『お料理』
「ねぇ、マスター? 今、私の手元にね、カレーとシチューのルーがあるの。どっち食べたい?」
「どっちでもいい」
「そう言う返答が一番困るんだけどな……あ、わかった、両方ね!」
「は?」「創作料理って初めてだけど、私、がんばる! マスター待っててね!」
「おい、ちょっとまて、フリーザー!」
「あの子さぁ……カタログ通りに作るのはすごく上手いんだけど、アレンジは壊滅的に駄目なんだよねぇ」
サンダーのポツリと零した言葉が、死刑宣告に聞こえた。
「マスター、出来たよー」
ごくり、と喉が鳴る。
俺は、今もの凄く緊張している。冷や汗がだらだら出てくる。萌えもんリーグに挑戦するときだってこんなに緊張しなかった。
恐い。すごく、キッチンに行くのが恐い。
「マスター?」
行かなければ……行かなければならない。
動け、動け足よ! 前に進むんだ!
「はぁ……」
一歩踏み出しただけでこの疲労感。
俺は無事にキッチンにたどり着けるのだろうか?
「はぁ!」
フワリと体が浮く。
振り向けばフーディンが綺麗な歯を輝かせながら指を立てている。
無論、下向きに。
「裏切り者め」
「主よ。生贄になってくれ」
「後で覚えてろよー!」
「死ぬな……主よ」
「あ、マスター。遅かったじゃない。」
ああ、君のエプロン姿はとても可愛いね……。
「さ、食べて」
目の前に出された小皿を眺める。
刺激臭がするのは気のせいだろうか。
「マスター……? どうしたの?」
「あ、ああ、今食べるよ」
小皿に盛られた少量のルーを飲み干す。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! あっ……か、はぁ! う……おおおお」
世界が回り始める。
チカチカとあらゆる物が光り、歪んでいく。
「ま、マスター!? マスター! どうしたの!」
異音が聞こえる。
気持ち悪い。
「うあああああああああああああああああああああああああ!!!」
瞼の裏をコレまでの記憶が走り抜ける。
初めてであった萌えもんの事や、苦労して勝ったジム戦などの事が。
――俺……死ぬのかなぁ。
意識が段々と遠退く。
泣かないで……くれ。
目が醒めたら病室だった。
見飽きた天井が目の前にある。
「主。生きているか」
「なんとか……な」
「あの後は大変だったよ。台所が雪山になっていた」
「俺を冷凍保存でもするつもりか」
「ははは。まぁその所為で入院期間が増えたのは確かだがな。して、主」
「……なんだ裏切り者」
「味は?」
「花畑の味だ」
「は?」
「向こう側に行ける味、とだけ」
「飛べる味か……麻薬か?」
「しらん……」
落ちなんて無い
最終更新:2007年12月21日 02:06