4スレ>>220


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ある晴れた日のことだった。
いつものように他のコクーンがスピアーへと進化する姿を眺め、
不機嫌な顔のまま、ほかのコクーンの嘲笑を無視して彼女はいつもの広場に向かう。
今日は何の訓練をしようか・・? などと考えながら目的の場所の近くまで来た時、異変に気づく。
『誰か・・いる?』
いつもは誰も居ないはずの広場に誰かが立っているようだった。
その立っている誰かの正体に気づいたとき、彼女の目が軽い驚きに見開かれた。
「人間・・・か・・・?」
そこにいたのは人だった。それも、まだ若い。10歳前後の少年が途方にくれた様子で広場に立ち尽くしていたのだ。

別にこのトキワの森に人が入ってくることはそう珍しい話ではない。
トキワの森はトキワシティとニビシティを繋ぐ陸路として、必ず通る要所である。
また、この森に生息する萌えもん目当てで入ってくるトレーナーも多い。
事実、彼女も何度か人とは遭遇をしている。
そのため、別に驚くようなことは何もなかったはずなのだが・・・
彼女が少し驚いたのはその少年の服装にあった。
その少年はトレーナーとして考えるのにはあまりに軽装過ぎた。
何の荷物も持っているいる様子もない、ちょっと外に出てみました程度の服装だったのだ。
何より注目すべき点は、トレーナーは大体萌えもんを入れるモンスターボールを必ず所持しているのだが、
そこの少年に萌えもんを所持している様子は全くないということ。
これがトキワの森の入り口付近ならまだわかるが、ここはトキワ、ニビのどちらからもそう近くはないはずだった。
つまり、この少年は萌えもんを持たないという無用心な状態で、ここまで来たことになる。
そのことが多少彼女には驚きに感じられていた。
とはいえども、このままにしておくわけにも行かない。彼女には大事な用があるのだから。

いつもなら、誰かが居た場合。特に人が居た場合は適当に時間を潰して立ち去るのを待つのが本来のやり方なのだが、
その少年が完全に無防備で、とても戦えるような様子がないことに油断したことと、
最近、他のコクーンがまた続々と進化していたことの焦りからか、少年の前に姿を現すことを思いついた。

大方、興味本位で森に入り、この天然の迷路にはまって抜けなくなったのだろう。
帰り道を教えてやればさっさと帰るに違いない。
などと思いながら。

「・・おい」
「うひゃう!!!!!」
後ろから声をかけた瞬間、その少年は奇声をあげ、とびあがった。よほど気が張っていたのかもしれない。
『うひゃう!!!!!』って何だよ。と軽く心で突っ込みながら恐る恐る振り返った少年の顔を見上げる。
「・・ここに何の用だ?」
「あ・・・・・・・・・・・」
突然の問いにしばらく呆然としていたような少年だったが、コクーンが軽く返事を促すと、
しどろもどろといった感じで話し出す。
「あー・・・えーっと・・その・・・」
「・・・その?」
「キャ・・キャタピーが・・・」
「・・・・・・・・・・・は?」
「いや、その、森の入り口でキャタピーが歩いてるのを見てさ、かわいかったから抱き上げてなでてみたら
その・・・なんかキャタピーがいっぱい出てきて。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「こっちにいっせいに『ばあーっ!』って来たもんだから驚いちゃって、逃げ回ってたら・・・迷っちゃって・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこで、なるほどな・・と彼女はため息をついた。
そのキャタピー達は、おそらく1匹がこの少年に抱きかかえられたのを見て、連れ去られるとでも勘違いしたのだろう。
それでそれを阻止しようと一斉に向かっていった。
でもって、それに驚いたこの少年はキャタピー達から逃げ回り、奥まで入り込んでしまったのだ。
『おおむね正解。といったところか』
彼女は再びため息をつく。
「あの・・・ところでさ。」
「何だ?」
「出来れば・・その・・道を教えて欲しいんだけど・・・?」
予想通り。そう考えてからすぐ、彼女はこのあたりの地形のおおよそを思い出してみる。
普段歩き回ることが多いため、道については熟知しているつもりだった。
「・・・・どっちだ?」
「・・・え?」
「住んでる町だ!! トキワとニビ、どっちかわからなければ説明の仕様もないだろうが!!!!」
「うわっ!! と・・トキワ!トキワシティの方!!」
「・・トキワシティだな・・ だったらここをあっちの方向にだな・・・・」

少年の要領の悪さに苛立ちながらも、彼女はその少年に道を教えてやることにした。
面倒だからさっさと立ち去って欲しかったし、こんな下らないことで時間を潰しているということが腹立だしかった。

「・・・・・・・ということだ。そうすればトキワシティに戻れる。わかったか?」
「うん。わかった! ありがとう!」
そう言って少年は屈託のない顔でにっこりと笑い、ペコリと頭を下げた。
「そうか、じゃあな。」
くるりと後ろを向き、さっさと訓練を始めようと持ってきた袋から的を取り出そうとしたが、変に視線を感じ、再び振り返る。
「・・・・・・・まだ何かあるのか」
じーっと袋を見つめていた少年の顔を再び彼女は見返した。
「いや、その袋、何なのかなぁ・・・って気になって。」
「なんでもいいだろう。いい加減邪魔だ。さっさと帰れ。」
もはや付き合いきれない。早く訓練を始めてしまおうと、彼女は袋から的を取り出し、空へと一気にばら撒く。そして・・・・
「せえええええりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
高い掛け声が響き渡ると同時に、地面を蹴ったコクーンは、正確に、確実に、空へ散らばった的を打ち抜いていく。
彼女が着地した時には、すべての的は見事に粉砕されていた。
「ふう・・・・・」
高めた神経を押さえ、一呼吸入れるため深呼吸したその時。
「・・・・・・・・・すっごおおおおおおおおおおおおおおい!!!!」」
無遠慮に響き渡る歓声で、集中していた彼女の意識は木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「何今の!すごいかっこいい!なんかもうまるでテレビに出てくるヒーローみたいな・・・・」
「おい!!!!!」
怒鳴りつけた彼女の声で、若干興奮気味だった少年は現状を理解したらしく、
ちょっと申し訳なさそうに首をすくめた。
「・・・・・・なんでまだいるんだ?」
もはや怒り心頭。額に若干青筋なんか浮かべながら、ギロリと少年を睨み付けるコクーン。
「いや・・その・・・何するのか気になっちゃって・・・そしたら今のがすごくかっこよくて・・・
おもわず声が出ちゃった・・・というかなんと言うか・・・あは。あははははははははー・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ゴメン。」
心底申し訳なさそうにしながら、少年は頭を下げた。
「・・・・・もういい。」
もはや怒る気力も失せ、コクーンはしっしっっとばかりに手を振る。
「邪魔だ。帰れ。」
「あ・・・・あのさ。」
「・・今度は何だ」
舌打ちしながらも、少年の声が少し真剣味を帯びたのを感じ、もう一度振り返る。
「えーっと・・なんというか・・・・ もうちょっと見ていてもいいかな?」
「・・・・・・・・・・・は?」
「お願い! もう絶対邪魔とかしないから!!だから・・お願い!!」
お願いします!っとばかりに手を合わせ、じっとコクーンの目を真正面から見つめてくる。
「・・・・・勝手にしろ。」
「あ・・ありがとう!!!」
コクーンが承諾したとたん、少年はぱあっと顔を輝かせ、喜色満面の笑顔で彼女にお礼を言った。


本来の彼女の性質なら、無理やりにでも追い出していてもおかしくはない。
しかし、そうはしなかった。
一瞬断ることを考えたのは事実だったが、少年の目になんとなく文句が言えなかった。
彼女に頼み込んできた時の、全く嘘偽りのない、純粋に、希望をこめたその瞳に。


そうして彼女はいつものように訓練を続ける。
ただいつもとは違う、一人の見物人を加えて。


そして、いつものように日が暮れるまで訓練を続け、彼女は訓練を終えた。
「・・・まだいたのか。」
「あ、うん。」
振り向いた彼女の視線の先にはずっと見ていたのか、最初の位置と違うところに少年がいた。
「・・・飽きもせずよく見ていたものだ。」
「うん!とてもおもしろかったよ!!」
皮肉のつもりで言ったつもりが笑顔で返されてしまい、もはや言葉を返す気力もなく彼女は本日何度目かもわからないため息をついた。
「うわっ! もうこんな時間!! もう帰らないと!」
周りが暗くなり始めたのに気づいたのか、少年は教えられていた帰り道の方向を向く。
「じゃあ、もう帰るね! ばいば~い!!」
そう言い放って少年は手を振りながら走り去っていった。
「・・・・・はぁ・・・・」
そんな少年の後姿を眺めながらコクーンも帰る準備を始める。
持ってきた袋を畳みながら、彼女はふとさっき少年の言ったことを思い出していた。
「『すごい。かっこいい。』・・・・・か・・・・・・。」
思い出すのは、進化できない自分へと向けられる軽蔑や哀れみの視線。
まわりからさんざんに受け続けた負の感情・・・・・・
そういえば、最後に褒められたのはいつだったかと彼女は思いを馳せた。
「・・・・まあいい。」
センチな感情を振り払うように彼女はかぶりを振った。
どうせもう会うこともないだろう。そう感じながら――――――――――――――








「・・・・・・・・・・・おい。」
「あ。こんにちは。昨日より少し遅かったけど何かあった?」
「それよりも! 何でまた!! お前がいる!!!!!!!??????」
次の日。またいつものように訓練に来たコクーンが見たのは、昨日と変わらず居座る少年の姿。
「え? だって見ててもいいって・・・」
「あれはあの日の話だろうが!!!! 何で今日も来ているんだお前は!?」
「え・・・? じゃあもう見てたらダメなの?」
彼女が怒鳴った瞬間に、楽しそうだった少年の顔に影がうつる。
期待に満ちた瞳にも不安の色が広がっていく。
「う・・・別にそういったわけではないが・・」
あまりにがっかりした様子の少年についそう答えてしまう。
「ホント! よかったぁ~ もう来ちゃだめとか言われたらどうしようかって思ったよ。」
再び少年の顔に明るさが戻り、ニコニコとコクーンに笑顔を向ける。
「~~~~~~っ! 好きにしろ! くそっ!!」
そんな少年の顔を見ていると、もはや反論する気も起きず、半ばやけくそになりながらコクーンはそう叫ぶのだった。
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