4スレ>>308


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 すっかり忘れていたやり残しも片付けたヤマブキシティを離れて二日が過ぎた。
 まだ都会に近いせいかいつもより大分少ない星の下、オレは一日のシメを行っていた。
「えーっと、今この道路だから、南下して」
 ランプと赤ペンをお供に、タウンマップと睨めっこ。
 長旅していると分かるのだが、行き先をしっかり把握して計画しないと、とんでもない場所に向かってしまう。
 故郷で貰い受けたタウンマップはカントー全域を網羅している上、細かい道路も記載されている。
 行き先を決めるにはもってこいだ。目的地を確認しつつ、現在地との距離を確認する。
 みんなは真後ろのテントでドロフォーだとかリバースとか騒いでいるが、トレーナーとしてこの作業はサボれない。
 む。この道路は草むらはなさそうだけど、好戦的なトレーナーが多くて有名だな。注意しとくか。
「あ、マスターお疲れさまです」
 リザードンがテントから出てきた。夜風に当たりにきたらしい。
 調子を訊いてみたら、ミニリュウが意外と強くて駄目ですねぇ、と返してきた。
 幼さ故の無欲という奴だろうか。ストライクはずっと二着狙いで、余った最下位にリザードンが滑り込んでるようだ。
「相変わらずひねたやり方だな、ストライクは」
 この前オレも加わって大富豪をやったが、あいつの富豪を軸に、オレ達が地位を行ったり来たりしてた感があった。
 勝手なイメージは「ストライクとして生まれたからには尋常に勝負で候!」なのだが、あいつはまるで正反対だ。
 どうしてこうギャップばかりある萌えもんばっか引くかなぁ、と溜息一つ。
 そのギャップある萌えもんの最右翼であるリザードンが、隣に座った。
 しっぽの炎がランプを上回る光度でタウンマップをじんわりと照らす。
「マスター。タマムシに寄る予定はありますか?」
「タマムシ?」
 そういえば昨日もそんな事をさりげなく聞かれた気がする。
「いいや、こっからはセキチクまで一直線だ。その後はなみのりでグレンだけど」
 ちょうどタマムシとは正反対だ。引き返すとなるとかなりのロスになってしまう。
 そう説明すると、リザードンは「そうですか、すいません」と申し訳なさそうな顔でテントに戻った。
 いや、残念そうと言うべきか。無茶は承知の上、だけどなんとかならないか、と言うか。
 その顔を見て、また嫌な予感がした。
「最近泣かせてばっかだしなぁ……。たまには先手打たないと」
 セキチクまで後数日かかる。本土にいるまでになんとかしておくか。
 とりあえず明日の目標点にチェックして、ウノッと叫んでるテントに戻った。


「リザードンになにかあったかって?」
 相手は戦闘中のリザードンどころか目の前のミニリュウよりも一回りレベルが低い。
 何の指示を送らなくても、あいつなら何とかしてくれるだろう。少し失礼だが、悟られずに訊くには今しかない。
 昔だと直接問いただすしかなかったと思うと、仲間がいるのは非常に助かる。
 まあ、リザードだった彼女の悩みを気にしていたかと言うと、少し心が痛むのだけど。
 ミニリュウは頭を抱えて、珍しく眉間に皺を寄せる。
「うーんとね。なんかね、なんかね、おかしかったよ」
 いやまあ、それはそれとなく察せるのだけど。
 やっぱ人選間違ったか。でも後でストライクにも訊くし、損はないか。
 ミニリュウはどっかから煙が出ないかと不安なるぐらい唸っている。
 まだ記憶を収めるには小さい頭をフル回転させているようだ。その健気さに少し感動。
 少し経って、あっ、と目を見開く。リザードンがかえんほうしゃでピジョンを吹き飛ばした爆音で、何か思いついたようだ。
「ちょっとまってね」
 そう言うと、初めて会った時のように、がしりとオレの腕に巻きついてきた。
 だがオレが突っ込む前にするすると登り棒でもしているかのように腕を伝い、背中のリュックに潜り込んだ。
 足でしっかりと肩を掴んでいるので安定感は抜群。リュックからミニリュウの下半身が出ている格好だ。
 そしてリュックから何やら物を探す音。時折物体がひしゃげる音もする。
 何この構図。
 向かいのトレーナーに見られてないかばかり気になるオレをよそ目に、主人の私物を荒らすお子様ドラゴン。
「あったあった!」
 その声と同時に肩の重量がなくなる。足元を見ると、身軽に着地しているミニリュウがいた。
 片手には…ん? ノートか?
「これこれ! あたしのにっきちょう!」
「え」
 そういえば国語の勉強にいいぞと言った覚えがある。
 すっかり忘れていたが、きっちりつけていたのか。名前欄にもちゃんと「ミにリゅう」と書いてある。
「たしかリザードンのことかいたんだ。
 なにかはおもいだせないけど、にっきにならのってるかも」
 おお、いつものミニリュウとは思えない発想だ。
 教育の甲斐があったなぁ、とさっきの健気さと相まって涙腺を刺激される。
 これで何か分かったらミックスオレでもタウリンでも買ってやるからな。
「んーと、んーと。えーと」
 ペラペラと自分の日記を捲っている。随分前のページも調べているようだ。
 気になったのは昨日、オレが知る限りの発端は一昨日だから、そんなに昔の事ではないと思うが。
 紙を捲る音が止まる。何回か往復したところで、あるページに目星をつけたようだ。
「ちょっとまってねごしゅじんさま。えーと、えーと、えーと。
 これかな。うー、きょう、は、あれ?」
 また唸り始めた。今度は両手が塞がっているから頭は抱えてないが、代わりに目がぐるぐるしている。
 ちなみに目がぐるぐるするとは、目線が一箇所に固定出来ない、つまり目標を直視出来ないという事だ。
 その原因は三半規管の異常や嘘をついて相手を凝視してられない等があり、その人の心理を悟るのに有効なのは有名な話である。
 さて、今回考えられる原因といえば。
「ごしゅじんさまー。このもじってなんてよむのー?」
 オレが直接読み書きを教えてやらなかったが故の無知である。
 分からない問題はそりゃあ見たくないわな。納得しつつ、日記を預かる。
 文字自体は整っているが、ひらがなとカタカナがバラバラで、漢字はなし。大変読みにくい事この上ない。
 だが一生懸命書かれた文章は読ませる魔力があるのか、見た目より解読は楽だった。
 直訳すると、こういう事らしい。日付は一昨日、この前日にバッチを手に入れてヤマブキシティを離れた日だ。
『今日、リザードンが、昨日の戦いは頑張ったね、って誉めてくれた。
 でもリザードンが、一番かっこよかったよ、って言うと、照れて顔を真っ赤にした。
 そしたら、リザードンが、「ミニリュウは炎とか電気とか使ってみたい?」って訊いてきた。
 あたしはかっこよさそうだから、使ってみたいって言ったら、そう、って言ってストライクの所に行っちゃった。
 何だったんだろう。あたしもそのうちリザードンみたいに炎を吐けるようになるかな?』
 確かに奇妙な質問である。電気はともかく、炎技のスペシャリストが何を訊いているのか。
 だが決定打ではない。許可をとって他のページも調べてみたが、他にはこれといった記述は見当たらなかった。
 日記を返すと、少し不安そうな顔でミニリュウが見上げいた。
 きっとオレが残念そうな顔をしていたから、役に立てたか気になったのだろう。
 軟い青髪を携えた頭を撫でてやる。
「ありがとうな。おかげでいい事が分かった。今度ミックスオレ買ってあげるからな」
 後、読み書きもちゃんと教えてやる。
 返答は極上の笑顔で十分だった。


「リザードンに何かあったか?」
 今度の相手はタッグバトルを仕掛けてきたので、ミニリュウとリザードンで対応する。
 また一回りも二回りも格下の相手だ。バトルそっちのけでストライクに同じ質問をしてみた。
「ああ、そういえばっ」
「何か知ってるのか?」
「ヤマブキで最後のご飯がお蕎麦だったわよ。あの子が好きなのはうどんなのに」
 やばい。ミニリュウより人選間違ってるかもしれん。
「じゃあ今晩は鍋焼きうどんにするか。それこそ箸も持てない萌えもんには食べられないぐらい熱いの」
「あら、じゃあ食べさせてくれるの?
 睨まないでよ。冗談よ冗談」
 こいつは本当にサファリの職員にもサジを投げられた問題児なのだろうか。
 問題のベクトルが物凄い方向にぶっ飛んでる気がしてきたぞ。
 気を取り直して昨晩オレが受けた質問と、ミニリュウの日記から拝借した情報をストライクに伝える。
 流石に理解力はミニリュウより早く、すぐに話を呑み込んでくれた。
 その上でこんな事を言ってきた。
「なるほどね。でも、リザードンに悩みがあるとして、それを知ったら貴方はどうするの?」
 それは予想外の質問だった。
 オレは意表を突かれて目を見開くしか出来ない。そんなのは気にせずストライクは続ける。
「第一動機が不純じゃない。要は貴方、リザードンに泣かれて騒がれたくないんでしょ。
 でもあの子は溜め込むタチだから、ここを凌いだとしても、形にならないストレスが行き場を失うだけよ。
 それに公然には隠している事を先回りして解決されたら、気を遣わせてるんじゃないかって、あの子は思うんじゃない?」
 リザードン、外見に合わない小心者だし、とストライクは事もなく言い切った。
 正直、呆気にとられ、そして嫉妬した。
 まだ仲間になって一週間も経ってない新入りに、ここまではっきりと彼女を把握出来るなんて。
 そして、一番古い付き合いのあいつの事を理解出来てないのに、また腹がたった。
「そんな顔しないでよ。いじめちゃったみたいじゃない。
 いいじゃない泣かせちゃっても。リザードンから聞いたけど、私達がこうしてる原因も、大喧嘩からなんでしょ。
 嫌なものは適度に吐かせるのが円満のコツなの。まあ、どうしても泣かせたくないんなら止めないけど」
 しかも先回りまでされた。こいつ、仙人みたいな生活してたようだが、本当に仙人かもしれん。
 何より、言ってる事も的確だ。反論の余地がないし、あってもやる意味はない。
 あいつが泣くのはもう生態みたいなもので、それをずっと抑えるのは無茶だと最近の生活でようやく悟った。
 だけど、あいつに泣かれるのは、なるべく避けたい。
 押し黙っているオレに何を思ったのか、ストライクは急に伸びをした。
「んー……ま、別にいいけど。私は子守も自分の主の世話もごめんだし。
 それに出番もなさそうだしね。久々にボール戻ろうかしら」
 ツンツンとボールを突っついてくる鎌を制して、ボールを開けてやる。
 後はストライクが入ればいい、と言う段階で。
「ああ。そういえばマスターに相談したい事がある、とか言ってたっけ。
 でも恥ずかしいしどうでもいい事だからって諦めてたな。まだ気にしてるのかも」
 また、自分の萌えもんに呆気をとられてしまった。
 ストライクは、本当にストライクらしからぬ、猫みたいな笑顔でこうも言った。
「萌えもんでも人でも、嫌な部分をとことん見ちゃうと色んな事が分かっちゃうものよ。
 そうでもなきゃ分からないから、こんな難しい事は。
 じゃあ一眠りするから、夕飯時には起こしてね」
 言いたい事言って満足したのか、ボールに入ってすぐに寝息が聞こえてきた。
 呆然とストライクが入ったボールを眺める。
 あいつ、もしかしてオレを励ましてくれたのか?
 ミニリュウのなみのりが決まった残響を耳に、本当に一癖も二癖もある奴だと一人ごちた。


 そして一日がまた終わろうとしている。予定より少し手前でテントを張った。
 それもこれも指示しないというマナー違反をトレーナーに責められ、再戦を受けたからだ。
 やっぱり真面目にやらないと駄目だな、と肝に命じる。
 だから、真正面からやってみるか。
「リザードン、ちょっといいか」
 ミニリュウは近くの川へ水を汲みに、ストライクは薪を収集している。
 はい、と鍋を用意する手を止めてリザードンが近くに駆け寄ってきた。
「なんですかマスター」
 いつもと変わらない人懐こい笑顔だ。
 こう面に向かうと、少し訊き辛いものがある。
 だがここまで準備をしておいて、やりにくいからなしでは情けなさすぎる。
 軽く呼吸を整えてしっかり目を見て、口にした。
「お前オレに相談したい事ないか?」
 紅い羽がはためいた。予想もしていない台詞に、肩がびくりと跳ねた。
「え、急になんですか?」
「急じゃないだろ。昨日、いや一昨日もか。奇妙な事訊かれたからな。
 それでまあ、気になった。ないならいいけどさ」
「いや、その、あるにはありますけど」
 どんな直訴も受け止める覚悟は既に出来ている。
 こいつは一番の古株で、一番オレの無茶についてきてくれた相棒だ。
 ならばどんなお願いでも応えてやらなくては不公平である。
 それに。
 またこいつが不満を爆発させてむせび泣く姿は、二度と見たくないのが一番の本音だ。
「じゃあ、いいんですか?」
「ああ頼む」
 本当に大丈夫かなと思ってるのか、所在なさそうにキョロキョロしている。
 だがそれもすぐに収まり、一つ深呼吸。オレの目をしっかりと見て。
 そして胸に秘められた想いは言葉となった。
「わたし、うそなき覚えたいんですけど、わざマシンありますか?」
「………
 はい?」
 う、そ、な、き?
「はい。この前ジムのトレーナーが使ってたルージュラがやった技です。
 あれでミニリュウが結構ダメージ食らっちゃったから、もしかしたら使えるのかなと」
 言葉が出ない。
 ミニリュウに巻きつかれた時よりも、ストライクに予想外の一言を浴びせられた時よりも、呆然としている自分がいる。
 全く返さないオレに、リザードンは続ける。
「ほら、わたしってあなをほる以外は全部特殊攻撃じゃないですか。
 だったら、うそなきでとくぼうを下げて、わたしがかえんほうしゃすればどんな敵も一撃! なーんて」
 砕かれた思考力が戻ってくる。全部集まるには時間がかかりそうだが、色々と辻褄が合ってきた。
 タマムシに寄りたいのはデパートのわざマシンコーナーにあるか知りたかった訳だ。
 そしてミニリュウへの質問は特殊攻撃である電気技や炎技を自分以外も使うか、他のみんなに貢献出来るかの確認。
 だが萌えもんの自分がマスターに技の構成について言うなんて馬鹿げてる。だからどうでもいい、と。
 そういう話か。
「ど、どうですかマスター? その、萌えもんである私がこんな事に口を出すのは失礼ですか?」
「いや、戦うのはお前だ。むしろどんどん言ってくれていい」
「じゃあどうですか? それともわざマシンはありませんか?」
 確かにわざマシンはないが、こいつ気付いてないのか?
 前言撤回、訂正しよう。どんなお願いにも応える、という訳にはいかないようだ。
「どっちにしても、その提案は聞き入れられないな」
「え」
「だってさ」
 リザードンの肩を押さえる。逃がさないというより、言い聞かせるように。
 少しリザードンの頬が染まった気がしたが、ほっといて忠告を与えた。
「お前の場合うそなきに入り込んで『まじなき』になるだろ?」
 本当そんな気がしてなりません。はい。
「まあ、お前の技を強くするんなら、にほんばれのわざマシンがある。なんならそっちを」
「………」
「どうした? この際だからあまり好きじゃないあなをほるを消しっぢゃ!?」
 リザードンの肩にやってた手を離す、いや離れた。
 現状の理解より数瞬早く、続いて目の前のリザードンの叫びが木魂した。
 それが耳に入ると同時に、ようやく全てを呑み込んだ。
 ああ、オレはまた同じ轍を踏んじまったんだな、と。
「マスターのバカァアアァァアアァアアア!!!!」
 リザードンを中心に撒き散らされる、火災という名の天災。
 地から天からそれは容赦なく、有機物無機物の判断もなく、一瞬で、ただ焼いていく。
 もう一回前言撤回、また訂正。
 彼女の場合、うそなきに入り込む前に、いきなりまじなきになるな、これは。
「ちょ、リザードン、ここ草むら! だから覚えてもない技使うのはやめろ!」
 しかも炎技中最強にして無敵のオーバーヒートかよっ。
「わだっわたじぃ、マスターの役に、だぢたいって、がんばって考え、うっ、考えましたぁ!」
「わわわわ分かった! その心意気は受け取った!」
 だからせめてオーバーヒートはやめてくれ。慰めようにも近づけない。
 あ、この草むらの主っぽいモルフォンが焦げてる。
「うぅうう、うぅううぅうぅう」
 流す涙が次々蒸発してるので、傍から見ればうそなきと見えない事もないかもしれない。
 尤も、これではとくぼうを下げる前に焼けて終わりだろうが。
「あー……無理だ」
 こうなってはもう止められない。
 秒速10メートルの勢いで広がる破壊と業火。そしてとばっちりすぎる野生の萌えもんの阿鼻叫喚。
 せめてそんな犠牲者への償いを込めて、熱源の間近で灼熱地獄を体感する。
 焼けるのではなく、溶けていく感覚をその身に刻みながら、勝手に思ってしまう。
 もしかしてこいつが泣くのって運命じゃねーか、なんて。





「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「いや、今回もオレが悪い。お前の好意をまた踏みにじっちまった」
「見つけた時は半分ぐらいの大きさだったのに。やっぱり付き合い長いと耐性が?」
「ごしゅじんさまー。もうほうたいないよー?」
「いや、もういらない。これ以上巻いたらミイラ男も裸足で逃げる。
 それじゃあ、にほんばれ覚えるか?」
「はい。そっちの方がずっと効率いいですもんね」
「ちょっと待ってろ。今図鑑でどれ消すか選んで……あ」
「どーしたの?」
「オーバーヒート覚えてる……」
「え」
「あら。体が覚えちゃったみたいね」
「すごいねリザードン」
 リザードンはあなをほるときりさくのつかいかたをきれいにわすれた!(ポカン)
 そして…オーバーヒートとにほんばれをおぼえた!(パカパカーン)
「勘弁してくれ」
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