4スレ>>187


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 日が沈んで数時間の後、僕とニーナは野営の準備を開始した。
 辺りは完全に真っ暗闇。必要分だけの明かりを灯し、テント、そして食事の支度。
 ニーナが料理を、僕がテントを。
 慣れた作業だから多少暗くても問題ない。手際よく、丁寧に。
 杭を取り出していると、向こうの方からスパイスの匂いがしてきた。

「ニーナ」

 話しかける。
 声で呼びかけないと何故か反応してくれなくなった。
 一度注意を向けさせるとノートでも話してくれるんだけど。
 ……よく分からない。

「どうしました? マスター」
『今日は少し、量が多いね』
「はい、いつもより歩きましたしね。元気をつけないと」

 確かにすこし歩きづらい道ばっかりだったし、思っているより疲れてるかも。
 ……よし、テントが建った。
 出来ればニーナの料理を手伝ってあげたいのだが、本人が嫌がるのでやれない。
 何かすることはないだろうか、と考えていると、水が残り少なくなっていることに気付いた。

「ニーナ、水、汲んでくる」

 あ、お願いします、と立ち上がった僕の後ろの方で言葉が返る。
 しかし違和感。
 いつもなら私がいきます、とか言い出すはずなのに。
 だが、料理が忙しいのかもしれない。そう結論づける。
 近くに綺麗な川があったはず……。
 僕は使用しない鍋を担ぎ、記憶を辿りながら川へと向かった。
 思ったよりも近くに川があった。
 水の満載な鍋をよいしょ、と持ち上げ、ニーナの元へ。
 ……おっとっと。
 あんまり体が鍛えられてるわけでもないのに欲張りすぎたかな。重い。
 よろよろとふらつきながら、水を運ぶ。
 近づくにつれて匂いが強くなる。香ばしい……ような。
 ……香ばしい?
 鼻を利かせると、香ばしいというよりはもっと手遅れな、焦げている臭いがした。
 まさか、という思いが僕の歩みを早くさせる。
 鍋から水がばしゃばしゃこぼれるが気に留めない。

「ニーナっ」

 到着すると、現場は予感の通りだった。
 調理中の食材、鍋、火は放置されたまま。
 そして、鍋の隣、エプロンをかけたニーナがお玉を握り締めてうつ伏せっていた。
 手から重みが消えた。
 一瞬だけ目の前が真っ暗になる。
 足に水がかかり、意識が戻ってきた。
 僕はニーナの元へ慌てて駆け寄り、抱き起こした。

「ニーナっ!!」

 返事がない。
 荷物を無視して担いでいきたかったが、できるはずがない。
 洗い息遣いのニーナを火元から遠ざけ、残った水を使いタオルを濡らし額へ。
 呼吸が落ち着いてきたのを確認すると、すぐさまという早さで広げたものを片した。
 二人分の荷物を自転車に括りつけ、ニーナを背に。
 最寄の萌えもんセンターへとペダルを踏み出した。





 ベットに寝かされたニーナを看ながら、ジョーイさんの言葉を思い出す。
 症状は過労。
 安静にしていればすぐに良くなるそうだ。
 ……ニーナ。
 倒れた時とは大分変わって、落ち着いたニーナの寝顔を手でそっと撫でる。
 ひく、と眠っていた耳が動いた。

「――!!」

 がば、と思わず身を乗り出した。
 しかし、目が覚める気配はない。
 僕は落胆して椅子に座りなおした。
 ……。
 ここに到着したのは午前三時ごろ、それから一時間ほどで診察が終了。
 ニーナの隣で座っていられるようになったのはついさっきのことだ。
 天井に設置された電灯がぼんやりと室内を照らす。
 時折様子を確認する為にジョーイさんがやってきたりした。
 ニーナが目覚めるのをじっと待っていると、次第に窓から光が差し込むようになった。
 陽がまぶしくなった頃、食べてください、と朝ごはんを用意してもらったけれどどうしても食べようと言う気は起きなかった。
 ……こうしていると。
 いつか見た夢の続きを思い出す。
 あの時も確かこんな状況にあった気がする……。




 目の前にはニドラン。
 つい昨日までトレーナーにいじめられていた娘だ。
 だが今日、彼女はトレーナーの萌えもんを助ける為に危険をおかし、重傷を負った。
 助けなければ後が怖いから、そんな気持ちで萌えもん達を助けていた僕にとってそれは衝撃的だった。
 彼女が目覚めるのは、彼女の体力次第だそうだ。
 僕はそうなることを願わないではいられなかった。
 純粋に、ただ真っ白に、彼女が目覚めて欲しいという気持ちが心にあった。
 今までなら罪悪感のような、そんな想いから自分のために目覚めて欲しい、と思っていただろう。
 ……きっと。
 きっと彼女なら僕に指し示してくれるのかもしれない。
 後ろ向きな僕を正して、前向きに進めてくれる。
 そんな時、廊下を行く足音。そして、がちゃりと、扉の開く音が聞こえた。
 おねえさんが様子を見に来てくれたようだ。

「どう……? 目、覚ました?」
「……だめ」

 簡潔に答える。
 おねえさんも、聞かずとも中の様子を見たときに気付いていただろう。
 つまり、別に用事があるということだ。

「……そろそろ帰らなくてもいいの?」
「かえらない」
「家族が心配してるわよ?」
「いやだ」

 帰りたくない。
 少なくとも彼女の目が覚めるまではここを動く気はない。
 そしてニドランには目覚める様子はない。

「そうねぇ……じゃあ連絡くらいはしてきなさい」
「……うん」

 受付のところにおいてある電話を借りて、僕はお母さんに連絡を取った。
 最初は帰ってきなさいとばかりだったけど、必死で残りたいと言ったら許してくれた。
 溜息をつくおねえさんを脇に、僕はすぐさまニドランの元へと戻った。
 やっぱり意識は戻っていない。
 彼女の手を握ってじっと待ち続けていると、再びおねえさんの気配。
 ご飯を用意してくれたみたいだ。
 でも、お腹が空いていなかったので断った。
 そして、一つ、考えていたことを相談してみた。

「おねえさん……」
「何?」
「この娘、ニドラン……を」
「?」
「引き取っても……いい、かな……」

 大した理由はなかった。
 ただ、何となく、彼女と一緒に居たいと、そう思っただけ。
 おねえさんは何も言わずに部屋を去り、一分ほどで戻ってきた。
 トレーナーなら誰もが手にする道具を持って。

「これをあげる。使い方は分かるわよね?」
「……あり、がとう」

 おねえさんはお礼を聞くと部屋を出て行った。
 もんすたぁぼーる。
 これを彼女に当ててあげればそれで終わりだ。
 僕は受け取ったボールをじっと眺めていた。
 意識が戻ったら、おはよう、と言ってあげたいと思いながら。





 深く暗い海の底の様な場所を延々と歩き続けている。
 どこにも光が差し込まない。
 どこにも出口は見つからない。
 ただずっと、歩き続ける。
 同じような場所を、変化のない道を。
 もうどれほどの時間、距離を歩いたのかは分からない。
 でも、終わりのない作業は苦ではない。
 どこかであの少年が待っている気がするから。
 私に進むべき道を示してくれた彼が、きっとどこかで。
 だから歩みを止めない。
 歩みを止める理由が私の中に存在していないから。

 ――その気持ちが、死を遠ざけているとは知らずに。

 諦めそうになる心を、少年の顔を思い出して押しつぶし、前に進む。
 ふいに、人影が視界に映った。
 私はその影があの少年のものであることを確認すると、歩みの速度を上げる。
 しかし少年は私の歩みよりも速く、先へと進んで行ってしまう。
 歩みは早足へ。早足は駆け足へ。駆け足は、疾走へ。
 だけれど彼の背中には届かない。
 ……あ。
 気付けば辺りは明るい光に包まれていた。
 緩やかに、確実に眩しさが強くなっていき、私は暗闇の底から這い上がっていた。

「――?」

 目が覚める。と同時に体中に異変が起こっていることに気づく。
 指先まで感覚が冴え、事故に遭ったというのに体力はそこそこある。
 ベッドに寝かされているのだろう、しかし、そこから自身の体に返る感触はいつもより一回り大きい。
 ……?
 そして一番大きかったのは、左手と左腰。
 手には包まれるような暖かい感触。
 腰には軽い、と言える重み。
 天井から視線を剥がし、右手を使って上半身を起こした。
 ぼんやりと、ここがどこか、いつごろか、を認識した。
 次いで左手の感触、その原因を突き止めようと目を向けると、そこには、あの時の少年。
 彼が私のベッドに、腰に頭を沈めて眠っている。
 が、私が起きたことに気づいたのか、顔を上げ、ぼんやりとしたままの目で私を見た。
 ? という表情が彼の顔に浮かんでいる。 
 そんな彼が、可愛くて、面白くて、私は笑みをこぼした。
 段々と、彼の顔が理解の色に染まっていく。

「あ……あ……」

 嗚咽のような声を漏らして、彼は私に飛びついてきた。
 ぐ、と腰に強く抱きつかれる。
 胸元にある、泣き付くような少年の頭を左手で抱きこんで、右手で撫でる。
 これではどっちが病人なのか分からない。
 そして私は見た。視界の外に。
 彼の座っていた椅子の隣、もう一つ椅子がならべられていた。
 上にはひとつのもんすたぁぼーる。
 ……。
 理解する。きっとこれは。

「貴方が私の……マスター、なのですね」
「……うんっ。うんっ」

 撫でていた手を止め、目を閉じて。
 再び強く彼を抱きしめた。




 ふと意識が覚醒した。
 どうやら僕は眠ってしまっていたらしい。
 部屋の窓が開いているのか、室内は少しひんやりとしていた。
 夕暮れのにおい。
 布団に埋もれていた頭を起こして、ニーナの顔を覗き込む。
 もうほとんど普段の寝顔と変わりはない。
 あとは目が覚めるだけなのだろう。

『……さむぃ』

 やはり窓が開いていた。
 ばさばさと音を立ててカーテンがはためいていた。
 僕は窓をとじようと立ち上がろうとして、しかし、右半身が持ち上がらない。
 ……引っ張られてる?
 思考がそう結論付けた瞬間、何よりも先に口が動いた。

「ニーナっ!?」

 続いて目が動き、ニーナの姿をとらえた。
 うっすらと目を開き、僕を、僕の顔を捜すように視線を彷徨わせていた。
 精一杯の力をこめているのだろうか、服をつかんだ手は震えている。
 僕は座りなおした。
 夢を見ていたせいか、どうしても言いたい言葉があったのだ。
 目覚めの挨拶と、労いの言葉。

「――おはよう、ニーナ。よく頑張ったね」








































マ『ところで体の調子はどう?』
ニ「体が思うように動きません……」
マ『ご飯、食べられる?』
ニ「食欲の方はありますけど。食器がもてません」
マ『なら食べさせてあげる。丁度ご飯の時間みたいだよ?』
ニ「ひ、ひとりで食べられますっ! マスターは自分のお腹を心配してくださいっ」
マ『僕はいいよ。ニーナが病人だからね。はい、あーん』
ニ「ですからっ」
マ『……心配なのに(うるうる』
ニ「うっ、分かりました。分かりましたからっ」
マ『あーん』
ニ「あ……ん。恥ずかしいですけど、おいしいです……」
ツールボックス

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