3スレ>>235

おつきみ山の上のほう、岩がいっぱいならんでいるところ。
お日さまが応えんしてくれる中。わたしは今、一人でとっくん中だ。
「てーいっ!」
ごがん、とかたから大きな岩に向かって体当たりする。……けれど。
「はあ、はあ……はあ……」
かちかち岩にはきずひとつ付かない。
かちかち岩というのは、わたしが名前をつけた固い岩だ。
あんまりに固いからそう名前をつけた。

何度かちかち岩に体をぶつけてもうまくいかない。
一回きゅうけいする。小さな岩にすわってわたしは考えている。
いきおいを付けているつもりなんだけど、なぜかうまくいかない。
この前テレビで見たひとがやっていたのは本当にすごくて、
かちかち岩より大きな岩がこなごなになっていたんだ。
ますたーはそのひとを見て、すごいなあ、って、かっこいいなあ、って
すごくきらきらした目で言った。

「……っつう……」
ずきずき、とかたがいたむ。
お日さまと空もいつの間にか、おれんじ色になっていた。
「おなかすいたな……」
帰ったら、おいしいご飯と大好きなますたーがまっている。
「……ますたー……」
ますたーのことを思う。胸が幸せなような辛いような変なかんじになった。
「もうちょっとだけ練習しよ……」
その後わたしがここを出たのは、空がまっ暗になってからだった。
帰ったらますたーにものすごくおこられた。





つぎの日。わたしは今日もおつきみ山に来ている。
「ていっ! てやーっ!!」
何回やってもうまくいかない。昨日よりも良くないような気がする。
それでもわたしは、何回もちょうせんした。
「いたっ! ……うう……」
かたがいたむ。ずきずきとひびくけど、がまんがまん。
「よしっ、もう一回……」
そして今日もかえるのがおくれた。
昨日よりもますたーにおこられた。頭もたたかれた。いたかった。





その次の日。
かたがあつい。
いたくてあつい。
なんか変だ……。
それに何度ちょうせんしてもうまくいかない。
「おなか……すいたな……」
とっくんしていたら今日も帰るのがおくれた。
またますたーにおこられた。また、たたかれた。
ちょっと悲しいけど、がまん。





次の日。
今日は昨日より変だ。かたが上がらない。
無理に上げようとすると、あつくていたくなる。
がんばってかちかち岩にぶつかってみるけれど。
「っつう!……はあ、はあ……」
やっぱりだめだった。
わたしはその場にしゃがみこんだ。
―――泣いたら、だめだ―――
わたしはひたすらその言葉を頭の中でくり返した。
「っはあ……。 ……よしっ」
今日もまだ、がんばれる。





次の日。
朝起きたら、体が起きなかった。
何度ためしても起きられない。頭の中は起きているのに。
そんなわたしを見つけたますたーがわたしを抱きかかえて、
お医者さまのところへ連れて行ってくれた。
お医者さまの話をしんけんに聞いているますたーがかっこよかった。
お医者さまのところから帰るとちゅう、ますたーが言った。
しばらくは家から出るな、と。
わたしは、いやだ、と言いたかった。けれど。
「わかり、ました……」
ますたーのあんなしんけんな顔、ほとんど見たことがなかったから。
わたしはそう答えた。





その次の日。
お薬としっぷのおかげで、かたのずきずきはかなり落ち着いていた。
それでもやっぱり。
かちかち岩が気になって、わたしは何度もリビングの窓から遠い空を見た。





その次の日。
昨日からますたーがやけにやさしい。
うれしくてにやにやが止まらない。
でもにやにやを気付かれて、頭をたたかれた。
理由を聞かれて、それを答えたら、また頭をたたかれた。
ますたーの顔が真っ赤だった。なんでだろ?





その次の日。
ふつーに出歩けるくらいには回復した。
もう一度お医者さまに見てもらった。
それでもやっぱりしばらく無茶はしちゃいけない、とお医者さまから
くぎをさされた。





その次の日。
やっぱりわたしはおつきみ山に行くことにした。
帰ったらきっとますたーがすごくおこると思う。その姿を考えてむねがいたむ。
「……ごめんなさい、ますたー」
でも、それでも。
あの技が出来たとき、ますたーがきっと、あのきらきらした目で、笑顔で、
わたしの頭を撫でながら「頑張ったな」って誉めてくれると信じて。
私は家から飛び出した。

お昼過ぎ。わたしはいつもより遅いくらいにおつきみ山に着いた。
すると、そこには。
―――よっ、遅かったな―――
いつもわたしが座る小さな岩の上に、ますたーが座っていた。
「なんで、ますたーがここに……」
頭の中がぐちゃぐちゃになったわたしにますたーが言った。
―――テメエの考えてる事なんざお見通しなんだよ―――
そして続けてますたーが言った。
―――さ、今日中には出来るようになるんだろ? 早く始めようぜ―――
そう笑顔で言うますたーに、わたしは思わず抱きついた。
「……うん!」
いつもは抱きついたらおこるますたーだけど、この日だけはおこらなかった。

そうして、わたしとますたーは夕方までとっくんを続けた。
かたがいたくなったりあつくなったりしたことをますたーに言うと、
ますたーは「当り方が悪いから怪我するんだ」、とわたしをおこった。
あとなぜか「……っつうか、すてみタックルかよ……」と呆れてつぶいていた。
ますたーにいろいろ教えてもらいながら、やり方を変えていくわたし。
そうだ、わたしとますたーはふたりでひとり。ますたーがいるから、
わたしはどこまでも強くなれるんだ。それを昨日までのわたしは忘れていた。
今日のわたしは、だれよりもつよいに違いない。
なんたって、ますたーと一緒なんだから。

もうすぐ夜になるくらいの時間。
わたしは息をととのえた。
ますたーといっしょに練習したこの技。失敗するわけにはいかない。
「うあああああ!!」
わたしは足元にちからを込めて目を閉じ、おもいっきりかちかち岩につっ込んだ―――!!
がごぉん、という音があたりにひびく。
思ったより自分へのしょうげきが少なくて、いたくない。
失敗かな……なんて思ったとき。ますたーがぽつりとつぶやいた。
―――……まさかの真っ二つかよ……―――
「えっ?」
わたしが目を開いてかちかち岩を見ると。
そこには二つに分かれたかちかち岩が立っていた。
「あ……できた、の? ……」
数日間、ずっと練習を続けて覚えたこの技は、テレビで見たそれとは違ったかんじだった。
テレビで見たあの技は岩がこなごなにくだけていたが、私の目の前にある
かちかち岩は二つに割れているだけだった。
でも、それでも。
―――お前は本当に、フツーなんて言葉とは無縁だよな―――
半分呆れた、でも嬉しそうな声でますたーはそう言いながら、
とてもきらきらした笑顔をうかべてわたしを見てくれていた。
ますたーがおいでおいでと手をふっている。
「う……うぐっ……ま、ますたああああああああ!!」
わたしは全速力で走って、ますたーの胸にとびこんだ。




―――がごぉん、という音と共に―――








次の日。
大きな病院のとあるへや。
ますたーは、ぶすっとした顔でベッドの上にねころんでいた。
体中がほうたいだらけでとてもいたそうだった。
「あの……ごめんなさい、ますたー……」
しばらくの間、ますたーは怒ったままだった。本当にごめんなさい、ますたー……。

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最終更新:2007年12月21日 00:49
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