3スレ>>709


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最後の記憶は――海底から吹き上がった、とても熱いものに押しつぶされる瞬間のこと。
あ、と思う暇も無く、ただ一瞬だけ、視界が真っ赤になったのを覚えてる。
ただ、それは仕方なかったんだ。
家族や周りの仲間がみんな逃げているのに、私だけ残って、まさに爆発しようとしている巨大な海底火山に、呆然と見ほれていたから悪いのだ。
だから、私がああなったのは完全な自業自得。因果応報ってやつで。
そして今私がこうしているのも。きっと、何かの罰なんだと。
最近ではそう思うようになっている。

「カブちゃん、カブちぃゃん? ねーねー聞いてるのカブトちゃん、カブたん、ってば」
「うるさい」
広い広い水槽の中、えら呼吸をしながら岩陰にひそむのが、この時間帯の私の日課だ。
水面の上の太陽が、一番まぶしくなる頃合。海の水も心なしか温まって、日差しが明るく水中を照らしている。
そういう明るいのは、嫌いだ。
昔は嫌いじゃなかった気がするけど、今は大嫌いだ。
けれどそんな私をぐいぐいと引っ張る手。体育座りでうずくまる、私の肩をつかんでねーねーと、うるさく声をかけてくる。
無邪気なオムナイトが、今日も私を誘いに来ているのだった。

「カブちゃんカブちゃん。ほら良いお天気だよ。岩場でひなたぼっことかどぅお? かな?
 それとも水面で、しゃーってする? しゃーって。波に乗ってずーっと遠くまで泳いでくの。あ、それともねぇ、えーっと、海底散歩のほうがいい?
 ……んもうねーねー、カブトちゃんってば。答えてよぅ。聞いてるのぉ?」
頭を掴んでがくがくするな、やめてくれ。気持ち悪くなる。
こいつはいつもこんな調子。私がこうしていると、いつも遊びに誘いに来る。
それが嫌ってことは、ない。こいつと夜の海をふわふわ漂ってるのは、そんなに嫌いじゃないし、一緒に星空を見上げながら、星座や月の話をするのも悪くない。その後も……うん。
でも、今誘うのはやめてほしい。私は明るいのが嫌いだから。世界がきらきらと輝いて見えるのが大嫌いだから。
だって、ここにいる私は罰を受けているんだから。
この世界は私の居た世界じゃないんだから、この世界を綺麗だとか、好きになるとか、そういう風になっちゃいけないんだ。

そうなっていた間の記憶は、当然だけど、全くない。
一瞬のうちに、熱くて重い何かが体の上に被さって。その瞬間の次の瞬間には、私は見たことのない場所にいた。
試験層、ってあいつらは言ってた。小さな狭い水の中。見覚えのない水草と、外と私を仕切る見えない壁。
慣れるまではしょっちゅう、あの透明なガラスとかって壁に、頭をぶっつけたものだ。
餌は、おいしかったし。不自由も、狭いこと以外は無かったけれど。
でも、周りに仲間が1人もいなくて、似てる姿の生き物も全然いなくて、見たことのある姿も全く無くて。
それはとてもとても、寂しくて。怖くて。
いつか私は、ここが地獄ってところなんじゃないかと思うようになっていた。

やがて、時が過ぎ、私は試験層から外の海へと出された。
自由になったわけじゃない。場所は随分広くなったけれど、やっぱりしばらく行けば、海底まで突き立つ見えない壁があるし、餌も、あいつらが寄越してくるものだけ。
仲間の姿はあのオムナイトだけだし、何より一番嫌なのは、ときどきあいつらが海の中にやってきて、私の体を眺めて、あちこち触って、最後に血を抜いていくこと。
定期的な健康診断らしいけれど。でもそんなの私には必要ない。
だって、ここが地獄で、与えられているのが、見たことのない世界でひとり生きるという、あまりにも惨い罰なら。
病気になって、倒れて、早く死んでしまいたいと。もう1度死ねば、みんなのいるところにいけるんじゃないかと、そう思うからだ。

「どうしてさ」
しばらく頭をがくがくされて、私はついに根負けしてつぶやいた。
「あ、何々? 何か面白いことあった?」
「――どうして、あんたはそんなにいつも元気でいられるの?
 ここは、私たちがいた世界じゃない。仲間もいない。餌も自由に取れない。行って良いところも制限されてる。
 そんな環境なのに、どうしてあんたはいつも、そんなに」
あいつの顔を見た。きょとんとした様子だけれど、でもやっぱり、よく見ないと見えない口元には、にこにことした笑みが浮かんでいる。
「そんなに、笑ってられるのよ」
んー、とね。と、いつものように軽い態度と口調で、小首をかしげて少し考えるそぶりを見せた後、あいつはこう答えた。

「だって、楽しいじゃない」
「何が」
「全部。だよ!
 だって、見たことない場所で、見たことない海で、見たことない世界なんだよ? 不思議じゃない? 面白いって思わない? 色々見てみたくならない?
 あの、ニンゲン、ってのだって良くしてくれるし。餌も前よりずっとおいしいし、欲しいって言えばいくらでもくれるんだよ? 天国だよ。
 それにさ、なによりさ、カブちゃんがいるし」
――ん。そういうことを、笑顔で言わないで欲しい。

「……でも、仲間他にいないし。私たちだけ、2人きり。
 見たことない世界で、2人きり。心細くない? 寂しくならない? みんなに会いたいって思わない?」
「んー、そりゃ、思わなくもないけど。でも、2人きりっていうのもさ、そんなに悪くないじゃない。気楽で。
 ていうかさ、仲間が欲しいんだったらさ、また増やせばいいんだよ。ボクたちで。ね?
 ボクら2人で、この世界の、ボクたちの仲間みぃーんなの、先祖になるの。
 それってすごいことだと思わないかな。ずっとずっと時間が経って、いつか、ボクたちの仲間が、この海に一杯泳いでるようになるの。
 でもね、その子たちはね、みんなボクたちの子供だったり、子孫だったりするんだよ。みんなみんな、ボクたちから始まるんだよ。それってすごいことだと思わないかなぁ?」

――驚いた。こいつ、そんなに壮大なこと考えてたんだ。
「だからさ、カブちゃん。あんまり塞ぎこんでちゃダメだよ。体に悪いよ。お腹の子にも悪いんだよ。
 さ、一緒にいこ。ゆっくりでいいから。ボクと一緒に、ゆっくりこの世界を、ボクたちの世界にしちゃおうよ」
そう言って、そいつは私に手を差し伸べた。
少し考えて、頷く。

そうだね。どうせここが地獄なら。私たちを生き返らせたらしいあいつらが地獄の極卒なんなら。
そいつらに目にモノを見せてやるのも楽しそうだし。
地獄を2人で乗っ取っちゃうのも、悪くない、っか。
ね、私の旦那様。


ククク。
おかしいな。最初はカブトとオムナイトのあまあま話にするつもりだったのに。
なんでこんな危険思想の2人になっちまったんだ。
まぁいいか。これはこれで。
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