3スレ>>554

 隻腕の指示による攻勢はまさに熾烈を極めた。

開始直後のハピナス撃墜から始まったこの試合も、終焉を迎える時が近い。

岩山と共に猛火に飲まれた九尾を距離を置き見つめるウィンディとブラッキー。

本来この技で沈まない相手はいない、しかし隻腕もその連れも緊張を解いていなかった。

―――

やはり、というのだろうか。

焔柱が収まり炎熱に炙られた岩山の横に立っていた狐。

……あれだけの衝撃、さすがに無傷とはいかないか。

「痛かったわ、あんな無茶な事されたのは今日で3回目。」

乱れた髪を直し吐き捨てるように呟く狐。

「神速の世界は楽しめたか?」

挑発するように煽るウィンディ、しかし臨戦態勢のままである。

「えぇ、楽しかったわよ、けど2度とごめんだわ。」

こちらに向かって狐が手を振る。

「……あまり無茶は。」

俺は狐に煙草の箱を投げやる。

「どうも、けど加減なんか出来ないわ。」

1本取り出し軽くふかす。

「何のつもりだ、戦闘中に煙草なんか。」

ウィンディもこれにはさすがに痺れを切らした。

「紫煙の主の連れが煙草吸ってないのもおかしいじゃない。」

サンドパンにつけられた腕の痣と擦り傷を撫でてながら紫煙を燻らす。

箱をこちらに投げやり咥え煙草のままゆるく構えを取る。

「ブラッキー、あいつを抑えておいてくれ、ウィンディはキングドラとチェンジだ。」

何かを感じ取ったか冷静に指示を下していく隻腕。

「今仕掛けないなんてもったいないだろ、まだやれる。」

指示を無視し狐に神速で迫る。

「……また? 芸がないわね。」

狐の真横で唐突に動きをとめる。

その額には指先が軽く押し当てられていた。

「いくら回り込んだって見えてるものなら同じよ。」

「俺の速さを? 強がりはよすんだな、まぐれは2度も……」

軽く後方に飛び退りながら言うが

「早く戻れ! おまえの動きはとっくに見切られてるんだ!」

焦るように隻腕が叫ぶ。

「そういう事、あの子の方が正しいわ、トレーナーには素直に従うのね。」

いつの間にか回り込んだ狐がウィンディの首を掴む。

「……本当の神の領域を教えてあげるわ。」

掻き消えるように加速し岩山を足場に高みへと飛翔する。

「ブラッキー、間に合うか?!」

「やってみる。」

隻腕が指示をする、……俺に出来る事がないのは痛い。

普通のトレーナーならアイテムもあろうがこちらはリーグチャンプ。

規定個数以上の回復アイテムの使用は認められない。

そして俺が用いるのはせいぜい麻痺と眠りを直す薬だけだ。

などの考えをめぐらす内に爆風と衝撃波を伴う轟音が2度響いた。

―――

「精々死なないようにね。」

無感情に囁く私。

高さ10mそして音速に匹敵する加速度。

その二つをもって地上に落とされるものが無事でいる保障はない。

両腕を背中からロックし片足で背中を踏みつける。

その体制で着地したのだ、普通なら死んでいてもおかしくはない。

「かはっ……ぐっ……」

苦しげに咽せ、ゆらりと立ち上がる。

「丈夫ね、もっともリフレクターが無ければどうだったかしら、黒い子に感謝するのね。」

「あの一瞬でリフレクターまでぶち抜いたのか……!」

歯噛みをするようにつぶやく隻腕。

「ウチのマスターは聞こえたんじゃないかしら。」

視線を向けずマスターに問いかける。

「……片足での着地ぶち抜き、反対の膝で本体へダメージ、確か二重の……。」

「一言多いわ。」

その先はあまり聞きたくないわけよ。

「…ウィンディ、今度こそ戻れ。」

「…………っ。」

苦虫を噛み潰したような顔で交代していく。

少しは気分も晴れたわね。

―――

 完全攻勢のキングドラに専守防衛のブラッキー。

ダブルバトルならではのコンビネーションを展開されキュウコンは中々攻めあぐねいていた。

辟易しながら劫火を放つも再び振り出した雨に威力を大幅に削がれている。

「…ったく、いい加減に堕ちなさい!」

キングドラが出て15分が経過していたが大した変化は見られない。

いくらキュウコンが壁役にダメージを与えても……。

「ブラッキー、月の光だ。」

夕日の照るギリギリの時間であるが十二分に回復をこなす。

回復の妨害を行おうとすれば……。

「キングドラ、水の波動。」

という具合に阻まれる。

「時間なんか稼いで何の意味が……っ!」

「あるんだよ。」

口元に笑みを浮かべる隻腕。

「おかしいと思わないのか? こちらの攻撃が当たりもしていないのにその疲れ具合。」

「そんなの雨が降ってるからに……!」

狐の爆炎が一瞬雨を蒸発させキングドラへ迫るがやはり壁役ブラッキーに阻まれる。

「違うんだよ、サンドパンはしっかり役目を果たしてくれた、腕の傷に違和感はないか?」

口の中で笑うようにしながら視線では嘲る様に射抜く。

「腕? 少し熱い程度……。」

熱を持っている? まさか……。

「そう毒さ、聞いた事はないか? 時間と共に効果の増す猛毒の技。」

もはや勝負は決したという顔、視線だけでキングドラに指示を出す。

「狐、一度戻れ。」

この戦闘で初めて指示を出すが、キュウコンは聞くそぶりもない。

「今戻ったら誰が戦うの。」

……判断の遅さがあだになったか。

「……もういい、狐戻ってくれ、俺達の負けだ。」

「私はまだやれるわ。」

……引かぬか、誰に似たのやら……。

「今のうちに引いておけ、マスターの言葉は素直に聞くものなんだろ?」

ブラッキーと交代していたウィンディが皮肉を込める。

「私は退けな……?」

ふらっとキュウコンがゆれる、毒が回ってきているのか。

「…仕方ない、ウィンディ。」

「まかせな、しかし退けば苦しまなかったろうに。」

ゆっくりと加速をつけていくウィンディ。

「楽しかったよ、キュウコン、今度はサシでやりたいものだな。」

破られ返された技、決めたのは神速だった。

―――

 試合終了のアナウンスと共に狐とハピナスはセンターに運ばれた。

「試合は終わった、かえってもいいんだろ?」

隻腕は興味が薄れたように言い放つ。

慢心の結果、俺はそう解釈している。

自分の招いた結果である以上素直にチャンピオンとしての座を渡そうと思う。

「少し待て、お前はカントーのチャンピオンになる身だ。」

そう、次代のチャンプにもうひとつ渡そうと思っているものがある。

「ずっとここにいる気もないが……そうなるのか。」

「少し俺の左腕引っ張ってみろ。」

左腕を出し右手で肩を少し操作する。

「なんだ……? 外れて…?」

軽く外れた左腕を呆然と見詰める隻腕。

「義手だ、右手用に作り直してやる、予備も必要だろう。」

右手で義手を付け直し早速作業を開始する。

一晩がかりの作業になりそうだった。

―――

「お前のお陰で考えを改めた、礼を言う。」

ログハウスの玄関でマスターはやけに清々しい顔をし隻腕の人に挨拶しています。

負けてしまったのにそんなにいい顔をしている人を見たのは初めてです。

「こっちこそ礼を言わせてくれ、右腕をまた使える日が来るとは思っていなかったからな。」

さすがに朝仕上がり今しがた付けたばかりの義手。

慣れない様に手を動かしている。

右肩にもまだ強い痛みが残っているはず、手術で接続端子を付けているのだから。

「ご主人様、私の処遇は決まりましたか?」

前チャンピオンであるご主人様に問いただす。

歴代のチャンピオンに仕えるべく教育され、この人が負けた後は次のチャンプに引き渡されるはずなのですが……。

「……あぁ? ずっと俺のものだが。」

はい?

「リーグに掛け合った、退職金代わりみたいなものだ。」

どうやら私は初めてのご主人様にそのまま仕える事が出来るようです。

―――

後日談。

―――

 あの日から1週間、私達はマスターの実家で短い休養を取っていた。

ハピナスも私との修行で乾いた砂が水を吸うかのように成長を見せている。

マスターにいたっては負けた原因が自分の慢心と戦術の狭さだと勉強に余念がない。

そんなある日。

「ハピナス、お前の服ってどれくらい予備があるんだ?」

マスターがハピナスのメイド服の事を聞いていた。

何をする気なのやら……。

「ヤツにメイド服を注文されたのだが俺はさすがに作ることができん、

ならハピナスの予備を改造して送ろうと思ったのだが。」

やつ……? 誰かしら。

「前にお前の胸触って帰った馬鹿。」

なるほど……。

「1着あればいい、複製する。」

どうやら14着あまり送るらしい。

……何に使うか考えないようにしようと思うわ。

―――


あとがき。

gdgdでごめんなさい。

…精神コマンドが続きませんでした。CAPRI

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最終更新:2007年12月21日 01:54
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