3スレ>>879


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 なんとも月日が経つのは早いというべきか、それとも浦島的な効果を常に受けている事を恩恵に感じるべきか。
 炬燵に身を寄せながら、みんなでテレビを囲んでふわふわと。
 気だるくなるような暖かさに包まれながら、手元にあったみかんの皮を剥く。
 剥き終わるとくしゃりと半分に割って、テーブルの左側にいる、その肩を張った姿に向かって差し出した。
「ほら、パルシェン」
「……ああ、主。もらっておこう」
 ひょいと右手で受け取ると、さらに半分に割ってから口に放り込んだ。
 どうやら一房ずつ食べようという意思はないらしい、テレビを見る姿は……ちょっと苛々してるな、これは。

 外に出たのが数時間前、夕日が沈もうかという頃。
 盆地に溜まっている雪を見て、雪合戦をしようという事になった。
 公平に拳をあわせて決めることになったんだが、どうやらチーム分けに致命的な不備が発生したらしい。

 何せハンデが。
 ドククラゲはいつもの緩慢動作はどこへやら、戦闘中かと思うぐらい機敏に動くし。
 触手を使って秒間単位で雪玉を投げてくる。
 モルフォンはモルフォンで純エスパータイプほどとは言えないもののESP系能力が使えるわけだし、何より一枚上手だったと言わざるを得ない。
 如何せん二本、二人足しても四本しかない腕では対抗のしようがない。
 結果として途中からまさに雪合戦は一方的なリンチと化した、まあこんな日があってもいいのだけど。


「見苦しいですねー、結果を結果として受け止めましょうよ。あんなの遊びじゃないですか、遊び」
「その遊びに落とし穴まで持ち出したのはお前だ、毒蛾」
「嫌ですねー、だからこそ遊びなんじゃないですか。そうやってムキになるところが遊びになってないんですよ?
もうちょっと肩肘を楽にしたらどうですかねー、パルシェンさんは」

 テーブルの右側、にこにこと笑うモルフォンに、やはり今日もパルシェンはやり込められる。
 まあ別に遊びどうのこうの言うつもりはないが、実際のところ、まさか雪合戦で落とし穴を見る時が来るとは思わなかった。
 二人固まって行動していた俺達は上手く落とし穴に追い落とされ、そこで集中攻撃を受けたわけだ。
 おまけに俺が落ちた方の穴には、悪い事に攻撃力1500以下の追加攻撃も入っていた。

「ついでに聞いておきたいんだが、あのトリモチは何だったんだ?」
「……それは私……。飛んでいく鳥をいつまでも捕まえて檻の中で飼い殺しにしたい、そんな想いを乗せて塗りたくった」

「……俺は鳥?」
「……羽をもがれた鳥……」
「うん、怖いな」
「大丈夫。すぐ済むから」
「何がだ、クラゲ」

 ちょうど俺の死角、伸ばした足の間にちょこんと座ったドククラゲもやっぱりいつも通り。
 頭の後ろ側から伸びた触手が体を撫でて少しばかりくすぐったい。
「ぎぶみー」
「はいはい」
 意味ありげに呟きながら、右手でくいくいと子供のように俺の腕を引っ張ってくる。
 まあ、当然といえば当然なのか。
 黙って持ったままの半円みかんを、その伸ばした手に預けた。

「……」

 黙って返された。
 どうやら違ったらしい、ドククラゲの挙動は読んでも読んでも読み切れないのが、何とも日々の進化を予感させる。
 だからそれに付き合っていると、俺もなんとなく毎日進化しているような気がする。
 気のせいだな。

「どうすればいい?」
「……地球温暖化……」

 うん、気のせいだな、やっぱり。

「もう少しヒントをくれ」
「ビタ一文まけらんね」

 そう言って真上の俺の方を向きながら、口をぱくぱくと動かしている。
 空気を読めという事か。
 ……。
「ああ、なるほど」
 みかん自体は合ってるんだな、使い方が違うだけで。
 二本の指で挟みこんで一房だけ半円からこそぎ取ると、俺は出来るだけ端を持つようにしてから、彼女のちょんと出た鼻の先に寄せた。
 口が開いて、赤い口腔を視界に覗かせると、ちろちろと赤い舌が何かを求めるように動く。
 正解。
 目で確認しても反応がなかったので、みかんを摘んだまま、ぽっかりと開いた口に近づける。
 そのまま指を――

「……あむ」

 離す前に、アクションされた。
 ぽとりと落とそうとした瞬間、突然近づいてきた唇が、人差し指の第一関節まで咥え込んだ。
「……あのな、ドククラゲ」
 そんな『何か?』みたいな顔をされてもな。
 落としたみかんは口の中のどこへやったのか。

「……ん……はむ、ちゅ……じゅ、ん、くっ」

 何処へやったんだろう、実際のところ。
 根元までその唇の中に飲み込むと、相変わらずの何ともいえない表情から、口を窄めて丹念に唾液を塗しながら頬肉で吸い付いてくる。
 舌が指先の部分から、口の中でふやけた間接の部分までねっとりと舐め回すと、寒くもないのにぞくりと背筋が震える。

 ……さては最初からこれが狙いか。

 困ったことにぐいぐいと引っ張っても、意外に吸い付いた唇が離れてくれない……もっと困るのは、何か段々抵抗する気がなくなってること。

「スッポンか、こら」
「……こく。……ん、むっ……ちゅっ、ちゅぅっ、れろ……ちゅぱ、……はぁむっ、ちゅ、ちゅぅぅっ」

 ……割と本気だな。
 たかが一本の指、されど一本の指。
 表情や様子と正反対に口の中では激しい動作が行われていて、どうにも妙な気分になる。
 なるほど、空気が大事だという事が立証された。
 が、そろそろ離れてもらわないと精神衛生上よくない。
「……!」
 彼女の頭のかさの中に後ろから手を突っ込むと、うねる触手の生え際をぐりぐりとかき回す。
 根元の感触はぐにぐにしていて、髪を手で撫でるのとはまた違った、絡み付いてくるような実体感がある。
 一瞬力が弱まった時を見て、指を思い切り引き抜いた。
 ちゅぽん、と水音を残して、てらてらと光る唾液の糸をピンク色の唇からたっぷりとひきながら、俺の指はようやく束縛から逃れた。

「……人の弱点をやらしい手でこねくり回すなんて、鬼畜……(ぽっ」
「貶してるのか喜んでるのかどっちなんだ、貴様は。クラゲ」

 一応言っておけば、やらしい手で触った覚えはない。
 ぴんと糸を切って、俺は指をふるふると振ってから服で拭こうとして――思いとどまる。
 何か、それは色々と良くない気がする。
「ほら、主」
 指を持て余してうろうろと空中を彷徨わせていると、パルシェンがハンカチを差し出してくれた。
「ああ、悪いな」
 気が利いてると、お互い助かるもので。
 遠慮なく根元から拭き取ると、丁寧に片手で折りたたんでから、パルシェンに手渡した。
 ……瞬間、真下からぎらぎらとした視線とした視線が走った。


「たのむ ゆずって くれ!」
「心の底まで変態だな、クラゲ」

「問題ない。私は日頃から御主人様のシャツとか集めてる。……割り箸とか、未来から現れた子供的なものも」

「……すまん、後半の方は初耳なんだが。というか、幾らなんでも返してくれ」
「……無理……もう全部刻んでお守りにしちゃったの……ふふ、ふ、うふふふふふふふふ」
「放っておくだけで不幸に見舞われそうなお守りですねー」

 モルフォンがさりげなく酷い事を言ってくれる。
 それにしてもシャツに加えてそんなものまで盗んでたのか、シャツだけはちゃんと返してくれたから俺の不注意かと思ってた。
 哀れな姿になったであろう俺の着衣を想像して、思わず目を遠くせずにはいられない。

「他にやる事はないのか。もうすぐ年が明けるというのに」

 パルシェンがぼそりと突っ込むが、炬燵に腕まで入れてぬくぬくしてる状態だとイマイチ威力がないな。
 とはいえ内容は尤もだ。
 新年までとうに30分を切っているというのに、このまま新年を迎えても誰も気付かないんじゃないか?
 ……もっとも、それはそれで悪いことだとは思わないが。

「年の終わり、って言ってもな。……今年の反省でもしてみるか?
俺は……そうだな、来年はもう少しトレーナー業を頑張らないとな」
「もう少しじゃない。『もっと』だ」
「ですよねー。使われる方が一生懸命なのに使う人が無駄飯喰らいって、凄く腹が立ってきません? あ、別にマスターの事じゃないですけどね、今のは」
「……」

 言った瞬間、何か色々と抉られた。
 即座に斬られた挙句、傷口をぐりぐりと抉られて塩をすり込まれた気分だ。
 おまけにドククラゲまで真下でこくこくと頷いている。
 ……まあ、言われる事はもっともで、こんな考えだから思ったように強くなれないのかもしれないが。

「じゃ、パルシェンは?」
「今まで通り、最善を尽くすだけだ。強いて言えば、ミスは埋めたいが」
「少しぐらい他人にも気を使えるようにしたらどうです? いくら殻に閉じこもってるからって」

「毒素をバラまいてるお前には言われたくない。愛想を使って他人に取り入るぐらいなら、そんなもの無いほうがマシだ」
「そういう考え自体が閉じこもってるって言うんですよねー。愛想を使ってるんじゃなくて、不器用なパルシェンさんと違って、私は調節が出来るだけですよ?
もしかしたらちょーーっと分かり難い話かもしれませんけど」
「お前のその笑い方がどう調節してるって言うんだ、属性自体が違うだろうが。少しは鏡でも見てみたらどうだ」
「パルシェンさんこそ、今から手鏡でも見てきたらどうです? きっと心臓麻痺起こしちゃいますよ?」
「……はいはい、二人ともそこまでな。次だ次、ドククラゲ」

 ぱんぱんと手を叩いて次を促す。
 この二人はこんな感じになるが、ちゃんと終わりを促せば歯切れ良く終わる辺りが何とも。
 本音……実際本音なんだろうが、そこは一定の線引きがされているんだろう。

「私は姫始を」
「次だ。毒蛾、喋れ」
「……無視……無視された……? 怒った、怒ったよ……? 色々と」
「落ち着けドククラゲ。とりあえず少なくとも再来年まではそれはない」

 ぽんぽんと頭を撫でてやると、にゅるにゅると触手が絡み付いてくる。
 今から俺が発狂するか、とてつもなく酷い薬をやるか以外はまあ、来年の可能性は0だ。

「私ですか。……そうですねー、ギリギリの生活を止めたいですね」
「……曖昧だな、モルフォン。それは何に対してだ?」
「色々ですよー。綱渡り的なこと、色々とあるでしょう?」

 朗らかに微笑みながら。
 まあ戦闘とか仕事とか会計とか、色々と確かにあるんだろうが……。
 とりあえずやめて悪い事ではないのだから、あまり聞かないでおくか。

「じゃ、とりあえず――そういう事で」
「……しまらないな」
「いいじゃないですか、平和なのはいい事ですよ? どうせ必死になる時は、嫌でも必死にならなきゃいけないんですからねー」

 確かに、そうだ。
 年の区切りを迎えるというのに曖昧、炬燵の暖かさも相まって随分と頭がぼーっとしているけれど。
 そんな風に四人で新年を迎えるというのは、それほど悪くない気がする。
 実際のところ、パルシェンだって異議はないだろうし。
 ドククラゲはごろごろと俺に体重を預ける様子を見る限りでは安心しきって幸福な様子だし。
 モルフォンは……。……ん、幸せそうだな。良かった。


「来年は、もっといい年になるといいな。……今年までありがとうな、来年もよろしく」
「言われるまでもない、主」
「……途中参加が悔やまれる……」
「はーい。よろしくお願いしますね、マスター」

 かちかちと、テレビの向こう側で秒針が時を刻む。
 レポーターは興奮しっぱなしの声で解説し、巨大な電子時計に、向こう側の人間は全員釘付け。
 時間を示すものをわざわざ見なくても分かる、それが特別な時間だから。

 また一つ、年が変わる。
 頁がめくれて、新しい時が首をもたげる。


「「「「あけまして、おめでとう」」」」


 来年は、もっと幸せなカタチであれますように。
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