3スレ>>325


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 ちゅんちゅん、と雀のような鳥のようなよく分からない生き物の声がする。
 まだ朝靄がかかった山腹、ちょうど影になって人間には捉え難いその山中に、一つの家があった。
 外装はお粗末そのものだがそれなりに強度はあり、何より強烈な印象なのは家の天井に取り付けられた巨大な天窓。

 そんな家に、少年が一人。
 彼がいる部屋は天窓がつけられた二階部分。
 十分すぎる部屋の広さの割には狭すぎるテーブルが、やや中央をずらして置いてある。
 彼は手馴れた手つきで、やたらいい熱気が立つその鍋を持ってきてテーブル中央に置くと、ほうと息をついて天窓を眺めた。

「……まだ、か……?」

 山の中腹だ。
 どこから来ているのか、どうして動いているのか常人には到底理解不能な暖房がついているものの、寒くないわけではない。
 吐き出す息は白く、その度に少年は少し不安そうに腕組みするのだった。


「まったく……何やってるんだか……今日も遅刻じゃないか。……別に俺が作らなくてもいいんだぞ? ……まったく」


 拗ねたように吐き捨てて、やれやれと天窓から目を離す。

「――」

 と――声が、聞こえた。

「……?」
 確かに、聞こえた。
 少年には確かに聞き覚えのある遠い遠いその声、彼は再び天窓を見上げる。

 ぽっかりと空いた、天窓を。
 見上げて、恐らくはやってくるであろう、その相手を待っていた。


「――ト」


 近い、近くなっている。
 確実に近く――そして疾風のように声音がはっきりしてきたと思ったら、次の瞬間には轟音が響いていた。




「カイトォーーッ!」

 どがあん、と――『少年の横にあった扉を粉々に粉砕して』、天窓をぼうっと眺めていた彼に、容赦なく突進した。

「げ! ちょ、ちょっと待てマジストップストップ、ちょっと――!







 ――ぐにゃあッ?!」











   ◇ ◇ ◇ 

 がくん、がくん。
 がくん、がくん。
 泡を噴いて倒れこみそうな少年をしかし、飛び込んできた女性は許さない。
 襟を掴んでがくがくと揺すり、きらきらとした瞳で、今すぐ昇天してもおかしくないどろどろとした瞳の少年を見つめた。

 彼女は轟々とその炎を揺らす。
 燃える様な紅い瞳と髪、その背面部には燃えながらも燃やさない火が灯っている。
 それは紛れもなく、俗に伝説鳥の一匹と呼ばれるファイヤーであった。
 伝説を飾るに相応しいその威厳は、現在形で別のベクトルに全て変換されて使われてしまっているのだが。


「ちょっと、何なのさっきのイジケ?! 私を殺す気?! さっきのは萌え殺す気?!
ちょっと、ちゃんと話を聞きなさいってば!」


 がったんがったんと揺らされると、ようやくどろどろに融けきっていた少年の瞳に意識が戻る。
 同時に、口を衝いてマシンガンのように吐き出されてくる言葉、言葉、言葉。

「誰だよ、俺をその頭蓋骨で一撃KOしたのはよ! 言ってみろ!」
「わ・た・し♪」
「分かってるなら無茶言うなよ! 一撃でHPが赤バーになるところだっただろ?!」
「大丈夫、お金なら幾らでも集められるからね!」
「ねえ、何する気? 俺の体に何する気ですか、ねえ?」
「それより、早くご飯頂戴」
「振っといてスルーするなよ火の鳥。人の話を真面目に聞こうよ火の鳥」

 ぐにゃぐにゃと、傍目には意味不明な会話で伝説にタメをきく少年。


「おはよう、カイト。ところで朝食は出来てるか?」

 声のする方には、いつの間にか一連の動作中にちゃっかりテーブルについている一人の姿があった。
 ファイヤーが紅なら、彼女は蒼。
 蒼い髪に蒼い瞳、氷の結晶体のような繊細で鋭さのある翼が、印象的に椅子を彩っていた。


「おう、出来てる――って、いつの間に来たんだよ。……フリーザーママ」

 彼は――



  ◇ ◇ ◇


 ――獣に拾われた人、という話をご存知だろうか。
 いや、そんな話はどうでもいい。

 ある時山中に捨てられた、一人の赤ん坊がいた。
 そのままなら確実に自然の摂理に従って大人しく死んでいったであろう赤ん坊を、何の気まぐれかファイヤーが保護してしまったのが始まり。
 その日以来、小うるさく喚く赤ん坊に従って、彼女はありったけの母性を注ぎ込んできたのである。

 その赤ん坊をさらに他の伝説鳥に見せびらかしたのが、次の始まり。
 下等生物の子供と思っていたかは定かではないが、ともかく最初はそこまで興味を持っていなかった彼女達もあっという間にのめりこんだ。

 かくして、一人の捨てられた赤子が偶然として伝説のもえもんを母とする、という奇妙な状況が出来上がった。
 
 あるいは伝説の鳥、必然的に遺伝子を普通の方法では残すことができない彼女達は、何かしらの感情を、子供というものに感じていたのかもしれない。
 彼女達はそれ以来持ち場を離れて一箇所に入り浸るのでマスターボールを持った誰かが立ち往生するのはもちろん、意味不明な軽い天災が起こる回数が増えたとは世間の話。
 とにもかくにも三鳥の愛情とか色々なものを受けて、彼は多少紆余曲折ありながら、すくすくと成長している。
 多分。


  ◇ ◇ ◇




「さっきからな。ところで、朝のぎゅううううううはまだか?」
「何だよ、朝のぎゅうううううて。ぎゅうううううてお前、せめてぎゅっじゃなくて?」

 どがあん、とテーブルにつけられていた椅子が吹っ飛んだ。

「そんな軽いスキンシップで満足するのか、カイトは?! しかも『う』が一個少ないじゃないか!」
「いきなり立ち上がって雄雄しく叫ぶなよフリーザーママは! 寒いだろ?! 何かもう二度ぐらいは下がったぞ今?!」
「可哀想なカイト。私の胸の中で暖めてあげるから、さあいらっしゃい」
「止めようなファイヤーママ、それ割とリアルに窒息死するから。あと顔赤らめんな」
「カイト、あんまりママに乱暴な言葉遣いはいけない。そして私にも抱かせろ」
「前と後ろが繋がってねぇよ! もういい加減に大人しく朝飯食えよお前ら!」


 ぶん、と右手で空を切る少年の思いは切実だった。
 しかしながら、基本的に彼の思いはぶち壊される傾向にあり、その最後のトドメがまだ出現していない三鳥によるものであるのは当然の流れだった。

 けたたましく何かが叩き割られる音がすると思った時には、もう遅い。
 黄金色にも近く、微妙に異なる瞳と髪を持ち、ばちばちと弾けるような音を出しながら下方向15度程度の角度でそれは急速に飛来してきた。
 途中でスピンを加えながら、存在自体が弾丸と化したそれは威力を落とさないまま少年に突っ込む!

「またかよ?! ――うにぇらあっ?!」



 ああっ、と他の二鳥がうなる間に、弾丸は少年を巻き込んで壁に激突すると、激しい土ぼこりを撒き散らす。
 一瞬視界が途切れて、土煙が霧が晴れるように段々と明瞭になると――

「よー、カイト。相変わらず抱き心地いいなー、お前」
「いきなり抱きつくなよ……。死ぬかと思っただろ」
「いや、悪い悪い」

 ――やはりそれも伝説鳥。
 今はばちばちという、常人が触れれば即死は免れられないその電撃の束を意識的に静止させているのか、ぐりぐりと少年の顔を豊かな胸に抱え込んでサンダーは頬ずりする。

「えー、何で私の時は嫌がるのに何で? 何でサンダーの時は文句言わないの?!」

 ファイヤーが声を荒げて抗議すると、サンダーはへへん、と勝ち誇った顔をして少年の頭に手を添えた。

「へっへーん、赤ん坊のコイツを一番抱いて空にかっ飛んでたのは俺だぜ? 刷り込みだよ刷り込み、洗脳というかサブリミナル」
「俺は人間だよ。鳥ちげーよ、刷り込みねーよ」
「つまりカイトはできる限り薄い胸が好ましいということか」

「ちげーよ?! 勝手に印象付けんなよフリーザーママ?! その場の勢いってもんがあんだろ、勢いが!
つーかサンダーママも窓壊して入ってくんな! ファイヤーママも何でわざわざ地面伝いでくるの、イジメ? ねえこれイジメ?!
わざわざこっちは気を使って、いつも寒いけど天窓開けてんだろ! 普通に上から入ってこいよ、上から!
壊れた家どうすんだよ?! ホント放っておいたら一ヶ月で土台ごと全力全壊するぞこの家!」


 肺活量の限界に挑戦するような台詞を一息で言い切ると、少年はぜいぜいはあはあと息をついた。
 しかし――

「……はぁ、はぁ――、――orz」
「おー、また最大肺活量が上がったなぁ、カイト」
「あんまり怒鳴りすぎると風邪をひくわよ」
「少しカルシウムを取れ。あまり怒りすぎは体によくないぞ」

 やはり、てんで効いていない。
 せっかく自己の限界を更新した少年にも、結局与えられるのは挫折だけで、思わず心から目を瞑りたくなる衝動にかられた。
 毎日がそんなだから自己の限界を更新し続けている、とも言えるが。

「まあ、そんなに気にしなくてもいいでしょ? 私がまたゴローンとかゴーリキーとか片っ端から声かけてやらせるから。タダで」
「可哀想だな。こんな伝説にこき使われるもえもん可哀想だな」
「いいじゃねーか、細かい事は気にするなよ。それより前から思ってたんだが、カイトに粉かけるヤツがいるかどうかの方が心配だなぁ」
「人選は慎重に、細かいグループ分けにしてお互いの行動を監視させよう。平野のもえもんにも声をかけるべきだ」
「ないから。そんな本格的な事しなくてもいいから、ココハ戦場デスカ?」




 恐らく止めても止まらないのだろう彼女達に従って、明日にでもここはもえもんが大量に作業する場所になるのだろう。多分。
 彼らがはじめて来た時の、何か恐ろしいものに出遭ってしまったかのように口を噤んで仕事をする姿を思い出すと、少年はなんともいえない気持ちになる。

――ねーよ。
――誰も俺につっかからねーよ、あの様子じゃ。

 しかしながら目の前の様子は止められそうもない。
 せっかく修理の常連とは少しくらい打ち解けて、三時のおやつも受け取ってもらえるようになったのに。
 多分とっくに冷めているだろう朝食に一瞬目をやって、少年カイトは目の前で真剣に討論する母親三人を見ながら呟くのだった。



「だめだこいつら、はやく何とかしないと」
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