3スレ>>839


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 太陽も沈んだ午後7時。一行はポケモンセンターの一角に宿を借りて、早くも就寝の準備をしていた。
 中でもマスターは今まで詰め込みすぎたバッグの中身を丁寧に整理していた。

「ボールポケットは……ん、ハイパーボールの残りが少ないか。明日早めにショップによって……」

 ボソボソと独り言を呟きながらボールの整理をする。
 その後ろから、たたたた、と走り寄ってくる足音が近付いてきて……

「マスター!」
「おわったったった……ガーディ! 荷物整理してるときに飛び掛ってくるなって!」

 マスターはガーディが飛び掛った衝撃であちこちにばらけたボールなどを大急ぎでかき集めた。
 しかしその様子を見ているガーディに反省の色は見えず。

「マスター! 今日一緒に寝てもいい?」

 尻尾を振りながらこんなことを言う始末である。

「……ガーディ。他の皆もボールに入ってるんだから、少しは遠慮しようとか思わないのか?」
「え~?」

 イヤイヤをしながら腹部に顔を擦り付けてくる。軽く頭をポンポンと叩いてやると、尻尾を大きく振った。
 非常にご機嫌なガーディだが、反面マスターの顔は少し疲れが滲み出ている。

 そんな様子を、ボールの中から羨ましそうに見つめているポケモンが1人。

(…………)

 ボールの中でも土に半分体を隠しているディグダであった。




「……ガーディさん、うらやましいなぁ」

 ぽつりと独り言をもらすディグダ。その言葉は本心からの言葉だった。
 常時土の中に入っていないと恥ずかしくて死にそうなディグダは、あのように添寝を頼むコトが出来ない。

「……もし、わたしがもぐらポケモンじゃなかったら……」

 ちょっとだけ想像してみる。
 ガーディのように地上を走ったり、オニドリルのように空を飛んだり、スターミーのようにマスターを背に乗せて……

「……うーん?」

 当たり前だが、地中を掘る事のみに長けたディグダにはそのような想像はうまく出来なかった。
 ……ボールの外で、結局ガーディの押しに折れたマスターが一緒にベッドに入るのが見えた。

「……」

 仕方ない、という事は分かっていても。
 もう一度、声が届かないボールの中で「うらやましいな」とこぼした。




 マグニチュード8!!
 こうかは ばつぐんだ!

 相手が出してきたコイルに対して、マグニチュードを使って一撃で倒したディグダ。

「よしっ! よくやった、戻れディグダ!」

 が。

「……はぁ」

 マスターの命令もどことやら、ディグダは上の空でどこかを見つめていた。
 怪訝に思ったマスターが「ディグダ?」と呼びかけると、そこで初めて気付いたようで、

「は、はははい! なんですか?!」
「いや、ボールに戻っていいぞ?」
「ぅあ……はい」

 真っ赤な顔をしながら急いでボールに戻る。ついで繰り出すのは炎のガーディ。
 かえんぐるまを使い、一度反撃を受けたものの難なくコイルを倒した。

(……わたしならぜったいにたおせるのに)

 ディグダはぐるぐるな感情が渦巻くのを感じながらも、その光景から目を離せずにいた。




「…………はぁ」

 本日は野営。近くに街も無いので、テントを張ってその中でマスターはいる。
 ディグダはわざわざテントの中のボールから出てきて、夜空の下で星を眺めていた。
 最近、どうにも調子が出ないから心を落ち着けたくて、という理由で。

 勿論、調子が出ない理由は分かっている。ガーディの事だ。
 きっと今頃は昨日と同じようにマスターに添寝を迫っているに違いない。
 それが見たくなくて出てきた……というのも本心だった。

(……ガーディさんは、わるくない)

 そう心の中で言い聞かせて見るものの、ぐるぐるな感情は消えてくれなかった。
 ずっとこのままなようでは、マスターのお傍にはきっといられない。
 きっと見放されてしまう。
 今日の昼のように。

 そう思っていると、

「ディグダ」
「!」

 突然背後から名前を呼ばれた。マスターの声だ。
 マスターはしゃがみこんで、ディグダと同じくらいの目線になる。

「寒くないの?」
「ぅ……は、はい」

 思わず緊張したが、嘘ではなかった。土の中は湿気もある事から、とても温かい。
 そうか、と答えながら、マスターは地面に座り込んだ。

「綺麗な星だなー。そういえばこうして夜空を見上げるのなんて何日ぶりだろ?」

 マスターはとても気楽そうにしているが、ディグダの方は気楽なんてものではなかった。
 今日の昼間の失敗やその他諸々で、先ほどからずっと俯いたまま。
 ――そのせいで、マスターがこちらを見て小さく微笑んだのに気が付かなかった。

「ねぇ、ディグダ?」
「は、はい」
「何をそんなに悩んでいるんだ?」
「へ!?」
「驚かなくても、その様子じゃ何か悩んでるなっていうのは簡単に分かるって?」

 楽しそうな調子の言葉に、ますます居心地が悪くなってしまうディグダ。

「それで? 何を悩んでいるのか言って御覧?」
「ぅ……えと、その……」
「言葉が見つかるまで、待っててやるから」

 言うなり、マスターはごろんと地面に寝転がる。服に土がつくことも気にせずに。
 その様子を見たディグダは、少しだけ決心して口を開いた。

「…あの、ですね」
「うん」
「その……ガーディさんが、よく、マスターといっしょにねるじゃないですか」
「……うん。まぁー、そうだね」
「それで……わたし、そういうことできないから、うらやましくて」

 そこまで言うと、マスターはディグダの頭をポンと軽くはたいた。

「何で出来ないと思ったの?」
「え、なんでって、……わたし、もぐらポケモンだし」
「そうかな? 今、ディグダにこうやって触れてるわけだけど」
「えっ、あっ」

 戸惑っている間に軽く引っ張られて、むぎゅ、と上半身だけ抱きしめられた、
 地面に寝転がって丸くなるように、優しく。

「ほら、出来るじゃないか」
「……! ま、マスター……!!」

 ドキドキして、言葉もいえないディグダ。
 初めて人に抱きしめられた感触は、とにかく柔かくて、暖かかった。土の温かさなんて比べ物にならないくらい。

「ちょうど毛布も持ってきたし、今日はこのまま寝るか」
「えっ!? で、でも、ふくがよごれて、それに、さむいし」
「これくらいの汚れ、気にするか。それに寒くなんてないぞ」

 毛布をディグダに優しくかけてやりながら、マスターは言った。

「お前の体温も、すごく暖かいしな」
「マスター……っ!」

 ぎゅっ、と強く服を掴んで寄せる。あれだけ悩んでいた自分が余りにも馬鹿らしかった。
 自分はこの人の傍にいてもいいんだと、甘えても良いんだと思うと、ぐるぐるした感情はどこかへとんでいってしまった。

 暫く抱きしめられた後、ふとガーディの事を思った。何時も添寝を要求するガーディは今日もきてもおかしくないはず。

「そういえば、ガーディさんは……」
「ん……ああ、あいつね」

 そういうとマスターは少しばつが悪そうに頬をかきながら、

「実を言うとな、お前の調子が悪いことには気付いてたんだが、明確な理由が分かったのはガーディのお陰なんだよ」
「えっ?」

 どういう事かと、マスターの顔を見上げる。

「今日の昼間、わざとお前を戻したろ。それはガーディに匂いを嗅がせるためだったんだよ」
「へ? におい……?」
「ああ。ガーディ達は匂いを嗅ぐと相手の感情が分かるほど頭が良くてな、ああ見えても。だから具体的な理由が分かったのは、あいつのお陰ってわけ」
「そう、だったんですか……」

 考えて、非常に申し訳ない気持ちになった。こちらの勝手で変な感情を抱いてしまったりして。
 やや俯き加減でいると「大丈夫」とマスターが声をかけてくれた。

「どういうこと考えてるのかあんまり分からないけど……あいつは本当にディグダの事を心配してたから」
「ほんとう……ですか?」
「ああ。夜、添寝してやったときも結構話してたぞ」
「そう……だったんだ……」

 すごくほっとして、心が暖かくなった。そうした安心感からか、急に眠気が襲ってきた。
 明日目が覚めたら、一言謝って、それからお礼を言おう。
 きっと、きっと楽しくお話が出来るはず――。

 星空の下で、ディグダはマスターの暖かみを感じながら、暖かくて幸せな夢を見た。
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