「お帰りなさいませお父様っ!」
「おう、ただいま帰ったー……って!?」
オレがバイトを終えて帰ってくると、玄関でイーブイがお出迎えをしてくれた。
もう数ヶ月以上見慣れた光景なのだが……何度見ても飽きはやってこない。
そして今日も、いつも通り可愛らしいそのお姿を拝ませてもらうはずだったのだが……。
「い、いーぶいっ! なんだその格好はっ!?」
「お父様の妹さんにもらったのですけど……何か悪かったのですか?」
イーブイは赤と白のサンタクロースファッションだった。
少しサイズが大きいのか、スカートの裾を床にずり、首は襟からようやく覗いているほど。
ふりふりと尻尾は動くものの、尻尾自体は見えず、スカートがもぞもぞと動くばかり。
頭にかぶった帽子はイーブイの茶髪にマッチし、カットされた部分からひょこりと耳がこんにちわしていた。
でもなイーブイ……オレはお前がプレゼント、な展開のほうが好きだ。
「全然悪くない、悪くないぞ! おとーさんはそーゆーのが大好きだっ!」
「それは安心しました。さぁお父様、ご飯の支度が出来てますよ」
「え? ご飯? 母さんまだ帰ってきてないだろ?」
「そ、その、私がお父様に食べて欲しくて作りましたっ」
恥ずかしそうにぴゅーっとキッチンまで駆けて逃げていくイーブイの後姿に感動。
翻ったスカートからふさふさの尻尾が見え隠れしていた。
あまりにかわいいものだから、思わず手を伸ばして捕まえてしまった。
……あ、ふさふさで気持ちいい。
「ひゃん! お、お父様っ」
「ん? あ、ごめん。可愛いもんだから……つい」
「可愛い? お父様、私、可愛いですか?」
? なんだろう? やけに可愛いって言葉に過剰反応するなぁ。
イーブイは逃げる足を止め、オレの方へと向き直った。
きらきらと輝くイーブイの瞳。
何かを期待しているような……違うか……?
分からん。
でも……可愛いって言ってやって喜ぶなら問題ないな。
「あぁ、可愛いぞ。いつものイーブイも可愛いが、今日のイーブイも可愛い」
「有り難う御座いますお父様! で、では先にお台所にいってます!」
「いってらっしゃーい……じゃなくて、オレも行くんだった」
テーブルについて、料理の到着を待った。
すぐにイーブイがぱたぱたと料理を運んできてくれた。
運ばれてきたものはカレーライス。
……あれ?
それをテーブルに並べているイーブイの手、そこには絆創膏が幾枚も貼り付けられていた。
……本気で作ったんだな。
スプーンを握ると、イーブイの顔が真剣なものへと変わった。
「ど、どうぞ……」
「カレーライスを選択するとは……やるのぅ」
大好物である。
そして、一口。
イーブイが向かい側から身を乗り出さんばかりにオレのことを凝視している。
「……ん、うまいっ!!」
「ホントですかお父様!!」
「どうしてオレが嘘をつく必要があるんだ?」
「い、いえっ。そうではないのですけどっ!」
一生懸命になりすぎてイーブイの目元に涙が滲んでいた。
そんなにも頑張っていたのか……。
何か労ってやらないとな……。
でも、そうそう思いつくことはない。
だからオレはいつも褒めてやる時のように頭をわしわしと撫でてやった。
「お父様……ぐすっ……」
「おいおい、泣くなよ……もっと喜べって……」
「うぅ……」
「ほらほら……いい娘だから……」
イーブイがいつも通りの表情に戻るまで十分間、オレはイーブイをひたすら撫で続けた。
最終更新:2007年12月26日 20:33