5スレ>>53

無人発電所に一番近い萌えもんセンター――イワヤマトンネル付近までリザードンに乗っていった、俺、ガラガラ、イワークに対し、
陸路でそこまで行くと言い張ったギャラドスのせいで、20分ちょっとはギャラドスが来るのを待たされることとなった。
ハナダシティでのことといい、今さっきのことといい、随分と時間がかかってしまったが、
ようやく俺たちは目的地の無人発電所にたどり着くことが出来た。

「それではな、主。また何かあったのなら呼んでくれ」

「ああ、ありがとな、ギャラドス」

「ギャラドスさん、さようなら~」

良い意味でも悪い意味でもここまで世話になったギャラドスにまたしばしの別れを告げる。
別れが相当辛いのか、少々涙ぐんでるリザードン。
ギャラドスは俺たちに微笑むと、水の中へと姿を消していった。
ギャラドスの姿が見えなくなったことを確認すると、俺はギャラドスに向けて振っていた手をゆっくりと下ろし、
後ろを振り向き、目の前にそびえたつ建造物を見上げた。

――――無人発電所。
その名のとおり、管理する人が一人もいない発電所。
そのくせして、カントー全域へ電気を送っているという、とても重要な場所である。
本当に管理する人がいないようで、建物のところどころにはツタが絡まっていて、
窓ガラスも割れている。
入り口のドアはどうやら自動ドアのようだが、開いたままだ。

「本当に、無人みたいね」

俺の隣で同じように無人発電所を見上げてたガラガラが呟く。

「らしいな……よし、ここで立ち止まってるわけにもいかないしな。
中に入ってみよう」

意を決して、俺を先頭にして中に入る。
この先に何が待ち構えているのなど、見当もつかない。
でも、いずれ対峙するであろうサンダーとの戦いを考えると、
恐怖と高揚感が、胸を渦巻いていった。





発電所の内部も外見同様、ところどころの壁が崩れていて、そのせいか足場が狭い。
それなのに、発電機は稼動しているらしく、起動音が響いている。
聞こえるのは俺たちの足音のみ。
さらに起動音も加わって、不気味さを際立たせる。

「……誰も、いないみたいですね。野生の萌えもんも」

俺の背後でリザードンが恐る恐る口を開いた。

「さあね。もしかしたらもっと奥の方にいるかもしれないわよ」

リザードンの後にはガラガラ。

「でも、気配すら感じませんが……」

最後尾にイワークがいる。
この二人はちょっと怯えているリザードンとは対照的に、冷静である。

「確かに……野生の萌えもんが出てきてもおかしくない状況だけどな、こんなに荒れてるっていうのに」

俺は一歩一歩、足元を確認しながら進む。
そして、野生の萌えもんの気配に意識を集中させる。
無人発電所はとても入り組んでいるから、いつどこからか不意に現れてもいいように、心の準備諸々はしておく。

――――ぱしっ。

「……?」

今、どこかで音が聞こえた。

「今の音……なんでしょうか?」

「前の方からしたけど、イワーク、聞こえた?」

「うん、微かに……何かを叩くような音が」

皆も聞こえていたようだ。
一体何の音だ?そう模索しようとした矢先、

「――よし、きあいちゅうにゅう!」

今度は幼い、女の子の声が聞こえた。
どうやらこの先……曲がり角の向こうから聞こえるようだ。

「一体なんだ――――?」

誰か、俺より先にここへ来たトレーナーがいるのか?
それとも――――萌えもん?
トレーナにしても、萌えもんにしても、戦闘の準備をさせておく必要があるな。

不安を抱きながら、先へと進む。
リザードンに戦闘の準備を指示させて。


そして、突如――――
曲がり角から、何かが飛び出してきた!

「なっ!?」

どうやら容姿からして、萌えもんのようだ。
その萌えもんは、物凄い勢いで、俺たちの方へ突進してくる。
神経は張り巡らせていたが、あまりに唐突なことに、頭が混乱する。

「あ……っ、えーっと」

「マスター、指示を!」

リザードンの叫びに混乱していた頭が冷静になる。
そうだ、指示、指示……

「リザードン、きりさく!」

慌てふためきながら指示をする。
しかし、指示をするのが遅かったか、野生の萌えもんは俺のすぐ傍まで迫ってきてる。
萌えもんが持っているパワーがどれくらいなのかは知っている。
下手をすれば、中型ぐらいで骨を折る勢いのパワーだ。
くそ、万事休すか――――
来るべき衝撃に備えて、目を瞑り、腕を前に出して防御の体制をとる。


しかし、衝撃は一向に来ない。

「……?」

「マスター、えーと、どうやら大丈夫のようです……」

リザードンの声に俺は恐る恐る目を開け、腕を元に戻す。
そこには、さっき突っ込んできた萌えもんが、俺の目の前に立っていた。

「……あれ?」

見たことが無い萌えもんだった。
俺はポケットの中から萌えもん図鑑を取り出して調べてみる。

「……お、あった。えっと……エレブー? 未捕獲、か」

目の前の萌えもん――――エレブーに目をやる。
うつむいていて、顔は見えないが、
背丈は俺の胸元あたりだから……150センチくらいだろうか?
それにしても、さっきからうつむいたばっかだし、戦闘も仕掛けて来ないあたり、何かあったのかな。
もしかして、サンダーに追われていた、とか――――

「あの……」

俺の呼びかけに応えたのかは分からないが、エレブーはうつむいてた顔をようやく上げた。
あどけなさが残っている。まだ子供だろうか?

「お前、トレーナーだな?」

突然少し強張った顔で、エレブーが口を開く。
さっきと同じような、幼い声。
俺を見て怖がっているのか、その声には緊張が混じっている。

「ああ、トレーナーだけど」

登場するや否や、突っ込んでくるし、
その後は質問をしてくるエレブーの予想外の行動に、ちょっと動揺の色を隠せない俺。
さらに、俺がそう答えた後、

「連れてけ」

「……は?」

いきなり連れてけって、しかも命令形って。
自分から捕まりに来る野性の萌えもんとか初めて見たぞ。

「いいから連れてけ、サンダーが目当てなんだろう?」

「サンダー? お前、サンダーを知ってるのか?」

エレブーはわざとらしく、大きく頷く。

「知ってる」

「ホントか? で、サンダーはどこにいるんだ?」

「教えない」

「教えないって、どうやったら教えて――――」

「連れてけ」

「いや、教え――――」

「連れてけ」

「おし――――」

「連れてけ」

「……」

結論、自分を連れてけ、ってことらしい。
なんだか、こういう奴、ついさっきも会ったような気が――――気のせいかな。
それにしても、どうして自ら捕まりに来るのか。
捕まったら嫌がるもんだろ、普通。
きっと何か理由があるからか? だとしたらどんな理由がある?
例えば……






つか、自問自答したところで分かるはずが無い。
ここは本人に聞いてみたほうが一番だろ。

「なあエレブー、俺たちと一緒に行動したい理由とかあるのか?」

「……! それは――――」

この反応。
何かしら、理由があるってことは確かのようだな。
まあ、今ここでしつこく言うこともないだろう。

それに、連れてけって言われて、断るのもなんだかかわいそうだしな。

「分かった。連れてくよ」

「ホントか?」

「ああ」

俺の返事を聞いて、さっきまでの緊張がほぐれたのか、エレブーは笑った。
屈託の無い笑顔。見ていて癒される。

「よ、よかった、えっと――――」

「好きなように呼んでくれ。
一応皆からは、マスター、って呼ばれてるけどな」

俺はそう言って、エレブーの元へ手を差し出す。

「うん、よろしく、……ま、マスター」

エレブーはそう言うとはにかみながら、俺の手を握ってくれた。






突然加わった新たなる仲間、エレブーを加えて、
俺たちは順調に無人発電所の奥へと進んでいった。

「エレブー」

「なに?」

俺は前を進んでいるエレブーを呼び止めた。

「そういや、エレブーには皆の紹介、してなかったな」

「あ……」

「えーっと、まずはチームの主力、リザードンだ。
……って、リザードン?」

リザードンはガラガラの後にしがみついて隠れていた。
しがみつかれているガラガラは正直嫌だ、と言わんばかりの顔。

「……何やってんだよ」

「だって、でんき、でんき……」

「ああ、リザードンはひこう……だからでんきは苦手、ってか?
怖がる必要は無いだろ? もうエレブーも俺たちの立派な仲間だ。な、エレブー」

「う、うん……なにもしないよ」

「そ、そうですか? ……そ、そうですよね」

恐る恐る前に出て、エレブーの元へ近づくリザードン。

「あ、あの……よろしくお願いします」

そーっと、手を差し出すリザードン。
ちょっと怖いのか、差し出した左手が震えている。

「うん、よろしく」

「ひっ……」

エレブーに手を握られた瞬間、リザードンは全身が一瞬ビクッ、となったが、
その後は落ち着いたようで、笑顔が見られた。

「それと、ガラガラ。ちょっと暴力主義なところがあるのが玉に傷」

「何が暴力主義よ」

意外にも、いつものホネこんぼうは飛んでこなかった。

「あと、岩石製のポニーテールが特徴のイワーク」

「よろしく」

「よ、よろしく……」

やはり俺たちの姿が見慣れないのか……多少は打ち解けた感じはあるが、
たまにビクビクした表情を見せるエレブー。
まあ、ここにいた皆全員、俺と初めて会ったときは相当警戒心とか強かったから、
慣れてはいるんだけどさ。

「ところでエレブー。サンダーの所へはどれくらいで着くんだ?」

「えっと……いちばんおくの、いちばん広い部屋。
だから、もうちょっと」

「そうか、もう少し……よし、そうだな。
エレブー、悪いけどこっちに来てくれないか?」

「?」

エレブーを呼ぶ。
それと同時に俺はバッグの中からわざマシンケースを取り出す。
中には数十枚ほどの、色とりどりのCD――――わざマシンが収納されている。
タイプごとに色が違うって仕組みだ。
例えばわざのタイプがくさだったら緑、ほのおだったら赤、みずだったら青、という感じだ。

「えーと……あ、あった」

その中で俺は一枚のわざマシンを取り出す。
水色に輝くわざマシンを、俺は萌えもん図鑑へ挿入した。

「エレブー、ちょっとじっとしてもらえないか?」

「なに?」

これから何をするのか全く分かっていないらしく、
首をかしげるエレブー。

「えーっと、まずはわざを忘れさせないとな……」

エレブーの所持わざを見る。
かみなりパンチ、スピードスター、でんじは、にらみつける……
補助わざは使わないからな……にらみつけるでいいか。
にらみつけるにカーソルを合わせ、決定ボタンを押す。
すると、萌えもん図鑑の先端から、白い光が射出される。
この光線を浴びると、指定したわざを忘れることが出来る。

「ひゃっ!?」

突然のことに驚きを隠せないエレブー。

「悪いな。すぐ終わるからじっとしてくれ」

数秒足らずして光線の射出が終わり、
今度は水色の光線が射出された。
これはさっき萌えもん図鑑に挿入したわざマシンのデータ。
この光線を浴びることでわざマシンに入ってるわざを覚えることができるのだ。
今度は特に驚く様子も無く、じっと光を浴びるエレブー。
こちらも数秒足らずで終わった。

「よし……これで準備万端かな」

「マスター、さっきエレブーに何のわざを覚えさせたの?」

ガラガラの質問。

「ああ、対サンダー戦への秘策」

「秘策?」

「まあ戦ったときに分かるって、それじゃあ、行くか」

「秘策って……気になるじゃない。何のことだか教えてよ」

「んー……じゃあ、ヒント」

俺は拳を握って、空気に向かってパンチをした。

「これ」

「?」

ガラガラ、全く分かっていない様子。

「さーて、行こうか」

「ちょ、結局一体なんなのよ!」







「ここだよ。サンダーはここにいるはず……」

エレブーに案内されて、ここの最深部ともいえるような、
巨大な部屋にたどり着いた。
中心には巨大な機械……恐らく発電機だろうか、それがせわしなく動いている。

「ここに、サンダーが……」

俺はあたりを見回した。
でも、サンダーらしき姿はどこにも見当たらない。
一体どこにいるのだろうか……

「くそっ……どこに隠れて……」







「ここだ」






上空から声がした。
冷たく、背にずしりとのしかかるような、そんな声。
俺は自分の真上を仰ぎ見た。
すると――――――。








いた。







その姿は絵とほぼ同じだった。
褐色の肌、黄色と黒を基調とした翼。
堂々と翼を広げて、そいつは確かにそこにいた。



伝説の鳥萌えもん、サンダー。



「お前が……」

「……始めようか」

「なに?」

「お前は我を捕まえに来たのであろう? ならば道は一つしかあるまい」

サンダーは上空で戦闘体制を取る。
翼に、電気がバチバチ、と音を立ててまとわりつく。
すると、サンダーの周りにあった機械が、音を上げて爆発した。
それが、サンダーの持つ電気がどれほど強力なのかを物語っている。

「我と戦って、お前の強さを我に証明してみるが良い」

「なるほど……分かってらっしゃる」

今、伝説の鳥萌えもんを前にして、俺は手の震えが止まらなかった。
あまりの威圧感に、
あまりの神々しさに。
背筋から汗が流れる、鼓動が早くなる。
ああ、凄く怖い、でもな――――

「上等じゃねえか……」

汗ばんだ両の拳を、握り締める。

「伝説だがなんだかしらないけど……」

震える両の足を、大地へ力強く踏みしめる。

「……やってやろうじゃねえの!」


――――負ける気なんか、微塵も無い!





ここに、俺たちとサンダーとの、壮絶な戦いの幕が切って落とされた。










――――――――――――――――――――
中編終わりました……
SS書いて思うんですけど、場面が変わるところって難しいですね。

次が後編、バトル風味で書くものだと思われます。
果たして書けるのかどうか……そこは皆さんのSSを参考にして、感じを掴んでいきたいと思っています。

で、キャラ設定っぽいものを。自分が勝手に持ってるイメージが入ってます。
マスター…名前とか決まってません。考えたこともありません。
     ちょっと情けないところがあるけど、皆のことを第一に考える優しい人。
リザードン…真面目です。でも少しだけ怖がりなところも。
      いちばん嫌いなのはみず、その次にでんき。
イワーク…最近空気。ごめんなさい。
     冷静だけど、たまに感情の浮き沈みが激しくなったり、大ドジをかますことも。
ガラガラ…突っ込み担当。マスターの失言の度にホネこんぼうが唸る。
     あれこれマスターに突っかかるのはマスターが好きなだけなんです。きっと。
エレブー…今回の主役。後編ではきっと大活躍。
     幼いんです。子供っぽいんです。自分のイメージの中では。
マルマイン…性別不明なんですけど、男の設定です。
      中編では出さなかったけど、後編ではしっかりと……
エレブー(父)…主要キャラにしようと思ってたけど、ごめんなさいお父さん。
        マルマインと一緒に後編ではしっかりと……
サンダー…伝説系なので、口調は高貴に…なってるかな?
     いや、伝説系=高貴なのは自分の偏見…?
ギャラドス…束縛が嫌いな自由奔放な人。
      あくまで手伝える範囲でマスターの手助け。仲間にはなりたくない。

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最終更新:2008年01月30日 20:22
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