3スレ>>278

 急ぐ旅ではないけれど、無駄に足を止める必要もないはずの旅。
 そんな俺の足を止めた出来事。それがブーバーとの出会いだった。
 今、思い出しても、呆れる思い出。
 それは、俺が休憩場所を探すため、水の音が聞こえてくる方向へ歩いていたときのこと。

 目の前には、ドドドドドッと大きな音を立て、水を落とす滝。
 普通なら、普段見かけることのない、雄大な自然の風景を楽しむところだが、
 今日は別のことに目を奪われて、楽しむことはできなかった。
「……なにしてんだ、あのブーバー?」
 驚きと呆れが同時に湧いてくる。
 視線の先には、座禅を組んで、滝に打たれるブーバー。
 こんな水タイプのもえもんが、好みそうな場所に、いるはずのないもえもん。
 そんなもえもんに、少しだけ興味が湧いた俺は、もっと近づいてみることにした。
 このときの少しだけの興味がなければ、俺の旅は、もっと味気ないものになっていただろう。
 このときの感情に身を任せて、本当によかったと思っている。
 時々、少しだけ後悔もするが。

「む? 人間か。わしになんのようじゃ?」
 見た目にそぐわぬ、古臭い話し方をするやつだ。
 それにしても、水音で足音はかき消されているし、目も開けてないのに、よく俺が近づいたとわかったな。
 おそらく、相当な実力を持ったブーバーなんだろう。
「いや、こんなところで、ブーバーが何をしているのかと、興味があってな」
「見てわからぬか? 修行じゃ」
「修行……ね」
 わざわざ、こんな場所を修行の場として選ばなくとも。
 こんな俺の考えを読んだのか、さらに口を開くブーバー。
「苦手なものを、克服するのにちょうどよい場所なのだ。
 事実、五年ほど滝に打たれ続けて、水に対する抵抗は身につけた」
 それは、すごい。実力の高いブーバーに弱点がなくなる。
 トレーナーにとって、手に入れたくなるもえもんだろう。
「今日は、このくらいにしておくか」
 そう言って、水から上がる。……さらしとふんどしって、どこまで古臭い奴なんだ。
 俺が見ていることを気にせず、水を拭いて服を着ていく。
「一緒に夕飯でもどうだ?」
 珍しいものを見せてくれたお礼に、夕飯に誘う。
 珍しいものとは、修行とさらしとふんどしのことだ。
 目の保養になったからな、これくらいのお礼は当然だろ。
「いいのか?」
「ああ」
「ならば、馳走になろう」

 滝から離れて、テントを組んでいく。
 そのあと、夕飯の準備を始めたんだが、
「しまった」
「どうした?」
「マッチがない。火をつけられない」
 固形燃料だけあっても、どうしようもない。
「そんなことか。わしが火を噴けばいいことじゃろ」
「頼めるか?」
「頼まれよう。ひのこっ」
 実力の高いブーバーの使うひのこ、ほのおタイプの使う基本技とはいえ、とんでもない威力になりそうだ。
 なんて考えた俺の予想を裏切り、出てきた炎は、俺が今まで見たひのこの中で、最弱といえるものだった。
 小さい炎……そうか! 威力もコントロールできるのか! どこまで実力の高いブーバーなんだ。
 燃え出した固形燃料に、乾いた枝を入れていく。
 燃え上がり大きくなる炎。それを憧れの目で見るブーバー。
 …………ん? 今、なにかおかしな表現があったような?
 気にすることはないか。たいしたことじゃないんだろう、きっと。
「すぐにできるから待っててくれ」
「急がなくてもいい。久々に、生魚や木の実を食べるよりは、ましなものが食えるのだから。
 急がれて失敗されたら、かなわんからな」
 いつもは、生魚とか食ってるのか。
 ……ん~どうもさっきから引っかかる表現があるような?
 生魚? 火を使えば、焼けるのにか? 火力が強すぎて、黒コゲに……いやいや、火力のコントロールはできる……はず。
「なあブーバー?」
「なんじゃ?」
「どうして生魚なんだ? 火を使えば、焼けるだろ」
「わしの火力じゃ、足りんのだ」
 は? なに言ってんだ、このブーバー。
「お前、自分がなに言ったのかわかってるのか? 
 魚一匹、焼けないって、言ってんだぞ?」
「だから、そう言ってるじゃろ。
 どうにも、水に打たれすぎたせいか、炎の威力が激減したらしい」
 このブーバー馬鹿だ!
「本末転倒どころじゃないだろ! 弱点なくすために、長所消してどうする!
 というか、ひのこで足りないなら、かえんほうしゃ使えばいいだろ!」
「修行してたら、使えなくなった」
「だったら、今やったみたいに、枝を集めて、それにひのこ!」
「そのてがあったか!」
 そんな天啓を得たみたいな顔をするな!
「……こんな馬鹿だったとは、関心していた俺が一番の馬鹿じゃないか」
「馬鹿とは、失礼じゃろ。ちょっと頑張ったら、おかしなことになっただけだ」
「素直に長所を伸ばしとけよ」
 どこか疲れつつも、作り上げた料理をブーバーに渡す。
 うっわぁ、いい笑顔。本当に、まともな料理食べるの久しぶりなんだな。
「うん、決めた」
「なにをだ?」
「お前、俺と一緒に来い!」
「プロポーズか?」
「違う! ここで分かれたら、今度はなにしでかすか、わかったもんじゃないからな。
 不安になってしょうがない」
「別におぬしが、どう不安になろうが、わしには関係ないんじゃが。
 ……ふむ、まともな飯が。喰えるようになる機会を逃すのももったいない。
 ついていってもいいぞ」
 餌付けっていうのか? こういうのも。
「それじゃ、これからよろしく」
「ああ、よろしく」

 これがブーバーとの出会いだった。
 一緒に旅をするようになって、さらなるドジを踏んでくれるのだが。
 思い出すだけで、疲れてくるので、やめておこうと思う。

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最終更新:2007年12月21日 01:00
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