4スレ>>89


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「―――おかしなスピアー?」
「はい」

悠々と、自由気ままに旅を続け、今日の宿にしようと訪れた
トキワシティのポケモンセンター。
そこで流れていた噂に、レンはそう言いつつ首を傾げた。
色素の薄い灰色の髪が、ふわりと揺れる。

「あ、これもらい!」
「ルナティ!? それは私のクッキー!」
「リビエルが遅いのが悪いんだよ~」
「・・・・・・あんたたち、ちょっと静かにしてなさい」

ブラッキーのルナティ、エーフィのリビエル、そしてキュウコンのフェイ。
海を渡る時に活躍するラプラスのクラフィアは、現在センター裏のプールで休憩中である。
後ろから聞こえてくる騒がしい声に頭痛を堪えつつ、レンは嘆息交じりに声を上げた。

「・・・それで、どんな風におかしいんですか?」
「どんな風にと言うか・・・もう、全体的に普通のスピアーじゃないんですよ」

姿を見たというジョーイの話に、レンはさらに首を傾げる。
スピアーといえば、虫タイプの筆頭の内の一つと言っても過言ではない。
まず、それの姿を見間違えると言う事はありえないだろう。

「突然変異の・・・色違いかしら?」
「姉さん・・・・・・いや、そういう訳じゃないみたいだけど。あの、もう少し詳しい話を
聞かせてもらえませんか」

レンがフェイを―――キュウコンを『姉』と呼んだ事にジョーイは怪訝そうな
表情を浮かべたが、気を取り直したのかその表情を虚空に巡らせる。

「トキワの森の奥の奥・・・・・・あまり光も届かないような場所です。
腕の立つトレーナーと一緒に薬になる木の実を探しに行ったんですが・・・
そこで、出会ったんです。鎧のような格好と、手に持った二本の槍・・・
それに、あの銀色の髪・・・・・・とてもじゃないですが、普通のスピアーでは
ありませんでした」
「・・・・・・なるほど。でも、そのスピアーは? 倒しちゃったんですか?」

倒す、と言っても適度に威嚇して追い払う程度であるが。腕の立つトレーナーと言うなら、
例え奥地にいるスピアー相手でも遅れを取る事は無いと思うのだが。
しかし、ジョーイはその言葉に首を振った。

「草タイプや虫タイプを想定して飛行タイプを連れて行ったんですが・・・・・・
攻撃と言う攻撃が弾かれてしまって。結局、こちらが退散しました」
「・・・・・・! その時に、何か言ってました?」
「『この場所に近づくな』、とだけ」

ふむ、と口元に手を当てる。とりあえずジョーイに礼をし、レンは元々座っていた
テーブルへと戻った。食べ散らかされたお菓子に嘆息し、向かいに座った
フェイに視線を向ける。
と、その前に隣の二人が抗議の声を上げてきた。

「マスター! ルナティが私のお菓子を!」
「リビエルだって僕のポテチ取ったじゃないか!」
「そっちが私のマドレーヌを取ったのが先だった!」
「・・・・・・とりあえず、お菓子はまた今度。姉さん、どうしようか」

レンの言葉を受け、フェイは小さく肩をすくめた。祖父がロコンの時に見つけ、
育て上げた彼女とは、生まれた時からの付き合いだ。それ故に、その仕草だけで
何を考えているかは大体分かる。

「関わる気バリバリね、あんた」
「あはは・・・やっぱり、僕の考えもバレバレか」
「まったく・・・・・・あたしはあまり賛成できないわ。奥って事は『裏』でしょ?
あそこじゃあたしは力を上手く振るえない。そんな未確認な相手と戦いたいとは
思わないわね」

よく雨の降るトキワの森の奥地―――たとえ雨が降っていなかったとしても、
その湿気で炎の力は半減する。

「参ったな・・・虫タイプだって言うから、姉さんの事頼りにしてたんだけど」
「虫・・・・・・マスター、僕はやだよ」
「私も・・・・・・虫は苦手です」

それはタイプ的になのか、それとも昆虫が嫌いだと言っているのか。
この二人のコンビネーションは強力だが、共通の苦手要素と言えば確かに虫である。
困ったなぁ、と首を傾げるが・・・・・・その視界に、淡く微笑んだフェイの姿が
飛び込んできた。

「でも、ま・・・・・・どうせあたし達が何か言った所で、あんたは行くんでしょ。
クラフィアには反対する理由は無いだろうし」
「あはは・・・・・・ごめん、ありがと」
「謝る必要は無いわよ」

そう呟いて笑うと、フェイは席を立った。そのままルナティとリビエルの首根っこを
むんずと掴み、部屋の方へずるずると引きずってゆく。

「出発は明日。あんたたちもそろそろ休みなさい」
「はい・・・・・・お休みなさい、マスター」
「うぅ~! 横暴だぞフェイ姉! 年増~!」
「・・・・・・・・・覚悟しときなさい、ちびっ子」

金色の毛並みの奥からドス黒いオーラを振りまくフェイの背中を眺めながら、
レンは苦笑混じりにその姿を見送った。


 * * * * *


―――幼い時から、この髪がコンプレックスだった。
人としておかしい、灰色の髪。色素の薄くなる障害だと言う事らしいが、
詳しい事は結局分からなかった。そんな原因を気にする余裕が無かった、とも言える。
これが原因で受けた虐めも一度や二度ではない…だから、憧れたのだろう。
フェイと共に戦う祖父と、父の姿に。

借りた部屋のベランダから夜空を見上げ、レンは小さく嘆息を漏らした。
視界に見える灰色を摘み、眉根にしわを寄せて髪をかき上げる。

「・・・・・・早く寝るんじゃなかったんですか?」
「クラフィア?」

ふと、ベランダの外から聞こえた声。見下ろすと、まだプールの中に浮かぶラプラス―――
クラフィアの姿があった。

「寒くないの?」
「これでも、氷タイプも持ってますので」

笑い声を交えて返された言葉に、レンは小さく笑みを浮かべた。トレーナーとして
恥ずかしい限りだ、と。

「・・・・・・また、いつもの癖ですか?」
「そう、だね。やっぱり、ああいう話を聞いちゃうとほっとけないなぁ」
「フェイさんも、貴方にその気持ちがあるって分かってますからね・・・・・・
それで反対しなかったんでしょう」
「あはは・・・・・・」

頭が上がらないなぁ、と胸中で呟く。姉のように、母親のように接してくれた
あの大切な家族には、これからも勝てる気がしなかった。

「ねえ、レンさん」
「ん、何?」
「ルナちゃんとリビエルちゃん・・・・・・今回の事も、あの二人と同じかもしれないから
行くんですね」
「・・・・・・」
「じゃあ、何で私は連れてきてくれたんですか?」

どこか不安げな、その視線。それを真っ直ぐに見詰め、レンは小さく微笑んだ。

「―――君は僕の事を認めてくれた。姉さんの他には、君が初めてだったから・・・・・・
だから、嬉しかった」
「・・・・・・・・・ありがとうございます、レンさん」
「うん・・・・・・こっちこそありがとう、クラフィア。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」


 * * * * *


トキワの森の、奥の奥。『裏トキワの森』と言う名すら付いた、雨の降りしきる暗い森。
身体にまとわり付く雨水に顔をしかめ、レンは帽子をかぶって顔にかかる雨水を防ぎ、
ゆっくりと慎重に森の中を進んで行った。
ボールの外に出ているのはルナティとリビエル―――陸上での活動に向かない
クラフィアと雨に濡れるのを嫌うフェイはボールの中に納まっている。

「マスター、まだ~?」
「うん、もうちょっと」

ジョーイから聞いた話の場所は、もうすぐそこまで近付いてきていた。
周囲の気配に耳を傾ける―――辺りは、雨音以外の物音は全て静寂に包まれていた。
―――まるで、何かを恐れて息を潜めているように。

「―――止まれ!」
「っ!!」

響き渡るは、空気を張り詰めさせるような鋭い叱声。思わず足を止め、
レンはその声の方向へと向き直った。草むら、木の陰―――
そこに、二本の槍を携えた影があった。

「・・・・・・何をしに来た、人間」
「君の事が噂されてたから、それを確かめに」

鎧のような体、背中に広がった一対の翅、そして銀色の髪の中に乗せられた面のような兜。
騎士とも言うべき姿を持ったそのスピアーは、レンの言葉に忌々しげに顔をしかめた。

「早々に立ち去れ。今なら見逃してやる」
「そういう訳にもいかないかなぁ・・・・・・君がどうしてここにいるのか、
それを知るために来たんだし」
「・・・・・・先ほどと言っている事が違うぞ」
「あれ? そうだっけ?」

きょとんと、レンは首を傾げる―――どうやら、彼女はその仕草が
気に入らなかったらしい。スピアーは、すぐさま戦闘体勢の姿勢をとっていた。

「・・・・・・僕、何か拙い事言った?」
「暢気な事言ってる場合じゃないですよ!」

スピアーから放たれる圧力に既に半分涙目になっていたリビエルは、コクコクと頷く
ルナティと共に二歩前に出る。目を細め、レンは更にボールからクラフィアを呼び出した。
フェイを出したい所ではあるが、この雨の中では恐らく不利となってしまうだろう。
ならば―――

「《瞑想》《コスモパワー》《冷凍ビーム》!」

リビエルとルナティには能力上昇を、クラフィアには攻撃を命じた。
力を溜める二人の後ろから、青白い光線がスピアーに向けて放たれる。
スピアーはそれを横へのステップで交わし、舞を踊るような動きで更に前に出た。

(舞・・・・・・いや、これは!)

独自の動きかとも思ったが、これには見覚えがある。これは―――《剣の舞》!

「―――ルナ、もう一度《コスモパワー》で受け止めて!」
「了解!」

こちらの攻撃の手であるクラフィアを潰されれば勝機は無い。
だが、今の機動力でこの攻撃を躱す事は難しい。防御に長けたルナティの力で
受け止める他無いのだ。
その小さな体から湧き上がるエネルギーと、槍の一撃がぶつかり合う。
その軍配はルナティに挙がったが―――

「はあああああッ!!」
「あぐッ!?」

スピアーは続け様、両の槍で十字を描く一撃―――《シザークロス》を放っていた。
強烈な攻撃が、《コスモパワー》の防御を突き抜けルナティにダメージを与える。
弾き飛ばされた身体を受け止め、レンは更なる指示を飛ばした。

「リビエル、《シャドーボール》! クラフィア、《十万ボルト》!」
「ふッ!」

リビエルが放った《シャドーボール》が攻撃を放った直後のスピアーに直進する―――が、
相手はそれを目にも止まらぬ動きで後退して回避した。今のは恐らく《高速移動》。
そこに続け様に放たれた電撃がスピアーを襲うが―――直撃したかに見えた閃光の中で、
スピアーの姿は揺らいで消えた。

「《影分身》まで・・・・・・! 強化型の能力か!」
「そういう事だッ!」

現れたスピアーは、リビエルのすぐ背後―――相手が槍を突き出す前に、
その間にルナティが割り込んだ。三度目の、相乗的に高められた《コスモパワー》が
槍の一撃を完全に弾き返す。

「ルナ、《怪しい光》!」
「ええいッ!」
「ぐっ!?」

ルナティはレンの指示を受け、額の紋様から閃光を放った。そ
れを間近で直視してしまったスピアーの体が揺れ、後退する。そこへ―――

「二人とも、《サイコキネシス》!」

空間を歪める念動力が、一気に放たれた。だがそれが命中する一瞬前、
スピアーは口の中に何かを投げ込み―――二人の攻撃は、躱されてその場を通過した。
翅を広げたスピアーは、その攻撃を掠りつつも躱して上空へ逃げていたのだ。
―――スピアーは、その顔に笑みを浮かべた。

「見事だ、が―――」

一対の翅が輝く―――放たれたのは《銀色の風》。その攻撃が、
体の軽いリビエルとルナティを弾き飛ばした。レンもまたバランスを崩し、
その場に転がる。今、スピアーの攻撃を防御できるものはいない。

「―――ッ!」
「これで、終わりだッ!!」

スピアーの羽が鈍色に変わる。《鋼の翼》・・・・・・スピアーが放つとは予想もしない攻撃が、
クラフィアに向けて放たれた―――刹那。

「―――なッ!?」

唐突に現れた紅蓮が壁となり、クラフィアを護った。すぐさま炎は消え―――その奥から、
クラフィアの隣に立つフェイの姿が現れる。

「間に、合った・・・・・・」

安堵の息を吐き出し、レンは泥まみれで立ち上がった。リビエル、ルナティ、クラフィアを
ボールに戻してフェイの隣に立つ。彼女は、小さく笑みを浮かべていた。

「・・・・・・何となく予想はしてたけど、確信に変わったわね。毒持ちにしては、
妙にエスパーを恐れてなかったし」
「姉さん?」
「突然変異種って訳ね。あんたの鎧、それは鋼タイプの力かしら?」
「―――! ・・・・・・貴様、何者だ」

先ほどまでよりもいっそう警戒した様子で、スピアーはその槍を構える。
笑みを浮かべ、フェイは恭しく一礼をして見せた。

「私はキュウコンのフェイ。貴方は?」
「答える義理は―――無いッ!」

叫び、スピアーは駆ける。咄嗟にレンは後退しつつ―――スピアーの表情に、
悲痛なものが混じっているのを発見していた。一方、フェイは高速で駆けるスピアーを
余裕の態度で待ち構える。

「強化型、ね。確かに厄介だけど―――」

槍を突き出そうと直進するスピアーの正面、フェイは、そこに三つの炎の球を作り出した。

「―――!? がぁッ!」
「―――あんまり速過ぎると、自滅するわよ?」

炎の球―――《鬼火》を受け、スピアーが思わず動きを止める。そこに―――

「もうラムの実は無いでしょ?」
「ぐ―――ッ!」

薙ぎ払った腕から放たれた《火炎放射》が、スピアーを襲った。
相手はすぐさま飛び上がってそれを躱すが、やはり先ほどよりも動きが鈍っている。
しかし、それでも―――

「まだ、私の方が上だッ!」
「っ!」

気配が背後に現れる。フェイは身体を屈めつつ回転させ、炎を灯したポニーテールを
スピアーに叩き付けた。威力はほとんど無いながらも、その一撃にスピアーが怯む。
そしてその回転ざまに放たれた《火炎放射》が、スピアーに殺到する。
咄嗟に身体を傾けるも、炎の一撃はスピアーの左腕を巻き込んでいた。
共に距離を取り、睨み合う。

(・・・・・・さすが、ね。あんまり長々と戦いたい相手じゃないわ)

長い戦闘経験を持つフェイにしても、この相手は強力だった。攻撃の掠った右肩を押さえ、
小さく笑みを浮かべる。自分はあくまでレンの保護者―――彼に使われるには
まだ早いと思っている。だが、そのおかげで普段戦闘から遠ざかっていたのも事実。
久方ぶりの高揚が、身体を満たす。

「あんまり、余力は無いでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「だったら、そろそろ最後にしときましょう。次で決めるわ」

ゆっくりと広がる、九本に分かれたポニーテール。その一本一本の先端に、
小さく炎が灯った。放つのは、己が最大の技。

「あんたは強いし、あんまり加減は効かないから・・・・・・しっかり受けなさいよ」
「舐めるな・・・・・・私は、私はぁッ!」

スピアーの体から沸きあがる闘気が、陽炎のように揺らぐ。《気合溜め》を重ね、
スピアーはその二本の槍を構えた。その顔にあるのは、怒りと―――痛み。

「ここは、私の場所だあああああッ!!」

刹那、スピアーの体が爆ぜた。神速の踏み込みと共に放たれた突き―――
正面から来た高速のそれを、紙一重で躱す。そして―――

「《ダブルニードル》ッ!!」
「―――ッ!!」

先の一撃を超えた神速の二撃目が、フェイに向かって突き出される―――!

ザグッ!



「―――やっぱり、強いわね」

ぽん、とフェイはその手をスピアーの腹部に置いた。
スピアーの放った槍は右肩に突き刺さり、ぽたぽたと血を流している。だが―――

「でも、チェックメイトよ・・・・・・《オーバーヒート》」

髪の先端の炎が、一気に燃え上がる。
掌底と共に放たれた炎の一撃は、スピアーを一撃の下に吹き飛ばしていた―――






「・・・・・・《神通力》で、私の攻撃の位置をずらしたか」
「まあね」

血の流れる傷に薬を吹きかけ、包帯を巻いてもらいながら、フェイはスピアーの声に
小さく頷いていた。

「流石に、洒落にならなかったわ。おかげで、《オーバーヒート》の威力も
削がれちゃったし・・・・・・まあ、レンからすれば良かったのかもしれないけど」
「まあ、そりゃ傷つけたいって思ってた訳じゃないし・・・・・・」

包帯を巻き終わり、他のメンバーへの治療を終えたレンは、そのまま地面に倒れた
スピアーの隣へと歩み寄った。警戒の視線を向ける彼女に苦笑し、
バッグの中から薬を取り出す。

「・・・・・・何のつもりだ?」
「何って、傷を治したいだけさ。君の目的も分かったしね」
「何だと?」

怪訝そうに、スピアーは顔をしかめる。なんでもなおしを塗り、
その上から薬を吹きかけながら、レンは小さく笑みを浮かべた。

「君は自分の居場所を護りたかった・・・・・・そうだろ?」
「・・・・・・私は、異端だ。私の居場所など・・・・・・どこにも無い」

そう呟かれたスピアーの言葉。しかし、それでもレンは笑みを崩さなかった。

「ねえ、君は僕の髪をどう思う?」
「―――? 人間にしては珍しいと思うが・・・・・・」
「そう、珍しい・・・・・・異端なんだよ、僕も」
「―――!」

レンの言葉に、スピアーの表情は初めて驚愕に染まっていた。満足気にそれを眺め、
レンは小さく頷く。

「あの二人・・・・・・リビエルとルナティもそうだ。まだエーフィとブラッキーの存在が
確認される前にあの姿に進化してしまった。人間でも何でも、高い知能のある生き物なら、
皆『自分と違うもの』を恐れる。それは、きっと仕方の無い事だと思う」
「・・・・・・ならば、それを甘んじるのか?」
「少なくとも、その中で笑っていられるほど僕は強くなかった。だから僕たちは・・・・・・
互いの事を認め合える存在同士で寄り添って、自分達の居場所を作ろうとしてる。
傷の舐め合いかも知れないけど・・・・・・それでも、ここは僕たちの居場所になれる」

苦笑と、その奥に潜む僅かな痛みと。それを曖昧にした表情を浮かべ、
レンはスピアーに向けて手を差し伸べた。

「一緒に来ない、ラスピアス? ここで一人で生きていくより、きっと心地いいはずだよ」
「ラス、ピアス?」
「あ、君の名前にいいかと思ったんだけど・・・・・・気に入らなかった?」

レンの言葉に、彼女はぽかんと口を開け―――不意に、笑い声を漏らし始めた。

「ふっ、くくく・・・・・・」
「あ、えーと・・・・・・やっぱりスピアーの方が―――」
「―――違う。私はラスピアスなのだろう?」

スピアーは―――否、ラスピアスは、そう答えながら無理矢理に笑いを収める。
そこに浮かんだ、嬉しそうな笑みまでは消す事は出来ていなかったが。

「―――いいのかも知れないな、傷の舐め合いだとしても」
「じゃあ・・・・・・!」
「ああ・・・・・・よろしく頼む、我が主よ」

レンがぱっと表情を綻ばせ、後ろに立っていたフェイが溜め息交じりの笑みを吐き出す。
ボールの中に納まっている残りの三人の反応までは分からないが―――それでも。

「―――うん。これからよろしく、ラスピアス」

少なくとも、この二人は今―――誰よりも、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
ツールボックス

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