3スレ>>587


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 そこは熱。
 それはまさに熱気の塊だった。
 あらゆる意味で華の街であるタマムシシティの地下に作られた、会員制の裏の姿の一つ。
 中央にぽっかりとえぐられたフィールドを中心として、円形に階段状に作られた巨大な会場。
 1000、2000のでは済まない数の人間が、その薄闇を埋め尽くすように、今か今かと待ち望んでいる。
 ――そして、彼らの待つ宴が、今日もまた盛大に幕を開ける。

 何かが弾ける音と共に、天井のあちこちから注がれるスポットライト。
 中央のフィールド中央に設置された祭壇のようなものの上、薄闇の中にぽっかりと光の穴が開く。
 そして、金髪の彼女が映し出された。

「れでぃぃいいいいいすッえんどっ! じぇんとるめぇぇぇんッ! お元気ですかッ!」
 ――瞬間、怒号のような歓声が幕を上げた。

 中央の祭壇で映し出されるのは、ボリュームのある金髪をツインテールに纏めたもえもん。
 ライチュウ。
 その姿を数え切れない数の人間達が取り囲み、今にも暴れ出さんばかりに熱狂する。
 しかしながら、その視線の贄になっているのは、実際には彼女ではない。
 彼女はあくまでも『進行役』なのだから。

「はぁい、皆さんッ! もえもんは愛でたいものですよねー。でも、その為には色々と煩わしい制約があったりするものです!」
 あくまで基本方針に則って話すライチュウに、辺りからは早く始めろという怒声がいくらか飛ぶ。
 尤もそれすらも計算の内なのか、それとも敢えて表情には出さないのか。
「そ・こ・で!」
 ライチュウは変わらず朗らかな笑みを浮かべて、彼らの声を遮るように一際大きな声を張り上げた。
「今回も、素敵なもえもん達をご用意させて頂きましたぁ!」

 ――その声と共にスポットライトが切り替わって祭壇から離れた一団が映し出されると、観客のボルテージはほぼMAXに達した。
 それらは、もえもん達の群れ。
「えー、何々? それでも、出来ることに限りはあるでしょうって? いえいえ、そんな事はありません!」
 それでも違う点はある。
 何故なら、それは群れというにはあまりにも統一感のないもえもんの集団で出来ている。

「何故なら彼女達はすべからく、粛清された社会の役立たずの中から、さらに厳選された役立たずだからです!」

 何故なら、それらはどれもが身を寄せ合って震えているから。
 鎖で繋がれていたりはしなかったが、代わりに身を寄せ合う彼女達を取り囲むように、他のもえもんが半包囲している。
 そういった状況で、一人として諦念の意を示さずにいまだ『臆病である』のは、選出側のこれまた妙という他はなかった。
「人間と一度触れ合った彼らは、一度人間と触れ合ったが故に温もりを忘れられません。それを我々が再び与えてくれて何という間違いがあろうか、否!」
 無抵抗な彼女達を見つめるそれらの姿は、肉食獣に等しい。
 ぐるりと取り囲む別のもえもん達、自分達を高く売り込もうとする司会者のもえもん。
 そして薄闇と、二重三重の取り囲む男女達の様子は相乗効果となって、一人の悪意が一千人もの悪意に相当して彼女達を押し潰そうとする。

「えー、ちなみに今回のラインナップは、会場入り口で配られたパンフの裏を各自ご覧ください! 簡単なプロフと一緒に載ってますよー!」

 ド派手な赤と黄色の配色で彩られたその紙の裏には、表とは正反対に地味に黒く細い字で、楷書体で名前が並べられていた。


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カメックス
キャタピー
トランセル
コクーン
ラッタ
アーボック
プクリン
クサイハナ
ラフレシア
コンパン
ダグトリオ
ニャース
コダック
ゴルダック
ニョロモ
ニョロゾ
ニョロボン
ケーシィ
ユンゲラー
ゴーリキー
ヤドラン
カモネギ
ドードー
シェルダー
ゴース
ゴースト
スリープ
スリーパー
クラブ
カラカラ
エビワラー
ベロリンガ
マタドガス
サイドン
タッツー
トサキント
アズマオウ
バリヤード
ルージュラ
ケンタロス
オムスター
カブトプス
プテラ
カビゴン
--------------------------------


「さて皆様ご存知の通りだと思いますが、当会場ではオークション形式を取っております。それぞれのもえもんが掛けられたときに、
お手元の操作パネルを使って金額を提示してくださいね。また、もえもんを落札できるのは一日に一匹限り! 一匹限りとさせて頂きます。
全てのオークションが終わる前に落札した方は、それ以後金額を提示できなくなりますので、ご注意を」

 当然のように、もえもんは人気が低い順から前に並べられていく事になる。
 人気の高いものを狙って残れば、落札失敗した時に一人も確保できない危険性が高くなるために入札金額は自然大きくなる。
 また、金に余裕のない者は序盤のもので妥協して全力を注ぎ込むといった駆け引きが行われることになった。
 当然のように、そこに商品の意思は介在しない。
「さて、ではオークションを始める前に……常連の皆様方には恒例かと思われますが、少々商品をよく知っていただくため、
今からパフォーマンスを行います!」
 その言葉が紡がれると、天地をひっくり返すほどの怒号が鳴っていた観客席はほんの僅かに声をひそめた。
 代わりに、声がより陰湿な重低音に近くなる。
 騒ぐ観客の中に、ねっとりと舐りまわすような視線で黙って中央を見つめる者達がだんだんと顕れはじめて、それに一層囚われのもえもん達は恐怖した。

「さて、今日のお題についてですがぁ……。今日は、皆様お手持ちのハサミで彼女達の服を切り取っていただきます!
無論、切り取った分の服はお持ち帰り自由です! 説明を受けて大多数の方が持ってきていると思いますが、万一お忘れの方は、
もちろんこちらでハサミを用意させて頂きますのでご安心を」

 説明を受けて、もえもん達の体がびくりと強く震える。
 ライトが当てられた逃げ場のない世界で、涙を流しながら体を寄せ合っている様は普通であれば誰もが手を差し伸べたくなる姿であったかもしれない。
 そんな彼女たちを横目でちらりと見てから、まるで当初からの予定だったかのように――ライチュウは、付け加えた。

「あ、もちろん隠れている方も自由ですので。各自持ち帰って夜のお供にするなりなんなり、お好きにどーぞっ」

 その声で、如何ほどの笑みがこぼれただろうか。
 それは同じ時にして生まれた、引きつった泣き顔とは比べるべくもなく。
 手元の紙を見るライチュウから、ついに手始めの犠牲者が選ばれようとしていた。
「えー、それでは……此度の栄誉ある役は、タッツーにやって頂くことにしましょうか。えー、それではタッツーさん、壇上にお上がりくださーい」


「え……い、いやぁっ、やぁ!」
 お上がりください、と言っても自主的行動を促すつもりは欠片もなかった。
 いつの間にか薄闇の中、中央に現れたカイリキーが二人輪の中に入って、隣のもえもんに抱きついていたタッツーの体をむんずと掴む。
「たすけて、たすけてよぉッ!」
 それが観客をますます興奮させている事にも気づかず、そう叫んで少女は必死で隣のもえもんから必死に手を離そうとしない。
 カイリキーがぐいぐいと少女を引っ張ると、掴まれていたもえもんの服が合わせてぐいぐいと姿を変える。
 それを見て顔が青褪めたのは、誰だったのか。

「いや……離してッ!」

 叫んだのは、連れて行かれようとするタッツーではなかった。
 少女に服を掴まれていたもえもんが、衝動的に自分に必死で縋り付く彼女の手を打ち払ったのだった。
 打ち払った本人は、そのまま少女と意識的に目を逸らして群れの中へと沈んでいく。
 そしてようやく枷を失った少女は、カイリキーに易々と抱えられてしまっていた。
 ……ただ目を伏せて、声にならない啜り声をあげながら。

 そうして、少女はその祭壇に祭られる。
 今日の贄として、ただ存分に屠られるためだけに。

「さーて、それでは主賓のご到着! えー、今から番号を指名しますので、パンフ表の番号と合った人はお近くの係員にお申し出ください。
間もなくこちら、中央のステージにご案内しまーす。
えー、番号は……27番、295番、974番、1529番、3852番のラッキーマン、或いはラッキーウーマンの方々! さあ、降りてきてくださーい」

 言い終わるのと同時に、会場中央の巨大四面スクリーンに祭壇に祭られた少女の全身像が番号と一緒に映し出される。
 石作りの椅子に座らされるそれは、しかし両手をしっかりと後ろ手に鎖で縛られてしまっていた。
 主賓などというのは悪い冗談に過ぎない。
 道義的にはどちらが悪か、下種であるかなどこの場においては何の意味もなかった。
「はーい、皆さん降りてきましたね。それではちょっと切り取る時間と面積について細かい話を説明しますので、そこでお待ち下さい」
 彼らこそが食客の主賓であり、隅で震えながらも代表として不幸を背負う少女の姿を見てどこかほっと息をつくもえもん達も、
祭壇の上でただ喰われる時を待つタッツーも、この場においては豚畜生以下の存在でしかなかった。
 そんな彼らを放置して、マイクを切って祭壇の上を離れると、薄闇の中に立ち尽くす五人の下へと向かう。


 彼女の手短い説明が終わった後、ぞろぞろと祭壇の上にライチュウと共に今日の主賓達が上がってきた。
 どれもが一様とはいかず、或いは笑みを浮かべ、あるいは見下すような目つきで、或いは何ともつかない表情で、しかしどれもが異常。
 猛禽類とも違う醜悪な肉食獣が現れると、本能からかタッツーは身を捩って涙を浮かべていたが、それはやはり無駄な抵抗に過ぎない。
 むしろ彼らに火をつける原因に、なりかねない。

「それではどうぞ、お楽しみください!」

 そのライチュウの声が合図。
 ふふんと冷笑を浮かべながら、しかし興奮を抑えきれない様子で、一番前の男がまず出てくる。
 手には冷たい刃を持つ、赤い取っ手のハサミ。
 しばらく眺めていたが、切り取るための時間はある程度決まっている――故に、足を前に動かした。
「や、やッ……!」
 タッツーが身を捩ったせいで、椅子から落ちるがその程度は何の抵抗にもならない。
 元からそのために体を完全に固定していなかったのだから。
 ライチュウがさっと指示すると、あっという間にアップで映していたカメラが動いて、彼女の全身を追いかけて正確にスクリーンに映し出す。

 そして男はその小さな足を抑え付けながら服を軽く左手で引っ張ると、ぴんと山なりに引っ張られる服にその冷徹な刃を当てる。


 涙ぐんで見つめる少女に、その白い歯を見せてにやと笑いながら、右手の指を動かして――









――めのまえが まっくらに なった









  ◇ ◇ ◇


「という夢を見たんだが」
「それに対してどんなコメントをしろと言うんだ、主は。罵倒でもしてほしいのか」
「そういうネタならメモ帳にでも書き留めて、夜にでも自分で見ておくものですよねー。もえもん相手だとセクハラが発生しない事を計算に入れてるんですか?
あ、そこまで頭は良くなかったですよね」
「……ハサミの肌への冷たい感触も捨てがたい……でも私は素手でばりばり引き裂かれる方がいい。罵倒しながらだとポイント高い」


 どうやら、これ以上見るにはパスワードが必要なようだ。
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