じゃあ、明日俺が本当にミュウツーを返せば俺の言い分には筋が通るな??」
「ッ認めません!!その内また捕まえに行くかもしれませんし、それに私たちは萌えもんセンターに預けられればそれまです。それを利用すれば私を預けておいてその間に
ミュウツーを育てられます!!いえ、もしかしたらもうその手口を誰かで使ってるかも・・・。」
「あーもう!!だからそんなことしてないってば!!疑ってるんなら俺のボックス見せてやるよ!!若干趣味に走って捕まえる娘が偏ったけど、お前の思ってるようなことは何一つとしてない!!」
「・・・っでも!!・・・っですが!!いえ、それでもどこかに抜け道が・・・」
自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
さっきまではあれほど思いの丈をぶつけて、私の方が優勢だったと思われたのに。
今では逆に言いくるめられようとしている。
このマスターの元から去る、という当初の目的は忘れてはいないが、なんとなく二の次になっている。
「フーデンはさ」
「え?」
「頭が良いから逆に考えすぎるんだよ。それが疑問を生んで不安になる。そしていつも何かに応えや裏付けを求めるんだ。」
「それの何がいけないんですか??正しい物を求めることはいけないことですか??」
「そんなこと言っちゃいない。それはそれで一つの考え方だ。俺はそれを否定するつもりはない。・・・でもな、もう少し楽にしても良いんじゃないのか??」
「それは私の勝手です。マスターには関係ありません。それに、脱線していますがさっきの話の決着がついていません。」
「・・・・・・・・・・・・つまりお前は裏付けがあれば信じてくれるんだな??」
「・・・あるならばそれを認めざるを得ません。ただし、あればですが。」
「・・・ハァ。こういうのは好きじゃないんだがな。じゃあ第一問、エスパータイプに対して良く効くタイプと効かないタイプの攻撃を答えよ。」
「・・・は?・・・ちょ、ちょっと待ってください、マスター。一体何を?」
「何って、クイズだよ。お前、これが大好きで昔は一緒によくやったろ??お前の場合はこれが一番早いと思ってな。ほら、早く答えろ。」
「一体これと裏付けと何の関k「いーから早く!!」・・・効くのはゴースト、虫。効かないのはありませんがイマイチなのはかくとう、エスパーです・・・」
「うん正解。さすがだな。じゃあ第二問・ミュウツーは野生で捕まえた場合、初期段階ではどんな技を覚えている??」
「・・・スピードスター、ひかりのかべ、じこさいせいにサイコキネシス、です・・・」
「そうだな。昨日分かったばっかりなのによく知ってるな。」
「・・・一応は必要なことですから・・・」
「それでも十分すごいよ。勉強熱心なんだな。じゃあ第三問・今お前が覚えている技を述べよ」
「・・・バカにしてるんですか?? ねんりき ミラーコート シャドーボール サイコキネシスです」
「じゃあこれが最後の問題の第四問だ。先ほどの三つの問題をふまえた上で、かつ昨日の洞窟の時の状況を想定して答えよ・お前とミュウツー、戦って勝つのはどっちだ?」
「!!・・・・・・あ・・・・・・」
「・・・わかっただろ??お前が負けた日の夜、お前に覚えさせたよな[シャドーボール]。お前も言ったようにエスパーはゴースト技には弱い。
それに向こうがお前より基礎能力が高い+じこさいせい持ちだったとしても所詮は野生だ。お前には俺がついてる。どっちが勝つかなんて一目瞭然だろ??」
「あ・・・ああ・・・」
「ミュウツー戦で使わなかったのは俺の単なるミスだ。ホントにすまなかったと思う。結果的にお前を苦しめることになったんだから。ゴメン」
フルフル
「お前がずっと悩んでたのにも気づいてやれなくてすまなかった。お前がそんなに苦しんでるなんて思いもよらなかったんだ。俺トレーナー失格だな。」
フルフルフル
「お前はいつも俺に的確なアドバイスをくれた。メンバーと上手くいかないときも仲を取り持ってくれた。だから心のどこかでそれに甘えてたんだと思う。お前に愛想尽かされるのも当然だ。」
ブンブンブンブン!
私は必死に首を振り続けてマスターの言葉を否定していた。
あんなに嫌なこと言ったのに、あれほど突き放そうとしたのに、それでもマスターは私のことをずっと考えてくれてて。
自分の技のことなんか見落とすハズないのに、一人で悪い方向へ考えて
マスターを傷つけてしまった。
それでも私を責めることなくひたすらに誤り続けるマスターに申し訳なくて
今度は私が泣き出していた
「う・・・ヒック・・・・あぁぁぁ・・・ごめ・・・ヒック・・・なさ・・・・マスタ・・・グス・・・・ごめんなさ・・・・マスター・・・」
「いいんだよフーディン・・・」
そういってマスターは私を抱き寄せた
ただし、さっきのように荒々しくではなく、
優しく、包み込むように、私を抱きしめてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・フーディン。やっぱりまだ俺の元から離れたいか?」
ブンブンブンブンブンブン!!
涙は止まっていたがまともにマスターの顔を見ることができなかった私は、
マスターに包まれながら精一杯首を振る。そんな気持ちはとっくにどこかへ消えてしまっていた。
「そっか、よかった。お前は俺の、・・・あー、俺たちの大切な仲間なんだからな。みんな寂しがるよ、お前がいないと。もちろん俺も。」
「・・・一緒にいても、いいんですか??・・・あんなに悪口を言ったのに・・・マスターを傷つけたのに・・・」
「もちろんだ。言ったろ?お前は大切な仲間なんだ。それにあれくらいどうってことないさ。みんなにもしょっちゅう色々言われてるしな、気にしてないよ。」
「マスター・・・」
「っと。もう夜明けの方が近い時刻になっちまったな。どうりでさっきから寒いわけだ。さ、フーディン、センターに戻ろう。」
「いえ、マスター。もう少し・・・もう少しだけ、このままでいさせてください。」
「フーディン・・・」
私は目を閉じてマスターに包まれているぬくもりを感じながら
-大好きです、マスター-
彼に聞こえないようにそうつぶやいた
-終わり-
最終更新:2007年12月21日 00:41