3スレ>>737


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(いいかい、このペンダントを常に身につけているんだ。
 絶対、外してはいけないよ?)



 あるところに、ハクリューと少女がいました。二人は、まるで姉妹のように仲良く一緒に暮らしていました。
 いえ、まるでというのは間違いです。二人は姉妹として育っていました。
 ハクリューは少女が生まれる前から、ミニリュウの姿で少女の家にいて、少女が赤子の頃からずっと姉してそばにいたのです。
 少女も回りの人間も、それを当たり前のように受け止め、共に暮らしていました。
 二人はときに、喧嘩もしましたが、すぐに仲直りして笑いあっていました。
 二人が成長し、ミニリュウからハクリュー、少女が10才になると、もえもんトレーナーとして、旅に出ることになりました。
 少女は、パートナーとしてハクリューを選びます。ハクリューは、それをこころよく引き受けました。
 妹と離れたくない、妹を守るためという理由に、誰もが納得し、ハクリューならばそれを違えることはないと、誰もが信じます。
 頼りになる姉と大切な妹の二人組みは、数多いるトレーナの中で、めきめき頭角をあらわしていきました。
 始めは、トレーナーの拙さを竜種としての強さでカバーし、もえもんバトルを乗り越えていきました。
 それでは駄目たと、姉にだけ負担はかけられないと、少女も様々な経験を糧に、トレーナーとして順調に成長していきました。
 勝ち負けを繰り返し、仲間を増やし、いろいろなヒトに出会い、いろいろな経験を得て、二人は旅に出る前よりも大きくなっていました。
 たまに家に帰ると両親は、二人の成長が嬉しく、旅に出したことを喜びました。
 

 旅を始めて二年ほど経つと、二人は有名になっていました。実力があり、それに驕らず努力を忘れない、将来有望な若者として。
 そんな二人は、よく聞かれる質問がありました。
 それは、なぜハクリューを進化させないのか? ということです。
 ハクリューの実力は、すでにカイリューに進化するのに、じゅうぶんすぎるものだったのです。
 二人の答えはいつも同じで、進化はしない。今のままで満足だから。というものでした。
 それを聞いて人々は、「ハクリュー」が好きなのだと推測し、納得していました。
 ハクリューの胸にある、かわらずの石のペンダントも、その推測を助長していました。

 
 ある日、旅の途中のことです。三日続けて大雨が降り、ようやく晴れになった日のこと。
 旅を再開した二人と仲間たちは、次の目的地にむかって歩いていました。
 それは、山を抜ける道を歩いていたときに起きました。
 ハクリューが、遠くから響く微かな音に気づきます。それは山の斜面から聞こえてきます。
 嫌な予感が浮かんだハクリューは、空を飛べる仲間に、偵察を頼みます。
 その予感は、当たりました。
 たっぷりと水を吸った土が、土砂くずれを起こしていました。
 いまから逃げても間に合いそうにないと、土石の流れが速すぎると、仲間は告げます。
 空を飛べるものは、誰かを乗せて飛べるほど、大きくありません。
 どうしようかと考えるハクリューに、一つの案が浮かびました。
 それとともに、苦しい思い出と一つのいいつけが思い出されました。


「いいかい、このペンダントを常に身につけているんだ。
 絶対、外してはいけないよ?」
 なぜと問うハクリューに、少女の父親は答えました。
「君は、進化に耐えられない。
 進化というのは、本来ゆっくりと時間をかけて行われるものだ。
 だが君たちもえもんは、短時間でそれを起こしてしまう。
 急激な変化は、体に少なからず負担をかけるんだ。
 そしてまれに、その変化に耐え切れないものがいる。
 それを僕たちは、進化不適応とよんでいる。
 君も経験したからわかるだろう? 
 ミニリュウからハクリューに進化したときに感じた苦しみ。
 死の淵を彷徨ったあれを」
 苦しさを思い出したハクリューは、ぎゅっと手を握り、青ざめた顔で頷きました。
「再び進化すると、今回みたいに運よく助かることは、ないかもしれない。
 そんなことが起きるとあの子がとても悲しむ。もちろん私たちも、家族がいなくなるのは悲しい。
 だから、そんな悲しさを起さないように、そのかわらずの石でできたペンダントを身につけているんだ。
 それさえ持っていれば、君が進化することはないから」
 自分が倒れたときに見た少女の涙を思い出し、ハクリューはペンダントを常に身につけることを誓う。
 自分は姉で、姉は妹を守るものだからと、妹を泣かしてはいけないと。
 そんなハクリューを少女の父親は、愛おしそうに撫でた。
 その光景はたしかに、父親と娘の、家族のふれあいでした。


 思い出といいつけを思い出したハクリューは、迷います。 
 しかし、その迷いは少女の不安そうな顔を見て、なくなりました。
 ハクリューは、仲間たちをモンスターボールに戻します。
 そして、少女を抱き寄せて、
「心配しないで、お姉ちゃんが絶対守ってあげる」
 と言って、迷いなくペンダントを引きちぎります。
 ハクリューにとっての進化の意味を、少女は父親から聞いてわかっていました。
 どうしてと驚く少女にハクリューは、大事なものを守るため、と笑顔で言います。
 進化が始まりました。
 ハクリューは、体に力が満ちていくのを感じました。それと同時に、大事な何かが削れていくのも。
 痛み苦しさを隠して、少女に大丈夫だと笑いかけます。
 進化が終わり、カイリューへと姿を変えたハクリューは、少女を強くそして優しく抱きしめました。
 しっかりと大地を踏みしめたカイリューに、土砂が襲い掛かります。
 カイリューは、背中に石や木のぶつかる衝撃を感じる一方で、腕の中の大事な宝物の無事も感じていました。
 どれくらいの時間がたったのか、二人にとって永遠にも等しい時間は終わりをむかえます。
 土砂崩れの泥水によって少女は、体温は奪われはしましたが、傷はかすり傷すら負っていません。
 カイリューは、妹を守り通したのです。
 しかしその代償は、カイリューの命。
 少女は、大事な姉を助けるため、仲間と力をあわせて姉をポケモンセンターへと急ぎます。
 

 手術室の前で少女と仲間たちは、カイリューの無事を祈り続けます。
 進化不適応と受けた傷のせいで、助かる見込みは10%をきっていました。
 それでも少女は、姉の生還を信じて祈り続けました。
 やがてストレッチャーに乗せられて、カイリューが手術室から出てきます。
 カイリューは麻酔によって意識がないはずでしたが、少女が近づくと薄く目を開き、微笑みます。
 それは、大事な妹を守りきれたことを、誇っているような笑みでした。
 それで力尽きたかのようにカイリューは、再び目を閉じます。
 少女がいくら呼んでも、その目を開けることはありません。
 いつも、呼べば笑いながら応えてくれた姉は、なんの反応も示しませんでした。


 カイリューが眠り続けるベッドの横で、少女は姉が起きるのを待ち続けます。
 ともすれば、食べることさえ放棄して待ち続ける少女を、仲間たちが支えました。
 祈りの日々が続いた、ある夜のことです。
 ベッドの横で、うとうととしていた少女の耳に、微かな鈴の音。
 なぜだか気になった少女は。目を覚まします。
 個室からでずに、姉に負担をかけないよう、静かに音源を探します。
 音は窓の外から聞こえていました。
 開けた窓から、ひやりとした空気が入ってきます。
 姉の体に悪いと思った少女は、慌てて窓を閉めようとしましたが、空を見て動きが止まってしまいました。
 いまだに、シャンシャンという綺麗な鈴の音は降っています。
 鈴の音は、待つことに疲れ始めていた少女の心に、ゆっくり染み込んでいきます。
 じっと、鈴の音に聞き入っていたから気づけませんでした。
 カイリューが鈴の音に導かれるように、まぶたをあけたことに。
 

 鈴の音は、じっと姉を待ち続けた少女へと贈られたクリスマスプレゼント。
 奇跡を起す、引き金。目覚めを促す、祝福の音。
 抱き合う姉妹を脊に、鈴の音は遠ざかっていきます。
 次の奇跡が待っているとばかりに。
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