「ニーナ!」
「はい、マスター!」
エスパータイプの萌えもんに対して距離を置くのは不利と判断したらしい。
トレーナーの一声でニドリーナが爆発的な勢いで駆け出した。
だがまだまだ距離はある。
「フーディン、サイコキネシスで沈めてしまいなさい!」
「了解だ。瞬殺だな」
フーディンが目を閉じて、右手をニドリーナのほうへとかざした。
おそらくその先から出ているであろう不可視の攻撃がニドリーナに直撃する。
「……はあっ!!」
開眼。
と同時にニドリーナの爆発力が止まった。
フーディンは続けざまにかざした右手を動かし、相手の肉体、精神に強い干渉を始める。
「ニーナ!」
「……マスター!」
しかし、トレーナーの一声で超能力の呪縛から解き放たれる。
続けてトレーナーはプラスパワーを放り投げる。
「お嬢……サイコキネシスが効いてないみたいだが?」
「いえ、そのはずはありませんわ。そのまま続けなさい」
わたくしの号令でフーディンは再びサイコキネシスを放つ。
効いていないはずがない。
だが、もしや、という想いがわたくしの心を揺さぶった。
「……はぁ!!」
フーディンも気合を入れなおしたのか、一層の力をこめて干渉を開始。
接近しようと地を蹴ったニドリーナの勢いを削ぎ、接近を許さない。
だがその干渉も長くはもたない。
「ニーナ!」
トレーナーの一言でいとも簡単に破られる。
そして二個目となるプワスパワーを投げ渡した。
……攻撃せずに能力値を上げて……何か策がありますわね。
だが、具体的なところまでを読むことは出来ない。
「お嬢……いや、続けさせてもらうぞ」
えぇ、とだけわたくしは同意し、あちらの分析にかかる。
単純に考えれば通常攻撃力をあげているなら通常攻撃力依存の技で来るだろう。
しかし、それがフェイクの可能性もある。
通常攻撃の得意な萌えもんに通常攻撃力を上げる道具。
あまりにも露骨過ぎた。
どちらなのでしょう……?
そうしたわたくしの視界の端で、トレーナーは三つ目のプラスパワーを使用した。
「フーディン、リフレクターよ!」
「……。オッケーだお嬢、お前さんを信じるぜ」
フーディンは己の前にパントマイムのような動作で壁を作り出す。
勿論不可視。わたくしだって見えていない。
そうして攻撃の手を休めた隙をつき、ニドリーナが地中へと潜っていった。
あなをほる。
フーディンの不可視の干渉も、地中の敵には届かない。
「下から来ますわよ。警戒を怠らないように」
「ふっ、任せておきな」
フーディンは手を組み、瞑想を始めた。
自己の集中力を高めると共に、相手のおおまかな位置を把握する為だ。
「……」
フィールドに静寂が訪れる。
だが、それもわずかのことだった。
「背後か!?」
フーディンが慌てて振り返る。
と同時に地中からニドリーナが勢い良く飛び出してきた。
鋭いキバを剥き出しにして。
……かみつく、いえ、かみくだく……。
悪タイプの攻撃。依存は特殊攻撃力。
リフレクターは通用しない。
だが、予想通りだ。
通常攻撃タイプのニドリーナが特殊攻撃タイプの技を使うのと同様に、
遠距離タイプのフーディンにだって近距離タイプの技を覚えさえている。
「れいとうパンチよ!」
フーディンは返事を返さずに右の拳を握った。
途端に拳から冷気が放出された。
宙に居る為自由に身を動かせないニドリーナにカウンターの一撃をお見舞いする。
「くっ……」
だが、ニドリーナは寸でのところで身をひねり、直撃を回避した。
馬鹿な……。
無茶苦茶な反射、そして運動能力。
外にはまだまだ予想を超えた動きをする萌えもんが居るようだ。
「貰いました!!」
そのままの勢いでニドリーナがフーディンの懐へと飛び込んだ。
「フーディン!」
「……あぁ」
だから負けられない。
全国に中継されているからではなく、ただ単純に、負けたくない。
フーディンは右拳の勢いを利用し、サイドに回避。
両者の位置がずれて、ニドリーナがフーディンの立っていた位置へ。
単なる回避ではない。
ここまでの計算を含めての回避。
ニドリーナがフーディンの元いた位置へと入った瞬間、あらぬ方向からの攻撃がニドリーナを襲った。
「……なっ!」
ニドリーナに無数の、物質化した超能力が炸裂する。
みらいよち。
「いつの間に……!」
「ふふ、わたくし、リフレクターなどという守りの技は覚えさせていませんの」
「……だまされた、ということですか」
言いながら、ニドリーナは攻撃を手で払い、足で蹴り落とす。
曲芸レベルの動きに思わず感心を覚える。
だが、全てを弾き落とせるほどの動きは出来ない。
いくつかを被弾し、ニドリーナは地に落ちる。
だが、すぐさま目標を捕捉し、再び飛び掛った。
「フーディン! れいとうパンチで今度こそ返り討ちにしてやりなさい!」
「はぁあああ!!」
フーディンの拳が冷気を纏う。
「ニーナ!」
「はい、マスター!!」
ニドリーナも拳を構える。渾身の力で相手を殴りつける技、かいりき。
<――>
両者の拳が激突し、決着がついた。
最終更新:2007年12月21日 02:11