5スレ>>25


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個室に入院しているラルトスの様子を見に行く。
もともとエスパータイプで体そのものがさほど丈夫な種では無かったため、少し治療が長引いているのだ。
「やあ。体の調子はどんな感じかな?」
「はい……大分…よくなりました…」
「そっか、それは良かった。早く退院できるといいね」
「ありがとうございます………あ、あの…」
「ん?」
「他の…皆は…?」
「ヒマナッツとブルーか?二人とも一足先に全快して、今は元気にしてるよ」
「よかった……」
会話が途切れる。
人を恐怖の対象として見ていただろう萌えもんとの会話は、決して急かしてはいけない。
本人が言葉を紡ぐのを、気楽に待つことが基本だ。
「……あのっ……」
「ん?」
「私達…どうなるんですか…?」
三人のトレーナーだった少年はそれまでの自分の萌えもんと生活することを禁止された。
そのため、ひとまず三人は萌えもんセンターで見習いの立場で暮らすことになっている。
俺がそのことを伝えると、ラルトスはしばらくもぞもぞと落ち着かない様子だった。
こちらから尋ねても何でもない、と返ってくるのはわかっているので待っててやる。
それからさらにしばらくして。
「あ…あの……」
「うん?」
そこでまた逡巡し。ラルトスは勇気を振り絞る様子で、俺に告げた。
「わ、私も……つ、連れて行って、くれません…か…?」
「え…?」
「お、お願いしますっ……」
必死の表情。その姿はわずかに震えている。
「ヒマナッツとブルーは、この萌えもんセンターに残ることを決めてるよ。
 それでも、いいのかい?」
「はいっ…」
その決意は固いようだ。
誰が病室を訪れても身を硬くし、聞かれたことに首を振って答えるのが精一杯だった。
俺だけは前から面識があったせいか会話こそ出来たが、それでも俺から話をはじめ、それに答えるしか出来なかった。
そのくらい人に怯えていたラルトスが、自分の意思で、決めた。
もう一度、人に、付いてゆくと。
その意思は、とても尊いものだと思うから。
「分かった。ジョーイさんには俺から頼んでおくよ」
「…っ!…ありがとう、ございます……兄様」
「いやいや。ところでさ、その兄様って呼び方、変えない?」
「迷惑…ですか?」
「そうじゃないけど…他の二人はマスターとかご主人様だし、さ」
「でも…前からこうお呼びしてましたし…」
「…まぁいいか。あ、でも俺に対して敬語なんて要らないからな?
 リーフィアやリザードみたいな言葉遣いでいいよ。
 というか、そのほうが俺としても、仲良くなったみたいでうれしいし」
「え…はい。…頑張ってみます、兄様」
そこで会話は終わり、俺はラルトスの病室を後にした。



治療のかいあって、それから数日でラルトスは退院できた。
ジョーイさんも同意してくれたし、もうラルトスもヒマナッツたちとのお別れを済ませたみたいだ。
「いこうか、三人とも」
「はい、マスター」
「はーい」
「はい…兄様」
向かう先は草むら、野生の萌えもん相手に訓練を積んでおかないとな。
ラルトスが入ってくれたとはいえ、カスミのスターミーを下すにはまだLv的に不安だ。
そう考えて萌えもんセンターを出た矢先で再びカスミにばったり出くわした。
「あ、ヒロキさん、丁度良かった」
「ん?どうしたんだ、俺に何か用かな?」
「それが……」
ともかく、ジムにちょっと来て欲しいとのこと。
何があったのかと首を捻りつつ、ハナダジムへと向かった。



「で、俺に何か用なのか?」
「はい、それなんですが」
カスミの用とは、他でもないあの少年のことだった。
トレーナー資格を剥奪されすごすご帰るわけにも行かなくなった少年を、
カスミがジムトレーナー見習いとして面倒見る代わりにトレーナーのイロハを一から叩き込むことになったそうだ。
全くの余談になるが、摘発状に書く名前を二人で確認したときは(無論本人の見てないところでだが)笑い転げたものだ。
「あれだけすぐ手や足がでるのに、ユウト(優人)なのか」
「名は体を現すってことわざを、思いっきり否定してますよねー」
「ま、まぁそのあたりはこれから先、更正していけばいいよな」
「そうですね。アタシもびしびし鍛えてやります」
…で、俺が呼ばれた理由とは、その少年がどれだけ言い聞かせても自分の腕を認識しようとしないため、
一度俺と自分とのバトルを見せて、そこで思い知ってもらおうと言うものだった。
「しかし、俺の手持ちはヒトカゲだし、あんまり意味ない気がするんだけど?」
「だから、彼の萌えもんたちをヒロキさんには指示してほしいんですよ」
「といっても・・・俺グレーバッチしか持ってないから、そもそも指示を聞かせられないよ?」
「あ…そっか」
それに、二人は萌えもんセンターで暮らすことになっている。
いまさらバトルに引っ張り出すのも気が引ける。
「うーん…」
だが、カスミの苦労を考えると、せっかくだから手を貸してあげたい。
どうしたものかと考えていると。
「あの、兄様…」
ラルトスが話しかけてきた。
「どうした、ラルトス?」
「私が、戦います」
そういえば、このラルトスもかつて少年の萌えもんだった。しかし、退院したばかりで戦わせることになる。
「いいのか?」
「はい…こんな私を連れて行ってくれる兄様に、恩返ししたいんです」
「そうか…じゃぁ、任せるよ、ラルトス」
カスミに、少年のラルトスを引き取ったこと、依頼をラルトスで受けることを伝えた。
「ありがとうございます!それじゃ、アタシは準備してきますね」
そう言って、奥へと入っていくカスミ。
「無理しなくていいからな。これ以上はダメだと思ったらすぐに伝えるんだぞ」
「はい、兄様」
「頑張れーラルちゃん」
「気をつけてくださいね」
「ありがとうございます、リーフィア姉様、リザード姉様」
二人のラルトスへの応援を聞きながら、内心では不安のようなものが渦巻いていた。
またラルトスを傷つけることになりはしないか。元マスターと会うことが、彼女にいい影響があるとは思えない。
けれど、本人が言い出したことでもある。臆病な気質のラルトスに自信をつけるチャンスでもあるかもしれない。
どうにか気持ちを切り替え、俺はハナダジムのフィールドに足を踏み入れた。



公開戦でも見たとおり、足場が非常に少ないこのフィールドは水萌えもんにとって非常に有利な場所だ。
その不利を踏まえたうえで何処までやれるかは、ラルトスの能力もさることながら俺がどれだけ的確な指示を出せるかにあるだろう。
ふと、観客席に目をやると、例の少年の姿。
両脇をジムトレーナーに固められ、逃げることが出来ないようにしてある。
ラルトスの姿を認めたようだ。表情が変わったが、何かを言う気配はない。
ラルトスの方は、かつての己のトレーナーを眼にし。やはり、恐怖は拭いきれないようだ。
「硬くなるなよ、ラルトス。やれるだけやったらそれでいいんだ」
「兄様…」
「今勝たなきゃならないなんてことはない。いつか勝てればそれでいい。
 負けたって、次に同じ負け方をしさえしなければいい」
ラルトスは黙って俺の言葉を聴いていた。
話し終わると、一つ大きく頷く。その目じりには、雫が浮かんでいた。
カスミに向き直る。
「準備、できました?」
「ああ」
「それでは、行きます。手加減はしませんからね。
 頼んだわよ、ヒトデマン!」
カスミの一番手はいつものようにヒトデマン。
「頑張れよ、ラルトス」
「はい!」
ラルトスが前に進みでる。
試合開始の合図が、響き渡った。



先日のタッグバトル、その前の公開戦で既に、カスミのヒトデマンの本領は持久戦にあることが分かっている。
ならば、相手のペースに乗せられないよう、速攻で片付けるしかない。
ラルトスの攻撃技は今のところ念力のみ、一撃では不可能だから数を決めるしかない。
しかし、それはカスミが一番良く把握しているだろう。そう易々と攻撃を食らいはしないはずだ。
ならば…
「ラルトス、テレポート!ヒトデマンに接近だ!」
俺の指示に一瞬戸惑うラルトス。それもそのはず、その指示だけなら少年のものと変わらないのだ。
それでも俺に従い、ヒトデマンの少し目の前の足場にテレポートする。
カスミも真意を測りかねているようだったが、それでも即座に指示が飛ぶ。
「ヒトデマン、水の波動!」
命令にあわせてヒトデマンが両手を合わせ、こちらに振る。
その動きに合わせてヒトデマンの周囲の水が巻き上がり、衝撃波となってラルトスに襲い掛かる。
今までに何度も食らい続けた攻撃に、ラルトスが硬直する。
しかし、水の波動が放たれた瞬間に、俺は次の指示を放っていた。
「ラルトス、影分身!」
ギリギリで俺の指示を聞きとり、瞬時に数体の分身を作りその場を離れるラルトス。
水の波動は分身のいくつかを巻き込んで消えた。
「続けて影分身!テレポートも混ぜて相手の狙いを定めさせるな!」
更なる俺の指示に従い、ラルトスが影分身の展開とテレポートによる瞬間移動を繰り返す。
たちまち二十以上の影分身を生み出し、自身もそれの中に紛れ込む。
「くっ…」
カスミにもヒトデマンにも、観客席で見ている少年他ジムトレーナー達も、
どれがラルトス自身なのか、そもそもラルトスはあの中にいるのかわからない。
俺にも眼で見ての判別は出来ないが、その必要は無い。
カスミにしてみれば、まさかヒトデマンに持久戦を仕掛けられるとは想定外だったのだろう。
だが、もともとヒトデマンの得意分野である。すぐに意識を切り替え、カスミが指示を下す。
「ヒトデマン、光の壁!」
指示に応えてヒトデマンが半透明の輝く障壁を作り出す。それ越しに念力を当てても威力は半減してしまう。
……あくまで、光の壁越しに当てたら。
光の壁を生み出したその瞬間こそが、俺が狙っていたチャンスだった。
「ラルトス、テレポート!ヒトデマンのすぐ背後にだ!」
俺の指示を受け、ラルトスが行動を起こす。
数多ある分身はそのままに、新たなラルトス───無論これが本物───が現れる。
光の壁を生み出すことに力を使い、すぐには動けないヒトデマンのすぐ背後、壁の内側に。
「「───!」」
カスミも、ヒトデマンも、完全に虚をつかれた形になった。
「ラルトス、そのままヒトデマンにしがみついて念力を撃ち込め!」
さらなる指示にラルトスが従い、ラルトスの攻撃が始まる。
距離を越え、空間を震わせ伝わる心の力が、密着したヒトデマンの意識を捕らえて揺さぶる。
「うぅぅー…ぅあぁああー」
悲鳴すらどこか間延びしているヒトデマン、だがダメージは確実に蓄積されている。
おまけに両手を使って狙いを定める技であったため、ヒトデマン唯一の攻撃技「水の波動」も背中に組み付いたラルトスにはとどかない。
「ヒトデマン、自己再生!」
カスミの指示も届かない。どうやら追加効果で混乱状態に陥っているのか。
「なら……ヒトデマン、水に飛び込んで!」
混乱状態でも攻撃以外の支持は通りやすいのか、ヒトデマンがラルトスを背負ったまま空中へと飛び上がる。
その落下先は言うまでもなく水中。容易くふりほどかれるだろう。
まずい、ここで距離をとられたら一気に振り出しに戻る!
「ラルトス!ヒトデマンを捕まえたまま高空へテレポート!」
落下する二人の姿が掻き消え、ジムの天井スレスレに再出現する。
そのままフィールド中央の足場に、ヒトデマンを下にして落下する。
「!! ヒ、ヒトデマン!」
墜落と同時に光の壁が消え、ヒトデマンが気絶したことを示した。紛れも無い戦闘不能だ。
「嘘…手加減なんてこれっぽっちもしてないのに…
 ほんとに、あいつのラルトスなの…?」
カスミはまだ己の目が信じられない様子だ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「良くやったよ、ラルトス。お疲れ様」
まだ息の乱れているラルトスにねぎらいの言葉をかける。
「私…勝ちました…?兄様の、お役に立てましたか…?」
「良く頑張ったな。えらいぞ、ラルトス」
戻ってきたラルトスを軽く抱きしめ、頭を撫でる。
「…!…えへへ…」
その照れたようなはにかんだ笑顔が、とても愛らしい。
腰のボールのリーフィア、リザードが騒いでいる。羨ましいのか?
後で二人にも必ずしてやると言って宥める。
そして、呼吸の整ったラルトスを、再び送り出す。
「任せたぞ、ラルトス」
「はい、兄様!」
一方のカスミは一時の動揺が抜け、冷静な思考が戻っていた。
「確かに能力そのものは決して低くは無かった。けれど、ヒトデマンを大きく上回ってたわけじゃない。
 やっぱり、扱う人間次第の面よね…」
その眼は今まで以上に真剣。これまでが油断していたわけでは無論無いだろうが、その顔は紛れもなくジムリーダーの顔だった。
「この子がアタシの切り札。お願い、スターミー!」
カスミが繰り出したのは、最早巷で彼女の代名詞と化しつつある萌えもん、スターミー。
高い素早さに高威力かつ多彩な攻撃技を持つ彼女(正確にはヒトデマンともども性別不明なため『彼女』かは分からない)は、
これまでに数え切れないほどの挑戦者の萌えもんをほぼ一撃で沈めてきた。
ラルトスはエスパータイプであり、能力的にも特殊攻撃による攻防に秀でたステータスを持っている。
そのお陰で彼女の攻撃を軽減は出来るが、同時に同じエスパータイプである彼女に対し有効打を一切持たない。
ヒトデマン戦での消耗もある以上、普通なら誰が見ても勝利は絶望的のはずだ。
「けど…せっかく、あの子が立ち直りつつあるんだ。俺が投げるなんてダメだよな」
ひとりごちる。
しかし、どう戦ったものか…
「スターミー、サイコキネシス!」
「ラルトス!影分身でかわせ!」
カスミの声をうけ、スターミーが行動を起こす。
先ほどラルトスがヒトデマンに食らわせたのと同質の力、だがその威力は比べ物にならない。
空間を捻じ曲げ形あるもの全てをバラバラに分解するかのような強大な意思の力がラルトス目掛け牙を剥く!
不可視の精神エネルギーの波動がラルトスを捕らえる寸前、またもやラルトスの姿が掻き消える。
先ほどと同じように、複数の影分身がスターミーの周りに展開する。
今度はカスミは躊躇わなかった。
「スターミー、どんな技でもいいから片端から打ち消しなさい!」
「イエス、マスター」
カスミの命令通りに、持ち技全てを駆使してスターミーが攻撃を開始する。
薙いだもの全てを氷像と化す冷凍ビーム、ヒトデマン以上の破壊力を誇る水の波動、高圧・高出力で貫き打ち据える十万ボルト、先ほども放たれたサイコキネシス。
見る見るうちに影が消えて行く。
(影の展開が追いつかないか…!)
尋常でない攻撃の数々が、どれも生まれた影分身に向かっている間はいい。だがそれらがなくなれば、あの苛烈な攻撃がラルトスを襲うことになる。
閃いたきっかけは些細なことだった。少なくなりつつある分身の、さらにいくつかを十万ボルトが薙ぎ倒したというだけ。
その十万ボルトが、プールの水に着弾、一気に拡散するのを見て。
(これなら・・・いけるか!?)
だが、問題はどうやって食らわせるか。
カスミが水中で十万ボルトを撃たせるはずはない。
それ以前にスターミーが水中にいるなら、不可視ゆえに最も回避の困難なサイコキネシス以外は放たれないはずだ。
相手に十万ボルトを確実に水中で、あるいは水中に向かって撃たせる条件。
当然ながら、ラルトスが水中に逃げ込んでいることだろう。
だが、水タイプでないラルトスは水中で自由に動けない。下手すると撃たれた十万ボルトを素直に食らって戦闘不能の恐れがある。
それに、水中では俺の指示を聞かせるのは難しい。
俺の思惑がカスミだけに伝わり、動けないラルトスを十万ボルトでなくサイコキネシスで狙い撃たれる可能性もある。
せっかく見えた光明も、途絶えたか───
───いや、待てよ…?試す価値は、あるか?
(ラルトス…ラルトス…!伝わるか…?)
ラルトスは、常日頃からトレーナーの感情に敏感に感応し、己のそれを同調させる萌えもんでもある。
ならば、こちらの意思が強く浮かんでいれば、伝わるのではないか。
俺が賭けたのは、それだった。
果たして。
(兄様…?)
(伝わったか!よかった。カスミに聞かれると台無しになるからな。
 一か八かになるけど、作戦を思いついたんだ)
作戦の流れを頭に浮かべる。ラルトスはすぐに読み取ってくれた。
まずはスターミーの猛攻が途切れた一瞬を待って、影分身を全て消す。
唐突に残っていたラルトスが次々と消え、本体が姿を現したのを見て、
「PP切れ?それとも、観念したんですか?」
カスミが口を開く。
(次のスターミーの攻撃を、俺の声に合わせて水に飛び込んでかわすんだ)
(はい、兄様。その後、相手の背後にテレポートするんですね)
(そのタイミングも俺が指示するから、俺の指示を見落とすなよ)
(はい!)
「…覚悟は出来た見たいですね。スターミー、冷凍ビーム!」
「ラルトス、かわせ!」
言葉では、かわせとだけ。
だが、意思を交わしてその真意を知っているラルトスは、予定通り冷凍ビームを紙一重でかわしつつプールに飛び込んだ。
「水萌えもんの前で水に飛び込むなんて。疲れて指示ミスでもしました?」
俺は言葉を返さない。敢えて無言を貫く。
「そのまま追いかけてもいいけれど、もうそろそろ終わらせる。
 スターミー、跳んで!上空からフルパワーで十万ボルトよ!」
「イエス、マスター」
無表情にこたえ、水面の上に跳んで十万ボルトをチャージし始める。
バチバチと彼女の両手の間で放電が始まる。
(まだだ…)
電気の量、出力が見る見る上がっていく。
(兄様、まだですか…)
水中で呼吸できないラルトスは、必死に息を止めている。
(すまない、ラルトス、もう少し!)
頭の中でラルトスを励まし、スターミーの様子を伺う。
これまでに放たれ続けた中で最大級の電力がその手に集まり、スターミーが大きく腕を振りかぶる。
(今!テレポートで背後に出るんだ!)
それを見た瞬間、強くその指示を念じる。
指示は伝わり──
「!また!?」
──今にも十万ボルトを放とうとしていた、スターミーの背後に。
ラルトスが現れる。
水中ならともかく、空中ではスターミーと言えども自由には動けない。
まして攻撃態勢に入っている今ならなおさらだ。
「スターミーを捕まえてテレポート!」
テレポート位置は予め、彼女が水中にいる間に伝えてある。
ラルトスが、凄まじい電撃を放つ構えのままのスターミーごと掻き消える。
「…!何処へ!?」
すぐに二人とも、姿勢はそのままですぐに現れた。
水面、すれすれに。
「ラルトス!念力で水中に押し込め!」
「なっ…!」
水中に飛び込むことでスターミーの十万ボルトを誘い、放つ寸前にテレポートで背後にでる。
相手の驚愕が薄れないうちにさらにテレポートでスターミーを水面そばまで運び、念力の一押しで水中へ落とす。
スターミーの十万ボルトをそのままスターミー自身に食らわせるために、俺がとっさにひねり出した作戦だ。
だが、十万ボルトの発射タイミングをラルトスに知らせられたのは、彼女が俺の意思を読み取ることが出来たから。
他の萌えもんでは不可能な作戦だったろう。
果たして、奇跡のように、作戦通りにことは運び───
「あああぁぁぁあああああーー!!」
自らの、最大出力での弱点攻撃に、尋常でないダメージを受けるスターミー。
電撃そのものはすぐに水中に霧散したが、それでも彼女の体力を根こそぎ奪っていった。
どうにか足場に上がったものの、電撃の余波で体がしびれ、思うように動けない様だ。
ラルトスの方はスターミーを水中に押し込んだ後、テレポートで俺のそばに帰還していた。
「まさか、こんな結果になるなんて…
 …スターミー、お疲れさま」
カスミがスターミーをボールに戻す。戦闘続行は難しいと判断したのだろう。
フィールドの横を回ってこちら側に来たカスミが、感想を述べる。
「とても、ヒトデマンにいいようにやられていた萌えもんとは思えなかった。
 …同じ萌えもん同士でも、指示が違えばまるで違う動きを見せること、負けていた相手にだって互角以上に戦えること。
 それを、あいつに見せたかったんだけど……まさか、全力で戦ってアタシの方が負けるだなんて思いませんでした」
「いや、やっぱりラルトスが必死に頑張ったからだよ。俺の指示を疑わずに、信じてくれたお陰だ」
ボールの中の二人も、ラルトスの健闘を称えているようだ。
そのラルトスはと言えば、疲れ果てた様子で座り込んでいる。
「良くやったよ、ラルトス」
これと言って攻撃を受けてはいないが、立て続けに技を繰り出し続けたせいで疲労が溜まったのだろう。
「はい……ありがとう、ございます…兄様」
息が乱れているが、その顔は嬉しそうだ。
そこへ、ジムトレーナー達に連れられて、ラルトスたちの元マスターだった暴れん坊少年がやってきた。
その顔には、今までに見られた反抗的な表情は見当たらない。
「どう?自分が散々弱い、使えないと罵っていた萌えもんが、自分が勝てなかった相手を撃破した感想は?」
「………」
カスミの手厳しい言葉にも反論する様子は無い。
ラルトスの方は、もうかつての主に対し、怯える様子は無かった。
勝ったことは、確実に彼女の自信になってくれたみたいだ。
少年は、しばらく目線をさまよわせていたが。
ラルトスへ、向き直り。
「……今まで悪かった」
そう、聞こえるかどうかという、かすかな声で、確かに告げた。
ラルトスは、言葉を返さない。ただ一度、軽く頷いたのみ。
ともかく、これでカスミの目的は文句なしに達成されたことになる。
「あ、ヒロキさん」
「ん?」
まだ何かあったのか。
「これと、これを」
カスミが差し出したのは、「水の波動」の技マシン、そして…
…ブルーバッチ。
「公式戦のルール内でのバトルでしたし、アタシ達の完全な負けでしたから。
 受け取ってください」
「いいのか?そりゃ有難いけど…」
「登録とかは後からアタシがしておきますから。
 それに、手伝ってもらったし」
勝つことは勝ったし、本人がいいというなら受け取るか。
何より、これはラルトスの勝利の証だ。
そうなると、これ以上ハナダに残る用は無くなったことになる。
…と、一つ忘れてた。
「そういえば、レッドとグリーンっていうトレーナーが挑戦しなかったか?」
「え?あぁ、マサラタウン出身のトレーナーでしたね。
 その二人は随分前にここを突破して、クチバに行ったはずです」
「そうか、ありがとう」
そうなると次の目的地はクチバか。
一日あればいける距離だ。
萌えもんセンターに帰って手続きすませて、明日には出発できるかな。
カスミたちに別れをつげ、日が傾きつつある中を萌えもんセンターへと戻った。



煩雑な手続きを終わらせた頃には、もうすっかり日が落ちていた。
雲ひとつ無い夜空には、いくつか星も見える。
「……そうだ」
この天気なら。
一つ思いついた俺は、リーフィア達をつれ、萌えもんセンターを出る。


ハナダの岬を訪れるのはこれで3度目。
星を散りばめた夜空は透き通る藍、眼下に広がる海は澄み渡る蒼。
そんな景色のもと、俺とリーフィア、リザードとラルトスは並んで腰を落とした。
「この町でも、いろいろあったなぁ」
「そうですね。ヒトカゲちゃんもリザードに進化しましたし」
「だから、もう『ヒトカゲちゃん』じゃないよ!」
「わかってますよ、リザードちゃん」
進化したことは本人の性格に、影響をあまり及ぼしてないようだ。
この分なら、リザードンになってもこのままだろう。
「それと、ラルトスとも出会ったな」
「私の手当てをしてくれたのが、兄様だったから…私は今、ここにいられます」
「これから先もよろしくね、ラルトスちゃん」
「一杯仲良くしよーね」
「はい、リーフィア姉様、リザード姉様」
それきり、会話は途切れる。
岬を吹き抜ける風に髪を揺らしながら、皆静かにたたずむ。
……おもむろに、言葉を紡ぐ。
「次は、クチバだな。カントーの港町で、ジムはイナズマアメリカンことマチスの率いる電気萌えもんのジム。
 あとは、萌えもん大好きクラブとかいうのがあったっけ」
「どんな出来事があるんでしょうね」
「楽しみだよね!」
「クチバ…ですか…」
「ん?ああ、ラルトスは行ったことあるよな、確かナナシマの萌えもんだし」
「はい…」
そのときの出来事を思い出したか、表情が沈むラルトス。
「今度は、楽しい思い出をつくろうな。……皆で、さ」
「そうですよ」
「そうそう!」
「兄様…姉様たち…」
再び、ラルトスに笑顔がもどる。
「…はい!」
雑誌、TV、人の噂。
ある場所に行かずにそこの情報を得ることは容易い。
だが、そこでしか出来ない経験こそが、最も思い出として残る。
ニビを発つときにも感じていた思いが、再び蘇る。
ハナダでは、萌えもんとの接し方を間違えていた少年を知った。
始めはそれは衝撃、次は怒りとなり。
けれど、その少年も己の過ちに気付き、歩む道を変えたことだろう。
ただ萌えもんセンターの中でひたすら治療するばかりでは、本当に救えない子がいる。
だが、行動一つで救ってあげられる。
やっぱり俺は、旅に出るべきだった。今までの俺は、何も知らなさすぎた。
自分の目、耳、そして心が、この旅の中で日々育ってゆく気がする。
これから先、どんな出会い、どんな別れを経験し、どんな子を手当てするのか。
誰にもそれは分からない。だからこそ、未来を想い、心に描くことには価値があるはずだ。
「さあ、明日はクチバに向けて出発だ。センターに帰ろう」
「はい、マスター」
「はーい、ご主人様っ」
「はい…兄様」
来た道を、センターへと戻る。
タマムシから俺を連れ出したリーフィア、
俺を旅へと連れ出したリザード、
そして、未熟な俺の手で救われてくれた、ラルトスと共に。

                                    ハナダ編 Fin




主要人物(兼現状報告)
ヒロキ:ニビ編に比べて萌えもんセンター職員らしいところがあったと思う。
    大人気ないかもだけど見逃して。
リーフィア:今回最初から最後まで空気。ほんとにごめん。
      やっぱりジム戦出られないのが足引っ張ってるなぁ。ちなみにLv18相当。
ヒトカゲ  :中盤で活躍、無事進化。でもそれ以上の出番はなし。
(リザード)   やっぱり筆者の腕か。Lvは17くらい。
ラルトス  :筆者のサファイアでの無二の相棒がサーナイトでした。よって分布無視で登場。
       ヒマナッツ・ブルーと扱い違いすぎるのも上記の理由から。二人ともごめんよ。
      何気にLvはメンバー最高の19だったり。
カスミ:タケシに比べて大活躍か?でもこの先出てこないけど。
    鹿Verやった人なら彼女のスターミーがどういう子か知ってるはず。筆者も苦労した。
    まさかSSでも苦労するとは思わなかった。
    ヒトデマンがおっとり、スターミーが機械的というか事務的な感じ。
暴力少年:「萌えっこもんすたぁ」の世界観にはおそらくそぐわない存在。と書いてて思った。
(ユウト)   別にサドとかそんな設定はない。処置が手ぬるいとか思う人は各自の脳内で処罰どぞ。
     あっさり改心してるみたいだけどそれだけあのバトルが目からウロコだったんだと
     解釈するしか…
現在地:ハナダ
目的地:クチバ(地下通路経由)
手持ち:リーフィアLv18
    リザードLv17
    ラルトスLv19
バッチ:グレー ブルー 計二つ




あとがき
ハナダ編終了。ラルトス大活躍。リーフィア空気。
スターミー戦は何も言わないでください、他に手が無かったんですorz
やっぱりジム戦禁止はリーフィアを出しにくい、そのうちオーキド博士にどうにかさせよう。
あと微妙にみんなのお姉さんキャラを目指してたり。最古参といえば最古参の位置だし。
仲間も増えて、そろそろ書き分け苦しい。次あたりからちょっと変えてみます。
暴力少年の結末に納得行かない人は多そうだ。しかしスプラッタにするわけにも行かないし。
心情描写の薄いのはもう諦めつつある自分…
上でも書いたけどラルトス→キルリア→サーナイトは筆者の嫁です。リーフィアは養子で愛娘。
ラルトスとテレパシーしてるけど、ヒロキは別にエスパーじゃないです。
ひとえにラルトスのお陰。
次のクチバが個人的には書きにくい…マチスの口調どうしよう。
方針としては一つの街につき一つエピソードというか、ヒロキに一つずつ学ばせると言うか出会わせるというか。
ごく普通の家庭に生まれて普通に学校でて普通に就職し、そのままなら何処にでもいる一人として終わる。
ヒロキは大体イメージとしてそんな感じだったもんで、精神面的には殺風景な人です。
ということで、町を渡り歩いて少しづつ心を豊かというか大きくしていって上げられればと。
なんかSSとは思えないムダに重い設定自重。筆者にそんな壮大なもの書く技量無いよ…
一応8つバッチ取った後の展開まではうすらぼんやりと筆者の脳内にあるんだけど・・・
ハナダ編が濃くなった上、クチバのあとのシオン編でさらに別のダークっぽいのを予定してるので、
クチバ編は多分薄くなります。ご了承ください。
今までで最長のハナダ編、しょうもない駄文にお付き合いくださり誠にありがとうございます。
                                   筆者より
ツールボックス

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