3スレ>>341


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予兆はあった。
バトルの最中に足元がお留守なフシギバナや荒い息のピカチュウ。
ピジョットやグレイシアの頬に朱が差していたり、
キュウコンやカイリューがもじもじしてたりとか。
俺は多少不思議に思ったが、皆の体調が気になるため萌えもんセンターへと駆け戻った。
ジョーイさんに預けてしばらくの間、俺は気が気ではなかった。
もし皆に何かあったら――
俺の不安は急速に、そして無制限に膨らんでいった。
俺の名前がアナウンスで呼ばれると同時に、俺は受付に飛び込んだ。
飛び込んできた俺の剣幕に、ジョーイさんはひどく驚いたようだったが
流石はプロだ。すぐに表情を引き締めて俺と向き合った。
「身体に特に以上はありませんよ。
 もしかしたら、精神的な疲れが溜まっていたのかもしれませんね。
 ――クス。しばらくは、ここでお休みになられてはいかがです?」
異常がないと聞き、身体の力が一気に抜けてしまった。
思わず、俺は地面にへたり込んでしまっていた。
そんな俺をジョーイさんは可愛いものでも見るかのように笑った。よしてください。
でも、皆の疲れに気付けなかった点は俺にある。
カウンタの上に並ぶ6つのモンスターボールに、俺は謝罪の言葉を漏らした。
ニコニコとしているジョーイさんに、多少のくすぐったさを覚えながらも俺は滞在の手続きをした。
ここしばらく、ゆったりとした時間が持てなかったので
とりあえず、二日か三日ほど滞在して皆の疲れを癒すことにした。
結論から言おう。俺はこの事に感謝しつつ――
そして凄まじいまでの後悔にも襲われたのだ。


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それは宿泊一日目の事だった。
夕食の後、部屋に戻った俺に振るえが奔った。
なんというか、空気が異様なのだ。
ねっとりと絡みつくように甘い空気。
そのあまりの濃さに、俺は胸焼けを感じた。
「――あ、ご主人様……」
ドアで呆然と立ち尽くしていた俺をようやく認めたように、フシギバナが声をかけてきた。
だが、声の感じがおかしい。どことなく甘く――色っぽく艶やかな声色だ。
思わず俺の脚が一歩下がる。なんなんだ? 一体。
「お帰りなさい……。ご主人さま」
ピカチュウの幼い肢体からも発せられる、あまりにも強い色の雰囲気。
ざっと見回すと、皆の目が異常だった。
皆が皆、瞳の中に強力な炎を湛えている。
何の炎なのかは俺には想像できない。
トレーナーとしてマサラから旅立ってこのかた――いや、物心ついたときから常に萌えもんと共にあり、
萌えもんに対して抱いた事のない感情が湧き出ていた。
それは恐怖。俺の身体は完全に萎縮してしまっている。
「ふふ……」
キュウコンの怪しげな笑みが、俺を身体の芯まで凍らせる。
あまりにも場に呑まれていたためか、俺はスルスルと足元を這う蔓の存在に気付くことがなかった。
俺が蔓に気付いたのと足がからめとられたのがほぼ同時。
しまったと思う暇すらなく、俺はその蔓に捕らわれてしまった。
「ご主人様……」
一歩、また一歩とフシギバナが歩み寄る。
その顔には歓喜の表情が浮かんでいる。
横へと注意を向けると他の萌えもん達も俺に枝垂れかかってくる。
そのまま俺の胸に顔を埋めるフシギバナ。スンスンと鼻を鳴らしている。
他の娘達も似たようなものだ。
右耳をグレイシアが、左耳をピジョットが啄ばみ、カイリューが背中をきつく抱きしめている。
キュウコンはカイリューの上に居座って俺の頭に胸を押し付けて抱きついている。
足元はピカチュウの独壇場だ。親に甘える子供のように頬を擦り付けてくる。
不味い。何を隠そう俺のことだ。
俺だって健全な青年であり、無我の境地に達した仙人などでは決してない。
つまり、かなり俺にとっては辛い状況なわけである。
耳からやってくるくすぐったさに身を震わせると、その突然の動きに耳を啄ばんでいた二人が素っ頓狂な声を上げる。
普段の二人の声にはない甘さに体が蕩けそうになる。
脱出しないと不味い……!
幸い、俺の胸に夢中でむしゃぶりついているフシギバナの蔓はかなり緩くなっている。
よほど夢中になっているのだろう。足に絡まった足をピカチュウに悟られぬように緩めていく。
チャンスは一度――。
皆の意識が完全に俺から逸れた一瞬を見計らい――
俺は部屋からの逃走に成功した。


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俺はカウンターに慌てて駆けていく。
何が、身体に以上はないですよだ。思いっきりあるじゃないか。
やり場のない怒りを心の中のジョーイさんにぶつけながら、おれはジョーイさんに質問をぶつけた。
部屋の中であった事――非常に恥ずかしかったが、それをつぶさに報告した。
ふと思案顔になったジョーイさんがポンっと手を打った。
「確証はありませんが――そういえば、貴方はマサラタウンの出身でしたよね。
 オーキド博士にお聞きになってはいかがですか?」
顔を真っ赤にした俺がよっぽどおかしかったのか、笑顔を絶やさないジョーイさん。
内心ムッとしながらもジョーイさんのくれたヒントを頼る事にした。
萌えもんセンターに設置されているパソコンを起動。オーキド博士との連絡用の番号へと繋ぐ。
夜分に申し訳ないが、俺の精神衛生上の問題を解決するために犠牲になってもらおう。
接続するまでの時間がもどかしい。指をトントンしていると、ようやく繋がった。
「誰じゃ? こんな遅くに――おお、お主か。久しぶりじゃの」
「お久しぶりです」
不機嫌そうな声が、俺を認めた瞬間明るくなる。
博士のそんな子供っぽい一面に苦笑しつつ、俺は本題に入る事にした。
先ほどの部屋の状況を詳しく説明する。
それを聞くと、博士は不思議そうな笑みを浮かべた。
「たしかにこの時期は萌えもん達にとってはそんな時期じゃがのぅ」
おかしいのう、と腕を組む博士に結論を求める。
「お主の萌えもんの症状、時期的に見ても間違いないのう。
 ――発情期じゃよ」
……は?
「何を放心しておる。発情期じゃよ、発情期。繁殖の時期なのじゃよ」
いや、え? あの――
「うぇ?」
「動揺しすぎじゃ。……気持ちは分かるがの。前代未聞じゃよ。
 発情した萌えもんに襲われるトレーナーなんぞな」
冗談めかして言った博士の一言がクリティカルヒット。
思わず地面に這い蹲ってしまった。
「聞かんかバカモン。
 よいか、たしかに今は繁殖の時期じゃ。じゃがの、トレーナーのいる萌えもんにはそれがないのじゃ」
知らんのか? と聞いてくる博士。頷く俺。
「よいか――」
かいつまんで説明すると、萌えもんボールに入った時点で本能が抑制されるってことらしい。
「正確には、人間により近づくといったほうが正しいかのう。
 自分の欲望やらをコントロールできるようになるのじゃ」
へぇ、とやる気のない返事を返す俺。
仲間の萌えもんに襲われるという経験を果たした史上初のトレーナーである俺としては、
いまいちピンとこない話だ。
「そう拗ねるでない。お主が好かれている証ではないか」
そうなのかねぇ。
とりあえず、部屋に帰って問いただせって事ですか?
俺の疑問に、博士は大きく頷いた。


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慎重に慎重を重ねて部屋へと向かう。
扉の前に立ち、中の様子をじっと伺う。
「いや、しっかし良い時間だった」
カイリュー、異常なし。
「でも、なんか悪い気もします」
フシギバナも同様。
「でもご主人さまに甘えられて嬉しかったの」
「お前はいつも甘えておるだろう。
 ――ふむ。しかし、主の耳は実に心地よかった。癖になりそうだ」
ピカチュウとグレイシアの会話にも、問題点は見受けられない。
「あら、だめよ。私の専売特許なんだから」
「お主の専売特許ではないのだがな。
 しかし、できればキスまで持っていきたかったものだ」
キュウコンと爆弾発言をかますピジョット。いつもの事だ。
つまりは博士の言うとおりだったということだ。
それさえ分かれば怖くはない。
意気揚々と俺は扉を開け放った。
「随分、面白い話をしてるなぁお前ら」
凄みを効かすために極上の笑顔は忘れない。
皆が飛び上がって、油を差し忘れた機械のような動きでこっちを向く。
そして俺の笑顔を見てまた飛び上がる。
「い、いえあのですねこれは全てキュウコンがですね――」
「ちょっと、私に押し付けないでよ。フシギバナも皆も賛成してたじゃな――あ」
慌てて捲し立てるフシギバナと、すっかり動揺して自爆してくれたキュウコン。
とりあえず――
「さぁ、言い訳を聞こうか?」
俺の言葉に、皆は首振り機械の様にこくこくと頷くのだった。

結論から言えば、オーキド博士の推論はほぼ当たっていたということだ。
発情期に入った彼女達は、理性で押さえつけられるその欲望に敢えて身を委ねたのだという。
そうなれば、俺も相手をするしかないと考えたらしい。だが――
「誤算としては、主が発情期を知らなかった事だな。
 あんなに恥ずかしい思いをしたのに、結局望む結果は得られなかった」
とはグレイシアの談。
発情期ならば仕方ないと妥協するとでも思ったのだろうか。
いや、危うく負けそうになったが。
「私としては我慢した主に賞賛を送りたいな。
 据え膳食わぬは男の恥だが、そこに私たちは惹かれたんだからな」
ピジョットの発言に思わず赤面。
畜生、そんなこと言われたら許してしまうじゃねぇか。

この出来事以降、俺と萌えもん達との間でスキンシップの頻度が多くなったのは言うまでもない。
抱きしめたりとか頭撫でたりだけどな。
余談だが、ミュウツーは非常に口惜しそうにしていた。
「そうか、あの内から湧き上がる衝動が発情だったのか。我慢できる範囲ではあったのだが、
 いかんせん何がなんだか分からなくて悶々としていたものだが……。
 私も便乗していればよかったな」
勘弁してください。


――了――
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