3スレ>>510


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「マスター、そういえば言い忘れてました」
「あ? どした?」
愛用のエプロンを付けて鼻歌交じりに食器を洗っていたシャワーズが
キッチンからひょこっと顔を出して言った。
「私の妹が今度、こっちに来るらしいです」
「……は?」



俺は片付けが落ち着いたシャワーズを座らせて話を聞く事にした。
ちなみにイワークはさきほど探してみたところ、俺のベッドですやすやと丸くなって
気持ちよさそうに寝ていた。
「妹ってのはどういうことだ? いつ来るんだ?」
「そういえば言ってませんでしたね」
いつものように柔らかな笑顔を見せるシャワーズだったが、はっきり言って俺は困惑していた。
今度の話は初耳どころの騒ぎじゃない。寝耳に水だったからだ。
「何よりもまず妹が居たかという話から聞いてなかったんだが」
俺はシャワーズが用意したコーヒーを口に流し込みながら尋ねた。
「ソイツ……お前の妹もじいさんの所に居るのか?」
じいさん、つまり俺の祖父は萌えもんの研究を生業としている。
だが稀にじいさんは気に入った子を俺にあてがおうとするのだ。
このシャワーズと、今俺のベッドを我が物顔で占領しているイワークも
そうした故があって俺と共に暮らしているのだ。
「そのようですね。数日前、博士から連絡がありまして、『新しい子を送るから宜しく』、と」
「はあ……。 全く、本当に毎回好き勝手やらかすな、じいさんは……」
俺はこめかみの辺りを抑えた。
技術と気概に溢れ人望も厚い祖父だけに、たまにやらかす茶目っ気も
研究所で共に働く周囲の人々は「しょうがないなあ」と言って許してしまうのだ。
実際に同僚を何人か、じいさんがうちに連れてきた時に聞いた話だから間違いない。
「それで……」
おずおずとシャワーズが尋ねてくる。
「マスターはどうされるのでしょうか」
心配そうな表情を浮かべるシャワーズに、俺は少しばかり違和感を感じながら、
「どうするったってなあ。まあ一回会ってみてからかな」
コーヒーを飲み干しつつ俺はそう答えていた。




数日後。
シャワーズから話を聞いたその日の内に俺は改めて祖父に、今回の件について
確認した。
新しい子を寄越す日取りを調整して、ついに今日こそ、その子と会う約束の日だ。
俺とじいさんは二人、待ち合わせしていた駅前の噴水広場にて顔を突き合わせていた。
ちなみにシャワーズとイワークは自宅にて歓迎会の準備をしている。
俺は二人には「必ず連れて帰る」とは言ってなかったんだが。
俺の方はともかく、相手が俺のことを気に入らなくて 「今回の件は無かった事に……」なんて
言われるかもしれないことを考えていないのだろうか。
「それで、じいさん」
「ん、なんじゃい」
今ここに居るのは俺とじいさんのふたりだけだった。
「その『新しい子』ってのは何処に居るんだ?」
「ああ、それな」
かんらかんらと笑うじいさん。
「逃げられたわい、あっはっはっは!!」
爆笑するじいさんの言葉に、俺は壮絶にずっこけた。
「は、はあ!!??」
「いやあ、ワシ相手にすら人見知りする子でのう。唯一自分の姉にだけは
懐いていた子じゃったんじゃが、どうやらあの子の中ではお前さん、『大事な姉ちゃんを
連れて行った悪い人』みたいなイメージで見られてたみたいでのう」
「ちょい待て、そもそもシャワーズすらじいさんが連れて来たんだろうが……」
「情報操作の不具合、というやつじゃな。失敗失敗、あっはっは!」
けたけたと笑うじいさん、いやじじい。頚動脈をぎゅってしてやろうか。
「というわけで、じゃな」
「あん?」
ぽい、と平べったくて丸いものを手渡される。なんだこれ、ドラゴ●レーダー?
「見た通りのレーダーじゃよ。くっつけておいた発信機があの子の今居る場所を知らせてくれる
ように出来ておる。 それを追っかけていけ」
「いやです、じじい」
「な、なんじゃと!?」
驚きを隠せない様子のじじい。俺が「よし分かった!」とか言うと思っていたのだろうか。
―――はああ……とてつもなく頭が痛い……。っつうか、一体どういうことか
なんとなく分かってきたぞこれは……―――
じじいは昔からイベンター気質な所がある。きっとじじいは最初からわざとその新しい子を
逃がすように仕向け、それを俺に助け出させて一気に仲良くさせようという魂胆なのだ。
ちなみにぶっちゃけコレ、イワークの時と全く同じ方法である。
「前と一緒じゃん」
「ち、違うわい! 今回はレーダーがあるし!」
確かに前回はGPS機能搭載の携帯電話だった気がするが。
全く……前と比べて悪趣味な方向にだけ進化してんじゃねえか……。
「はあ……ったく。 しゃあねえな」
「お?」
俺は少々―――いや、かなり―――渋々だったが。
「これでもシャワーズやイワークに会わせてくれたのだけは少しだけ
じじいには感謝してんだ、気は乗らねえけど行ってやるよ」
「おお、さすがはワシの孫! ノリとか空気っつうもんが分かっとるのう!」
「そういうテメエこそ年相応のノリを知っとけっつの……」
そう行って、俺は軽くストレッチをして、そしてレーダーを握り締めて駆け出した。
「ああ、そうそう、言い忘れておったわい!」
「あ”!?」
俺は走りながら耳を向けた。
「ちゃんとお前らの様子は街頭カメラをジャックして完全録画しとるからしっかり頑張れよ~!」
「だからそういう事に最先端技術を使うんじゃねえ!!」



それから小一時間、俺は街中を走り回る事となった。
雑踏、ビルとビルの間の細い小道、住宅街、公園、etc……。
自宅の前を通った時は軽く諦めかけたが、なんとかモチベーションを維持して走り抜けた。
そして今。小高い丘の上、並び立つ木々のひとつに赤い髪の少女が座り込んでいた。
レーダーが独特の電子音を発している。何度か照らし合わせてみたが、どうやら彼女がそうで
あるようだ。
「はあ……っはあー……。 やっと見つけた……」
俺は荒く息をつきながら、一人ごちる。さすがに乱れた息のまま話しかけた所で怪しまれるだけ
だろう、一度自分を落ち着ける。
「ふう……。っよし!」
俺は 以前(イワークの時)に活躍した『秘密兵器』をポケットに入れて隠しながら
足の底に力を入れるようにして立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。



「よっ」
びくっ、と、少女の体が震える。
「こんな所で何やってんだ」
少女は何も答えない。俺が見下ろす形になっていて、相手はうつむいたままだ。
「横、座っていいか?」
出来るだけ優しく聞いたつもりだったが、少女はぷるぷると首を横に振った。
「そうか、駄目か。 じゃあ立たせてもらうか」
俺は彼女の返事を待たずにそう言って横に並び、そのまま木に持たれかかった。
「お前、名前は何ていうんだ?」
数秒、間を空けて。
「……ブースター」
容姿と同様、幼い雰囲気が漂う声色でそう言った。
「よし、じゃあブースター。 お前どうしてそんなへこんでんだ?」
「…………」
しかし少女は答えない。
「……いや、まあ、言いたくないならいいけどな」
それからしばらく、俺は少女に何か言うでもなくそのままの姿勢で立っていた。
「……お姉ちゃん……」
「あ?」
地面に視線を向けたまま、彼女がぽつりと言葉を口にした。
「お姉ちゃんは、元気?」
「お前、俺の事知ってたのか?」
少女はこくりと頷いた。
「そうか、それなら話は早いな」
俺はそう言ってから少し間を空けた後に言葉を続けた。
「元気だと思うぞ。 まあアイツはああいう性格だからな。 もしかしたら心の中に溜め込んで
る気持ちがあるのかもしれんが」
「…………」
「俺が知ってる限りでは、傍でよく笑ってくれる」
「……そう」
「ああ、何だったら今から会えば良いじゃねえか。 アイツも喜ぶぞ?」
「…………」
また言葉が途切れた。さらさらと木の葉が風に揺れる音だけが辺りに流れている。
「…………私の」
「ん?」
「私の居場所は」
ぽつりと。
「きっとそこには無いから」
抑揚の無い声で彼女がそう言った。
「お姉ちゃん、電話で楽しそうだった。あなたの事はもちろん、イワークって子も
新しく出来た妹みたいですごく良い子だって、言ってた」
「……もしかして」
―――お前、やきもちを焼いてるのか―――
そう言いそうになる口を慌てて閉じた。
再び訪れる、自然以外の音が途絶えた静寂。その中で俺は考えていた。
ブースターの持つ雰囲気はイワークともシャワーズとも違う独特のものだが、俺はこの、
言葉の無い澄んだ空気が不思議と嫌では無いと感じていた。
(はあ……まったくあのじいさん。なんでこんな突っ返すのがためらわれるような子ばっかり
こっちに寄越してくるんだよ……)
俺は心の中で愚痴をつきながら、ポケットの中の最終兵器を取り出した。
「おい、ブースター」
「なに?」
「これ食え」
目の前にひとつ、袋に包まれた飴玉を放り投げてやる。
「なに? これ」
「なんだお前、飴玉も知らんのか」
「……馬鹿にしないで」
ほんの少しだけ、むっとした顔になる。
(なんだ、別の顔できんじゃん)
そう思いながら、俺はもうひとつ飴玉を手にとって口の中に放り込んだ。
「うん、美味い」
だがブースターはそれを手の中で転がしていた。
「食わんのか?」
「……今はいらない」
「そうか」
飴をころころと口の中で転がすと、りんご味の爽やかな甘みが口の中に広がった。
「うちのじいさんの話で悪いがな」
「…………」
「昔あの人に教えてもらった事で一つだけ好きな言葉があるんだ。なんか分かるか?」
「分かるわけない」
「そりゃそうか。 言うとだな、じいさん曰く『ケンカをしたら飴玉をあげろ』ってんだ。
何言ってんだろうな。飴玉あげたくらいで相手と仲直りできるわけないのにな」
「私とあなたはケンカしてない」
「まあそうだけどな。続きがあるんだから聞けって」
俺は笑いながら話を続ける。
「俺が反論したらじいさんは続けてこう言ったんだ。『自分が大好きなものを相手にあげる
くらいの気持ちがあれば仲直りは簡単だ』、ってな。 俺、そんとき子供だったからよ。
それ聞いてすげえ関心しちまったんだ」
ブースターは黙ったまま、手のひらで飴玉を転がしていた。
「俺とお前、まださっき会ったばっかだけどさ。それでも飴玉あげたくなるくらいには
一緒に居てもいい、なんて俺は思ってるんだどな」
「…………」
ブースターは手のひらの飴玉をじっと見つめていた。
「だめか?」
俯いたままのブースターを見て俺は少し気持ちが沈んだ。
「…………いいの?」
「あん?」
「わたしがずっと傍にいても」
その日、はじめて。
俺はブースターの顔を正面からはっきりと見た。
表情こそ薄いものの、姉に負けず劣らずの端正な顔立ちに俺の胸が少しだけ高鳴った。
そんな気持ちを抑えつつ、俺は言った。
「……ああ、好きなだけ」
俺がそういうと、ブースターは飴玉の袋を開けて小さな口の中に放り込み、
少々控えめの―――そしてとびっきり可愛い―――笑顔で答えてくれた。
「美味しいね、マスター」



夕方頃。
俺とブースターはそのまま帰路に着いた。
そして玄関を開けた瞬間、クラッカーのけたたましい音と共に出迎えてくれた
シャワーズとイワーク(とじいさん)の声が響いた。
「ブースター、久しぶり、いらっしゃい」
「よろしくね、ぶーすたー!」
「遅かったな、愛孫よ。全部見ておったぞ」
少し気まずそうなブースターだが、実際に姉であるシャワーズと対面して自分の勘違いに
反省したのだろう、極力自然に振舞おうとしていた。
俺はとりあえずじじいの顔面にレーダーを思いっきり叩きつけ、長い話は後にして三人に
リビングに入っていくよう促した。
リビングに入ってみるとテーブルの上には様々な料理が所狭しと料理が並べられていて、
シャワーズの調理技術の幅広さに今更ながら驚いた。
そしてテーブルの上には皿が並べられていて、上座に一人、両側に二人ずつ座れるよう
既に準備がなされていた。
疲れていた俺は上座に近い方の片側に座り込み、他の皆の着席を待った。
すると、ブースターがいきなり、上座とは反対方向となる俺の隣にぺたんと座った。
「ブースター、貴方はこっち。主賓なんだから上座の方に座りなさい」
シャワーズが優しくそういうと、ブースターはバッサリと、
「いや、マスターの隣がいい」
といってシャワーズの言葉をぶった切った。
部屋が一瞬凍りついた。
「あ? ……何言ってんだ、ブースター。お前はこっちだって」
「そ、そうよ。ほらマスターもこう言っているんだし」
「そこ、わたしの席……」
イワークも混じってブースターの行動を諌める三人。だが、
「マスター、ずっと傍に居ても良いって言った。だから、私はここ」
抑揚の無い言葉で、しかしどこか幸せそうな感じのする口調で言うブースターだったが、
その一言はあっという間に幸せになるはずだった歓迎会を修羅場に変えてしまったわけで……。
「な! ……何を言ってるのブースター! マスター、嘘ですよね? 今の話、嘘ですよね!?」
「やだ~! ますたーの隣はわたしなんだから~!」
「ちょ、お前等、待てっつってんだろ! あ、こらブースター、腕に抱きつくな! ややこしくなる!」
「……みんな、邪魔。どいて」
「や~だ~!」
「マスター! 説明してください!」
「あ”ー! ウゼーっつってんだろがテメー等!!離れろーーー!!!」
その様子を横から見ていたじじいが(レーダーを顔にめり込ませたまま)満足そうにこう言った。
「くっくっく、なかなかにモテモテじゃのう、マスターさんよ?」
「ぶっ殺すぞテメエ!!」
「かーっかっかっかー!! ではさらばじゃー!!」
「あ、逃げやがった! 待ちやがれ!!」
「マスター、動かないで」
「説明を! マスター!」
「いや~~~だ~~~!」
「あ”ーーー! ちくしょーーーー!!!」
俺の叫び声は外へ響き渡り、そして宵闇の中へとむなしく消えていった……。
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