戦闘不能。
まっとうな公式試合でこのチャンピオンサイドにおいて初めて流れたアナウンスである。
……或いはこの時、冷静に指示を下していれば。
まだこの紫煙のチャンプにも挽回の余地はあったのだろう。
実質、この瞬間に勝敗は決した、と隻腕のトレーナーも手記に綴っている。
―――
濛々と立ち上る砂煙を背にキングドラは満足そうにため息をつき、
いつの間にかサンドパンと入れ替わっていたブラッキーと交代する。
私の眼前に対峙するは砂塵の爪姫と名高いサンドパン、
そして自らを高める技を持ち覇気を高め、他者の力をも増加させる黒の要塞ブラッキー。
どうやらその己の高まった力を相手に受け渡す技を持って砂塵の爪姫を強化した様だ。
「……狐。」
マスターの眼光は口よりも多くを語る。
……加減する必要はないと、今は語りかけてくる。
「……仕方ないわね。」
軽く左手で虚空を撫ぜる。
それだけで空気が変わっていく。
潮騒の竜王たるキングドラの気勢に飲み込まれていた空気を制しただけであるが。
―――
雨の降るこのフィールドを乾いた風が唐突に吹き抜けている。
その風はフィールドをも乾かし砂地の砂を運びこの地に砂塵を巻き起こす。
―――
砂嵐は湿地の様相を呈していたこの場を一瞬で砂漠と変えた。
全ての存在を覆い隠すその砂塵をもって砂塵の爪姫は最高のパフォーマンスを見せる。
「……ふっ!」
死角より途切れなく飛び来る爪を紙一重で交わしつつ砂地の足場の悪さを改めて思う。
「――……狐! ……!」
砂と風で聞き取れたものじゃない、指示を下すマスターの気迫は判るのだけれど。
――見えた!
「はぁっ!」
刹那垣間見た黒い影へと灼炎を纏う拳を振るう。
炎熱の高温に炙られ崩れ落ちるのは1本の樹木。
……誘い込まれた?
「これで堕ちろ!」
頭上からの声を確認する間もなく両腕で防御。
「……ぐっ……」
ガードする両腕に衝撃が走り私を中心に小さなクレーターができる。
地を揺るがす衝撃を持つ拳を打ち下ろした反動を利用し後方へ着地。
「トドメ!」
超低空を滑る様に走り砂を跳ね上げて爪を振り上げ……。
「――なめるな!」
その鋭く輝く爪を掻い潜り腹部へと拳を打ち据える!
――その場を中心に爆炎がフィールドを焼き尽くし砂塵をもかき消す。
もはや立ち上がる事はなく薄く息をし意識をなくす爪姫に背を向ける。
―――
己が身を高めその身を要塞のごとき堅牢なものとした黒姫と、
新たに私の前へと出でるは勇ましく火炎を纏うウィンディ。
「炎で勝負かけてくるなんて随分強気ね。」
金色の髪は私の気迫に答え立ち上る赤い炎と化している。
「こっちも考えがある。」
半身に構え私へ拳を向けるウィンディ。
「まぁいい、こっちからいかせてもらうわ!」
ウィンディへと一気に距離を詰め勢いをそのままに焔を纏う蹴りを放つ。
しかし
「いい加減こっちを無視するのやめてくれない?」
私の足を片手で止めるブラッキー。
己が身を高め要塞と化した黒姫は受け止めた手で私を広報へ投げ飛ばす。
「残念だったわね。」
「……いつの間に!?」
着地を試みた私の背後には、まさにこの場所へ飛び来るのを知っていたかのように待ち受けるウィンディ。
体勢を立て直す間もなく私の首をつかみ……。
「神の領域を垣間見せてあげる。」
ウィンディが誇る神の名を関する技、神速。
その速度を持ってフィールドに唯一存在する岩山へ叩き付けた。
「せめて苦しまずに気絶でもなさい。」
砂煙の立つ場所へ火炎を放つ、大文字と名のつく火炎最高峰の技のひとつである。
岩山はまさに猛り狂う火山の様相を思わせる紅蓮の柱をあげるのだった。
―――
中書きの2.
ごめんなさいごめんなさい。
本当にごめんなさい。
長くなりすぎてこれ前中後の三部構成になっちゃったんです。
後編はなるべく早くあげますから許してー。CAPRI
最終更新:2007年12月21日 01:42