3スレ>>731


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「ん……まぶしい……」

 目が覚めると、窓から差し込む光。
 まぶしくて目元に手をかざす。
 布団の外は寒くて、どうにも抜け出せない。
 ……マスター。
 掛け布団から出ないように寝返りを打ってマスターを見る……が、

「……? マスター……?」

 そこには畳まれた布団と、置手紙が一つ。
 マスターの姿はない。
 その事実が眠りから私をすぐさま覚醒させた。
 何処に。
 真っ先に浮かぶ疑問。
 それを知るべく手紙に手を伸ばした。

『女将さんに手伝いを頼まれたので朝一番で林へ行くことになったけど……
 男手があればいいって言ってたので、僕だけで行ってくるね。
 そうそう、僕達以外のお客さんからも男の人が手伝ってくれるらしいので心配は要らないよ』

 起こしてくれても良かったじゃないですか。
 それなら見送りするくらい出来たのに。
 ……いってらっしゃい、って。
 想像するが、ふるふると頭を振って考えを追い出した。
 恥ずかしい。

「さて、私もそろそろ……」

 起きなくては。
 もしかしたらマスターももう帰ってきてるかもしれない。
 私は布団からすっと起き上がって、支度を始めた。
 おはよう、くらいは言ってあげたいから。




 待合室に行ってみたが誰もいなかった。
 玄関口には靴もなかったのでまだ帰ってきていないのだろう。
 私は待合室でテレビを見ながらマスター達の帰りを待つことにした。
 そうしているうちに昨日話していたベトベターが目を擦りながら現れた。
 のろのろゆらゆらと危なっかしげにふらついている。
 よく見ると走っているようにも見えた。
 ……あ、危ない。
<ドンッ>
 鈍くて嫌な音がした。
 木造のこの宿であるにも関わらずぶつかったのは水道周りの石材。
 ベトベターはぶつかった箇所を両手で押さえてうずくまる。
 私はすぐに駆け寄った。

「……うぅ」
「大丈夫ですか? こぶは……ないみたいですね」
「ニーナひゃん?」

 うるうるとした涙目でベトベターが私を見た。
 ……う、かわいいです。
 思わずぎゅっと抱きしめたくなったけれど冷静になって深呼吸。

「……一人でどうしたんですか?」
「起きたらご主人様がいなくなってたです……」
「ご主人様……は、きっとお手伝いをしにいったんだと思います」
「おてつだい……?」

 私はマスターが置いていった手紙のことをベトベターに教えてあげる。
 すると、ベトベターはごしごしと目元を拭ってニコリと笑顔を見せた。
 邪気のない笑みはするりと私の心に飛び込んでくる。
 ……っく、我慢です、我慢。
 抱擁衝動を押さえ込んでいると、外から話し声と足音が聞こえてきた。
 どうやら帰ってきたようだ。
 私はベトベターの手を握って、玄関へと向かった。




「ふぅ……あそこのでいいのか?」
『うん。大きさは少し……だけど、近いし……』
「んー……確かに近い方がいいか」
『そ。近い方が騒ぎやすいしね』
「そーゆーお前はきっと一番騒がないだろうけどな」
『結構はしゃぐよ?』
「嘘こけ。朝から一言もしゃべってないくせに」

 がらがら、と音を立てて戸が開く。
 かえったぞーと言う声と共に、ベトベターのトレーナー。
 そして何も言わずに入ってくるマスター。

「おかえりなさいですご主人様!」
「おっ、起きてたのか」
「はい。ご主人様をまってましたー」
「そーかそーか」

 飛びついたベトベターを抱きしめて、トレーナーは頭を撫でる。
 撫でられているベトベターの顔がとても嬉しそうに映った。
 ……。

「ま、マスター……おかえりなさい」
『ただいま』
「……」
『……?』

 ……。
 始めから期待はしていなかったんですけどね……。
 それでも少し残念。
 私達は朝食を摂りに食堂へ向かった。




 食後、僕達は僕と彼が朝早くから見つけておいた木のところへと集った。
 女将さんに手伝って欲しいと言われて、クリスマスツリーに丁度いい木を探していたのだ。
 遠くの方に行けば大きくていい感じのモミが立っていたけれど、皆でツリーを作るなら近い方がいい。
 そう思って、大きさは少し妥協して近くのモミを選んだ。
 僕と彼が運んできた満載の荷物の中には色とりどりの装飾。
 女将さんやニーナ、ベトベターが運んできた荷物はお昼ご飯。

「ご主人さま! もうつりーが作れるですか!? お金が溜まったんですか!?」
「いや、お金は溜まってないんだけどね」
「じゃあじゃあわたしは何をすればいいですかっ!」
「んー……とりあえず装飾をつけるのでいいのかな……」
「ご主人様っ 届かないです!」
「ほら、これで届くだろ」

 木の高さはせいぜいニメートルちょいといったところ。
 天辺につける星の飾りを手に取ったベトベターは精一杯背伸びをしていたが届かない。
 そこでトレーナーである彼がベトベターを肩車。
 そうしてぎりぎり届くくらいだった。
 下の彼は少しだけ枝葉に埋まっていたが、ベトベターのためだろう、我慢していた。
 ところ変わってニーナ。
 女将さんの指示通りに脚立を使いテキパキと電飾を絡めていく。
 が、ベトベターが肩車してもらっているのを見て手が止まった。
 ……?
 そして僕のほうにチラリと視線を寄越す。
 何だろう。
 装飾を取って欲しいのだろうか。

『どーしたの? ニーナ』

 尋ねてみたけど、ニーナは答えなかった。
 ……?
 ますます何がどうなってるのかなぞは深まるばかり。




 お昼になると、ほとんどツリーは完成となった。
 しかし、電飾用の電気を引っ張ってこないといけないらしく、女将さんは慌てて宿に戻っていった。
 お昼ごはんはどうぞ食べていてください、と言うので、お言葉に甘えて食べることに。

「いただきます!!」
「頂きます……」
『頂きます』

 とても元気な彼とベトベターに対し、ニーナは溜息をつくほど。
 ……疲れたのだろうか。
 実際一番頑張って飾り付けしてたのはニーナだし、それでもしょうがない。

『疲れたの……?』
「いえ、このくらいで疲れることはありませんが……」
『が?』
「……なんでもありません」

 なんだかとっても不機嫌。
 どうしてこんなに機嫌の上がり下がりが激しくなったんだろう。
 んー……。
 お握りを胃に落としながら考えるが全然分からない。

「ご主人さまっ、お昼は何をするですか?」
「どーだろ? 仕上げが終わったら宿のプレイルームで遊ぶのもいいかな?」
「ぷれいるーむ?」
「そ、色々娯楽品が置いてあるところ」
「ごらくひん?」
「楽しいものがいっぱい置いてあるんだ。……っと、口周り汚いぞ。他の人もいるし、気をつけろよ」

 彼はポケットから取り出したちり紙でベトベターの口を拭く。
 まるで兄弟のようだな、と思い、ニーナに話しかけようとすると、

「……」

 じっと二人の光景を凝視していた。
 手に持ったお握りが少しだけ変形する。
 ……?
 その視線の意味も、力んだ理由も僕にはさっぱり分からない。

「ニーナ……?」

 つい、言葉が出た。
 どうしてだろう、喋ろうと思ってなかったのに。

「……はっ、はいっ! な、なんでしょうかマスター」
「気分でも悪い……?」

 僕が喋ったのがそんなにも驚くことなのか。

「いえ、その、気分が悪いわけではないんですっ!!」
「それじゃあどうしたの?」
「……」
「黙ってちゃ分からない」
「ま、マスター……その……」
「……?」
「あの……私……も……」
「ニーナも?」
「や、やっぱりダメです! 気にしないで下さい!!」

 バタン、と持ってるものを地面においてニーナは立ち上がった。
 そして何も言わずに走っていく。
 ニーナと入れ違いに女将さんが戻ってきた。

「あら? 泣かせちゃったのかしら?」
『……わからない』

 本当に分からない。
 ニーナが何を思って何がしたいのか。
 言ってくれればいいのに。僕じゃないんだから。
 そして、お昼ご飯が終わってもニーナは戻ってこなかった。




 お昼ごはんが終わって一時間もすると、ツリーが完成した。
 女将さんがスイッチを入れると、装飾でいっぱいなモミが輝いた。
 ……ニーナはどうしてるかな。
 でも、僕にはツリーよりも気になることがあった。
 さっきからずっとこのことばかりを考えている。

「……ニーナ」

 彼女の名を口にする。
 くい、と胸に締め付けるような痛み。
 今まで一度も感じたことのない鈍いような鋭いようなよく分からない痛み。

「ねぇ……?」
『?』

 うつむいた僕の顔を女将さんがしゃがんで見上げていた。
 何か用でも、と問おうとするが、口元に人差し指を当てられた。
 黙ってて。
 仕草と視線がそう語っていた。
 僕が顔を上げると、女将さんはツリーを見上げるように立っていた。

「相手の気持ちが分からない時、どうするか。やることは二つしかないわ」

 女将さんが振り返る。
 ひとつ、と言って小指を立てた。

「分からないままにしておく。時間が解決してくれるのを待つの」

 ふたつ、続いて薬指。

「分かるように努力する。必死で考えたり、相手に聞いたりして答えを出す」

 そう言って再びツリーへと向き直った。
 女将さんが言ってることはなんとなく分かる。
 だけどきっと、その言葉の奥深くにこめられた意味までは理解できない。
 でもそれで十分だ。
 女将さんの言葉は自分なりに理解できればいいものだから。

「有り難う御座います」

 僕はお礼を口にしてその場を去った。
 とりあえずやるべきことは決まった。
 今は丁度クリスマス。
 ならば存分に利用させてもらうべきだろう。




「ご馳走様でした」

 相変わらずニーナの声には元気がなかったが、それなりに復帰しているように思えた。
 時を待つ、それも立派な解決策なのだろう。
 僕らは頃合を見て、ツリーの元へと向かった。
 今度は飲み物や軽食を沢山持って。
 皆が思い思いの位置に座ったところで、ツリーがライトアップされた。
 町とは宿をはさんで反対側にあるためぼんやりと暗かった庭がかぁっと明るくなる。

「うわぁ……きれいですご主人様。きれいです……」
「あぁ……。自分達でやるとやっぱ違うのな……」

 二人固まってみている彼らの言うとおり、明かりを灯したツリーの見栄えは見事だった。
 天辺から下辺に至るまでバランスよく飾り付けがされていて、隙間を縫うように電飾が輝いている。
 もっとも、自分達でやったということが綺麗に見える一番の要因なのは間違いがなかった。
 僕とは少し離れたところでツリーを見上げるニーナも同じように思っているかもしれない。
 ……相手の気持ち。
 いつか分かる時が来るように、必死で頑張るしかないんだ。
 不器用なんだから。
 僕は深呼吸をしてニーナへ近づいた。

「ニーナ」

 声は出る。
 ニーナがピクリと体を強張らせた。

「……なんでしょう。マスター」
「えっと……今日、何かあったの?」

 聞いたらまた逃げちゃうかもと思ったけど、ニーナはその場で留まっていた。
 でも、何かを答えようとする気配は無い。
 だから僕は用意していたものに手を伸ばす。

「ニーナ……元気、出してくれない?」
「……元気がないわけではないです」
「じゃあ笑って? ほら……これ……」

 胸ポケットから小さな箱を取り出した。
 お昼になって買いに行ったプレゼント。

「これ……は?」
「クリスマスプレゼント……」
「もらって、いいんですか?」
「(コクコク」
「……ブレスレット?」

 少しだけ潤んだニーナの目が僕をとらえた。
 うっ、そんな目で見られるといじめてるみたいじゃないか。
 僕は慌てて目を逸らす。
 まくし立てるような勢いでブレスレットの説明を始めた。

『ほら、ここに石をはめるところがあるでしょ?』
「……はい」
『前あげた月の石、いつもなくさないように、って大事にしてたみたいだけど失くしそうに見えたから……』

 言っているとまた恥ずかしくなったのでニーナの頭にぽん、と手を置き、なでる。
 僕の顔を見られないように力強く。
 ニーナも抵抗しないで頭を撫でられていた。

「ご主人様っ。わたしも頭撫でて欲しいです」
「ん? おう、今日はよくがんばったなぁ」

 恥ずかしい。

「ふふ、どちらもアツいわねぇ……」

 だから恥ずかしいんだって。
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