おつきみ山からニビシティにかけての道を、もえもんトレーナーが歩いている。
山越えをしてきたのか、どことなく疲労が見える。
顔には疲労だけではなく、数日振りに柔らかいベッドの上で眠ることができると、嬉しさも滲み出し始めていた。
やがて、土の道から舗装された道に変わったとき、どこからかゴンッという音が聞こえてきた。
「またか」
トレーナーは音に聞き覚えがあるのか、聞こえた音を不思議がらずに、慣れた様子で地面に耳を寄せる。
地面からは、しくしくと泣き声が。
トレーナーは、呆れながら地面に向かって話しかける。はたから見ると、ただの変人だ。
「ディグダ、何回頭ぶつけりゃ気が済むんだよ」
「痛いぃ、舗装された道嫌いぃ」
舗装された道の前、土の道からおでこを赤く腫らした涙目のディグダが現れた。
どうやら、舗装された道に気づかず、突っ込んだらしい。
しかも、今回が初めてではなく、何度も繰り返しているということ。
「いい加減、ぶつかる前に気づけるようにならないのか?」
「努力はしてるけど……」
「努力は実らないと、意味ないぞ? 自分が痛いだけだろうに」
「頑張りますぅ」
まだ痛いのか、おでこをさすりながら答える。
実は努力云々という話ではなく、トレーナーの足音が、ディグダにとって心地よいリズムで、
聴き入っているうちに、土の変化に気づかずぶつかるのだ。
そのことを言うのは、照れくさいというか恥ずかしいので、気づかないということにしている。
「ほら」
トレーナーが両手を、ディグダへと伸ばす。
ディグダも慣れたもので、土の中から出てきて、トレーナーが抱き上げやすいような体勢になる。
「えへへ~」
抱き上げられたディグダは、上機嫌で笑う。
「鳴いたカラスがもう笑ったってか」
トレーナーは苦笑しながらも、ディグダの服についた土を払ってやる。
そして、抱いたまま歩き出す。
「マスター、ありがとうございます」
「ん、いつものことだろ。礼なんていいよ」
足音よりも大好きなトレーナーの心音と体温を感じながら、ディグダは会話を楽しむ。
舗装された道は嫌いだけど、こうやってトレーナーに抱き上げてもらえるから、
全くないのも嫌だと、心の中で呟いたディグダだった。
最終更新:2007年12月21日 02:00