4スレ>>98


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 風がある。
 山を麓から頂まで駆け上がる初春の風だ。
 草花や木々を撫で上げて、波の如く斜面を揺らしている。
 そしてその山に、大きく開けた場所があった。
 延々続く森が途切れ、一本の未舗装の道が新たな森の中へと伸びていた。

「ますたー、ますたー!」
「山道だってのに元気だな……少し休ませてくれよ」

 その道に、二人分の姿が現れる。
 帽子を深めにかぶったズバットと、それを追うようにトレーナーが。
 森を抜けたことに気付いた彼らは一帯に広がる景色に圧倒された。

「うわぁ……綺麗ですねますたー」
「あぁ、こんなところが実際にあるんだなぁ」

 左手、視界一杯を埋め尽くすように存在する二色は、麓からそれが続いているかのよう。
 それは右手、緩やかな勾配を山頂付近まで覆っていた。

「でも……ちょっとおかしく見えないか、ズバット」
「……ボクも少しだけそう思いました」

 揺られ動く二つの色はそれぞれ一種類の花だった。
 タンポポの黄とバラの赤。
 在り得るのかと思われるような花の共生。
 それぞれは真っ二つに分断され、作為すらを感じさせる。
 だが、その作為性が、群れる黄と赤の違和感を軽減しているようだ。

「――」

 トレーナーに相槌を打って、立ち尽くしていたズバットが突如動き出す。
 翼を広げ、ぱたぱたと花畑へと下り、ちょうど二種の境目に降り立った。
 くるり、と振り返って、帽子のつばを上げる。
 視線を彼へと、見上げるようにし、口を開いた。
 真剣な面持ちで、

「ますたーは……ますたーはバラとタンポポ、どっちが好きですかっ」
「んー、派手なのよりは控えめで落ち着いた感じがいいから……タンポポかな」
「そ、そうですかっ!?」
「あぁ。んで、ズバット、お前はどうなんだ?」
「ボクは――」

 ざぁ、と一際強い、疾風とも呼べる風が吹き抜けた。
 山頂まで一気に突き抜ける風は、ズバットの帽子と黄色の花びらを奪っていく。
 その言葉も同時に、だ。
 そして、勢い良く舞い上がった帽子をズバットは見送った。

「よ――っと」

 ズバットは思う。
 ボクの言葉はいつもタイミングが悪い、と。
 大事なことを伝えようとすると何かに邪魔される。
 落雷であったり、汽笛であったり、それは様々だ。
 溜息一つ。

「ほら、帽子。気に入ってるんだったらちゃんと大事にしてくれよな」

 顔を下げた彼女にトレーナーは帽子を手渡した。
 だが彼女は何も口にせず、手も出さない。
 彼は困ったように一度だけ空を見上げる。
 透き通るような青空の中、何かに追われるように雲が行く。
 漂っているようにはどうしても見えなかった。
 視線を戻し、

「ふぅ……落ち込んでるお前はあんまり見ていたくないんだけどな」

 地面にしゃがみこむ。
 彼はタンポポを一輪摘むと、帽子の脇に茎を刺した。
 そうして立ち上がり、彼女の頭にかぶせる。
 帽子が、彼女の手に取り戻された。
 トレーナーはばた、と赤と黄の色に仰向けになって倒れる。
 空を見ていたくなくて、目を閉じた。
 そして一言。

「……タンポポ、好きなんだろ?」

 その言葉にズバットの顔がば、と上がる。

「え? そ、それは……ますたー……」

 違うのか? と彼は尋ねた。
 その声色は疑問というよりは念押しのような雰囲気だった。
 絶えず流れていた風がぴたりと止んだ。
 耐え難いようで、どこか心地よい無音が辺りを支配する。

「いえ、ボクは――ボクもタンポポの方が好きですっ」
「そっか。なら良かった……」

 バラの方が好きだったら恥ずかしかったよ、と彼は笑う。
 その笑顔につられてズバットの顔にも笑みが浮かんだ。

「もう少しのんびりしようか、気持ちいいし。ほら、隣空けてやる」
「はい……有り難うございます」
「ん? 何か言ったか?」
「少しだけ。でもますたーなら分かってくれると思います」
「はは、無茶苦茶なこと言うなよ」

 だって、とズバットは前置きする。
 ますたーは帽子だけでなく、ボクの言葉も取り返してくれましたから。
























ト「いたっ」
ズ「ますたー、どうしたんですか?」
ト「いや、ちょっとバラの棘が……」
ズ「見せてくださいっ」
ト「ほら、このあたり――ってズズズズズズバット!?」
ズ「ますたぁの血……(ちゅうちゅう」
ト「このオチで締めるのかっ!? ズバットはこのオチなのかっ!?」
ズ「おいしいです……」
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