3スレ>>324


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さて本編です。といっても本編のわき道ストーリーなんですけどね。二作目のように。
本編で出てきた謎をここで解き明かして行きたいと思います。
茶番編→謎掛け編→回答編、という構成になっています。


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最近のネット辞書を引くと、このような説明が記述されている。

萌えもん【名】
⇒萌えっこもんすたぁ

萌えっこもんすたぁ【名】
生物の一。獣亜綱をはじめジュゴン目、ウマ目など様々な種目に類似される形態を持つが、
いずれにも共通である事項は卵生の哺乳類である事実からこれらには分類されない。
(中略)そのため生物学上どの項にも分類されないため、ーと総じて呼ばれることが多い。
その由来、起源は定かではないが、その愛くるしい容姿からーと呼ばれるようになった
という便宜的な慣用名詞説でしか有効な説明ができない。生物学上の名称は(後略)

関連項目
→もえもんボール →嫁 →もえもんセンター →萌え →娘
→ブロムヘキシン →妹 →姉 →女形 →ケフィア
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――そう、萌えもんの起源は不明である。
いつからいたのか、なぜ存在するのか、それは誰にもわからない。
その真実を突き明かすために、多くの研究者、冒険家がそれに近づこうとしていたが、
彼らの多くは、その命と共に、闇に葬られてきた――

それでも我々は、真実に近づくことを止めはしない。
それがこの世に命を受けた人間の性なのだから。


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カントー都市伝説レポート

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入道雲は空高く、その青に溶け込んでいた。
四季を通じて平均気温の高いここグレン島は本日、今季最高気温をマークしたらしい。
そんな孤高な空の下、獣道をはしる一つの人力車――否、馬車の姿があった。

二人のギャロップが牽く馬車の中は、蒸し風呂のような暑さだ。
そこには二人の男が馬車の中、対面する形で座っていた。
「それにしても凸凹した道ですね。これは車が通れないはずだ。」
一人はスーツの上から作業服を着た、山男のような屈強な体躯の若者。
「グレンには自然保護指定地区が結構あってな。ここらへん一帯は
道路の舗装すら許されていないのだよ。」
それに対しもう一人の男は、やや痩せ細っている中年の男。
丸い黒メガネをかけ、頬骨が浮き出ている顔相は、どこか謎めいた印象を受ける。
「君も知っているだろう、"ジョウト議定書"を。」
「各都市の生活網整備区域に対する自然保護区域の割合を厳密に定めた調書、ですよね。」
「そうだ。だがしかし都市によってはとても不可能な条件を与えられたり、
既にその条件を満たせなかった。そこで各都市は生活網整備区域が比較的少ない
都市に代わりに自然保護区域の確保を願い出たのだ。」
「ジョウト議定書に関する自然保護区域の都市提携ですね。」
「そうだ。それを請け負った都市のひとつがここグレンだ。代わりに提携を願い出た
都市から自然保護区域の管理費などを負担して貰っている。」
――つまりは自然保護を都市間ではなくて、まとめて地方で一緒にやりましょうという話だ。
この二人の研究者は、博識であった。
それぞれ地学の研究と生物学の研究の専門であるが、こうやって顔をあわせる機会は多い。
それは一つに、萌えもんに関するこのカントーでおきた珍現象に関する情報を追っているという
点で協力関係があるからだ。
この後彼らは各自の研究状況についての話で花を咲かせたが、一般にはとてもついていけない話
であるので、ここでは割愛させてもらおう。
「ところで、話は変わりますが、どうですか、ジムのほうは?」
不意に話の流れを変える、作業着の男。
「なんら変わりはないさ。どんどん若い芽が育ってきている。仕方がないのはそいつらが
高みを目指して時期尚早を自覚せんままこの島を去ってしまうことか。」
「桂博士の育て方が良過ぎるんですよ。最強の名を手に入れるためにグレンのジムで
実力をつけて、その成長のスピードに翻弄されるんでしょう。」
ふむ…とその言葉に少し共感を得たか、桂と呼ばれた男は、おもむろに自慢の顎鬚を撫で始めた。
実を言うとこの桂という男、グレンでジムリーダーをやっている。ジムでは、"熱血禿親父"と呼ばれ
ほのお萌えもんの扱いに定評のある男だが、その名通り熱かったのはつい前のことである。
今ではあまりジムにも顔を出さず、運営はジムトレーナーにまかせっきりである。
萌えもんトレーナーとしての熱は相当なものであったが、溶岩のように、それが冷めるのも早かった。
「私の全盛期はとっくに過ぎたよ。あとはもう若い衆にすべてを任せて、静かに身を引くことを考えている。」
桂はそんなことを言うが、まだまだ彼の力は衰えていないはずだ。
そう考えるのは、桂に対して座る、作業着の男。

――ゆっくりと馬車の速度が殺がれていくのを感じた。どうやら目的地に着いたようだ。







「グリミィ、レイディ、ご苦労だった。」
「この程度、どうと言うことはない、ドクター。」
「労いのお言葉、ありがとうございます、ドクター。」
グリミィ、レイディ――二人のギャロップの頭を撫で労う桂。
彼女らは一卵性双生児らしい。いわゆる双子と言うやつだ。
萌えもんの双子は確認されている例が少ない。そもそも一つの卵から二つの生命が誕生するのだ。
一般にはありえない話で、どういうメカニズムなのか全く解明されていない。
その点で彼女らは重要な研究資料だが、誕生に立ち会った桂はそれを断った。
研究家としての気持ちは理解できるのだろうが、それ以前に親のマスターでもあるのだから。
「ここが……」
「…どうだ、古臭い屋敷だろう?」
馬車一行が赴いた地は――そう。萌えもん屋敷と呼ばれている廃墟だ。
前は何らかの研究施設として使われていたようだが、その所有者は、もういない。
「萌えもん屋敷……昔の名前は、新生命科学研究所。秘匿に研究が行われていたらしい。
このような概観になったのは、富豪の別荘と思わせるためのダミーだ。」
「なぜ彼らはそのようなことをしなければならなかったのでしょうか?」
「………。」
ここカントーには、誰にも解明することのできていない都市伝説がいくつかある。
放棄されたシオン発電所の怪。
首都圏地下大都市計画。
ハナダ幻の洞窟の噂。
シオンタウンの怪奇現象。
焼き払われた村。
双子島凍結事変。
そして、萌えもん屋敷の神隠し。
これらは単なる流言や史実、建造物の情報から人々の間に伝わる都市伝説である。
一般にこれらをまとめ"カントー七不思議"と呼ばれている。
桂がこの地を訪れたのは、そのうちの一つ、
萌えもん屋敷の神隠し伝説がある萌えもんに関連しているのではないかという推察から
真相を確かめにきたと言うのが一番の理由である。正確にはもう一つ理由があるのだが……
「それを確かめにここに来たんだ。行くぞ、シバ。」
桂と、そしてシバと呼ばれた男は、奇妙な空気を放つ偽装屋敷の内部へ足を運んでいった。





内部は、予想以上に黴臭かった。連日続く夏場の湿度もあってか、かなり繁殖しているようだ。
そして繁殖しているのは黴だけではなかった。
ベトベター、ドガースらにとってはとても快適な生活環境である。
住処を蹂躙されまいと襲い掛かってくるものもいたが、なぜか彼らを迎え入れたものもいた。
…桂の顔を知っていたからだ。おそらく同じように襲い掛かって痛い目でも見たのだろう。
「桂博士じゃん。またこんなとこに来たんだ。ホント物好きだよね~。」
陽気なベトベターはそういって桂に近寄ってくる。
「え……か、桂さん…ど、どうも、ははは…。」
何か後ろめたいものがあったのだろうか、ドガースはそういってどこかへ去っていった。
「随分と慕われているようですね。」
「前に悪さをしていたようでな。少し懲らしめてやった。」
と桂は言う。どんな悪さをしていたのかはシバから問われることはなかった。
「こっちだ。」
桂はとある部屋の一角にある本棚を指した。
本棚をずらすと、そこに地階へと続く階段が現れた。
「随分とあっさりしているんですね。隠し階段の割には。」
「この部屋に入るにはセキュリティ認証が必要だった。…昔の話で、今は動いてないがな。」
二人は地下へと続く闇の中へ消えていった。





「これは…すごい設備だな。」
半壊した自動扉の先には、驚くべき光景が広がっていた。
手術台ののうな実験台が部屋の中央に置かれ、その周りにはクーパーや注射針、メスなどが散乱していた。
部屋の左右には、人が丸々入れそうなカプセルが整然と並んでいる。
割れているもの、現存しているもの――いずれも、今は機能してないようだ。
気になるのは、壁や天井にこびり付いた黒い塊…煤だろうか?
「早速だが、書庫にある文献をまずは調べよう。」
桂の言葉で彼とシバは、膨大な情報量に等価できる大量の書物を調べる作業に入った。
「だいぶ古いな……これはもう読めないな。滲んでしまっている。」
製本されているものは読むことには読めた。しかし製本されていないファイルなどの文字は
殆どの物が滲んで読めなかった。無音の空間で、桂とシバは黙々と資料の頁を捲り続けた。
何時間経っただろうか。不意に桂が沈黙を破った。
「ふむ。そろそろ区切りをつけようか。今日調べただけでも大きな収穫はあった。」
「……そうですね。残りはどれくらいなんですか?」
「そうだな、これで全体の15分の1が終わったくらいか。」
たった15分の1。途方にも暮れる作業である。
こんなことを何度も繰り返してきた桂は一体、一人でどれくらいの書物を読んだのだろうか。
そして、この書庫にはなんという膨大な量の書物が眠っているのであろうか。
「さて、シバよ。私にはもう一つやることが残っているのだがこれは私の私用だ。
君はどうする?」
どうするもこうするもない。シバは、桂に最後まで付き合うことにした。





なぜかその部屋だけ厳重に閉ざされていた。鎖がカテナリを結び、扉を封印している。
桂は鍵を取り出し、その鎖を外し始めた。
「実はこの扉だけセキュリティが生きていたんでね、こうやってアナログ式の鍵と
デジタル式の鍵を使って二重施錠を施している。」
と、桂。その鍵の設定をしたのはすべて彼だ。次に白衣の裏側から取り出したのは、
旧式の小型大容量バッテリーだ。それをおもむろにわきのソケットに接続する。
――扉が息を吹き返した。
「この扉は私の指紋と顔相を鍵にして開くシステムだ。…シバ、ちょっとそっちに回り込んでくれ。」
シバは桂に言われたとおりに動く。
「壁に三つレバーがあるだろう。それを真ん中、左、右の順に上に上げてくれ。」
風化して硬くなったレバーを、シバは簡単に倒していく。
「次にその隣のダイヤルを回してくれ。」
「いくつにすればいい?」
「七だ。」
シバはダイヤルを合わせた。
「……よし、開くぞ。手順を一つでも間違えると扉の周りの起爆装置が爆発する仕掛けになっている。」
それは扉が壊れるのではないだろうか?…そう思ったシバだが、これは壊れそうにない。
扉を開いてみれば、その厚さは80センチほどあったからだ。
桂に促され、重厚なその扉を開いた……その瞬間――
「!!!」
――なんだ、このプレッシャーは…!!
熱い熱気。それと同時に、走る背筋への悪寒。
――この先に、何があるというのだ?この迫り来る恐怖は……何なんだ!?
無意識のうちに、シバの手足は震え始め、体中にはじっとりと汗を浮かべていた。
「感じ取っているようだな。」
一方の桂は、汗こそかいているものの、いたって平常な振る舞いである。
一つ目の厳重な扉の先には、さらにもう一つの大きな扉があった。
――桂博士…こんな尋常じゃない空間の先に、何が待っていると言うのですか!?
「この先に……待っているのだよ。…私の死神が。」
桂は、ゆっくりとその扉に、手をかけた――





――熱い。暑いのではなくて、その部屋は熱かった。
その部屋には幾つかの大きな機械――CTスキャンのときに使う装置のようなもの――が
部屋の真ん中に置かれ、ほかにも放射能警告が貼られた機械などが散乱していた。
そんなことには目もくれず、シバはその奥の一点に目を奪われていた。
床に……人の残骸だろうか?様々な体のパーツが無造作に散らばっている。
そして、そんな床の上に立つ、一人の女がいた。燃え盛るような赤い女が――
「……桂か?また来たのか。」
赤い女は気兼ねすることなく桂に話しかける。
この二人は知り合いのようだ。
「…様子を見に来たのだよ、フレス。」
フレスと呼ばれた女は、そんな桂の様子を見て、
「――そうか。余は嬉しいぞ。」
微笑む。
――美しい。
この重圧感さえなければ無意識にシバの口からそんな感嘆の言葉が出そうなほどだった。
そう、あまりのプレッシャーに、シバは口を開くことさえ戒められたような錯覚に陥っていた。
「まったくつまらないところよ。しかし時折、桂に会えるのは余の唯一の楽しみだ。」
男を誘うような妖艶な笑みを浮かべる。そんなフレスは、ようやく第三者の存在に気づいた。
「ところで…隣の者は誰だ?」
――視線が重なった。
その瞬間、シバの体は硬直して動かなくなった。…心臓を鷲掴みされているような気分だった。
ドッドッドッドッ!!
今まで体感したことのない速さで全身に血が巡っては還ってくる。
「紹介が遅れたな…シバだ。私と同じで研究者だ。」
「………。」
"研究者"という言葉に、フレスの眼光はさらに鋭くなった。
「言っておくが、彼は違うぞ。君ら萌えもんとの共存の仕方を正しい知識で理解している。」
フレスはしばらくシバを睨んでいたが、不意にその眼光は緩められた。
「そのようだ。」
ようやくフレスの、心の闇を見据えるような眼差しから開放されたシバの体からは、
滝のような汗が吹き出ていた。
「あ……。」
思わずその場に座り込みそうになるのをこらえるシバ。
「君も知っているはずだ。カントーの伝説の三鳥のうちの一人……ファイヤーのフレスだ。」
「ファイヤー…」
シバもその名前は聞いたことがある。目の前にして、何を感じたのだろうか。
「フレスでよい。男よ。」
「あ、…は。」
思わず畏まるシバ。
「よい。そのように畏まれては余も困る。」
ファイヤーのフレスは、崇められている事に慣れていないようだ。
「…それで、桂よ。今日も調べていたのか。」
「………ああ。」
半ば呆れたと物言うような表情の、フレス。
「して、何かわかったのか?」
「………。」
すべてを見透かしたようなフレスの眼は、事の顛末をすべて知っているようだった。
やはりシバには、彼女が神かそれに匹敵する生き物にしか見えなかった。
「一人の萌えもんをめぐって、ここの研究者は蛮行を為したようだな。」
桂はまるで彼女の謎掛けに答えるように訊ねた。
「そのとおりだ。」
シバは気づいた。何かおかしい。
何故桂は、彼女に答えを求めている?
閉ざされた謎のはずだ、彼女に訊いても何の解決にはならないはずなのに――何故?
「どうしたんだ、シバ。」
不意に桂がシバに話しかける。
「あ…いや…。」
疑問を持ち始めたシバは、急な話に茶を濁した。
「彼女…新種の未知の萌えもん…いままでの萌えもんとは違った遺伝子配列を構成している
それをここでは"タイプμオリジナル"と呼んでいた。」
「………。」
何故だ?
桂は、すべてを知っているのではないだろうか?
シバの頭には、そんな考えが浮かんだ。では何のためにここで調査をしているのか。
――少なくとも、彼の持っている情報と、俺の持っている情報では、次元が違いすぎる。
「彼らは彼女の遺伝子情報を元に、人工の新種萌えもんを製作した。
それが彼女のコピーとなる"タイプμⅡ-プロトタイプ"だな。」
「…そうだ。二人の萌えもん、それはこの世に生まれてはならない種だった。」
桂の尋問に、フレスは素直に答える。
まるで、最初から彼とは違う目的で調査に来たような錯覚。
それをシバは感じ始めていた。
――? 違う…?
その錯覚がシバの頭に、ある一つの答えをたたき出した。
「……桂博士。」
「どうした?」
「一つ、私から訊ねたいことがあるんです。」
シバはその一つの答えを、桂に向かって突きつけた。
………。
「あなた、"萌えもん屋敷の神隠し"……その全容を、知っているのではありませんか?」
熱を纏ったその空間は、何故だか冷え切ったかのように冷たい空気を発していた。
……しばらく、辺りを沈黙が覆った。それを不意に破ったのは桂だ。
「…新生物μの研究に携わったものすべてが、この屋敷で姿をくらました。
行方不明説、殺害説…様々な説が学者の間で囁かれたが。」
桂は遠い過去の出来事を話すかのように遠くを見つめていた。
「そもそもカントー七不思議とは、共通しているものがある。…それはヒトの消失だ。
シオン発電所。何故従業員はいなくなったのか。地下都市計画。もうこの計画は凍結されたが
その原因となったのは当事者が殺害されたからだ。何故当事者は殺されたのか。…シオンタウンで
不特定多数の人間が殺されたのは、何故なのか。ハナダで時折行方不明者が出るのは何故か。
双子島が凍結した際にも何人か行方不明になった。それは何故か。村が人ごと焼き払われ、
壊滅させられたのは、何故か。どれもこれも"何故"に事件が絡んでいる。
そこで私は考えたのだよ。これらはすべて、ひとつの真実を隠すために現れた史実なのだと。」
七つの事変は独立しているものではなく、すべてにおいて関連性がある。
そう推察する時点で桂とシバの間には別次元の境があった。
「私がそのうちのひとつ"萌えもん屋敷の神隠し"について全容を知っている、と君は推察したね。
その答えは…ノー、だよ。」
桂は否定したが、それに付け加える。
「…が、君の答えは不正解ではない。正確に判断すると、サンカクだ。
この件について全容を知っているわけではないが、直接この結果を引き起こした犯人は知っている。」
「………!!」
シバの予想に反して、桂はあっさり白状した。しかしその答えは、シバ自身桂に騙されているのか、
はたまた協力を仰がれているのか判断できない内容であった。
つまり……それは神隠しを実行した犯人がいて、桂はそれを知っているのにも関わらず、
桂はすべてを知っているわけではない、という曖昧な事実を指していた。
シバはまさかと思ったが、思い浮かんだ犯人は一人しかいなかった。その犯人は――
「その通りだ。今、君が思っている人物で、間違いないだろう。
"萌えもん屋敷の神隠し"を行った直接の犯人は…ここにいるフレスだ。」
シバの脳内でここで見てきた過去の情報がフラッシュバックされる。
地下の研究施設――あそこにこびり付いていた天井や壁、床の煤――あれは、人の肉だ。
燃やされて炭にされ、風化して灰になったのだろう。
それがこの多湿の室内で、張り付いて煤のようなものに変貌した結果が、あれだ。
何よりも気づくべきだったのは、彼女の周りに転がっている、人の骨のような残骸だ――
よく見てみればほかの部屋にもあったはずだ。それを、見落としていた。
――シバは思わず彼女を見つめる。当の本人は罪の意識もなく平然とした顔で話す。
「そういうことだ、シバとやら。醜い最期であったぞ、余に命乞いまでして。
自らの行った業の深さを全く理解していなかったようだ。だから余が灰にしてやった。」
――ぞくっ!
彼女の影を垣間見たシバは、背筋に走る強烈な寒気を感じた。
「何故……何故、そのようなことを!」
「"何故、そのようなことを"?それは余が貴様らヒトに問いたいものだな。
あのような自然の摂理捻じ曲げし深き罪が許されまじ愚の骨頂とは思わなかったものか。」
「自然の摂理…捻じ曲げし深き…罪?」
「二人とも、少し落ち着くんだ。」
間に割って入ったのは、桂。
「シバ…彼女は単にヒトが嫌いで彼らを殺したわけではない。それだけはわかってやれ。
フレスよ、罪は"個"にあって"人"にはない。
シバに彼らの罪の深さを責め立てたところでどうにもならん。」
二人は彼の言葉を聞いて、何もいえなくなった。
「フレスよ、お主が彼らを葬った動機を解明できれば真実を話すという約束だったな。」
桂はフレスに説いた。フレスは黙って頷く。
「実はもう、私には答えが出ているのだよ。」
そう、桂がここ萌えもん屋敷で調査をしていた本当の理由は、事変の解明――
シバと同じだった。ただ二人の見つけるものが違っただけであった。
「それを今から話そう。」
「……いいのか?貴様に与えた機会は一度きり。
間違っていれば約束通り、余は貴様を灰しなくてはならない。」
「………!!」
「無論、そこの男もだ。」
一瞬、ただ一瞬だけだが、フレスの顔に悲愴の影が現れたのを、シバは感じ取った。
「……覚悟の上だ。」
桂はシバに目で合図する。『すぐにここから立ち去れ。』と。
これ以上シバまで巻き添えにすることは彼の運命までも飲み込むことになる。
それだけは桂自身の独断に委ねることができなかった。
「………。わかった。私も運命を共にしよう。」
「……いいのか?」
シバの決起に、桂は釘を刺す。
「私が一歩間違えれば、お前までここで朽ちることになるぞ?」
「…構わん。見てみぬ振りをして生きるほうが、俺には耐えられない。」
"俺"はシバの普段の一人称だ。四天王としての顔がここに現れた証拠だ。
それは彼なりの覚悟であろう、桂にはそれがしっかり伝わった。
「全く…強情な奴というか…桂よ、貴様は随分肝の据わったニンゲンを連れてきたものだ。
いいだろう。二つの命を天秤にはかり、その答えを余に差し出してみよ。」
……ひとつ深呼吸をした後、桂はゆっくりと、その口を開いた――





お前がこの萌えもん屋敷の存在を知ったのは、
私がグレン火山で一人静かに死を待っていたときだったな。
お前は現れた。そのときの私は、萌えもんの人工生殖という罪深き研究をしていた。
その過去はそのとき私が告白したな?これは省略するぞ。
…すべてを懺悔し自らの運命を放棄しようとしていたときに、お前はこういった。
「すべての過去を洗い流せ。そしてその罪を一生涯背負って人生を全うすることができた時、
余が貴様の亡骸を灰にして空へと還してくれよう。」
…それから私は過去の研究をすべて葬り、ジムリーダーとして若い芽の育成に励んだ。
ただひたすら人間たちが、萌えもんとのよりよい未来を築き上げてくれると信じて。
その頃この研究所に、遠い海を越えた大陸の地で新種の萌えもんを発見したことが報告された。
それが、"タイプμオリジナル"だった。
オリジナルはこの研究所で隅々まで調べ上げられ、遂には私が過去に行っていた研究との
融合、つまりはオリジナルの人工生殖という愚案を思いついた。
そしてその研究が完成しかけた頃に、お前はここへとやってきて、事の流れからこれは
闇に葬り去るべき罪だと判断した。





「…お前が最も危惧していたのは、タイプμオリジナル、そして間もなく生まれてしまった
タイプμⅡプロトタイプの存在が世に出回ることだった。そこでお前は三鳥会議を緊急で開き、
二人をカントーのどこかへ匿うことにした。」
桂の語りはそこで途絶えた。これが、彼の知っている全てなのだろう。
膨大な情報から推察されたそれは果たして正解か不正解か。
長い沈黙が、空間を支配した。
………。
そして、命を預かる天秤は、フレスの一言で傾いた。
「正解だ。」
「!!」
安堵と同時に、驚愕の表情を浮かべる桂。答えは出ても半信半疑だったのだろう。
「まったくもってその通りだ。…だが、ひとつだけ語られてない事実がある。」
「…!」
「安心せい。貴様らを葬る気はない。たいした推理だったよ、桂。」
フレスは観念しているのか。表情にひとつの覚悟が伺える。
「…約束だったな。余も知っていることを全て話そう。」
…ごくっ。
シバか、桂か、どちらかはわからないが生唾が喉を下る音がした。
フレスの口から、この事変の解明に繋がる言葉が今、発せられる。
「大体は桂の言うとおりだ。既に言われたことはあえて言わぬ。だが貴様達は、
ひとつだけ…知らなくてよい事実を知っていない。」
知らなくてよい事実…おそらくこれを一番言いたくなかったのだろう、フレスが
真実を告げるのを躊躇った理由は。
「…絶対に口外しないことを約束せよ。そのときが来たなら余が貴様らを葬る。」
言われなくても二人はそのつもりだった。共に強く頷く。
「よいぞ。その覚悟しかと受け止めた。」
満足げに微笑むフレス。表情からも何か吹っ切れたような印象を伺わせる。
「…桂が言ったとおり、余が恐れたのは彼女らの存在が明るみに出ること。
…そしてもうひとつ、彼女らの繁殖にヒトの手が加わらないことだ。」
「フレスよ、彼女らの繁殖とはどういう意味だ?」
「うむ、正確には彼女らの種はこのまま静かに絶たれるべきなのだ。
貴様らヒトは彼女らのことを新種と呼んでいるようだが、そんなものではない。」
「………。」
「そもそも新種とは何だ?何が新しいのだ?…答えは簡単だろう。
今までの生物にはない遺伝子配列――そうヒトは呼ぶようだが――それに拘る
ヒトは新しい遺伝子を新種と呼んだ……そうだな?」
「そうだ。」
「うむ、余にはよくわからぬことだが……この際遺伝子の話はよい。
では何故彼女は生まれた?突発的にそこに現れたなど誰が信じようか?」
「それは……突然変異で…」
「ふむ、シバよ、その突然変異と言う言葉はどういった意味か?」
「突然変異と言うのは…DNAやRNAの塩基配列に物理的変化が生じて…」
「ええい、意味のわからない言葉を並べるのはやめよ!要約して余にもわかるように話せ。」
「うぐ…か、簡単に言えば、同じ組み合わせから予想される結果と違うものが現れることだ。」
「ふむ……。」
フレスはその言葉について、深く考えているようだ。
「研究者の間ではそのような流言が出回っているようだが、
それが今回の話に絡んでいるかと言われれば、偽だ。」
「――!?」
偽――即ち、タイプμは突然変異で生まれた萌えもんでは、ない。
「あれは起きるべくして起きた悲劇の結晶だ。」
おもむろに地面に転がってあった骨を拾い上げるフレス。
「悲しきことだ。嘆かわしいことだ。運命は禁忌の種をこの世に蒔いてしまった。」
「………!! な…まさかっ…!?」
桂は気付いてしまった。同時にあまりにもありえない真実に目を背けたくなる。
「…気付いたか、桂。そうだ、そのまさかだ。」
フレスの口から、できればそうでない事を願った言葉が、遂に発せられてしまった。


「あれは、ヒトと萌えもんの間に授けられた命なのだよ。」


「「!!!!」」
――――。
息が、詰まりそうになった。
その言葉は、魔法のようだった。
瞬間に心臓は止まり、手足は硬直し、言葉も発せられず、ただ立ち尽くす。
桂も、シバも、何もかも、その言葉が時を止めたかのように静止していた。
「あれを見た瞬間、余にはわかってしまった。間違いないのだ。」
止められた時の中、フレスだけが時を紡ぐ。
………。
「……い、いやそんなことは、そんなことはありえないはずだ!
ヒトと萌えもんの間に子種を作ることは不可能なはずだ!」
――そう、それが一般常識である。研究と臨床の結果、そういう事実が残っているはずである。
シバはフレスの言葉を俄に信じることはできなかった。信じられるはずもない。
しかしシバの最後の希望は、あっさりと次の言葉によって砕かれた。
「…いや、ありえる。ヒトと萌えもんの間に子種のできる配列が、たった一つだけある。
確率にして……おおよそ四千五百兆分の一…!」
「なっ……!?」
そう、四千五百兆分の一…パーセンテージにして約2.2掛けることの10のマイナス14乗%…。
巡り合わせない確率を含めればその値はもっと低い――ほぼゼロなのである。
「私もありえないと思いたい……。だが、間違いないんだな…。」
「…神への冒涜としか言いようのない…なんと深い大罪か。余もそれが誕生した因果に嘆いたものよ。」
重苦しい空気が圧し掛かる。
「………。」
「………。」
「………。」
シバは信じられないと言う表情を、桂は驚愕をかみ締める表情を、そしてフレスは悲痛な表情を、
それぞれ浮かべていた。
まるで世界の滅亡を宣言されたような気分だ。
「余は……。」
不意に、フレスが口を開く。
「余は、これが悪しきニンゲンどもの手に渡らないように、彼女らと、
そして彼女らを弄んだ邪悪な技術を封印する。それが余の役目だ。」
これが悪に利用された日には、本当に世界の滅亡に繋がりかねない。シバも、桂もそう感じていた。
「その通りだ…!このような技術を生み出した人類は罪深き生き物だ。
…だからこそ!その罪を償わなければならない!」
桂は拳を力いっぱい握り、腹の底から声を発した。
「…桂…。」
「桂博士の言うとおりだ!俺も協力する。もしかしたらこれを利用しようとしている
輩が既にいるかもしれない。そんなやつらの好きにはさせん!!」
「…シバ…貴様らというやつは…。」
…フレスは、二人の出会いに心の底から打ち震えた。
こんなにもヒトが頼もしく、力強く、そして神々しく見えた日はない――
こみ上げてきた感情を抑える術がなかった。
彼女は自分でも気付かぬうちに、大粒の涙を零していた。
「……何故だ。今までこんなにもつらかったのに…何故だ!」
止まれ、止まれ!そう願っても溢れ出たものを抑え切れなかった。
「何故だ――こんなにも心が……晴れ晴れとしているのは!!」





「桂博士、私はしばらくの間、山に篭ります。」
帰路にて…シバは唐突に打ち明けた。
「場所はハナダの近くです。彼女の情報どおり、その洞窟の近くで…警備もかねて。」
「……そうか。」
桂も止めようとは思わなかった。そのほうがよいかもしれないと思ったからだ。
ハナダの奥地には、不思議と濃い霧のようなものが張り巡らされていて、
さらに奥へ行こうとするものを飲み込むと言う。いわゆる"ハナダ幻の洞窟の噂"――
それは三鳥が仕掛けた結界であるとフレスは言う。
つまり、彼女らが安置されているのは、その結界の先……。
その手前辺りに、シバは篭ると言っているのだ。頼もしい限りである。
「では、今日はありがとうございました。また会えるのは少し先になりそうですね。」
「たまにはこちらから会いに行こうか?」
「いえ、お気遣いは嬉しいのですが、思ったよりあの山岳一帯は過酷ですよ?」
「それでも、だ。こちらも何かあったら、報告しよう。」
そう言って、二人の男は、互いに背を向けて歩き出した。
……と、そのとき、遠くから飛来する鳥を、桂は見た。
「ぬ、あれは――」
その鳥は、桂の方へ向かって飛んできて、羽をたたんだ。
「やっと見つけましたよ!桂ハカセ!毎度どうも、文鳥屋のすずです!」
「ほ、これは久しぶりだな――元気にしてたか。」
桂はすずの頭を撫でると、すずの持ってきた小包を受け取る。
「わざわざ遠くまで…すまないな。」
「いえいえ、仕事ですから。これくらい朝飯前なのですよ♪」
桂は小包の中身を確認する。
「ん…これは、電子筒か。」
小包の中身は、データを簡易的に格納しておくことができる電子筒だった。
桂は懐からテキストリーダー――携帯プリンタ――を取り出して組み立て、
慣れた手つきで電子筒をテキストリーダーのソケットに挿した。
ジージジジ…ジ、ジージージ…
一枚の紙が吐き出される。そこに書いていた事とは…
「………。………。ふむ。ロケット団か……。何とかしなくてはな。」
渋い顔をする桂。と――
ジージージ、ジジジジジ…
もう一枚あった。どうやら追記のようだ。
「………。なんと。あのカスミでさえ歯が立たなかったと言うのか。ほう。」
「…それじゃ、私はこれで失礼させていただきますね。」
すずはそういって再び空に舞おうとする。
「ああ、待ちたまえ、せっかくこんなところまで来たんだ、茶でも飲んでいきなさい。」
「えっ…でも、そんな気を遣って頂かなくても」
「じゃぁついでだと思ってきなさい。私からも"一仕事"頼みたい。」
「それなら…じゃあお言葉に甘えて♪」
全く持って躾がよいオニドリルである。仕事の話がなければ休憩すら厭うとは…。
「……おや?」
桂は追記の中に画像ファイルが添付されていることに気付いた。
「なるほど、相当悔しかったようだなカスミのやつは。どれどれその顔を…拝見しようか。」
画像を印刷する。
ジージジージ、ジ、ジ…
「……ん!?」
桂はその人物の面影に、何か懐かしいものを感じた。
そして何より、そばに写っているペルシアン。ペルシアンと言えば……。
「…まさか。あいつらはとっくに…いやしかし、まさかとは思うが――。」
おそらく間違いないのだ。もえもんリーグで彼に打ち破られたときの苦汁は忘れられない。
その男に――よく似ている。
「ふふ……ふふふ。因果なものだ。父親と同じ道を辿るか?…血は争えないな。」
「ハカセ!何してるんですかー!早くー!」
桂はそのとき、自分が若返ったかのような錯覚に陥った。
――彼がもしこの町のジムを叩いてきたときは、丁重にお迎えしなければな。っはははは!

グレンジムのジムリーダー、桂。彼の引退は、彼自身の続投宣言によって撤回された――


カントー都市伝説レポート 完


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【設定集】
◇登場人物とその背景(ほとんど二次設定です)

桂 グレンジムのリーダーでもあり、生物学専攻において博士号を取得した男。
罪深き研究に手を染め、己の罪の重さに耐え切れず自害を決意するが、
ファイヤーことフレスとの契約によって再起。町の人たちには、
「山で遭難した。火の鳥に出会った。」とごまかしている。
彼には今回顎鬚を伸ばしてもらいましたが、原作では顎鬚ってあったっけ?

シバ もえもんリーグ最高峰、挑戦者へ試練を課す強豪"四天王"の一人。
今回は彼の萌えもんは出てきませんでした。と言うか学者だったのか、と
突っ込みを入れたい方も多いと思いますが、彼の頭のいい一面を見て
いただこうと思い、このような二次設定になりました。
されど彼が取得した学位は学士までということらしいです。

フレス 名前の由来は北欧神話に出てくる世界樹に止まる鷲"フリスベルグ"から。
伝説の三鳥のうちの一羽、ファイヤーです。原作では使えないという意見
が多いようですが、自分はこれで初代ポケモン、殿堂入りしましたからね
今回は桂との出会いについて多くは語られませんでした。あらすじ的には
本編の通りなんですがね。

グリミィ& 双子のギャロップさんです。名前の由来はそれぞれ、"Crimson"→クリム
レイディ    →クリーミー→グリミィ…と、"Deepred"→Red Deep→レイディ…と。
はいはい無理やりですねw今回はチョイ役で一言しかしゃべらせ
られなかった…もっとしゃべらせたかった…な、ハァハァ

◇ジョウト議定書
モチーフは京都議定書なんですが、いただいたのは名前だけです。内容が全く違います。
ジョウト議定書は都市群の拡大と同時に自然が少なくなり萌えもんたちその他動植物の
居場所がなくなってしまわないように厳密に定義された、いわば自然保護に関する調書です。
というかリアルではこういうことって調書ではなく法律や条例で定めるものだと思うのですがw
細かいことは気にしないでください。

◇カントー七不思議
カントー七不思議は、正直適当です。ミステリーを作りたいと思い急遽、各地から大変謎と
されているものを持ってきました。今回の話では、"萌えもん屋敷の神隠し"と
"ハナダ幻の洞窟の噂"について解明されました。

◇その他二次設定
遺伝の話は正直詳しくないのでウィキペディアを見ながらそれを資料にいろいろやってみた
のですが、やはりいまいちごまかしきれてない点が多いような気もしますw
ちなみに一般的な宝くじの一等に当たる確率は大体1/100,000,00…だそうです。
4500兆ってどんだけ適当な数字なんだよ!w
つうかそんだけ確率低いんだったら、むしろ嫁とまぐわい放だry

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